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二十一、嘘つきは妹の始まり

「もしかして、お兄さん名前変えちまったのかい?」


 —–名前を変える?

よくわからないが、勢いよく首を縦に振った。


「そうなのぉ。まあ、火ノ処は他処の人間が商いしづらい所ではあるからサ。仕様がないと思うンだけど」


 何が何やらわからないが、勝手に得心してくれたようで、女性は二人であれやこれやと世間話をしている。


「お嬢ちゃん、水ノ処出身って言ってたかしら?」


 心臓がドキッと跳ねる。

嘘が服を着て歩いている状態なので、あまり追求されると墓穴を掘りそうで怖い。


「そうですよ」


「水ノ処出身で結婚前なんでしょ? よく許してくれたわねェ、火ノ処に来るの」


「……そうなんですか?」


「そうよぉ。水ノ処の良家の娘さんは、蝶よ花よと育てられて、ほとんど自分の家から出ないって聞くわよ」


 正直、水ノ処出身でもなければ、箱入り娘でもないし、ただの女子高生なのでさっぱりである。

 適当に微笑んで受け流すと、女性たちはキャイキャイと喋り始める。


「アタシたち木ノ処に移住したンだけどサ、本当に火ノ処とまったく違うのよねェ。水ノ処と木ノ処は基本、女性が家のことするでしょぉ?」


 知らない。

まったく知らない。

ニコッと笑って返す。


「火ノ処は違うんですか?」


「違うわよぉ! アタシたち、生まれて五歳で兵士になれるかどうか検査されンのよ」


「検査……?」


 智漣さんたちから軍事的な地域だとは聞いていたが、思っていたよりスパルタな場所らしい。


「火ノ処は男女の区別なんかないからサ。みぃんな、検査されてサ、合格したら訓練所に連れて行かれンのよ」


「お姉さん方も訓練所に?」


「いいやァ。アタシたちは検査に落ちたから、早くに結婚して商人やってンのよ、ねぇ。火ノ処はね、兵士になンのが名誉なことで、一番お金ももらえる仕事なのサ」


 世知辛い話である。

想像以上の話に脳がついていかない。

同じ国にあるのに、場所が違うだけでこんなにも違うものなのだろうか。


「それじゃあ、検査に合格したら兵士としてお仕事をして、不合格だとそれ以外のお仕事に就かれるというわけですか」


「そうよぉ。軍人が偉くなンの、あそこはサ」


「あれ、でも今は休戦中ですよね。兵士を育成する必要はあるんですか?」


「あるわよぉ。戦がなくても、悪さする奴はいるでしょ。今なんかは化け物が出るようになったとかで、より治安が悪くなってるからサ。よその処に兵を派遣して稼いでンのよ」


 火ノ処は物資がない代わりに、人材を資源として稼いでいるようだ。

休戦中の今は傭兵稼業をメインにしているらしい。

 その後は、結婚後に役立つ知識を教えてもらってお風呂から上がった。

結婚については未定だが、いつか使うだろう知識として胸にしまっておく。

 湯屋の入り口では、智漣さんが居心地の悪そうに佇んでいた。


「お待たせしてごめんなさい」


「今、出てきたところです。さて、宿に戻りましょうか」


 帰りながら湯屋の感想を互いに話し合う。

智漣さんも中で旅人のおじさんたちに囲まれて、あれやこれやと聞かれたらしい。

圧がすごくてお風呂に入っていた気がしなかったとため息をついた。


「旅先は開放的な気分になりますしね。あ、そういえば、智漣さ……兄様。湯屋にいた火ノ処のお姉さん方が、名前を変えることができるみたいなことを言っていたんですけど、どういうことですか?」


「名前ですか?」


「火ノ処に兄がいるという話をしたら、名前を聞かれたんですけど即答できなくて。そしたら、名前を変えたの?って聞かれたんです」


「ああ、承知しました。そのことでございますね。それでは夕餉のときにでもお話し致しましょう」


 湯冷めしてしまいますよ、と智漣さんの羽織を着せられ、宿まで送ってもらう。

中にいた燎さんは見るからに忙しそうで、もうすぐ部屋に夕飯を持って行くからと言うと、別の部屋にお櫃を持って走って行った。

 二階に上がって部屋に入ると、仁萸さんは壁に背を預けて読書をしていた。


「ただいま戻りました」


「ああ、おかえり。湯屋はどうだった?」


「いいお湯加減でした!」


「……おそらく湯加減は良かったと思います」


 智漣さんはせっつかれたことを思い出したのか、げっそりとした顔をした。

仁萸さんは含み笑いをして、読んでいた本を片付けた。


「もうすぐ燎さんが晩ご飯を持ってきてくださるみたいですよ」


「ああ、そうみたいだね。ついでにお酒も頼んでおいたんだ」


「呑まれるんですか?」


「部屋代を払わなくていいって言われているからさ。その分を酒代で補おうと思ってね」


「その考えは良いとは思いますが、あまり酩酊されないでくださいよ」


「僕が飲む分はそんなに頼んでないよ。あとはこの宿に泊まっている人に振舞ってくれとお願いしておいたんだ」


「急にお酒もらったら困惑しませんかね?」


「妹が祝言挙げるからお祝いでと適当にごまかしておいたよ。その代わり、火ノ処について面白い話が聞けたよ」


「話?」


「お酒をよければどうぞ、と泊まる人泊まる人に言ってまわってたんだ。ここに泊まっている人は皆、火ノ処の商人だったんだけど、商売の内容が偏っているんだよね」


「皆さん同じ職業だったんですか?」


「飲料水や保存食のような食料を扱う人と、材木問屋がほとんどだったよ。武器商人はいなかったから、ひとまず安心かな」


「輸入する物資が偏っているのですか……。一体、火ノ処は何をしようとしているのでしょう」


 首を捻っていると、燎さんが夕飯を運んできたので、その話は一旦お開きとなった。

 一汁三菜の健康的な晩ご飯に、私は手を合わせる。

仁萸さんは物珍しそうに晩ご飯を食べていた。

木ノ処は量が多いのが基本なので、この形態の食事が珍しいのかもしれない。

 焼き魚の骨と格闘しながら、智漣さんに聞こうとしていた話を思い出した。

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