とある作者のジャイアントスイング
「物語を書くことを、なにか別の行為に例えなさい」
と尋ねられたら、なんて答えますか?
書くことを人生になぞらえる人もいるでしょう。山登りに例える人もいるでしょう。地図のない荒野を歩くようだ、と例えた人もいました(誰だったか忘れてしまいましたが)。
わたしならなんて例えるだろうか、しばし考えて出てきた答えが「ハンマー投げ」でした。
──我ながら、答えがあさっての方向すぎて眩暈がします。でも思い付いてしまったので仕方ありません。少し文章にしてみます。
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わたし(作者)はハンマー投げの選手です。
まず投げるハンマー(作品のジャンルやテーマ、登場人物)選びからはじめます。別に仕事としてやっているわけではないので、投げるハンマーは全くの自由です。好きに選びましょう。
投げるハンマーが決まったら、とりあえずその場で回ります。回れるだけ回ります。目が回ってもまだまだ回ります。
回り続けるうちに、ハンマーを持つ手がちょっとずつ軽くなってくるのが分かります。遠心力が働くからです。
この場合、回ること(遠心力を得ること)というのは、「文章をより良く推敲すること」を指します。
遠心力はあればあるだけ良いです。遠心力があるからハンマーは遠くに飛ぶわけですから。だから死ぬ気で回り(推敲し)続ける必要があります。
限界まで回ったら、ハンマーをぶん投げます。ジャイアントスイングみたく。ありったけの力をこめてぶん投げましょう。
ハンマーができるだけ遠くに飛ぶように、たくさんの読者の目に触れてもらえるように、願いを込めて手を離しましょう。
あとは見守るだけです。
ハンマーの描く放物線を固唾を呑んで見守りましょう。物凄く幸運に恵まれたときは、自己新記録が出るかもしれません。
あるいはハンマーがあさっての方向に飛んで、酷評されるかもしれません。そういう時は、一人そっとマクラを濡らしましょう。マクラがぐしょぐしょになるまで泣けば良いのです。
望んだ通りの結果が出なくて仕方ありません。大切なのは、いまの自分のベストを尽くしたかどうかです。
ハンマーの行方を見届けたら、汗を拭いて少し休憩しましょう。
ハンマー投げはとても重労働なのです。連投なんて出来っこありません。好きなお菓子でも食べて、一息つきましょう。
このとき、今回の反省をしてみるのも有効かもしれません。
ハンマー選びがそもそも間違っていなかったか。遠心力が足りなかったのではないか。ハンマーを投げる方向は合っていたのだろうか。
振り返ることは山ほどあるはずです。
そしてお待ちかね、結果発表です!
良い結果が出ると景品(読者からの感想やレビュー)が貰えます。まれに残念賞(お情けの評価ポイント)が貰えることもあります。
頂いた景品は遠慮せずガン見しましょう。だってそれは世界で貴方だけに贈られたものなのですから。じっくり見ないと勿体ないです。
さて、そろそろ体の疲れも癒えたでしょうか?
では、またハンマー選びから始めましょう。
つぎはどんな隠し球をぶん投げようか。ハンマーに見せかけて、ピコピコハンマーを投げたって構わないのです(拙作「滅びを導くパズル」がまさしくそうであるように)。
──そんな下らない妄想を思い浮かべながら、わたしは今日もせっせとハンマーを選んでいます。
書くって、しんどいけど楽しいなあと思いながら。