スリー・プリンセス〜三人のお姫様は最強〜
またまた、短編第二弾。
長編の方の展開をどうするか悩み中です。
強いお姫様っていいですよね。
煌びやかな室内――。
豪勢な食事――。
一流のオーケストラ――。
フィーフェン王国の王宮内で行われる舞踏会。
各国の要人が参加し、フィーフェン国内からは伯爵位以上の者しか参加資格がない由緒正しき催しである。
すでに、国王陛下からの開催の挨拶も済み、各々が好きなように踊り談笑し楽しんでいた。
その中で、一際目立つ集団がいた。
一人は、褐色の肌に美しいプラチナブロンドが美しい、近隣国のヴァーシェ王国第一王女。
『夜の妖精姫』ことヴィーナ王女。
ヴァーシェ王国は、多くの亜人が住む国で、ヴィーナ王女は差別することなく国民を愛すことで、人気の高い少女である。
一人は、白い肌にピンクパープルの髪が愛らしい、近隣国のシュバーツ皇国第二皇女。
『花々の愛し子』ことアマリリス皇女。
シュバーツ皇国は軍事力に優れている。理由としては、この国では非常に強いとされている竜種の多くが生息しているためである。
アマリリス皇女は、軍の訓練施設や討伐部隊、更にはギルドにも視察に出て前線に出る者達を、元気付け改善すべき問題を自ら探しにいく姿が、皇国で戦う者達を癒していた。
そして、癖のない茶色の長髪に聡明そうな顔つき、王国の隣に位置するジーニアス王国第一王女。
『類稀なる才女』ことミネルヴァ王女。
ジーニアス王国は、魔法の発祥の地として、多くの国から魔法を学ぶ為の留学生を受け入れる。特に王立魔法学校は、入学するのも卒業するのも最も難関なエリート養成校である。
そんな学校を彼女は、飛び級でわずか2年で卒業し、教師として教鞭を揮うことも多い。
そんな彼女の講義を受けたいと連日、多くの生徒が殺到する。
その三人の姫に付き従うように立つ従者と思わしき人物達。
彼女らの談笑する姿は、非常に美しく、まるで数億に値する名画を眺めているかのように周囲の者達は錯覚していた。
しかし、そんな彼女達に対し威圧感を隠しもせずに睨みつける人物が居た。
ハニーブロンドにか弱そうな印象を持たせる少女の腰を抱くこの国の第二王子のユピテル王子だ。
彼は、とにかくプライドが高く負けず嫌いであり、昔、ミネルヴァ王女に勉学・魔法を挑んでことごとく敗北を期していた。
更に、アマリリス皇女に皇国での留学を相談したところ異常なまでに嫌がられ、国王陛下は彼女に嫌がらせをしたのではと勘違いをしてこっぴどく怒られた。
その過去は、ユピテル王子の自尊心に大きな傷をつけ未だに癒えていない。
ヴィーナ王女には、友好関係を築くために手紙を送ったが、いつも数行の返事だけだった。
(一度、書いた手紙の内容をメイドに見せた際、非常に複雑そうな顔をしていたことを彼は覚えていない。)
つまり、彼女らは、彼にとって、とにかく気になる複雑な人物達なのである。
本来なら、すぐにでも側に行って嫌味の一つでもぶつけるところだが、国王陛下と王妃により本日は彼女達への接触が禁じられている。
破れば、謹慎も検討するとまで脅されては、彼も動くことはできなかった。
彼の隣にいる少女、ユピテル王子の婚約者であるユーノ公爵令嬢は、さりげなくダンスを懇願することで彼の視界から彼女達を外すことに成功した。
その際に、彼女は彼女達に目線を配り、そして、静かに微笑んだ――――。
王子と公爵令嬢が視界から消えたと同時に、彼女達は小さくため息を吐いた。
「もぅ、本当にしつこいお方ですわ!
