落ち椿
127話目です。
「団長さーん! こっちの方に道があるよ!」
ティロちゃんが走っていった先、虫の群れの向こうには、洞穴のようになって続いている道があった。
「うわ、これ結構奥深くまで続いてそうな感じだが……外から見たら全く分からないな。やっぱり魔法で作られた建物なんだろうな。」
「どうするの? この先まだいるんだったら、外の皆も呼んだ方が良いんじゃない?」
「そうだな。一回体制を建て直すか。一旦ここを塞いでおこう。」
レイ先輩が魔法で作った結界で、一旦はこの洞窟の入り口は塞がったらしい。とてもそうは見えないのだが、魔法とはやはり不思議だ。
多くの敵を無視してここまで来たのもあって、外にはまだ魔物の姿があった。
全員と合流するため、再び虫達を相手しながら皆の元へ向かった。
――――
「よし、全員集まったな。皆、怪我はないか?」
「多分大丈夫。皆元気。」
「絶対適当だろ。まぁ確かに皆元気そうだが……これからあの城のさらに奥に行くから、今のうちに怪我とかは処置しておけよ。」
「あの、団長さん。」
「どうした、ハル?」
「その……城の洞窟って狭いんですよね。あんまり大人数で行くと狭いんじゃ……」
「あー、そうかもな。でもまぁ行ってみてダメだったら数人で行くってことで!」
「はぁい……」
「ハル君、虫が嫌だもんね!」
「言わないでくださいよティロちゃん……」
ハル君はなんやかんやで一応元気そうだ。ティロちゃんも元気いっぱいで有り余る様子はいつも通り。
「くろねさん、さっきの魔法凄かったですね!」
「え? あ、ありがとうございます……いや、全然ですよ、香子さん」
「そうですか? でも、魔物達を一気にぶわーって倒したじゃないですか。私もあんな風に出来たら良いのに。」
「香子さんも、剣でいっぱい倒してましたよね。」
「まぁ、数匹は倒せたとは思いますけれど、まさか空を飛んでくるとは思わなかったもので、中々当たりませんでした。」
ちょっと笑って話す姿は、依頼が初めての事で嬉しさの反面、切なさが混じっているようにも見えた。
「今回きりとは決めたものの、やれるところまでやってみたいなんて思ってしまって。駄目ですね、私。」
私達が心配していたような、戦闘面でのトラブルなどは殆ど無かった。むしろ香子さんはとても良く戦ったのだと私でも分かる。
この人はこれからも依頼を続けたいし、続けるだけの能力もきっとあるのだろう。それでも立場がこの人の夢を遮って、諦めさせてしまう。
あれほど豪華な家に住んでても、お金持ちでも、叶わない夢というものはあるのかもしれない。
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