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11 悪役令嬢が男前すぎる

「あなた、男爵家だそうね」


 煌びやかなドレス姿のお嬢様達がぐるりと私を取り囲んでいた。

「図々しいと思わないの?カーマイン様とセラフィナ様は貴女なんかが簡単に口をきいて良い相手じゃないのよ」


 そうですね、そう思っていますよ、今も。

 だけどセラは階級に興味がないし、カーマイン様は『妹の友達だから』って感じで…、拒否権は最初からない。

 拒否するほど嫌ではないし、むしろ二人のことは好きだ。好きだからこそ覚悟している。


 いつか…、階級差や環境等の理由で疎遠になることを。


「いいこと?凄いのは貴女のお兄様だけで、貴女はただのみすぼらしい男爵家の娘よ。そのことを自覚なさい」

 こういった場合、どうするのが正解だろうか。令嬢達がいきなり殴りかかってはこないよね。

 立ちあがって『出過ぎた真似をして申し訳ございません』と謝る。

 悪いとは思っていないが、円滑に脱出するためには刺激しないのが一番だろう。

 そして『兄が待っておりますので失礼します』とお嬢様達の輪から抜けようとしたが…、ガクンッとひっかかって転んでしまった。


 背後でドレスの裾を踏みつけられたらしい。油断していたためモロに膝から落ちてしまった。

 痛い…。

「あらぁ、まともに歩けないなんて」

「お可哀想に」

「男爵家ですもの。ドレスでの立ち居振る舞いはねぇ…、慣れてらっしゃらないのよ」

 クスクスと笑われる。

 うわぁ、いじめだ。悪役令嬢であるはずのセラよりずっと悪役令嬢っぽい。


 残念ながら私はヒロインではなくモブ令嬢だけど。


 こちとら精神年齢は20歳越え。傷つきはしないがめんどくさいな…とは思う。やれやれ…と心の中でため息をついて立ち上がろうとしたが。

 ふわっと体が宙に浮いた。


「ルティア、大丈夫?」

 セラだった。

「う、うん…ってか、降ろしてくれて大丈夫だよ。自分で歩ける」

 セラがにっこり笑う。


「私は見ていたよ」

 見ていたよ…と、笑顔のまま私の背後に居るご令嬢達にきつい視線を送る。


「転んで足をひねったかもしれない。無理はしないほうがいい」

「いや…、重いでしょ?」

 私自身はそこまで重くないと信じたいが、ドレスが結構、重い。合わせたらそれなりになるはずだがセラは私をお姫様だっこしたまま歩き始めた。


 何、この男前な悪役令嬢。

 そのまま廊下に出たものだからまた注目を浴びてしまったが、セラはまったく気にしていない。迎えの馬車に向かうと既にカーマイン様とお兄様が待っていた。


 私達を見て、さすがに驚いた顔をする。

「何があった?」

「馬車の中で話す」

 セラがそっと私を降ろす。

「歩ける?」

「もちろん。ちょっと膝をぶつけただけだよ」

 馬車に乗り込み、仕方なく簡単にあらましを話した。

 実害はなかったので、騒ぎにするつもりはないことも。


 お兄様に『一人にしてごめん』と謝られたが、女性の化粧室までは来られない。廊下で待つのもおそらくマナー違反だ。

「まったく…、中途半端なポジションのヤツほど階級差にこだわるな。陰湿な女達だ。顔と名前はわかるか?」

 顔は覚えているが、髪形とドレスが変わったらわからなくなってしまいそうだ。

「たいしたこと、ありませんよ。仕方ないです。それほどお二人の人気が凄いということです」


 それに……。

「助けに来てくれたセラが本当にかっこよかった」

「そう?」

「そうだよ、これでますます人気者になっちゃうかもね。殿下も苦労しそうだなぁ」

 ご令嬢達も加わってセラ争奪戦が起こりそうだ。


「殿下は関係ないでしょ?」

「セラは本当に気になる人、いないの?一人も?」

 苦笑しながら『ローズとルティアがいるからね』と答える。逆に聞き返される。気になる人はいないのかって。

 そりゃあ、婚約してもおかしくない年齢だけど。


「お兄様を除外すると、今のところダントツぶっちぎりでかっこいいの、セラだからなぁ」

 私の言葉にセラとお兄様が嬉しそうに笑い、カーマイン様が『不健全だ』と怒りだす。


「おまえ達は普通に異性に目を向けられないのか?」

 そう言うけどさぁ。

「じゃ、カーマイン様はいるんですか?意中のご令嬢」

 うっ…と、言葉につまった。セラと同じく体を鍛えることにしか興味がないくせに。

「いないなら、私達と同類です」

「………い、いなくは、ない」

 顔を真っ赤にしながら答えた。わ、ちょっと可愛い、新鮮。


 誰だろうかと質問しようとしたが、お兄様に止められた。

「不躾に聞くものではないよ。カーマイン様がお困りだ」

 確かに。恋バナは盛り上がるが、ネタにされるのは私も嫌だ。

 カーマイン様に謝った。

 それにしても誰だろう。関わり合いになる気はないが興味はある。

 だってこのイケメンが好きになる相手だよ?




 後日、ローズにこそっと心当たりを聞いてみたら『ルティアちゃんだよぉ』と言われた。

「え、まさか…、転生、召喚もので散々、イラついていた『ヒロイン鈍すぎ、ここまで言われても好かれているって気づかないものなの、バカなの?』現象に陥ってるってこと?」

 私が?いや、でも、あんなイケメンがモブな私に………、あるの?


「ルティアちゃんはちゃあんと可愛い女の子だよぉ」

 ローズが天使のような笑みを見せながら。

「カーマイン様が嫌なら断ればいいからねぇ。カーマイン様に限らず嫌なことをされたら、私にも報告してね」

「何か策でもあるの?」

 軽い気持ちで聞いた私に。

「ルティアちゃんとセラちゃんを苦しめるヤツはぁ…、呪っておくからねぇ」

 と、無邪気に言いきった。


 なんか本当にできそうで怖いってば。

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