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28 悪役令嬢達と進学準備

 王都に戻った私は改めて公爵家を訪れて、事の顛末をカーマイン様から聞いた。この時点では教えてもらえることは少なかったが、子爵家はお咎めなしとはいかず厳罰が下ると説明された。

 火竜の存在を考えれば、当然だ。万一にも火竜が暴れたら…、実際はそんなことはあり得ないが、火竜が暴れたら国の大半が焦土と化す。今回はその危険もあった。


「カーマイン様もお辛いですね」

「仕方ない。ロゼッタはオレがどれほど叱っても話を聞いてくれなかった。子爵達があまやかし…、いや子爵がそそのかしていた結果がこれだ」

 可愛らしい娘ならばカーマイン様を籠絡できると思ったのだろう。実際、ロゼッタはとても可愛かった。礼儀正しく優しい娘に育っていれば、高位貴族に見初められて玉の輿も夢じゃなかった。

 カーマイン様に固執しなければ。

 言っても仕方ないことだが、親に恵まれなかったロゼッタが不憫だった。

 話を終えたところでホムラがティールームにやってきた。

「ルティア、怪我の具合はどうじゃ?」

「おかげさまで。まだ少し痛みますが、もう普通に歩けますよ」

 現れたホムラはカーマイン様の服を着ていた。髪の色は茶色で、その顔立ちはアーウィン公爵にも似ている。

「側にいる人間で、人型になる練習をしておるのだ。双子と間違われるほど似ておると不都合もあろう」

「オレも落ち着かない」

「すみません…」

 名前をつけたら従魔になるとか、竜が人型にもなれるとか、ファンタジーの鉄板だったのに。あの時はいろいろ重なりすぎてスコーンと抜けていた。

 小さくなって謝る私にカーマイン様が嬉しそうに言う。

「無意識のうちでは仕方ない。少なくともオレの外見はとても気に入っているということだろう?いずれ結婚して一緒に暮らすのなら、性格はもちろん見た目も好ましいほうがいい。オレもルティアの艶のあるまっすぐな髪や落ち着いた瞳の色が好きだからな」

 にこにこ笑いながら『それに…』と続ける。

「ホムラ様に関してもこれで良かったと思うべきだろう。人型ならば食糧も確保しやすいし、住む場所も好きに選んでいただける」

 ホムラもうなずく。

「この姿の時は人間と同じ食べ物で良いぞ。服装は魔法でも作れるがアーウィンやカーマインの服も着られる。メイド達がいろいろと手伝ってくれるので人間の格好も楽しいぞ」

 高身長のイケメンだものね。そりゃあ、あれこれ着せ替えさせるのは楽しいはず。

 貴族の屋敷ならばよほど困窮していない限り部屋数に余裕があり、従者も何人か雇っている。我が家に来ることになればメイド達が喜んで世話をするだろう。

 話しているとセラが帰宅しローズも遊びにやって来た。


「ルティア、誘拐されそうになったんだって?私がいればそんな奴ら、全員、ぶっ飛ばしてやったのに」

 セラの言葉にカーマイン様が苦笑しながら言う。

「王太子妃になろうというものが『ぶっ飛ばす』はダメだろう。せめて他の言い方にしろ」

「え~…、じゃあ………。ワタクシがいれば全員、粛正いたしましたのに?」

 お茶の席についたセラが困ったように肩をすくめる。

「妃教育で一番、大変なのが言葉遣いだよ。歴史や地理の勉強やダンス、作法はなんとかなるけど、言葉はどうにも…」

「普段、話している言葉はなかなか直せないよね」

「だよねぇ。私も伯爵様に叱られるものぉ。語尾、のばしちゃダメって。のばしている自覚なかったんだけどぉ」

 いや、ローズの語尾、めっちゃのびているから。

「伯爵様の許可がおりないと一緒の学園に行けないのぉ」

「サーペンティン伯爵は礼儀に厳しい方だからな。オレもよく…怒られる」

 貴族令息にしては動きが大きいため、乱暴に見えてしまう。そこが男らしくて良いのだが、貴族令息としては…、確かに雑な印象だ。

「ははは、その点、私は伯爵から『セラフィナに関してはもう何も言いたくない』と言われた」

 セラ…、それ、呆れられたか諦められたのでは……。

「厳しいけど頑張るよぉ。みんなと一緒の学校に行きたいもん」

「私の場合は入学試験に受からなくちゃ」

 セラとローズは成績に問題ないが、私は努力が必要だ。

「大丈夫、ルティアも合格できるさ。入学したらオレが学園を案内してやろう」

 そんな事をされたら目立ってしまう気もしたが、すでに婚約は確定している。入学前には正式な婚約者で、卒業後は結婚する。

 公爵夫人になる予行練習だと思ってうまく立ち回れるよう努力するしかない。

「なんじゃ、おぬしら全員、その学園というものに通うのか?わしも行けるのか?」

「ホムラ様は…毎日、通うことは難しいと思いますが、見学くらいはできると思いますよ」

 カーマイン様の言葉にパァッと嬉しそうに笑う。

「おぉ、そうか。では見学というものを楽しみにしておこう」

「オレと双子に見えなくなったら一緒に外に出ましょう。街を案内しますね」

「うむ。ここの食事は悪くないし、メイド達もかしましく退屈はしとらんが、せっかくだから人間の暮らしぶりを見たいぞ」

 全員の入学が決まったら、お祝いに人気のカフェでフルーツタルトを食べようと約束をした。


 私は通常の生活に戻った。と、言いたいところだが、直後、男爵領に行くことになった。お兄様も一緒で、地竜が呼んでいるとのこと。

「お爺様からの手紙ではとにかく急いでくるようにとしか書かれていない」

「何かあったのでしょうか…」

 領地に着くとすぐに地竜が暮らす山へと向かった。馬車での道中、お爺様が私達を呼んだ理由を話した。

「夢に地竜様が出てきてな…。お前達を呼べと言われたのだ」

「夢…ですか?」

 お兄様がさすがに怪訝な声になる。

「うむ…、その夢というのが実は二週間以上、続いておる」

 私が公爵領から帰ったあたりからずっと、毎晩。

「ここまで続くということは、本当に地竜様が呼んでいるとしか思えなくてな」

「確かに…。または無意識のうちに気になることがあるか」

「考えてみたが、わしに心当たりはない。この夏は大雨もなく作物もよく育っている。男爵領は古くから根付いて暮らす者が多いから騒ぐほどの諍いもない」

 酔った勢いでの喧嘩程度はあるが、ほぼ全員、顔見知りなので誰かが止める。そしてよそから質の悪い人間が入って来ても、何か起きる前に情報が回る。田舎の良い点が生かされている領地だ。

 前世の都会暮らしから考えると親密すぎる関係だが、電話もインターネットもないこの世界では、隣近所とは仲良くしておいたほうが良い。

 何かあった時に駆けつけてくれるのは警察や救急車ではなくお隣さんで、困った時に手を差し伸べてくれるのは大家さん的な世話役や村長、そして内容によっては領主だ。

「そう…ですね。サードニクスの領地は裕福とは言い難いですが、かといって困窮しているというほど不安定でもありませんよね」

「わしが地竜様から話を聞ければよかったのだが…」

 加護が与えられなければ話せない。

 お兄様と私は早速、地竜がいる山へと入っていった。

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