何百回おっしゃるつもりなのかしらぁ?」
最初に呟いたのは、アマリリス皇女だった。
「あの方は、なんというか、苦手ですわ」
続けて呟くのは、ヴィーナ王女。
「全く、あの王子は相変わらずですわね。
本当に執念深くて、私がこの国に訪れるたびに勝負をふっかけてきて。
いい加減疲れますわ、本当に」
そして最後に、ミネルヴァ王女。
彼女達は昔から、ユピテル王子に迷惑してきた。
それを知っているのは、各々の王族とごく一部の者であり他は知らない。
舞踏会も終盤に差し掛かり、彼女達もお暇しようと歩き始め、王宮へ続く通路に差し掛かった時だった――――、
「やぁ、美しいお姫様方。
もしよろしければ、私とお話しいたしませんか?」
そう声をかけたのは、ユピテル王子の兄君である第一王子のクロノス王子であった。
舞踏会には婚約者同士や聞かれたくない話をするための個室がいくつか用意されており、王女達はその中に入った。
「お疲れのところを申し訳ございません、ご存知かとは思いますが、私はこの国の第一王子であるクロノスと申します。
貴女方とこうしてお話しできるとは、私は実に運が良い、これは神に感謝しなければいけませんね」
「お褒め頂き光栄です。それで、クロノス殿下はわざわざ『ご病気』の身で、私達と雑談をするためにお呼び頂けたのかしら?」
そう、クロノス王子は表向きには現在、流行病のため舞踏会を欠席するということになっていた。
しかし、現実は異なっていた――――。
「確か、第三王子に対しての傷害の疑いがあって謹慎――――でしたわね?
ここにいるということは、抜け出してきたということであっています?」
ミネルヴァ王女は、特に思うところもなくあっさりと現実を話した。
「えぇ、その通りです。
だから人気のない目のつかないところで、貴女方を呼び、特殊な結界を張ったこの部屋まで案内したというわけです。
知っててわざと付いて来られましたね?
それは、王家の人間である自分達が危害を加えられないという安直な考えか、それとも自分達の才能ならこの状態から脱せられるという過剰な自信からでしょうか?」
「それで、用件は、何でしょうか?」
「ふふふっ、普段から微笑みを絶やさない貴女でも、そんな顔をなさるのですね、ヴィーナ王女。
では、端的に申しましょう。
私の妻になって頂きたい、三人ともに」
「…………はぃ?」
「え、それは、えっと」
「お断りですわ」
アマリリス皇女、ヴィーナ王女、ミネルヴァ王女の順に発言し、彼女達全員が王子の用件に対し不快そうに顔を歪めている。
「まぁ、そうでしょうね。
でも、これはお願いではなく命令なんですよね。
さてと……
おい、出てこい! サタニエル!!」
クロノス王子がそう叫ぶと、彼の背後から、コウモリの羽が生えた黒いローブ姿の人型の生物が出てきた。
「サタニエル、古代で多くの生き物を洗脳して、大戦を引き起こさせた、元々はドラゴンだった、でも、他の龍達に封印された、はず」
「はっはっはっ!!ヴィーナ王女は博識ですね?
その通りです、この者はあの邪竜サタニエル!!
才能あるミネルヴァ王女でも、この者の洗脳から彼女達を守ることはできないでしょう!!」
「そうですわね、『私達には』無理ですわ」
「では、諦めて私の野心の礎になって――」
「私達には、ね……」
「来て、メタトロエル」
「…………は?」
ヴィーナ王女がそう言った瞬間、彼女の背後から、白き翼を持つ白いローブの人型の生物が現れた。
「古代において、邪竜サタニエルを封印した聖なるドラゴンの一柱、メタトロエル様ですわ。
彼は、ヴィーナ様と契約しておられるのですよ、殿下と同じように。
知っていると思いますが、聖竜の中でもメタトロエル様は最も清廉とした存在で、強力な浄化能力をお持ちでございます。
その邪竜の洗脳を打ち消すことは容易いでしょう。
それにメタトロエル様は、昔、消滅間際にヴィーナ様に助けられて以来、彼女の守護竜ですもの。
そこまで聖竜様に愛されるヴィーナ様が、貴方のような邪な存在の妻になることなどありえません」
特に焦ることもなく、淡々と説明する彼女の態度に、クロノス王子は焦りと怒りを露わにし始めた。
クロノス王子は一見すれば、温厚で聡明なフェミニストと思われがちだが、その本性は野心家で傲慢で自分以外を自身の駒としか思わない男だ。
「洗脳がなくなれば、勝てるとでも!?
