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24 悪役令嬢の兄とまったり過ごす

 私に用意された部屋はとても可愛らしい内装だった。白を基調に落ち着いた雰囲気だが、クッションやベッドカバーにレースが多く使われている。お姫様ベッドだし。

「ルティア様がいついらっしゃっても良いように準備しておりました」

 公爵家には女主人がいないため執事とメイド達で考えたとのこと。

「素敵なお部屋でとても嬉しいです」

 ソファに座ろうとしたところでノックがした。

 メイドが確認をするとカーマイン様だった。

「疲れていないようなら、少し庭に出ないか?」

 即座に『行く』と返事をしたらメイドから『待った』がかかった。

「せっかくなのでお着替えしましょう」

 言うなり部屋にあるベルを鳴らす。と、わらわらと若いメイド達が集まってきた。

 いや、このままで…と思ったがカーマイン様にまで『それはいい』とすすめられ、おとなしくメイド達の人形になってしまった。


 淡い水色のワンピースに華奢な靴。髪はサイドを編み込んで後ろにリボン。

 薄化粧をして最後に帽子を持たされた。

 廊下に出るとカーマイン様が待っていた。

「お待たせしました」

「そうでもない」

 すっと肘を出される。えーっと、腕を組むというか掴めってことだよね。

 そっと手を添えるとゆっくりと歩きだす。

「明日は火竜を誘致する山を見に行く」

「公爵領は広いので候補地がいくつかありそうですね」

「あぁ。ルティアがいなければ意志疎通ができないため先に近隣住人に説明をして了解を得なければいけない。拒否反応があれば次の候補地だな」

 意志疎通できない火竜を前にして、住人達が冷静でいられるかどうか。

 いっそ逃げてくれたほうがましだ。火竜は人を襲わないが、悪意をもって攻撃されたらさすがに反撃するだろう。軽く払いのけただけでも、普通の人間なら抵抗もできずに吹っ飛ぶ。

 セラが攻撃した時はそばに地竜とその加護を受けた私がいたし、攻撃魔法を使える魔力保持者が複数いた。

 何より火竜はセラからの攻撃を少し楽しんでいた。

 あれよね、拳で語り合う的な。

「火竜様が住民の誰かに加護を授けてくださると良いのですが」

「難しいだろうな。ルティアが加護を受けた理由は…、きっとルティア自身に何か特別な理由があったのだろう」

 いえ…、地竜も火竜もめっちゃ軽いノリでしたけどね。

 ゆっくり歩きながら庭園に向かうと彩り豊かな花が植えられていた。季節は夏の終わり。ヒマワリやユリに似た大ぶりの花から小さな草花まで色々と植えられている。雑多な感じではなく区画分けされて植物園のようだ。

「ここにはハーブや薬草もある。今は庭師に任せっぱなしだが、結婚したらルティアが好きに造りかえればいい。セラに任せようとしたら鍛錬場にしたいと言い出して…」

 体を鍛えることが好きなカーマイン様もさすがに止めた。

 うん、公爵家の庭園をSASU○EやらKU○OICHIやら、某テレビ番組のようにするのはさすがにね。

 それにしてもこの広さの庭を好きにって…。日本庭園は落ち着くけどここの世界観に合わないよね。となるとイングリッシュガーデンかな。

「池とか橋を造っても良いですか?」

「そんな構想があるのか?」

「自然な感じのお庭にしたいのです。できれば散歩も楽しめるような…」

 田園風景をそのまま庭にもってくる感じで、小さな橋や小屋があってもいいかも。ツリーハウスとかあれば子供の秘密基地になる。

「言葉でうまく説明できないので、ローズに描いてもらいますね」

「そう…だな」

 見上げると何故か口元がにやけている。

「どうしました?」

「いや……、その子供の秘密基地というのは当然、オレ達の子供…だなと思ったら」

 ………ぼんっと顔が熱くなった。

「そっ、そんな深い意味は……」

「わかっている。わかってはいたが…、それにしても秘密基地か。なんだかワクワクする響きだな」

「ですよね。もともと植えられている木を利用して小さな家を建てて…」

 土の地面に拾った石で簡単な絵を描く。

「こんな感じで、ハシゴをつけても良いし降りる時は滑り台でも…」

「ほうほう、これは斬新な」

 ぬっと現れた白い頭にびっくりして飛び退った。それをカーマイン様が支えてくれる。

「ウォレス、いたのか…。ルティア、庭師のウォレスだ」

「はじめまして。ルティアです」

 白髪の老人はにっこり笑って『これの話を詳しく聞かせてくれ』と地面を指さした。


 庭園の一角に藤棚のようなものが造られている。蔦のある蔓植物が絡まり良い感じに涼しい日陰を作っていた。

 お茶とお菓子が用意され、それをつまみながらウォレスさんにイングリッシュガーデンとツリーハウスの説明をする。言葉での説明が難しいと思っていたが、ウォレスさんがスケッチブック片手に絵にしてくれたのでなんとか伝わった。

 ローズとはまた違った素朴な画風で、イメージ通りの庭が描かれる。

「なるほど植物で遠近感を、池や橋で立体感を出すと」

「手前に大きなものを、奥に小さなものを配置するとより奥行きが深くなりますし、橋で高低差を出して…。あと、池に映ることも計算して」

「素晴らしい!」

 ウォレスさんがカーマイン様を見る。それはもうキラキラとした少年のような瞳で。

「ツリーハウスはオレの秘密基地にする。そこは譲れない」

「ではまずはカーマイン様のお部屋を作りましょう」

「庭の設計図を完成させて大体の予算と合わせてオレに送れ」

 がしっと握手をするとウォレスさんが『三日で完成させる』と走りだした。

 カーマイン様が上機嫌で言う。

「秘密基地か…。何を持ちこむべきか」

「そうですね。定番は『宝物』でしょうか」

「そうか、それがいいな」

 すっと顔を近づけて。

「秘密基地にはルティアを真っ先に招待しよう」

 ささやかれて、私は再び顔を真っ赤にした。

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