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25 悪役令嬢家の使用人達と

パソコン買い替えのため次回の更新は遅れるかもしれません。

 公爵領に到着した一日目の夜は私の希望で立食パーティにしてもらった。執事さんやメイドさん達、それにウォレスさん達庭師や下働きの人達まで。さすがに屋敷の食堂や広間は使えないが、使用人用の食堂や休憩室だって十分に広くて整っている。

 立ったままでも食べやすい料理を準備して、警備を除くほぼ全員が集まっていた。多い…。とても多い…。五十人はいるだろうか。実際はこの三倍はいて、護衛も入れるとさらに増える。

 公爵夫人になればこんなわがままは許されないが、今は男爵家のルティアだ。短期間でできる限り多くの使用人達と顔を合わせようと思ったらこんな方法しか思いつかなかった。

「それにしてもルティア様は造園だけでなく料理にもお詳しいとは」

 ウォレスさんに言われて『転生チートです』とは言えないよねぇ。チートと言えるほどの知識でもないし。

「セラフィナ様達ともよく手作りパーティをしているので、詳しいというよりはなんとなく…で覚えたことなのですよ」

 横でカーマイン様も頷く。

「昔から何度となくあったな。男爵領の大木に巨大なブランコを作ったり、共同浴場を作ったり」

 それにはウォレスさんがふたたび喰い付く。

 料理に関してはアレだ。食事用の丸いパンにハムやチーズを挟み、フライドポテトを作り、肉を串に刺して焼いた。ポテトは塩だけで食べても良いが、香辛料やソースをつけても美味しい。

 これを料理と呼べるのか、いや呼べない気がする。

「ルティアは菓子作りも上手だぞ」

 どや顔で言うカーマイン様にメイド達が頷く。

「いただいたお菓子、とても美味しかったです」

「あまり甘いものを食べないが、ルティアが作った菓子は美味い」

 厨房に入り込むような貴族令嬢は非常識って言われるんですよぉ…と思ったが、この家のご令嬢はセラだ、あれに比べればセーフ…か?

 みんなで和気あいあいと軽食をつまみながら雑談をして、料理があらかた無くなったところでカーマイン様と私は自室へと戻った。私にはメイドが一人、ついてきてくれる。

「明日は山に入るかもしれないので動きやすい服にします」

「ではお髪は崩れないように編み込みますね」

「お願いしま…」

「カーマイン様!!」

 西洋人形が飛びつこうとして、また避けられた。

「ひ、ひどいですっ。晩餐に来て下さらないなんて…。私、一人ぼっちで食べたのですよ…」

 涙目で見上げながら言う様はとても可愛らしかった。実際、一人での夕食は寂しかっただろう。

「一人で食事をすることを選んだのはロゼッタだろう。どちらでも好きなほうでと伝えたはずだ」

「そんな…、下賤な者達もいるのに……。使用人達の部屋になど恐ろしくて行けません」

 カーマイン様がため息をついた。

「アローラ子爵からどうしてもと頼まれたため仕方なくここに置いている。気に入らなければ帰れ」

 西洋人形がぷるぷると震えながら涙をこぼした。

 そして、キッと私を睨んだ。

「貴女、カーマイン様に何を言ったの?カーマイン様、この方は意地悪な方です。私、昼間は突き飛ばされて……」

「ロゼッタ」

 少し強い口調で遮った。

「アローラ子爵へ迎えに来いと手紙を出しておく。すぐに出立できるように荷物をまとめておくように」

 西洋人形は顔を真っ赤にして私だけを睨んでいた。


 部屋に戻るとメイドが『ロゼッタ』について教えてくれた。

 公爵家のメイドは非常に口が堅い。上下関係もきっちり守っている。ゆえに告げ口のような真似はアウトなんだけど、カーマイン様がメイドに『眠るまでまだ時間がある。ルティアの話し相手になってくれ』と言っていたので…情報を共有しておけということだろう。

「遠縁にあたる子爵家のご令嬢で、ご幼少の頃からカーマイン様のお嫁さんになると言っておりました」

 ただカーマイン様は王都にいる事が多く、ある年から長期休暇中の帰省をほとんどしなくなった。帰って来ても二泊、三泊で王都に戻る。

 長期休暇中はほとんど男爵領にいたものね。

 ロゼッタはカーマイン様が居なくても『未来の公爵夫人になるのだから』と押しかけてきて居座った。

 もっと早い時点でビシッと断っていれば…というのは結果論で、小さな女の子を問答無用で返品するのは難しい。どうしたものかと思っているうちにずるずるとここまで増長してしまった。

「なんというか…、カーマイン様のお気持ちをまったく考えていないようですね」

 好かれる努力さえしていない。

 ………私も努力をしてこなかった。最初の頃は『目の保養』程度で、一緒に遊ぶようになってからは『友達のお兄さん』。今もロゼッタのような熱意はない。

 でもさ、だからといってロゼッタに気持ちで負けているとは思わない。

 私なりに考えて婚約者になると決めたのだ。

 さすがに『公爵夫人』は軽いノリで引き受けられない。

「ロゼッタ様は周囲をまったく見ない方ですし、時々、信じられないような事をいたします。二人きりにならないようご注意ください」

 危害を加えられないように。

「明日は私も同行させていただきます」

 改めて自己紹介される。

「リイナと申します。今は遥か高みに昇られましたが…、セラフィナお嬢様を指導していた時期もございます。手練れの騎士相手でもそれなりに戦える程度には鍛えております」

 それは心強い…、え、待って、待って。

「そんなに危険なのですか?」

 リイナはにっこり笑って。

「ロゼッタ様は本当に、信じられないようなことをするのですよ。今まではなんとか大事に至らず、またこちらも我慢しておりましたが…」

 カーマイン様が正式に婚約すれば、ロゼッタの『いずれ公爵夫人になる』は公爵家を否定する発言だ。メイド達への悪質な態度はまだ我慢できても、未来の女主人に対する暴言は許せない。

 いや…、メイド達に対してもやっちゃダメだと思うけど、公爵家から追い出すほどの理由にはならない。

 階級社会だものね。


 翌日は部屋に朝食を運んでもらい、支度をしつつご飯を済ませた。

 歩くためショートブーツにパンツスタイルだ。髪は邪魔にならないようにときっちり編み込まれた。

 リイナと一緒に外に出ると既に馬車が待機している。カーマイン様もいた。

「おはようございます」

「おはよう、ルティア。よく眠れたか?」

「はい。リイナ達のおかげでとても快適でした」

 すっと身をかがめると小さな声で言う。

「今はまだ客室だけど、夫婦の寝室が決まったらルティアの好きに改装していいからな」

 き、気が早い、さすがに気が早い。

 いちいち顔が赤くなってしまう。というか、この人、こんな感じの事をポンポン言う人だった?

 ちょっと睨むように見上げると、楽しそうに笑っている。

「早く『友達の兄』から『恋人』に昇格してほしいからな」

「婚約するのに…、餌がなくても逃げませんよ」

「餌?」

「口説くときは熱心にプレゼントを送るけど、自分のものになった途端に扱いが雑になることを『釣った魚に餌はやらない』と言うのですよ」

 なるほど…と頷いたが。

「オレは自分のものは大切にするし、めちゃくちゃ可愛がりたい」

「………あの、ほどほどで」

「断る」

 サクッと却下され、逃げる間もなく抱き上げられ馬車に乗せられた。

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