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26 悪役令嬢家での領地見学

 領内に入っているため移動は馬車で二時間ほど。辺りにはほとんど民家のない山の麓へと到着した。

「ここまで人がいないと火竜様は寂しがるかもしれませんね」

 馬車を降りて…、うん、山がどうなっているのかまったくわからない。見上げてもただ木々が生い茂っているのが見えるだけ。

「かといってあまり近いと住民が怖がる」

 カーマイン様が同行している管理人に他の候補地の事を確認する。

 公爵領はとても広いため、管理人が何人かいる。管理人達は町長や村長から相談が持ち込まれた際に農業や都市計画に関して助言する。かかる費用等についても適正に援助し、足りない分は低い利息で貸出、計画性をもって返却してもらう。

 今回は辺境を担当している三人と、護衛が八人。そして私とリイナ。馬車二台と馬で移動していた。

 候補地が決まったら火竜を迎えに行かないと。

 加護を与えられているのだからテレパシーで呼べないだろうか。

 試しに心の中で呼びかけてみる。

(火竜様、火竜様、公爵領に来てください)

 五分くらい念じてみたが応答はなかった。ですよね、そう簡単なものでもないか。

「カーマイン様、私、もうちょっと周辺を見てきますね」

 声をかけると護衛の騎士を一人つけてくれたので、リイナと三人で周辺を歩く。

 ここまで馬車が通れる道はあるが、この先は本当に何もない。雑木林って言えば良いのかな。密集してはいないが遠くまで見渡せるほどは視界が良くない。

「この近くに果実のなる木はあるのかな…?」

 独り言のつもりだったが騎士が『ありますよ』と教えてくれる。

「この辺りだとプルーンがあったはず。少し奥にイチジクも…」

「お詳しいのですね」

 ハルと名乗った護衛騎士は二十台半ばだろうか。がっちりとした体格に優しそうな顔立ちの男性だ。

「私はこの辺りの警備を担当しています。果物を少々、収穫をしても罪に問うことはありませんが、生態系を狂わすような乱獲がないよう見回りをしております」

 イチジクの木を探しに行くとしっかりと実が生っていた。美味しそう。

「火竜様は果実が好きだとおっしゃっていたの」

「ルティア様は竜の言葉がわかるそうですね」

「男爵領にいる地竜様が、私が生まれた時に加護を与えてくださったの。地竜様と初めてお会いした時、火竜様もいて…」

 リイナと話しながら辺りを散策していると。

 ヒュン…と何かが風を切る音がした。

「伏せて!」

 ハルの声に慌ててかがむ。

 いつの間にか周囲を囲まれていた。強盗?それとも人攫い?

