龍と龍
薄暗い空洞内で、悠魔は苦しんでいる、何故なら、彼の体の一部は龍化し始めていた。
この空洞内には、赤龍が放出した龍の魔力で、満たされており、その魔力に共鳴して、悠魔の体内にある龍の魔力が暴走していた。
「おい、本当にこんな事を繰り返して、龍の魔力の制御が出来る様になるのか⁉」
「問題はない、今の状態は、あくまで坊主の体に魔力が馴染んでないからじゃ」
魔力を使うと体が龍化するのは、悠魔の体に龍の魔力が馴染んでないかで、魔力が体に馴染めば、龍化しなくなるというのが彼の見解で、悠魔もアリスも二種類の内の魔力の、人間の魔力だけを使う事に集中していたが、赤龍に言わせれば、それは馬鹿の極みで、そんな器用な事が出来る者はいないと言われた。
アリス自身、悠魔の様な事例は初めて見るため、赤龍の説明を今後の為に詳しく聞いていた。
ここ数日、こんな事を繰り返しているだけで、アリスは、苦しみ疲弊していく悠魔を見ていて、本当に龍の魔力が制御出来るようになるのか疑問だった。
このままでは、悠魔の体が壊れるか、完全に龍になってしまうかもしれないという、不安でいっぱいだった。
「龍の力を手に入れるのは、並大抵の事では出来ん、今の坊主の体ではな」
「まさか、君は悠魔を龍にするつもりか⁉」
「安心せい、坊主は元は人間じゃ、精々進化しても龍人が関の山じゃろ」
その答えを聞いて、アリスは赤龍に掴みかかる、彼女は悠魔を人間のまま救いたかっが、彼が取った方法は全くの別物で怒りを覚えた。
しかし、赤龍はそんな彼女の手を払いのけ、彼女を、その鋭い視線に捉える。
「そもそも貴様は、龍を元に作られた魔眼を埋め込んで、人間のままいられると思っておったのか? それは随分考えがあさいのぅ」
遅かれ早かれ悠魔の体は、人間でないものに変化して行くと、赤龍の言葉を聞き、彼女はその手を放しその場に膝をつく、アリス自身分かっていた事で、悪魔と魔女契約するだけで、人間の体だった自分の体は食事も睡眠も必要ない体になった。
それなのに、龍の力を持つ物を体に移植すれば、肉体に何かしらの影響があって当たり前だ、彼女は、その事から目を逸らし、考えない様にしていただけだった。
「なぁ、悠魔はどうなる?」
「安心せぃ、早めに儂に見せたのは正解じゃ、あのまま放置していたら、いずれ坊主の意識は龍の魔力に喰われておったわ」
今も、苦しむ悠魔の姿を見て赤龍は答える、龍の力は決して人間では扱えない、エルフェリアは、悠魔に上手くその力を、移植したが、結局の所それは一時的なもので、いずれは内なる龍にすべてを乗っ取られる、それを防ぐには、完全に龍の力を支配する必要があった。
「僕に何か出来る事はないのか?」
「ないのぅ、今のお前さんに出来る事といえば、疲れ疲弊坊主を支える事ぐらいじゃ」
自身がいかに無力なのかを思い知り、アリスは苦悶の表情を浮かべる、目の前で苦しむ悠魔を見て、何の力にもなれないと言われ、自分は何も出来ない激しい無力感が彼女を襲う。
「どうやら今日はここまでの様だな」
苦しそうに声を上げていた悠魔は、意識を失いその場に倒れこむ、アリスはそんな彼にすぐに近づき抱きしめる、意識を失っても苦しみはあるのか、苦しそうに唸っていた。
「早くこの部屋から連れ出せよ、今この部屋には、儂の魔力が溜まってるから、坊主の体の中の魔力と共鳴するから苦しみが続くぞ」
アリスは慌てて、この部屋から悠魔を連れ出し寝泊まりしてる洞穴に寝かす、どうやらこの場所は龍の魔力が薄いのか、悠魔の苦しみが和らいだ。
彼女から見て、徐々に彼の体は変化し始めていた、アリスは不安で仕方なく、このままでは悠魔が居なくなるのではないかと不安がこみあげて来る、そういえばさ最近、彼とまともに会話をしてないなと思った。
「……悠魔」
この日も同じ事の繰り返しで、いい加減に悠魔のこんな姿を見るのは嫌だったが、急に赤龍は眉を顰める、どうやらアリスも変化に気が付いたのか、心配そうな表情から一変して、何かを警戒するような表情になる。
「ん、来たか」
「おい、一体何が来るんだ⁉」
「なぁに、すぐにわかる」
悠魔は急に苦しむのをやめるとゆらりと立ち上がる、彼が顔を上げ赤龍とアリスを見る、その表情は普段の悠魔と違い、冷たい雰囲気だった。
