夏野の風
15話目です。
人が多くなってきたかも
夕暮れ時、集会所はまだ賑わいを見せている。ルインさんが図書館まで案内をしてくれるらしい。
「それで、図書館に用事って、どんな用事なの?」
「それは……人探し?」
「図書館に人探し?まぁいいけど、うるさくしちゃダメよ。」
「わかりました。」
茜差す廊下を足音が響いている。確かに静かな場所だ。集会所からそう離れていないのに、人も声も全く無いように見える。
「着いたわよ」
ギイイと低い音を立ててルインさんが扉を開ける。チッタちゃんの館よりも大きく、深みのある建物なのだろう。
「探し物が見つかるまで、皆待ってるらしいから早めにね。」
「わかりました。ありがとうございます。」
お辞儀をして館内に入ると一気に古い紙の香りがしてきた。学校の図書館も大きかったが、比じゃないくらいの数の本が蔵書されているだろう。パッと回りを見渡しただけでもデパートや駅ビルの吹き抜け程の天井の高さがある。
とりあえず司書さんのところへ向かおうと、適当に突き当たりに向かい進む。歩いても歩いても大きすぎる本棚がふんぞりかえって並んでいる姿しか目に入らない。あまりにも圧巻の迫力に、歩いているだけの私も無意味に辺りを警戒するようになる。
「あ、あの机かな……」
司書さんのらしき机を見つけてそっちの方へと向きを変える。急ぐ必要が無いのは分かっているが、広さと本棚の威圧感で自然と足取りが速くなる。
が、もちろん何の問題もなく机まで着いた。当然だ。この図書館の全ては本だから、読まれるためにここにいるんだ。襲って来たりなんて言う訳がない。
「あのー……司書さん、ですよね?」
「えっ?!」
居眠りでもしていたのか、声を掛けた途端に本の山が隆起し周りの本ごと雪崩れる。
「だ、大丈夫ですか。」
「大丈夫です大丈夫ですよ。これっぽっちも寝てないです。はい。」
寝ていたのか……
「えっと、何か用ですか?」
「あ、はい。夏野さんという方を探していまして。司書さんならわかるかなって。」
「あ、それ私ですね。」
「え?」
「私が夏野です。まぁペンネームですけど。」
「司書さんは……?」
「どっか行ってるみたいですね。」
「そんな適当な……」
「私に何か用ですか?」
「えーっと……」
会えばわかると言われたが、なにも分からない。このままじゃ変な人になってしまう。何かそれらしい理由……
「特に無い感じですか。」
「はい……」
「理由もなく私に会いに来たと。まさか将来のファンが時空を越えて私の前に表れたとか?」
「そ、それはわかりませんが……今はファンいないんですか?」
夏野さんの顔が暗くなる。まずいことを言っただろうか。
「今ねぇ……居ないんだよね……一人も……何せ私、本書いてないですから。」
「え……書いてるって聞いたんですが。」
「前は書いてましたよ。前は」
「なぜ今は書いてないんですか?」
「書いた本が全部消えました。」
「えぇ……? なぜ……?」
「それがわからないんですよね。突然、出していた本が原本まできれいに消えました。私のメンタルも消えました。」
「それ、何か原因あるんじゃないですか……?」
「そうなんですけど、全く手がかりが掴めなくて……今また新しい話を書いている途中です。」
「そうなんですか……さ、災難ですね。」
「話の続きも浮かんでこないし……もう死んだかもしれません、私。」
「あ、諦めないでください! 私も頑張りますから!」
何を頑張るというのだろうか。夏野さんの書いた本は全部消えてしまったらしいし、私にももうどうすることもできない。何か別の手は……
「……あなた、これから依頼なんですよね?」
「はい、一応。」
「私がかわいそうだと思うなら連れてってくださいませんか?」
「え? 一緒に? なぜ?」
「実は私、依頼に行ったことが無くて。だから行けば何か新しい物が降りてくるかなと思ったんです!」
「はぁ、でも、聞いてみないとわかんないです……」
「じゃあ着いてきます! 案内して!!」
「えっ、あ、はい!」
物凄く急かされながら図書館を大急ぎで出て猛ダッシュでお兄ちゃんのところに向かう。小説家ってもう少しおとなしい方なのかと思っていたんだけどな……
最後まで読んで頂いた方、誠にありがとうございます。
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