君の、苗字(な)は?
「あ、また載ってる」
模擬試験の順位表。
そこに載っているのは、苗字が同じな男子生徒の名前。もちろん、他の学校だ。
この苗字は珍しいらしく、ほとんど同じ苗字の人には出くわしたことはない。地域独特のものらしいんだけど。
だからこそ、同じ苗字の彼に興味を持った。
その姿は一度も見たことないけど、どんな模擬試験でも上位の常連だった。
自分より偏差値のはるかに高い学校を目指すんだろうな。同じ苗字でも、これからもきっとなんの接点もないだろう。
そう思っていた。
そんな彼との接点が発生したのは、寒い寒い季節に行われる試験。
大きな試験だから、同じ県内で受ける人は一つの会場にまとめられる。まあ、一つの会場でまとまるほどの小さな地域だから。
受験票を持ち、席に着く。周りは見たことのない人ばかりだ。
緊張しながら試験は進んでいく。
昼休み、友人と一緒に食事をするために席を離れた。
そして午後の試験のために席に戻ろうとした時。目の前の座席にある受験票がふと目に入った。
「あっ……」
いつも模擬試験の順位で見ていた、同じ苗字の彼だ。名前まできちんと覚えていなかったから、こんなに近くに座ってるなんて思いもよらなかった。
そうか、目の前に座ってるこの人が……。
もちろん昔から探していたわけでもない。夢に見るはずも、ましてや入れ替わるなんてこともない。
でも、ただ一言、目の前にいる彼に問いかけてみたかった。
「君の、苗字は?」