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27 悪役令嬢の兄(色違い)

 え、誰?髪の毛が黒っぽいけど、顔立ちと背格好が双子のようにそっくりだ。

 黒髪カーマイン様は自分の手を眺めて握ったり開いたりしていた。

「ハルのお仲間ですか?」

「いいえ…、いえ、騎士団ではカーマイン様と似た者は見たことがありませんので公爵家の親族かと」

「いいえ、侯爵家の親族にもここまで似ている方はおりません。カーマイン様に一番、似ておりますのはセラフィナお嬢様です」

 顔はカーマイン様で、髪は色違いの黒、服装は騎士と同じ。鎧まで同じ物なのに騎士じゃないのか。

 それより火竜はどこにいった?

「火竜様…、飛んでいってしまわれたのかしら」

「ホムラだ」

 黒髪が答えた。

「え?」

「ホムラだと名付けただろう。すごいな、人間と従魔契約をすると人型になれるのか」

「ホムラ様?え、火竜の?どうしてカーマイン様、そっくりなんですか、紛らわしい」

 人型になるのはかまわないが、そこは自分らしさを追求してほしかった。ここまで似ているとカーマイン様も困るだろう。

 私の言葉にホムラが答えようとした、その前に。

「ルティア、こちらに火竜様が来るのが見えたが………」

 カーマイン様が騎士を何人か連れてやってきた。

 そして自分そっくりの男を見て固まった。が、数秒で持ち直した。

「誰だ?」

「おー、久しぶりだな。妹は元気にしておるか?今回は世話になるのぉ」

 いや、説明しないとわからないって。

「カーマイン様、火竜様です。私がうっかり従魔契約をしたせいで人型になってしまいました」

「火竜様?何故、オレと同じ姿に……、紛らわしい」

 ホムラがカラカラと笑いながら答えた。

「どうも人型になる時は主の希望が入るようだな。ルティアはこの外見がとても好きなようだ。ふむ、ここまで似るとはわしも驚いたぞ。この姿ならば裸はまずかろうと服装はとりあえずそこの男を参考にしてみた」

 なんですと?

「いやっ、待って、何、言ってんの、やめて、私、そんな希望、伝えてないでしょっ」

 焦って否定したら。

「言われてはおらぬが、伝わってきたのだ。わしも人の姿となるのは初めてのことゆえ、今はどうにもならん。慣れてきたら多少は外見を変えられるようになるだろうから、しばし待て」

