はじめまして! 空 ソラです!
魔法少女系の物語です。
ひとつお断りをさせていただくと、この物語はフィクションですので、現実に存在する方とは関わりがありません。当然ながら、現実にいらっしゃる「空」さんと、主人公ソラは関係ありませんので、ご注意ください。何かのテレビ番組で、読み方の難しい苗字のひとつに「空」と書いて「きのした」と読む苗字があったので、「空ソラ」って名前だったら「そらそら」って読まれてしまうだろうな、と思ったところから始まった物語です。
新型コロナウィルスの感染拡大で精神的なストレスを感じている人に読んでほしい作品です。なるべく早く書き上げようと思っていますので、ぜひ、最後まで読んでみてください!
私の名前は、空 ソラ。
苗字を漢字で書くと、「そら そら」って読まれちゃう。
だけど私の苗字は「空」と書いて「きのした」って読むの。変わってるでしょ?
それじゃあ、もう一度、自己紹介。
私の名前は、空 ソラ。
小学五年生の女の子。
身長は138センチで、体重はヒミツ。……平均的な体重の範囲内だよ? たぶん。
髪は肩より少し長いくらい。いつも耳の下あたりで二つに結んでる。少しくせっ毛で、結んだとき、毛先の方がくるんとするとこは気に入ってるの。
髪が伸びたらもっと高い位置に結んで、かわいいツインテールにしたいんだけど。自分のことかわいくみせようとしてるぞ! って男子にからかわれそうで、ちょっと考え中。うちのクラスの男子って、すぐそういうこと言うの。
私の顔は、イヌ顔かネコ顔のどっちかって言われたら……ネコ顔? って自分では思うんだけど、前に誰かからタヌキ顔って言われたことがある。ということは、タヌキに見えるネコ型ロボットみたいな顔ってことになっちゃう……? それも違うなぁ。
とにかく、目は二重で鼻はしゅっとしてまるっとしてて口は小さめで……まあ、そんなカンジ。
私のことはそれくらいにして、次は私の家族のこと。
私のパパは、私が生まれる前に死んじゃったんだって。
だから、パパのことを私は知らない。
私のママは、私が小さいころに死んじゃった。
だから、ママのことはよく覚えてないの。
覚えていることもあるけど、覚えていないこともあって、うすぼんやり。
そういうわけで――。
私が一緒に暮らしているのは、診療所のお医者さんをしているおじいちゃんと、樹木医をしているおばあちゃん。
樹木医っていうのは、木のお医者さん。
木も、人間と同じで生きものだから、病気になってしまうことがあるんだって。だから、木の状態を調べて、病気だったら悪いところを取り除いたり、倒れそうになってたら支えを当てたり、手当をするの。木の状態を調べるのは診察するってことだし、悪いところを取り除くのは手術をするようなものだし、木が倒れないように支えを当てるのはギプスで固定するのとおんなじようなことだと思うのね? それから薬を塗ったり、病気にならないように予防したりと、おばあちゃんの話を聞いていると、樹木医って、患者が木っていうだけで、本当にお医者さんだなって思う。
おじいちゃんの患者さんは人間だから診療所まで来てくれるけど、おばあちゃんの患者さんは根っこが生えてて動けないから、おばあちゃんが診に行ってあげなくちゃいけないの。だからおばあちゃんはあっちこっちの病気の木を治すために、あっちこっちを駆け回ってて。
お仕事からパッと帰って来て、家の用事を手早くすませて、おじいちゃんや私とおしゃべりして、またパッと出かけていくおばあちゃんは、つむじ風みたい。
今も……ええと、広島だったかな? 長崎だったかな? んん? えっと、とにかく、どこかの木の診察をするために出かけちゃってて、帰って来るのは明後日、って言ってたかな?
私とおじいちゃんはのんびりしてるから、おばあちゃんが出かけているときは、ゆったり時間が過ぎていく。私は、おばあちゃんのいるちゃきちゃき時間も、おじいちゃんと一緒のほてっとした時間も、どっちも好き。
あ!
