表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/45

三十九、歩く足には血がつく

「はぁ……」


 内心しょんぼりとしながらテントを出た私は、焚き火のための薪木を探しに行った。

 礼烽さんがいない今、火を絶やしてしまうとつけ直すのに時間を要してしまう。

熹貂ちゃんと一緒に薪を探そうとしたのだが、彼女の姿を見失ってしまっていた。


 早いところ焚き火に使えそうな木を見つけて帰ろうと思った矢先、不思議な感覚が私を襲った。

誰かに呼び止められた気がして、周囲を見回す。

 しかし、人影らしきものは見当たらない。

気のせいだったかと思い、歩き出そうとしたところで、一際大きな岩に目がとまった。

よく見れば、岩陰に人の手のようなものが見える。

息が止まるほどの胸騒ぎを覚えて、走って近寄った。


「礼烽さん!」


 岩に体を預けるようにして、礼烽さんは倒れていた。

肩を貫かれたのか、傷口からは血がにじみ出ている。

急いで胸に耳を当てると、わずかに心臓の音が聞こえた。


「礼烽さん、礼烽さん!」


 声をかけるが反応はない。

生きてはいるが意識がない状態だ。


「起きてください、礼烽さん。皆さんを置いていっちゃだめです……」


 彼の手を握り、祈りを捧げる。

 この人を死なせるわけにはいかない——。


 途端、繋いだ手から純白の光がこぼれ落ちた。

星屑の如き光たちが彼を包んでいく。

その眩しさに思わず目を閉じると、次の瞬間には傷口が塞がっていた。


「良かった……」


 傷は治った。

あとは意識が戻ったかどうかだ。


「礼烽さん……?」


 おそるおそる肩を叩いてみると、小さな呻き声を上げて、礼烽さんがゆっくりと目を開ける。


「礼烽さん、大丈夫ですか? どこも痛くないですか?」


「……おう」


 声は小さいが、意識は確かなようだった。

彼が無事なことに気が緩んだのか、涙がこぼれ出た。


「良かったぁ……」


 ボロボロと泣いていると、礼烽さんに頭をポンポンと優しく叩かれる。


「泣いてんじゃねぇよ、馬鹿」


「だって、血を流して倒れてたから……」


「あんな傷で俺が死ぬわけないだろ。……でも、あんたが助けてくれたんだな。礼を言うぜ」


「もう、そんな死亡フラグみたいに急に優しくしないでください……」


「んだよ! ああ、ほら、もう泣くなよ。いちいち鬱陶しいやつだな。そんな泣いてっと、水分不足になって命取りなるぞ」


「……それもそうですね。泣き止みます」


「……それで納得するんだな。いや、別にいいんだが……少し複雑だ」


 礼烽さんは砂を手で払うと、先ほどまでの怪我を感じさせないほど元気に立ち上がった。


「もうどこも痛くないですか?」


「ああ。あんたがちゃんと治してるなら問題ないはずだぜ」


「多分、ちゃんと治しました」


「多分って何だよ、おい。しかし、あんた、砂嵐ではぐれてからどうしてたんだ? そっちこそ怪我とかしてねぇのかよ」


「私は大丈夫です。あの後、さまよい歩いていたら朱雀隊の皆さんと合流したんです。今は薪拾いの途中で……」


「あいつら全員無事なのか?」


「はい。今は近くの集落跡にいらっしゃいます。お城へ応援を要請しに行った方もいますが……」


「そうか。悪いが、俺をその集落跡とやらに案内してくれ」


「はい!」


 拠点に戻る道すがら、礼烽さんに何があったのかを聞いた。

 私と離れてすぐに、礼烽さんは禍人と対峙したのだという。

隊士の方々を襲ったサソリのような禍人は、彼にその牙を剥いた。

応戦したものの砂塵で視界が悪く、反応が遅れて肩を刺されてしまったが、礼烽さんが振りかざした剣も禍人の腕を貫き、お互い痛み分けになったらしい。

反撃を受けた禍人はそのまま地中に潜っていき、礼烽さんはそれを追うようにしてここまで歩いてきたと言った。


「つまり、禍人はこの辺りにいるかもしれないということですか?」


「ああ、おそらくな。けど、そいつが砂ごと俺の剣まで持っていきやがってな。すぐにでも捕まえてやりたいが、応援が来るまで待った方がいいかもしれねぇな」


「さすがに武器なしでは危ないですよね」


 二人で会話をしているうちに集落跡へと帰って来た。

 礼烽さんを見つけた隊士の方々は、喜び勇んで駆けつけてきた。

彼の無事を信じてはいたものの、実際に何ともなかったことがわかるとホッとしたのだろう、久しぶりに笑顔を見せた。

 私はうっかり薪を拾い忘れたことを思い出してしまって、この感動の嵐でそのことを皆が忘れてくれることを願っておいた。


 ……あとで拾いに行こう。


 しばらくして夕餉の時間になり、火を囲んで保存食である干し肉と、それで味付けをしたスープを飲んだ。

久しぶりにしっかりとした食べ物を口に入れたので、幸福感が強い。

隣で食事をしていた礼烽さんは、ふと照隠さんの右手に目をやった。


「照隠殿、見たところ利き手を怪我されているようですが……まさか、禍人にやられたのですか?」


「これですか? とんでもない、私の不注意ですよ」


「昼間ここにサソリが出たそうですよ。その尻尾を切ろうとしたら、手が滑って怪我されてしまったみたいです」


「そんなところまで知っているなら、早く照隠殿の怪我を直せ」


 そう言って礼烽さんは、私の額を人さし指で軽く小突いた。


「いえいえ、天女様は私の治療を申し出てくださったのですよ。しかし、そのお力はこの国を救うためのもの。私にはもったいないと思い、お断りさせていただいたのです」


 礼烽さんは目を見開くと、それから考え込むように下を向いた。


「礼烽さん?」


 顔を覗き込んで尋ねると、彼にしては珍しく慌てた表情を浮かべた。


「なんでもない。照隠殿がそうおっしゃるならば、私は何も申しません。どうぞご自愛ください」


「ええ、ありがとうございます」


 遠征中にしては和やかに夕食を終えた。

腹がくちくなると眠くなるものである。

明日の朝、応援が来てくれるのならば、今日は早々に休んでしまおう。

まだ誰もいないテントに入って、コロンと横になる。

明日には禍人を討伐できるといいのだがと思いながら目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