険悪な二人
悠魔達は、今アリテール王国の王都イクシード向けて歩いていた。
「何で、コトナさんが付いて来てるんですが? 王宮の方は大丈夫なんですか?」
何故か、この戦争に関係ない、エストア王国の騎士の彼女が加わっていた。
今回の戦争にエストアは参戦しないと、国王のクランドは言っていた、それなのに、彼女が付いてくるのは変だと思った。
「いやぁ、私にも、色々ありまして……王宮の方は、ジェンガ君一人いれば問題ないですから」
困ったように苦笑するが、彼女は明確な理由を説明はしてくれなった。
「……大方僕の見張りだろ、この同行も悠魔の家によく来るのも」
まさにその通りで、コトナは渋い顔をして悠魔から視線を逸らす、この事は国王から内緒でするように頼まれていた。
別に、今のアリスが何かを悪さをするとは思えないが、流石に彼女をそのまま野放しにする事は出来ない、悠魔は信用出来ても、彼女は信用出来ない、それが彼らの考えだった。
「まぁ、僕みたいなのを、そのまま放置は出来ないだろね」
彼女は、面白そうに笑うが、コトナとしては笑い事ではない、悠魔には不信感を持たれるのは、あまり良い事ではない、アリスの事もあるが、今の彼が作る魔道具やポーション類は、かなりの物で、出来るだけなら国に留まっていて、良い関係を築きたかったからだ。
「うぅぅ」
困ったように、チラッとコトナは悠魔を見るが、彼は驚いた様に呆けており、いまいち何を考えてるのか分からなかった。
「驚きました、コトナさん僕の家に、仕事をサボりに来てたんじゃなかったんですね」
「驚くとこそこですか⁉」
彼女は取り合えず、悠魔が怒ってない事に安堵するが、何だか釈然としない気持ちだった。
前を歩いていた、アリスは今度は、心底愉快そうに大笑いする、確かに、悠魔の家に来た彼女の態度は、とても見張りをしてる様には思えなかく、完全に遊びに来てるだけだった。
「流石に私も、そこまで不真面目じゃないですよ!」
「すいません」
「まぁ、いいです、それと黙ってた事は謝ります」
彼女は謝罪するが、別に謝る必要はないと悠魔は感じる、アリスの過去を考えれば、寧ろ今のアリスの待遇は破格の物で、悠魔は感謝している。
「今の彼女の待遇は、悠魔君の人徳のお陰です」
普通ならこの様な態様はなく、しかし、悠魔のエストアへの貢献を考えると、国王も考えざる負えなかった。
何より、王宮を訪れた時の彼女の態度が、あまりにも殊勝だった為に、その時の彼女の言葉には、一切の嘘が感じられなかった。
それでも、それだけなら彼女の今の待遇はない、そこで彼女は、自分が出せる限りの物を、この国に差し出し、今の待遇を得る事が出来たが、失った物も多大にあり、その事をコトナから聞いた悠魔は、アリスに詰め寄った。
「アリスさん、どんな取引をしたんですか……」
彼女は何も答えない、悠魔がどれだけ訪ねても、彼女は無言を貫く、痺れを切らして、コトナに話を振るが、彼女はアリスに殺気を込めた瞳で睨まれてしまい、黙ってしまう。
彼女では、アリスに手も足も出ない為に、こうなると黙るしかなかった。
「アリスさん……」
何と言われようが、アリスはこの事を、悠魔に話すつもりはなかった。
「ほら行くよ、いつまでも、こんな場所で立ち往生してる訳にはいかないからね」
話は終わりと言い、アリスは歩き出してしまう、その以降の旅は、殆ど会話はなく、コトナはとても生きた心地がしなかった。
彼女はこの時、この人達に関わると、ロクな事がないと思ったが、何だかんだ彼女は、この二人の事を放ってはおけなかった。
気まずい雰囲気の中、イクシードに到着する事が出来、そんな三人を出迎えたのは、クリルだった。
まず彼女が、第一にした事は、悠魔にお礼を言う事だった。
「悠魔様、この度は私の為にありがとうございます」
深々頭を下げる彼女に、悠魔自身彼女の状態は、リボーズから聞いていたが、やはり自分の目で確かめると、安心感が違った。
「頭を上げてください、元気そうでよかったです」
「はい、それでは、王宮にご案内いたします、こちらの馬車にどうぞ」
クリルに案内され、馬車に揺られて、王宮に向かう三人だったが、馬車の中は妙な沈黙が訪れる、悠魔とアリスの二人に、何か合ったのか、感じ取ったクリルは隣に座って、外を眺めていた、コトナに小さな声で尋ねる。
「お二人は何か合ったのでしょうか? 何やら雰囲気が険悪ですが……」
彼女は簡単に、此処に着く前に彼らが、嘩した事を話した。
その内容を聞いた彼女は、呆れたように、二人に視線を送る、彼らはそれぞれが、両側の窓から外を眺めていた。
そして、王宮に到着してリボーズに合うが、彼も悠魔とアリスの雰囲気が変な事に気がつき、困った様にクリルに尋ねる。
しかし、クリルも困った様に苦笑するだけで、取り合えずこの話題は横に置いておく事にした。
「あぁ、何だ、その、よく来たな……取り合えず出発は三日後だ、それまで、ゆっくりしてくれ、クーちゃん、こいつらを部屋に案内してやってくれ」
「わかりました」
彼女に先導され、それぞれの部屋に案内され、悠魔はベットの上に身を投げ出し考える、今彼が考えてるのは、もちろんアリスの事だ、彼女は妙な所で強情な所があると思う悠魔だったが、それは自分もだと思い頭を振る、早く何とかしないと行けないと思う彼だが、どうしていいか分からなくなってた。
今更頭を下げるのも違うと思う、そもそも今回は、彼に非はなく、どちらが悪い訳でもないからだ、結局いくら考えても分からなく、ベットから起き上がり、部屋を出る。
気分天下に街に行こうと、王宮を歩いていると、大量の書類を抱えたクリルと出会う、彼女の上半身は書類によって隠れて、殆ど前が見えてないのか、フラフラ歩いていた。
「半分持ちます」
悠魔は流石に危ないと思い、彼女の持っていた書類を半分手に取る。
「悠魔様⁉」
彼女は、急に書類を取られ驚き振り向くと、そこに居る人物を見て、さらに驚く。
「すごい量ですね」
書類の多さに驚く悠魔だったが、彼女は苦笑して、長い事寝込んでいましたから、と話してくれた。
そもそも、この国のこの手の仕事は、クリルが中心となってしている、四獣士は基本的に脳筋揃いなので、この手の仕事は出来なくもないが、向いていないし、リボーズもその性格上ジッと机に向かってるのは苦手で、すぐに逃げ出す。
そんなこんなで、すべて書類仕事は彼女に回って来る、この時の悠魔の心境は、そんな状態で、よく国が回るなと言う、至極真面なものだった。
「全く、もう少し書類整理が出来る人が欲しいです」
疲れたように愚痴る彼女を見て、相変わらず苦労してるなと思う悠魔だった。
ここだけの話、クリルは目を覚ましてすぐ絶望した、何故なら書類の山を見たからだ。
彼女の愚痴を聞きながら歩いていると、どうやら目的の場所に辿り着いたのか、彼女は書類をのせる様に言ってきた。
悠魔は言われた通りに、書類を彼女の持ってる書類の上に乗せ、今から入るらしい場所の扉を開けた。
「ありがとうございます」
彼女はお礼を言い、その部屋に入って行く、悠魔は、流石に今の彼女に相談は出来ないと思い、その場を後にして街に向かった。