私の相棒のことも紹介しなきゃ。
私の相棒は、白ネコのパール。
とっても優美なネコなの。――って紹介してみたけど、優美なネコってどういうネコかしら?
優美ってどんな感じか、私はよくわからないんだけど、「私のことは『優美』なネコって紹介して!」ってパールが言うから……。
パールが言うには、上品で、貴族のお姫さまみたいな感じを「優美」って言うらしいのよね?
……まあ、ネコですから。パールはこっちの言うコトなんてちっともきかないし、眠るのも遊ぶのも自分の好きなとおり。ある意味、お姫さまみたいな感じではあると思うわ。
パールって、注文が多いの。――って、ネコが注文を出すわけないって思うよね?
だけど、パールは特別なの。
本当に言葉をしゃべるネコなんだから――。
「ただいま~」
自分で鍵を開け、玄関の開き戸を開け、中に入りながら、誰にとはなしに帰って来たよと声をかける。自分の家に「ただいま」って言ってるカンジかな?
すると、廊下の奥からゆったりした足取りで、しっぽを揺らしながらパールが姿を現した。
ピンと立ったパールの耳。
光の加減で銀色みたいに見えるときもある白い毛は、長からず短からず。
ガリガリではないけどぽっちゃりでもない、しゅっとした身体に長いしっぽ。
それから七色の目。――ネコの目の色って黄色や水色が多いと思うけど、パールの目はいろんな色が混ざってる。だけど私やおばあちゃん以外の人には、黄色か水色の目に見えるみたい。
「ソラ、遅かったじゃない」
おかえりも言わずにパールはそう言って、つんとあごをそびやかす。
「そぉお? そんなことないと思うけど」
くつを脱ぎながら私が答えると、近くまできたパールがようやく「おかえりなさい」と言った。
私はもう一度「ただいま」とパールに言って、それから玄関を上がって左手にあるドアを開けた。ドアの向こうはおじいちゃんの診療所。私はおじいちゃんに、
「ただいま!」
と声をかけた。
「おかえりー」
向こうからおじいちゃんの声がする。
こうやっておじいちゃんに帰宅を知らせるのが、私が学校から帰って来たときのいつものやり取り。もう何年もやっている慣れたやり取りのはずなんだけど――。
今年の春、新型コロナウィルスの感染者が増え、学校が長くお休みになって自粛生活をしていた間は、ずっと家にいたから。こうやって「いつもの」やり取りをしていると、ふと、私、学校に行ってたんだな、なんて思ったりする。
自分は五年生になったんだな、って思えるようになったのは、最近の話。いつの間にか四年生が終わっていて、いつの間にか春が終わって、夏が終わって、秋も深まって……気づけばもう冬! うそっ! もう、今年が終わっちゃう!
おじいちゃんの診療所も、感染対策とか書類がどうのとか、やらなきゃいけないことが増えたみたいで、なんかすごく大変そうで……。
と、
「ソラ、早く見に行ったら? もう実ってると思うけど?」
パールがしゃらっと言った。
「え? ウソ!」
私は急いで右手の階段を駆け上り、二階にある自分の部屋のドアを開けた。
ドアを開けると、正面に私の机がある。私はランドセルを下ろしながら部屋の中へ入ると、無造作にランドセルを机の上に置く。その間もずっと視線は机の横の出窓にくぎ付け。
出窓にかかる白いレースのカーテン越しに、陽の光が部屋の中を明るくしている。
私の足元をしゅるっとすり抜けたパールが、ぴょんっと出窓に飛び乗った。
出窓の窓台には鉢植えがひとつ。
「あ! ホントだ! もう実が成ってる!」
私の鉢植えは、本当はおばあちゃんの鉢植え。
おばあちゃんは家にいないことが多いから、私がお世話しているの。
お世話と言っても基本的には、毎日すこしだけお水をあげて、日光や風に当ててあげるだけなんだけど。この木はそれだけで、枯れずに元気でいてくれる。
白いシンプルな鉢に、三十センチ(定規)くらいの高さの木が生えている。こげ茶の幹に緑の葉っぱ。なんてことない木にしか見えないけれど、実はこの木には秘密がある。
