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14 悪役令嬢と冒険に行くとか

 田舎での過ごし方はほぼ決まっている。

 ローズは風景画を描いていることが多く、私は令嬢の定番の刺繍に読書、時々、料理。

 セラはひたすら体を鍛えている。

 三人集まれば農家の収穫を手伝ったり、田舎の子供のように自然にあるもので遊んだり。精神は中途半端に大人な部分もあるが、逆に大人だからこそ『子供の遊び』に燃える時があるよね。

 田舎の憧れ、大きな木にブランコはお爺様が作ってくれた。今は村の子供達の遊び場にもなっている。

 勉強もしている。国語と数学、歴史、地理なんかがある。理科の代わりに魔法学。

 屋敷内にも図書館があり、村の子供達のための教材も揃えられている。一生、この村で暮らす子も多いが、読み書きや計算は必要だ。最低限知っていれば悪い商人に騙されることもない。

 日本の学校よりは簡単な気がする。簡単だなって思っていても、母国語が日本語ではないため基礎から勉強しなくては理解できない。

 転生者であろうとも地道な努力が必要なのだ。


 私達が滞在して二週間。お兄様達もやってきた。カーマイン様とローシェンナ殿下がいるのも予想の範囲内。

 今回に限っては殿下がいてくれて良かった、だって山に入るんだよ?殿下の護衛である皆さんが私達も守ってくれるかどうかは謎だが、人数が多いと安心感が違う。

 セラはちょっと不満そうだ。

「護衛が同行する冒険なんて、冒険じゃないよ」

「セラちゃん、じゃあ、ローシェンナ殿下の同行を断るの?私には無理だなぁ。だってとても楽しみにしてらしたもの」

 ローズが言う通り、殿下は目をキラキラさせていた。

 普段は人が入らない山の探索。図鑑でしか見たことのない植物や生き物達。そして初めての野宿。『少年』ならばワクワクするシチュエーションだ。

 当初、殿下が来るとめんどう…と思っていた私だけど、ここ何年かはカーマイン様とお兄様が調整役をしてくれているので諦めている。

 殿下に何かあったらうちの責任になる…ってのが怖くて、でも、そこはみんなで気をつけるしかないものね。

 殿下が気持ちよく過ごせるようにお兄様達が頑張っているのだから、私も協力しなくちゃ。

 王子様…だけどセラに恋する少年でもある。セラに認めてもらえるように日々、努力もしている。

 出会った頃よりもがっしりしてきたというか、軟弱な雰囲気はまるでない。もとが美形なので、それはもうかっこよくて麗しい王子様に育った。

 殿下が動けば護衛や従者が何十人単位で動き、受け入れ側も数十人で準備しなくちゃいけないんだけど、殿下だって大変なのだ。

 私達のように好きな時に集まってお茶したり、お買い物したりはできない。夏の旅行に行くために相当、無理をして日程を組んでいる。

 殿下が自由に動けるのもあと数年。

 次期国王に正式決定すれば、今まで以上に厳しく制限される。

「殿下もおとなしそうに見えて『男の子』だね。おうちの中で美味しいご飯を食べてゴロゴロしているほうが楽しいのにさ」

「ローシェンナ殿下がいるからさすがに野宿はないと思いたい。テント、用意してくれるよねぇ」

「ローズと私だけでもテントで寝かせてほしい…。お兄様も一緒ならなお嬉しい…」

「ウィスタリア様にも野宿って似合わないよねぇ。本来はセラちゃんにも似合わなかったものだけど」

 貴族令嬢だからといって毎日、ゴテゴテしたドレスを着ているわけではない。

 ローズや私はシンプルなワンピースが多く、たぶんこれが一般的。可愛らしい花柄や伝統的な柄、リボンやフリルも下品にならない程度についている。

 が、これで野宿は、ない。

 セラの私服は普段からパンツスタイルが多く、今回は森に入るためさらに重装備だった。多機能パンツと言って良いかわからないけど、武器やロープなんかがベルトやパンツの側面に仕込まれている。

「攻撃力は下がるけど、ショートソードが一番、使いやすいんだ。投擲用のナイフは十本しかないから慎重に使わないと。あとは鞭とかロープとか…」

 今回はローズと私もパンツスタイルだが、そんな仕込みはない。使えないのに持っていても、重くて疲れるだけだ。

 気はすすまないが山に入ると決まった以上、準備をしないと生死に関わる。これはお爺様にも言われている。

 出るかどうかわからない魔物より、毒持ちの虫やかぶれる植物対策をしたほうが良い。

 そのため肌の露出は極力おさえている。

 大きな荷物は殿下の護衛の皆さんが運んでくれるとのことで、個々のカバンには携帯食、水筒、消毒液なんかが詰め込まれた。

 虫や樹液によるかぶれや腫れは、洗って消毒…が基本。ポーションは高級品なため、軽傷では使わない。

 幸い殿下の護衛の中には治癒士がいるし、水属性の魔法士もいる。

「やっぱりローシェンナ殿下が一緒で良かったよ。でなければ…、この荷物に2リットルくらいの水が追加されていたんだよね」

「総重量が10キロとかあったら、ついでに身体も鍛えられるよ!」

「貴族令嬢は重いものなんて持つ必要ないっつーの」

 男爵令嬢の私ですら出掛ける時はメイドが同行し、荷物を持ってくれる。私が持つことをメイドのほうが嫌がるのだ。

『お嬢様は私達メイドにもお優しいですし遠慮してくださいますが、これが私達の仕事です』

 メイド長に言われてからはあまり遠慮しないようにしている。重労働や過酷な労働を強いることはないが、荷物持ちや部屋の掃除なんかは気軽に頼んでいる。

 準備を整えて屋敷の外に出ると馬車が用意されていた。ローズと私は馬車で移動できるようだ。殿下のお付きでメイドや調理人もいる。山の奥までは入らないが、ふもとで待機するとのこと。

「ルティア達は馬車で来て、山の入口で合流する。そこに馬車と馬を置いていくことになるけど、殿下のほうで管理してくださるそうだ」

 山の中には徒歩で入るため、最小限の人数で。

 お兄様に言われてホッと息をつく。ってことは帰りも馬車よね。疲れ果てた状態だと馬でもつらい。

「それに…、山の中で何が起きるかわからない。馬車があれば怪我人や病人を運びやすい」

「お兄様、山の中には危険がございますの?」

「地竜様がいると聞いている。サードニクス男爵家の守り竜とも言われ、この辺り一帯の全ての生き物を統括しているとか。だから年に何度か、地竜様の元へ収穫された野菜や果物を届けている」

 だから魔物は村へ降りて来ない。まったくないわけではないが、とても少ない。

「私、ちっとも知りませんでした」

「これは男の仕事だからね。地竜様目当てに山に入る者が増えても困るから、あまり公にしてはいないんだ。今はお爺様が管理している。代が替わればお父様か私がやることになるよ」

 地竜の姿を見た者はいないが、備えた野菜や果物はいつの間にかきれいになくなっている。たぶん本当にいるのだろう。

「地竜様が私達を襲うことはない。他の魔物が出てきたとしても、ルティアのことは私が守る」

 優しく微笑むお兄様に頷いて、私は馬車に乗り込んだ。

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