この結界はな! 発動者以外の人間の魔法使用制限を課すことができる!!
魔法を封じられた女如きが、公務で魔物を討伐しているこの私に勝てると――!!」
「勝てますよぉ?」
「あぁ!?」
「勝てるって言ってんだよ、このくそやろおおおおぉぉぉ!!!」
……ッドゴオォォーーーーーッン!!!!
凄まじい音とともにクロノス王子は吹き飛んだ。
結界を張ってるためか部屋には傷一つないが、本来なら壁が壊れていてもおかしくない程の衝撃だった。
そして、吹き飛ばしたのは、アマリリス皇女だった。
普段の花のような可憐で愛らしい彼女とは想像できないような剣幕で、クロノス王子に右ストレートをお見舞いしたのだ。
おそらく、サタニエルと契約した恩恵で、身体が強化されていたことが幸いしたのだろう。
一般市民なら即死レベルの一撃を半殺し程度で済ませられているのだから。
「さっきから、上から目線で妻になれぇ!?
お断りよ!! お前の妻になるくらいなら、ゴキブリ体操と結婚した方が百倍マシだ!!!!」
「アマリリスちゃん、素に戻ってるよ?」
「こんな奴に猫かぶる必要ないでしょ、ヴィーナ!! もう二発はぶち込まないと気が済まないわ!!!」
「な、何故だ……何故、こんな力が!?」
「それはね、アマリリス様が以前に単独でドラゴンを討伐した際に浴びた血が体に馴染んでしまったみたいでして、彼女は常人離れした身体能力を持っておられるのですわ。
過去の記録を見ても、ドラゴン血に適合できた人間は10名にも満たないですわ。
ひとえに、アマリリス様の精神力と日々の鍛錬の賜物でしたのでしょう。
運がありませんでしたわね、殿下?」
「くっそぉ……このクソ女どもがぁ!!
サタニエル!! メタトロエルを止めていろ!!
この女ども、殺してやる!!!
まずはお前からだ、ミネルヴァァァ!!!」
完全にブチ切れたクロノス王子は、ミネルヴァ王女に対して火炎の魔法を放つ。
魔法を封じられている彼女には防ぐ手段がない。
はずだった――――。
「な、なぜだ? なぜ……なぜ!?
なぜ、私の魔法が効かない!?」
「効かないのではありません、魔法を防御させて頂きました。
私は、ヴィーナ様のように聖竜様と契約できるほどの汚れなき器を持っておりませんし、アマリリス様のように真っ直ぐに突き進む精神力と身体能力もありません。
なので、私は常に学び研究してきましたわ。それこそ、何度も発狂しそうなほどに。
そして、ようやく凡才の私がたどり着いたのが、『魔法封じの自動破壊の術式』です。
私には知識と魔法しかありません。
だから、それを奪われないように、私の体の内部の隅々にまで、私独自の魔法術式を組み込ませているのです。
研究の結果、今ではメタトロエル様ですらこの術式を解除するのに時間を費やすほどのものになったのです。
ですから、貴方様の魔法は私には効きませんし、私は思う存分魔法を使えますのよ?
さて、降参しますか?」
横では、メタトロエルに拘束され地に押さえつけられたサタニエルが居た。
「くそぉ、くそくそくそくそ!!!
何なんだよ、聞いてないぞこんな化け物集団だなんて!?
私以外にこの国の王に相応しい者などいない!!
