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32 暗躍令嬢はいるっぽい

 初日こそご令嬢達に囲まれたが、以降は表向き平穏だった。

 あれで乗り切れるか自信はなかったが…、脅え泣き出しカーマイン様に助けを求めたら余計にイライラさせただろうし、かといって開き直って強く出るのもさらなる反発を呼びそう。

 となれば謙虚な姿勢で『私は皆様の敵ではございませんよ』と。

 私が思う以上に育ちが良かったのか、ご令嬢達はすぐに私のことも受け入れてくれた。学食でランチを食べる時にセラやローズを紹介するとますます優しくなった。

 うん、二人はAクラスだものね。Aクラスには将来有望な男子生徒がいるわけで、そういった人達と仲良くなるためにはツテが必要だ。

 こちらは貴族令嬢。紹介もなく男子生徒に声をかけられないが、セラやローズが間に入れば一緒に昼食、そして何回か顔を合わせれば雑談できる程度の仲に発展する。

 男子生徒のほうも婚約者とまでいかなくとも美しいご令嬢達と親しく過ごすことに関しては…、いや、ストレートに言えば『可愛い女の子と話したい、仲良くしたい』というね。貴族の場合、幼馴染や家の付き合いがあっても十歳を超えると遊ばなくなる。

 最初のうちは異性と話すことに慣れずお互いぎこちなかったが、何度か話せばいい雰囲気の人達もできていた。

 青春だね。

 表面上はとても平和な日々だが、実は水面下では少々、困ったことになっていた。

 私物がなくなるのである。

 それも些細な物が多く、授業で使う教科書や制服等は今のところ無事だが、ペンやハンカチ等がいつの間にか無くなっていた。

 お上品なご令嬢達が裏で何かを…とは考えたくないし、無くなる物が些細すぎて自分のうっかりも捨てきれない。

 お気に入りのペンが見つからず、その日、通った場所を探しながら歩いていると。

「ルティア様、何か探し物?」

 放課後、教室から廊下、中庭をウロウロしているとクラスメイトのソフィアに声をかけられた。フォンテーヌ侯爵家のご令嬢で、女性にしては背が高い男装の麗人だ。

 美しく澄んだ青い瞳を持ち青銀色のストレートヘアーをポニーテールにしている。凛々しい姿にすでにファンがいるとかいないとか。

 校則では制服に関して特には決められていないので、女生徒が男子の制服を着ても問題ない。ただ…、あえて破る人がいなかっただけで。ソフィアの入学に合わせて校則を改訂するのはさすがにあからさますぎるだろうと許可された。

 ソフィアが成績優秀者であったことも大きい。学ぶために来ているのだし、一応は決められた制服を着ている。今後、男子生徒が女生徒の制服を着たらどうなるのかはわからないが。

 入学して一カ月が過ぎているが、いまだ顔見知り程度の相手だ。ソフィアは一人でいることが多く、本人もそれを望んでいるように見えた。

 なのに話しかけてくるとは珍しい。

「先ほどからずっと何かを探しているように見えましたけどお困りかしら?」

「それが…、ペンを無くしてしまったようで探しておりましたの」

「大切なものなの?」

「いえ、毎日、使っているようなものでもなく高価なものでもないのですが…、ないと思ったら気になってしまい」

 ソフィアが『わかる』と笑う。

「それで納得できるまで探そうとしているの?でも、ルティア様のように可愛らしい方が放課後、一人でうろうろしているのは良くないわ」

 ほほ笑まれてなんとなく赤面してしまう。やだ、イケメン…。

「そうですね。そろそろ兄も帰る頃だと思いますので切り上げます」

「ルティア様は…、グロッシュラー公爵家の皆様と懇意にされているのよね」

 なんとなく並んで歩き出すと、これまでも何人かに聞かれたことを尋ねられた。はいはい、わかりますよ、平凡な私が何故、カーマイン様の婚約者になったか、ですよね。

「セラフィナ様とは幼い頃から仲良くさせていただいております。そのご縁でカーマイン様とも幼い頃から何度か…」

「セラフィナ様はローシェンナ殿下との婚約について何か…、その、嫌がっていたりはしないのかしら」

 おっとぉ、そうは見えないけどソフィアたんは野心家なのか?まさかの殿下狙い?