この木はシンジュの木。ときどき、シンジュが実るの。
海の真珠――アコヤ貝からとれる本物の真珠――によく似たシンジュの実。漢字だと「心珠」って書く。
本物の真珠は白いものやピンクっぽいの、黄色っぽいの、黒っぽいのと、いろんな色をしているし。形も、丸いのが多いけど、たまにちょっといびつなのがあったりする。
シンジュの実はまん丸で、夜空の星にうっすら虹をかけたような色をしている。本物の真珠みたいに色や形がハッキリ違うものはないんだけど、よく見ると、微妙に色合いが違ってるの。夜空の星がどれも白く輝いているようで、黄色っぽいのや赤っぽいの、青みがかったのと、いろんな光を放っているように。
「さっき見に来たときかなり大きくなっていたから、もうしっかり実っていると思ったのよね。私の見立てどおりだったわ」
パールは得意げにそう言って、鉢に身体を添わせるように横たわり、下からシンジュの実を見上げている。パールも好きなのだ。シンジュの実を見るのが。
微かに虹色に発光しているみたいに見えるシンジュの実は、見ているだけで幸福な気持ちになってくる。
今朝まではまだ枝の先がすこしふくらんでいただけだったんだけど――。
ふつうの植物は、花が咲いて実が実るけど、シンジュの木には花は咲かない。金木犀のような水仙のような、何かの花のような香りがするだけ。その香りこそ、シンジュの実が実り始める合図のようなもの。
シンジュの実は、実りはじめてから形になるまで何日も何週間もかかるときもあれば、あっという間に大きくなることもある。新しい実は早く実るタイプだったみたい。私が学校へ行って帰って来るまでの間に、美しいシンジュの実になっていた。
生まれたばかりのシンジュの実にも、キレイな虹がかかってる。窓から差しこむ陽の光にキラキラ輝いて、とってもキレイ。
私がうっとり、夢見心地で見つめていると――。
ぽとん。
シンジュの実が落ちた。
えっ! ――と、初めてシンジュの実が落ちるところを見たときはうろたえた私だったけど、今はあわてない。シンジュの実がそういうものだと知っているから。
シンジュの実が木に成っている時間は短い。小さめのビー玉くらいの大きさまで育ったら、数分のうちに枝から離れ、落ちてしまう。
シンジュの実は、儚い実なの。夢か幻みたいに、この世界に在るようで無いようなもの。
だけどそれは、すぐに枝から落ちてしまうからじゃない。シンジュの実は、落ちてからが大事なの。
私は鉢植えの土の上に落ちた実を右手の指でつまんで取り上げると、左手の手のひらに乗せた。
そして、左手をちょうど口の前まで持ってきて、輝きを失っていないシンジュの実に、そっと息を吹きかける。
ふーっ、ふーっ、ふーっ……。
シンジュの実は、一瞬、強く虹色の光を放つ。光はすーっと弱くなり、さらに弱く、弱く……木に成っていたときの虹色の淡い光はシンジュの実の内側に吸いこまれるように消えていく。
そしてシンジュの実は、シンジュになる。
シンジュは白い真珠と見分けがつかない、光沢のある白い珠。
あの虹色の光が失われるのは残念だけど、私はほっとした。
シンジュの実は、落ちてから二十四時間以内に息を吹きかけないと、人魚姫が泡になったみたいに消えてなくなってしまうの。まるで夢か幻でも見てたみたいに、最初っからそんな実なんてなかったかのように。
とはいうものの、私はまだ消えるところを見たことがない。
シンジュの実はいつの間にか大きくなって、「落ちるよ」って知らせもなく落ちてしまうけど、私がいないときに落ちたりしないの。……たぶん。少なくとも、これまではそう。
学校へ行ったり、友達と遊びに行ったり、お買い物に出かけたり……家に居られない予定がある場合は、そのことをシンジュの木に教えておくの。そうしたら、シンジュの木はそのことを覚えておいてくれるんだって。おばあちゃんがそう言ってた。