私こそ、この世界の覇者に相応しいのに!!!」
「ユピテル殿下は、自分勝手で負けず嫌いでとんでもないお子様で正直のところ、面倒な相手です。
ですが、彼は私に負ける度に、負けた要因を分析し、わからないことは自身で調べたり、教師の方に聞いたり、とにかく努力を惜しまない方なんですよ」
ミネルヴァ王女は、うなだれているクロノス王子の前に立ち話し始めた。
「私が前に王子の留学を止めさせたのは、あの王子が面倒なのもあったけど、その時、魔物が大量発生して危険だったからよ。
最近は、だいぶマシになってきたせいで余計に留学させろとうるさいけど。
留学したい理由が、王国の軍事の向上と魔物対策の向上をより学ぶ為って聞いてもないのに言ってきて、国のことを考えてるわ」
それに同調するかのようにアマリリス皇女が仁王立ちで、話し始める。
「ユピテル王子から、手紙貰って、枚数がいっつも10枚以上とかで、なんて返事したらいいか、よくわからないので、一度、対談したら何時間も、質問責めにあって……。
でも、王子は、亜人の受け入れ体制のための政策とか人々の偏見を減らす方法とか、国民の幸せのためとかに、惜しみなく働いています」
ヴィーナ王女も控えめに、発言する。
その姫達の姿に、クロノス王子は唖然としながらその光景を眺めていた。
「私達は、少なくとも貴方よりも、貴方の弟君のユピテル殿下の方が、まだ王に相応しいと考えておりますわ。
貴方にように、自分のためにしか動けない人間に王になる資格はございませんわ!」
クロノス王子は、糸の切れた人形のようにその場から動かなくなってしまった。
「では、この結界は、壊させていただきますわ。
それから、あの邪竜はまた封印させていただきます、私達の手で」
数日後――――。
あの後、部屋の外で待機させられていた従者達が、部屋内に入れるようになった時、王子はまるで人形のように動かずに項垂れていた。
従者達の報告によって、王宮騎士達がクロノス王子を捕縛した。
邪竜サタニエルは、クロノス王子の心が折れたことで契約が切れ力を失い、聖竜メタトロエルによって封印された。
そして、王女達は国王陛下から謝罪と感謝の言葉を賜り、第一王子であるクロノス王子を廃嫡、その上で魔法封じを行い、この国で最も恐ろしいと言われている収容所の、最下層にある入ったら二度と出られない発狂してもすぐ正気に戻される、ある魔女が住む通称『拷問の檻』に収容が決定された。
表向きには、第一王子は病気が悪化して死亡したことになっており、王女達を襲ったという事実は隠蔽された。
というのも、彼女達が事件について、国王陛下に責任を問うことをしなかった。
特に彼女達にとって、あのことは『大した』ことではなかったというのもある。
ただし、もう一つは国王陛下に貸しを作り、今回の事件を不問とする代わりに様々な制約を課したとか……。
そんな彼女達も、自国に帰る時が来た。
三人が帰国前に軽いおしゃべりを楽しんでいた。
そこに――――、
「ミネルヴァ王女! ヴィーナ王女! アマリリス皇女!」
ユピテル王子が走ってきたのだ。
「今回、兄上が本当に申し訳ないことをした。
謝って済むことではないが、王族の者として謝罪させてほしい! 本当に済まなかった!」
ユピテル王子が自分達に頭を下げるところなど、今回が初めてであった。
そのためか、彼女達は一瞬呆気に取られたものの、すぐに微笑み、気にしていないと答え、帰って行った。
「あぁ、でも、許す代わりに勝負を仕掛けるのをやめると誓っていただいても?」
「それは断る!!」
「やっぱり面倒ですわ、この王子……」
という平和なやり取りを最後にして……。
本編には描写がありませんが、従者がなぜ室内に入れなかったかというと、邪竜の洗脳(邪竜が姿を現さないで洗脳する場合、若干効き目は弱め)にかかっていたせいなのもありますが。
王子自身が従者を外に置いていたことと、クロノス王子の人柄に騙されていたことも原因です。
この後、従者が揃って責任を取ると言って辞職しようとするのを姫達が必死に止めます。
長々と書きましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
何かありましたら、感想の方へ。