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30 ゲームスタート

 ついにこの日がやってきた。

 ゲート・リティック国立魔法学園入学式。国立の魔法学校で通常は四年、優秀な生徒は研究科へと進みさらに二年学ぶことができる。

 入学の資格は中等科卒業相当の学力と魔力を有していること。筆記試験と魔法の実技試験、面接で合否が決まる。入学に必要な書類を取り寄せた時点で素行調査が入るため、あまりに問題がある生徒は試験も受けられない。

 セラとローズ、それに私はこの調査の時点で入学がほぼ確定していた。セラは王太子妃確定だし魔力も国内トップクラス。ローズは珍しい聖属性持ちで、私は竜の加護により三属性の魔法を使える。

他にも何人か事前に内定をもらっているとのことだが、全員、試験を受けている。

 平民は実力があれば授業料免除で入学できる。平民でも卒業さえできればかなり条件の良い職場に就職できるため、魔力持ちの子はとりあえずこの学校を目指す。

 男女比率は六対四くらいだろうか。女生徒の何割かは婚約や結婚を理由に退学することもある。そう…、ここは結婚相手の狩場でもあるのだ。

 貴族令嬢は結婚相手を探す事も大きな目的のひとつで、あたりまえだけど高位貴族やイケメン、成績優秀者は人気が高い。

 知らずため息をついてしまった私に横に座ったセイジがちょんちょんと肘をつついた。

「ルティア、どうした?心配事か?」

 風竜であるセイジが王都の男爵邸に来てそろそろ二カ月。カーマイン様に似た見た目はだいぶ緩和され…、カーマイン様とお兄様を足して二で割ったような?

 背は私よりも少し低く、顔立ちは美形のままだけど目元が柔らかな雰囲気になっていた。髪の色は淡い緑で目の色もグリーン。カーマイン様にお兄様の優しい雰囲気を混ぜた感じ。

「今日から学園に通うから少し緊張しているの。セイジ様はお留守番していてね」

「ん」

 朝食のクロワッサンを食べながら素直にうなずく。

 火竜のホムラは現在、公爵領におり、地竜のアルクも男爵領。どちらも敷地内にツリーハウスを建ててもらい、そこと屋敷での暮らしを気分で使い分けていた。

 で、男爵領で慣らし生活を送っていたセイジは本人の希望で王都に来ていた。

 これがやんちゃな子ならば悩むところだが、セイジはおとなしく我儘を言うこともない。そして大変な美少年なため我が家のメイド達に可愛がられていた。

「今日は入学式だけしかないからすぐに終わる。私も一緒にいるのだから緊張しなくても大丈夫だよ」

 一緒に朝食を食べているお兄様がにっこり笑う。

「今日から一緒に通えるね。帰りもできる限り時間を合わせよう」

「はい」

 学園には寮もあるが、王都に屋敷を持つ貴族は馬車で通う。そのための道や駐車場も整備されている。

 寮で暮らす生徒は授業料免除の平民や屋敷がない貴族…ということで、寮はどちらかといえばお金に困っている生徒達のものだ。

 寮にいれば衣食住が保証されるのでその分学ぶことに専念できる。

 うちは貴族階級としては低いほうだけど今は竜の加護があり、お兄様はローシェンナ殿下の側近候補。宰相は無理でもその補佐官くらいは余裕で狙えるため、お兄様が家を継ぐ頃には子爵か伯爵になるのではと噂されている。

 家柄や地位を考えればいじめられることはなさそうだが…、私の婚約者はカーマイン様。何事もなく…はたぶん難しい。せめて少しでも目立たないようにせねば。

 学園の制服に着替えてお兄様と一緒に馬車に乗り込む。

 入学式は新入生とその家族が参加できる。お父様達は現在、男爵領に戻っているため私の付き添いは在学生でもあるお兄様だ。

 ローシェンナ殿下、カーマイン様、そしてお兄様は三年生で、あとは…、攻略対象のグラス・カルセドニが二年生にいるはず。そしてアーシュ殿下は来年の入学。

 ゲームは今日から始まる。ゲーム終了まで最長で一年。ハレムエンドはないため、ローズが誰か一人と親密になって終わる。

 入学式当日は出会いのイベントなんだけど…、すでにほぼ全員が顔見知りとなっている。

 ローズが学内で迷子になってカーマイン様に案内されることも、ローシェンナ殿下とは知らずに会話することもない。ローズとお兄様の出会いイベントは、入学式のあと、好奇心からあちこち歩きまわってしまい『早く帰りなさい』と注意されるもの。

 グラス様との出会いイベントは確か…、他の女生徒に囲まれているところを助けてもらったような。ローシェンナ殿下と話してしまったローズにセラがいちゃもんをつけるイベントなので、これが一番、起こりそうもない。

 すでにぼんやりと薄れつつある記憶を掘り起こしているうちに馬車は学園に到着した。


 馬車を降りればたくさんの生徒が講堂に向かっていた。親に付き添われている者もいれば、一人で来ている者もいる。

 ちなみに制服は白シャツ、ネクタイ、ベスト、フロックコートというか…、いかにも魔法学園っぽい裾の長いブレザータイプ。男子はズボンにショートブーツ、女子はふわっとした膝下スカートに編み上げブーツ。夏はブレザーなし、冬はフード付マント。紺色と白で構成されていて、ネクタイやエンブレムの色が学年により異なる。一年生は白。

 一学年百人前後で四クラス。学園全体で六百人程の生徒が通っている。

 校舎は通常の教室棟の他、魔法の実技訓練場もある。貴族が多いため講堂…というか、宴会場もある。外観はオペラハウス、中は大小いくつかのホールに分かれている。

 一番広い広間で入学式が行われるのだが、きちんと整列…はしない。立食パーティのような場で、好きな場所に居て良い。

 私達が到着した時点ではおそらく半分くらい。邪魔にならない場所で待っていると、ざわっと入り口付近が騒がしくなった。

 セラがローシェンナ殿下にエスコートされて入ってきた。殿下のすぐ後ろにカーマイン様とローズもいる。

 とんでもないレベルの美女と美少女、そして殿下と公爵令息という組み合わせでほぼ全員の視線が集まっていた。

「お兄様、ご挨拶はどういたしましょう」

「そうだね…。入学式の後でいいんじゃないかな。私も今日はローシェンナ殿下の側近ではなくルティアの付き添いで参加している」

「そう…ですよね」

 ホッと息をつく。

「他にも挨拶をしたい方がたくさんいらっしゃいますものね。私達はいつでもお会いできますし……」

 お兄様がふっと苦笑した。

「いや、そうもいかないようだ」

 え?と思った時にはすでにカーマイン様が目の前にいた。

「ルティア、入学おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「制服も似合っているな。とても可愛らしい」

 ボンッと赤くなった。何、言い出すの、この人。

「やめてください、うちの妹は純真なのですよ」

「可愛い婚約者を可愛いと褒めただけだ」

「ルティア嬢、入学おめでとう。これからもセラをよろしく頼むね」

 ローシェンナ殿下も加わり、あわあわしてしまう。

「それから…、面倒だとは思うけど竜の加護についても協力を頼みたい」

「は、はい。ホムラ様とアルク様もたまには王都に来たいと言っておりましたので、機を見て学園にご案内いたします」

「それは楽しみだ。では私は式典の挨拶があるから失礼するよ」

「ルティア、また後でな」

 ローシェンナ殿下とカーマイン様が立ち去った後…、私はご令嬢達に冷たい視線を浴びせかけられていた。

 いや、ワタシ、ヒロインじゃ、ないしっ。

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