 お、おぅ…、恥ずかしい…。めちゃくちゃ恥ずかしい……。

 何が恥ずかしいって、リイナも騎士の皆様達の生温かな見守るような視線が恥ずかしい。

 顔が真っ赤になった。

 確かにカーマイン様の外見、めっちゃ好きだけど、別に好きなのは外見だけじゃないんだよぉ…。

「あ~…、っと、その前に何があった?ルティア、怪我をしているじゃないかっ」

 カーマイン様が慌てて私の側に来て膝をついた。

「手当てを」

 騎士の一人が呼ばれ、慎重に矢を抜いてくれた。

「毒は使われていないようですね。手当てをしますが、早めに医師に見せてください」

 消毒をして化膿止めの薬を塗りきちんと包帯も巻いてくれた。おぉ、痛みもすこし引いた気がする。

 立ち上がろうとしたらカーマイン様に抱きあげられた。

 手当ての間にリイナ達が事情を説明してくれたようで、後のことは騎士の皆様に任せて公爵家に帰ることになった。

 ホムラも連れて。

 もともと火竜を住まわせる山探しだものね。連れ歩けるサイズなら、一緒に公爵家に戻っても問題はない。

 ここまで来た馬車は大きいので四人でも座れる。

「わしが飛んで運んだほうが早いが、ルティアの怪我に障るか」

「公爵邸は街中にありますから、ホムラ様が飛ぶと市民が騒ぎます」

「そうか」

「人型の維持は大変ですか?」

「そうでもないぞ。このサイズは小さいからな。食事も少なくて済みそうだ」

 カーマイン様は少し考えて。

「では、我が家に滞在されますか?公爵領でも、王都でも」

「ふむ。ルティアの家では駄目なのか?わしはルティアの従魔だぞ?」

 カーマイン様が苦笑しながら首を横に振る。

「オレにそっくりな見た目なので、ルティアに悪い噂が立つ恐れがあります」

 サードニクス家にカーマイン様が入り浸っているとか、一緒に暮らしているとか。この場合、男より女のほうが『ふしだらな』と悪く言われる。

「ルティアの兄に似た姿になればサードニクス家でも良いと思います」

「なるほど。ルティアがふしだらなどと言われるのはわしも不本意だ。慣れるまで公爵家の世話になろう」

「そうして下さい。出来る限りルティアに会えるようにしますから」

 さくさくと今後の事を二人で決めていく。

 結果的にロゼッタの八つ当たりで怖い思いをして怪我をして、さらに従魔契約で死ぬほど恥ずかしい思いをしたが、問題は解決した。

 ロゼッタの今後が心配だが、ここまでされてしまうと擁護しようがない。

 あの人数のならず者達をこの短期間で用意したということは、普段から付き合いがあったわけで。アローラ子爵家もクロだよね。

 子爵家が取り潰しとなれば、子爵の家族だけでなく従者も丸ごと路頭に迷う。

 その辺りはカーマイン様達が判断するわけで…。

 ふわぁ…とあくびが出てしまった。

「ルティア」

 カーマイン様の膝に抱きあげられた。

 え、何、この羞恥プレイ。

「な、何を……」

「眠たいのだろう?オレにもたれかかっていれば馬車の揺れであちこちぶつかることもない」

「いえ、たった今、目が覚めました…」

「そう言わず、寝てろ。目を閉じていれば眠くなる」

「そうですよ、ルティア様。怪我をされているのですから無理をしてはいけません」

「ケガならリイナもしてるよね?」

「こんなものはかすり傷です」

 かすり傷かもしれないが、何ヶ所も傷がついていた。一緒に守ってくれたハルも怪我をしていたはずで。

「私…、弱いですね」

「守ってやれなくて悪かった。ルティアが弱いせいじゃない。オレがふがいないせいだ」

「心配しなくてもこれからはわしもいる。この大陸でわしと同等は竜種と…、こやつとその妹だけじゃ」

 思わず笑った。

「セラ、どんだけ強いの」

「オレでも油断していると負ける…」

「お主も強いが、少し優しすぎるな。相手が妹ならば手加減しても良いが…」

 カーマイン様は静かに頷き、私はおとなしく目を閉じた。


 後日、子爵家当主は娘ロゼッタと共に公爵領の自治騎士団に捕まり、ロゼッタの母親は修道院送りとなった。他に子息はなく、親戚縁者も辞退したためアローラ子爵家は取り潰しが決まり、悪事に加担していた従者達もすべて捕まった。

 ロゼッタは私憎しで父親を頼り、父親もほいほいとならず者達を手配した。

 カーマイン様達がいる場所では山火事が起きていたとのことで、幸い水魔法を使える方が何人かいて火は消し止められたが何事もなかったことにはできない。カーマイン様が居たのだから公爵家が対応することになり、公明正大な公爵家は身内相手でも厳しい。

 国も公爵家の判断を支持した。火竜様の誘致が絡んでいるため、国としても『子爵、何やってくれちゃってんだよ』という。

 別動隊が山火事を起こし、本隊が私を襲う。

 そんな計画が成功すると子爵まで思っていたことに驚きだ。

 ホムラが来なくてもカーマイン様がきっと助けてくれたと信じている。

 ただ…、到着が遅ければもっとひどいケガをしていたかもしれない。実際、公爵家に着いた時は発熱で意識が朦朧とし、カーマイン様にベッドまで運んでもらった。

 貴族令嬢にしてはたくましいほうだと思っていたけど、さすがに耐えきれなかったようだ。足のケガもあったので一週間ほどおとなしくしていた。

 美しいメイド達はとてもよくしてくれたし、ご飯は美味しいし、カーマイン様は事後処理で忙しい中、何度もお見舞いに来てくれたし。

 ホムラもいたので退屈することなく過ごせた。

 私がのんきに暮らしている間に子爵達の処遇も決まったようで、刑期は異なるが全員が強制労働所送りとなった。

 子爵とロゼッタに恩赦はなく牢屋に入っていたが、労働所送りになる前に何者かが用意した毒で自殺した。子爵はそのまま…、ロゼッタはかろうじて一命をとりとめた。しかし長くはもたないだろうと母親がいる修道院に移送された。

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