 ざっと見ただけで十人以上いる。

 品のない粗野な男達の中に美しい少女とその従者と思われる男がいた。

「ロゼッタ様…」

 私の呟きにリイナが舌打ちする。

「ルティア様、突破口を作りますから逃げてください」

「でも…」

「早くカーマイン様の元へ」

 ハルが剣を構えるが相手は矢で狙ってきている。しかも半数以上が弓で私達を狙っていた。

「ロゼッタ様、こんなことがカーマイン様に知られたら貴女もただでは済みませんよ。男達を退かせてください」

「嫌よ」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。

「カーマイン様達を足止めしているうちに貴女を消してしまえば良いことだもの」

「悪事は必ず露見します」

「大丈夫。さらった後に他国に売れば、もう見つけようもないわ」

 ならず者だけでなく他国とも通じているとすれば…、公爵家に対する大変な裏切りだ。貿易等で他国と通じているのは問題ないが、人身売買はどこの国でも罪となる。

「ルティア様、私の事は気にせず逃げることに集中してください」

「私の身体を盾にすればしばらくの間は持ちます」

 二人が私の身体を隠すような位置に立つ。

 矢が放たれた。

 気配でわかるが私にはよく見えない。二人に押されて、下がるしかなかった。

 怖い…、自分が死ぬかもしれないことより、自分を守るために他の人が傷つくことが怖かった。

「や、やめて、二人とも…、私を守るのなら戦って!自分の身を守るために戦って!」

「ルティア様…、逃げてください」

 リイナが掠れた声で言う。

「私は公爵夫人となった貴女に仕えてみたい」

 リイナに押されて敵がいない方向に向かって走り出した。

 私が離れなければ二人が戦えない。

 走って、でも直後に右足のふくらはぎに激痛がはしって転んだ。派手に地面に倒れこむ。手足に擦り傷ができたが、それよりも足が…。

 うまく当たってしまったようで矢が刺さっていた。

 でも逃げなくちゃ。

 カーマイン様が来てくれたらきっと助かる。リイナとハルも助けてもらえる。

 痛みで吐き気がしたが気力で立ち上がったところを引きずり倒された。

「逃がさねぇよ」

 男の一人がいつの間にかそばに来ていたようで、足で腹部を踏みつけられた。

 ならず者達に…、他国に売られたとしても生き残れるとは思えない。どこかで殺されるのだろうか。

 殺され……。


 また?


 ドクンッと心臓が痛くなった。

 止めようもなく息が荒くなり一気に汗が噴き出す。

 何か…、何かとてつもなく嫌な事を思い出そうとしていた。

 怖い……、怖い、助けて、カーマイン様!


 バサバサバサ…と木々が葉を散らした。風が巻き起こり、空気が震える。

 巨大な影が空から舞い降りて、私を踏みつけていた男が消えた。

 よく見えていなかったけど、巨大な影が吹っ飛ばしてくれたようだ。

 ホッとして、ボロボロと涙がこぼれた。

『ルティア、怪我をしているではないか。誰にやられた?』

「火竜様……、助けて、殺されちゃう………」

 火竜に泣きながら頼んだ。

「リイナとハルを助けて!ならず者達を殺さずに全員、捕まえて!」

『承知した』

 竜の咆哮が響いた。

 それだけで、半数が地面にへたり込んだ。ロゼッタもふらりと倒れてしまうが、そばにいた従者も気絶したため支えてはもらえなかった。

 なんとか持ちこたえ矢を射た男もいたが、厚い竜の鱗が軽く弾く。そして大きな体は私を守るような位置にいた。

「ルティア様、ご無事ですか?」

 リイナとハルがそばに来て、私の足を確認する。

「無理に矢を抜くと傷がひどくなるかもしれませんね」

「早く医者に見せなくては」

「騎士の中に一人、薬師の知識を持った者がおります。普段から仲間の手当てもしていますから応急処置を頼みましょう」

 それにしても…と、リイナ達が振り返る。

「こちらが火竜様……」

「来てくれて助かったわ。待ちきれなくて早く来てしまったのかしら」

『何を言う。おまえが呼んだのではないか』

 ………通じてたんだ。

 火竜様は器用に男達を一か所に集め、その横に大きな穴を開けた。そばには行けないが、かなり大きな穴だということはわかる。

「火竜様、土魔法も使えるのですか?」

『得手、不得手はあるがな。簡単なものなら全属性、使えるぞ』

 そう言って、男達だけでなく気絶しているロゼッタも穴の中に放り込んだ。落ちたタイミングで悲鳴が聞こえたが同情はできない。

『で、どうする?埋めて、土地の肥やしにするか?』

「いえ…、とりあえず逃げられないようにして頂ければ」

 改めて火竜にお礼を言う。

「来て頂き助かりました。ありがとうございます」

『ルティアの声が聞こえたからな』

「何かお礼をしなくてはいけませんね。果物でよろしいですか?」

『ふむ…、では火竜と呼ばず、名をつけてくれ。火竜は他にもいる』

 竜種は多くはないが、一個体ではない。他国でも暮らしているし、竜種が多く住む土地もある。なるほど。

 月並みだけど、やっぱり火に関係する言葉が良いよね。前世の言葉で確か…、ホノオ…、ホムラ。

「ではホムラ様とお呼びいたします」

『我が名はホムラ、竜族の誇りにかけてルティア・サードニクスを守ろう』

 なんだか大袈裟な。まるで…、ほら、あれみたい。

 従魔契約?

 よくある異世界もので、従魔契約って確か………。

 ぶわっと火竜の周りに竜巻のような風が起こり、火竜が消えてしまった。代わりに…カーマイン様(色違い)が立っていた。

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