おばあちゃんに言われたとおり、私はこまめにシンジュの木に自分の予定を話しかけるようにしているし、今朝も、登校前にこれから学校へ行くって話しておいたから。シンジュの木は、私が帰るまで待っててくれたんだと思う。今日もシンジュの実が落ちる前に、虹色の光を見ることができた。
「私が帰るまで待っててくれてありがとね」
私はシンジュの木と、シンジュに語りかける。
私の言葉に反応したかのように、葉っぱが微かに揺れた気がした。私の見間違いかもしれない。けど、パールのようにしゃべってはくれなくても、シンジュの木とは何か通じている気がする。
そう言えば、パールはいつの間にかどこかへ行ってしまったらしい。彼女はその気になると、なんにも物音を立てずに移動できる。
忍者? ――って、パールに向かって言うと怒られるんだけど。パールにはパールのこだわりというか、プライドというか、そういうのがあって。まあ、その話はまた今度。
私は指でつまんで陽の光にシンジュをかざす。
もう虹色の光を放ってはいないけれど。
本物の真珠にそっくりの珠にしか見えないけど。
それでもシンジュは真珠とは違う。
シンジュは私たち心樹医にとって――特別なもの。 つづく
読んでいただいてありがとうございます。
重ねて申し上げますが、主人公ソラは、現実にいらっしゃる「空」さんとは関係がありませんので、その点、ご理解ください。
ちょっとネタバレになりますが、この物語では後にソラの思いつきで「ルーペ型マウスガード」というものについて書く予定です。
「円形のレンズに柄がついた虫眼鏡」の形をしたモノの柄の部分に、ひもをつけたモノで、ひもを使って首から提げて使います。 ルーペ部分は虫眼鏡みたいな大きさではなく、小さく軽くして。
食事をするときにしゃべりたくなったら、柄の部分を手で持って、丸い部分を口の前に当ててしゃべる。 そうすることで、飛沫が相手に飛んだり、料理やテーブルに落ちたりするのを防ぐことができるかな? と思うのですが。
「食事のときにしゃべりたくなったらわざわざマスクをしなくちゃいけない」では大変なので、こういうのはどうかな? と考えました。 これを使えば、マスクをするより楽に感染対策できるのではないかな? と。
丸の部分にはフタをつけて、〈片側を蝶つがいで留めて観音開きにフタを開ける〉か、〈一か所ネジで留めてフタをスライドさせる〉かして、フタを開けて現れた面を口に当てるようにすれば、衛生的に使用できると思います。 それに、テレビ番組のMCがしゃべるときにマイクを口元にもっていくのと同じような行為なので、口の前に当てることが精神的な負担になりにくいと思うんです。
さらに、フタの部分はネコの形にしたり、イヌやそれ以外の動物の形にしたり、大人気マンガのキャラクターの顔にしたり、ラメでデコレーションしたり、いろいろ工夫して、アクセサリーのようにしたら、首から提げておくのも楽しいかな? と。
聴覚障がい者と話す機会の多い人は、口元に丸い部分を当てたとき、相手側に見える方 (フタのついていない側) を透明の素材にすれば、口の動きを相手に読んでもらえると思います。
相手側に見える方にリップマークのイラストが描いてあったり、メッセージが書いてあったりしても、楽しいかな?
誰かが商品化してくれるといいのですが (値段は格安品から高級品までいろいろできるのでは?)……。
とりあえず、100均の小さな手鏡を利用したり、厚紙や段ボールでルーペ部分を作ったりして、柄の部分にひもを通したものを手作りして、間に合わせを作ってみて ―― 人と会食をする間だけでも、首から提げて、言葉を発するときにマウスガードとして使ってみるというのはどうでしょうか……? なんとか感染の拡大を防ぎつつ経済を回していくことができるよう、できることをしていければ、と思うのですが……。
私は感染対策のプロではないので、素人考えでアイディアを出していますので、専門家の方、問題があるようであれば、ご指摘ください。
次回の投稿はソラの続きになります。ぜひ、読んでみてください!