二十五、問屋も卸してくれなさそう
火ノ処の服装は男性も女性もワンピース型の服だ。
どちらも胸元が着物のようになっており、赤を基調としている。
男女で違う点は、男性は腰骨の位置で細い帯を結び、女性はウエストで太い帯を結ぶというところぐらいだろうか。
女性の間では、スカート部分がフレアスカートのような形状になっているのが流行りらしい。
オシャレには疎いので、その流行りの服を買ってもらい、三人とも火ノ処の服装で朱雀城を目指した。
服装が変わっただけなのに、物珍しそうに私たちを見る人はいなくなった。
どこの世界でも、ある程度見た目が大切だということなのだろうか。
「それにしても、紅砂海に行くのに物資を大量に集める必要なんてあるのかな」
仁萸さんは不思議そうに首を捻った。
「でも、その紅砂海って砂漠なんですよね。広い砂漠なら、水や保存食のように装備をしっかりするのは当たり前なんじゃないですか?」
「おっしゃる通り、紅砂海は広大です。しかしながら、王家の方々がいらっしゃる場所に行くには、案内人の助けがあればそう難しいことではありません。わざわざ出稼ぎの商人を呼び戻すほど、物資は必要ないでしょう」
「じゃあ、砂漠で何するんですかね?」
「何だろうねぇ。まあ、戦の準備じゃないようだし、僕らが口を挟めることじゃないよねぇ」
「さようですね。然れども、商人たちがまったく理由を知らないのも疑問ではあります。長期間、紅砂海に火ノ処の中心戦力である朱雀隊が赴くわけですから、何か重要な理由があると思うのですが」
「お城に着いたら何かわかるかもしれませんね」
「そうだねぇ。燐玉さんは、なんだかんだはぐらかしてきそうだけどさ」
「どうも燐玉殿と我々は相性が悪いようですね」
「燐玉さんは蹴っても折れなさそうな武人が好きだからねぇ。智漣君なんか痩身だから、見た目だけで毛嫌いされそうだ」
「……私は基本机に向かう仕事ですので、仕方がありません。仁萸殿は武道の心得もございますでしょう」
「まあ、僕だって一応稽古はつけてもらっているけどさ。実戦に向かうことはそうそうないしね。彼女から見たら遊びみたいに見えるんじゃないかな」
会ったこともないのに、どんどん筋骨隆々な女性がイメージ像として思い浮かぶ。
見た目はともかくとして、中身は話のわかる人であることを願うより他ない。
市場を抜けて、城下町を過ぎ、朱雀城の城門へと到着する。
市場や城下町のガヤガヤとした雰囲気とは打って変わって、物々しい雰囲気である。
赤い鎧を身につけた兵士が、城門前を警備している。
この城門を抜けて、しばらく行くと将軍の住む城があるという。
門を入ってからも、少しの間歩かなければいけないのはどこの処も同じらしい。
門番に声をかけると、許可証を提示してほしいと言われるので、智漣さんが皇帝から預かっている書簡を見せる。
目を見張った門番は、「しばしお待ちください」とだけ言うと、一目散に城の中へと向かった。
その言葉通り、数分もすると案内人として官吏がやって来た。
智漣さんと仁萸さんを配慮してのことなのか、火ノ処でも数少ない文官であるらしい。
城内で防具を身につけていない人間は彼らぐらいだと言うので、他の人々は毎日重装をして仕事をしていることになる。
酷い肩こりに悩まされそうな職場だ。
官吏に案内されて城内を十五分も歩くと、ようやく将軍がいるという建物に近付いた。
城内は迷路のように入り組んでおり、案内人がいなければ迷子になること必至である。
石垣の上に城が建てられており、四階まであるというが、将軍は三階で私たちの到着を待っているという。
エレベーターなどはないので、もちろん階段で上がっていくのだが、この階段が急斜も急斜で、上るだけで一苦労なのだ。
手すりもなければ段差もバラツキがあるので疲れるし、踏み外せば真っ逆さまに落ちそうで怖い。
バリアフリーという概念が存在しない世界なのだと思い知らされる。
城が攻められても時間稼ぎになるということで、このような構造になっているらしいが。
階段を上りきり、金箔が散りばめられた襖の前へと連れて行かれた。
厳かに開けられた襖だったが、部屋の中には真っ赤に彩られた荘厳な椅子と、兵服を着た人間が襖の横に立っているだけで、将軍らしき人はどこにもいない。
床に座って待っているように言われたので、大人しく座っておく。
智漣さんも仁萸さんも黙ったまま、目を伏し目がちにしているので、私もそうして待つことにした。
少しの間そうしていると、椅子の後ろにある襖がゆっくりと開く音がした。
気にはなったが横にいる二人がピクリとも動いてくれないので、顔を上げられずもどかしい。
「面を上げよ」
ハスキーな声が頭上から降ってくる。
おそるおそる顔を上げてみると、玉座には長髪を一つにまとめた美しい女性が座っていた。
赤褐色の鎧に身を固めたその人は、私たちを見るとほんの少し目を細める。
ガタイの良い女性を想像していたが、思ったより細身の女性である。
この人が燐玉将軍なのだろう。
「遠路はるばるよく来てくださった、天女殿に智漣殿。……そしてお久しゅう、仁萸殿」
狐のように艶美な目がきゅうっと細くなった。
仁萸さんはほんの一瞬だけ眉を上げると、すぐに真剣な表情を見せる。
「ご無沙汰しております」
なんだか剣呑な空気に胃が重くなりそうだった。
問題が起こる前に処人を紹介してもらって、とっとと火ノ処を出立した方が良さそうだ。
「水ノ処の水戀帝より書簡をお預かりした。火ノ処から水ノ処に処人を遣っても良かったのだが……生憎忙しくてな。申し訳ないが、今日、貴殿らには顔見せ程度しかできない」
智漣さんの顔つきが少しばかり険しくなった。
どうやら、そう簡単にここを出発させてはくれないらしい。
「礼烽」
「はっ」
おおよそ180センチほどあるだろうか、蘇芳色の防具を身にまとった短髪の男性が、彼女の前に跪く。
火ノ処の主戦力と呼ばれている部隊、朱雀隊の隊長。
市場で話を聞いたその人が処人というわけだ—–。