「ローシェンナ殿下とも幼い頃から交流がございますが、ローシェンナ殿下は一途にセラフィナ様を想っておりまして、傍で見ている私も密かに応援しておりました」

「わかるわ。セラフィナ様はとても素敵な方ですもの。ローシェンナ殿下…、いいえきっと他の皆様も夢中になるわ」

 うん……、うん?

「だからどうしても考えてしまうの。セラフィナ様を幸せにできる殿方なんているのかしらって。セラフィナ様のように美しく高貴な魂をお持ちのお方には一国の王でも物足りない。いっそ竜の化身ではどうかしらと考えずにはいられませんの」

 竜の化身…、いますけど、地竜は気の良いお爺ちゃんって感じで、火竜はちょいおバカ、風竜はまだお子ちゃまでございますよ。

「あの…、ソフィア様はセラフィナ様をとてもお好きなのですね」

 一瞬にして真っ赤になった。

「そ、そ、そんな…、その通りではございますけどっ」

 実は…と教えてくれた。

 社交界デビューする前は引っ込み思案で何をするにも自信がなかった。美形揃いの家族、親戚の中、自分は女にしては背が高く痩せ型で女性らしい美しさに欠ける。ソフィアには兄と姉がいて、姉は妹から見ても可憐で守りたくなるような美少女だった。そして熱烈に惚れこまれて早々に婚約を決め、同格の侯爵家長男のもとへ16歳で嫁いだ。

 比較対象が身近にいるせいで悪気なく『姉に比べると…』と言われる。

 社交界デビューなんてしたくなかったが侯爵家では理由もなく欠席にできない。仕方なく参加した夜会でセラを見かけた。

「あの時、化粧室の隅におりましたの」

 私が意地悪なご令嬢達に囲まれて転ばされ、そしてセラに抱き上げられた一部始終を見ていた。

「助けてあげられなくてごめんなさい。怖くて震えておりました。でもセラフィナ様を見て…、悟りました」

 男みたいな体型なら男みたいな恰好のほうが似合う。ってか、かっこいい。そう、目指すべきは可憐な美少女ではなく凛々しい麗人。

 間違った方向に開眼してしまった…。本人、間違った方向だとは思っていないようだけど。

「早速、家族に相談したところ私の想いを理解してくれ、特にメイドの一人がそれはもう積極的に情報収集し衣装なども用意してくれました。今では姉の旦那様の代わりに姉をエスコートすることもございますの」

 旦那様は美しい奥様を安心して送り出せ、姉も妹から実家の様子を聞けて、ソフィアも苦手な夜会に気楽に参加できる。

 男装しているため、男性からダンスの誘いがなくとも『あたりまえ』だと思える。こんなみすぼらしい女を誘う男はいない…というストレスがない。

 それどころか壁の花になってしまったご令嬢に声をかけ、一緒に踊る余裕までできた。

「きっかけを与えてくださったルティア様には一度、お詫びとお礼をと思っておりました。ただ…、なかなかお声がけする機会がなく」

 そうなのだ。貴族社会って見知らぬ相手とは簡単に交流できない仕組みになっている。男女の壁よりは低いで、同性でも『紹介』やきっかけが必要だ。

 婚約者を一刻も早く探したい…と思っていたらどこかのお茶会や夜会で会ったかもしれないが、ソフィアは『そのうち父が縁談を持ってくるだろう』と諦めと待ちの姿勢で、私は漠然と恋愛結婚を希望していたし婚約が内定してからは…入学試験もあり、家でおとなしく過ごしていた。

「ソフィア様、光栄ですわ。では今日から私達、お友達ですね」

「嬉しい」

 本当に嬉しそうに笑い、優雅に手を振りながら迎えの馬車に乗り込んだ。見送ったところでお兄様が到着したため、私達も馬車に乗り家に帰った。

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