「久しいの黒天龍、しばらく見ないと思ったら魔眼になっていたとはのぅ」
「あ゛あ゛てめぇ赤龍か」
その喋り方は普段の彼とは違い、乱暴で全くの別物でアリスは不安になる、どうやらこの人格は、魔眼の元になった黒天竜のもの見たいで、今の悠魔は、その人格に乗っ取られてるようだった。
「のぅ、黒天龍、その坊主と共存するつもりはないかのう?」
その言葉を聞いた悠魔――黒天龍は愉快そうに笑う、しばらく笑うと、急に笑いを止め怒号の様に声を上げ、悠魔との共存を否定する、当たり前だった、この黒天竜は赤龍と違い人間を見下していた。
「何で俺様が脆弱な人間と共存しなくちゃいけねぇ――舐めてるのか! あ゛あ゛!」
その言葉を聞いて、今は、自分もその脆弱な人間の一部なのにと、内心思う赤龍であった。
「仕方ないのう、同族として、あまりこのような事はしたくないのだが、この際仕方ないのぅ」
赤龍がかわし手を打つと、黒天竜の足元に魔法陣が展開される、その魔法陣を見た黒天竜は、何やら慌てだす、どうやら彼は、この魔法を知ってる様で慌てて、魔法を発動して対抗しようとするが、馴れない人間の体では、上手く魔法が起動できなく、魔法陣から出て来た、光の鎖が体に巻き付き彼を拘束する。
その鎖から逃れようともがくが、鎖は外れなく徐々に黒天龍の体――悠魔の体に染み込んでいく、そのすべてが、体に染み込むと悠魔はその場に倒れてしまう。
「うむ」
赤龍は悠魔の体を調べる、彼は一通り調べ終えると、意識のない悠魔を抱え上げて、放心状態のアリスに渡す。
彼の話では、悠魔の体に上手く龍の魔力は馴染んだようで、取り合えずは安心と言う事だった、先ほど龍の魔力が体に馴染む事で出て来た人格は、どうやら魔眼の元になった龍――黒天龍のものらしく、その人格も赤龍が封じてくれた。
「今の坊主は、多少龍化しているが殆ど人間じゃ、これから時間をかけて徐々に龍人に体が変化して行く、まぁ、しばらくは日常生活には問題ないじゃろ」
「……もう人間には戻れないのか?」
不安そうに尋ねるアリスを見て不愉快そうに答える、一度変化した体が戻る事のない、そしてそんな事はアリス自身も分かって事を伝えた。
「魔眼なんかに手を出すからには、その坊主もそれなりの覚悟はしてただろう」
もはやアリスには、彼の言葉は届いてなく、彼女の頭の中には無力感、罪悪感などの感情が渦巻いていた。
彼を、ここ最近寝泊まりしている洞穴に運び寝かしつける、彼が望んで選んだ道とはいえ、こんな道を選ばした自分を恨む、自分がもっとしっかりしていれば、こんな事にはならなかった。
しばらくすると、悠魔は目を覚ます、一瞬先ほどの悠魔の姿が脳内によみがえるり、それにより警戒するが、その警戒は無駄に終わる。
「アリスさん……泣いてるんですか?」
目を覚ました悠魔の視界に、まず飛び込んで来たのは、涙を流したアリスの姿だった。
この時悠魔は、また彼女にこんな顔をさせてしまったと思い、後悔すると同時に嬉しく思う、自分は彼女に大切にしてもらってるのだと、しかし、自分はそんな彼女には何もしてやれてなく、むしろ心配しか掛けてないと思う。
「ごめんなさい、いつも迷惑かけて……」
「気にするなもう慣れたよ……でも、あまり心配をかけないでもらいたいな」
涙を拭い、悠魔を見る彼の顔色は少し悪く、少し熱がある様に見えたが、しかし、魔力の流れは正常になっており、今までの様に二種類の魔力は流れてなく、一種類の魔力に統一されていた。
しかし、それは悠魔の体が確実に、龍に近づいてるのだと確信してしまうが、今は取り合えず、彼の無事を確認出来た事に安心する。
「少し魔力の放出を出来るか? でも無理はするな」
「はい、大丈夫です」
悠魔が魔力を放出するのを見て、ある事に気が付く、前まで魔力を使うと体が龍化していたが、今の彼はそんな事なく、普通の人間の姿だった。
その変化は、悠魔もすぐに気が付く、そして今までにもないくらい、高濃度な魔力が体に流れてるのを、今は使いこなせないかもしれないが、この魔力を使いこなせるようになればあの、悪魔――暴食の悪魔キュリウスを倒す事が出来ると思った。
「どうやら完全に体に馴染んだようだね」
「はい、ただ今の僕には扱いきれませんね、魔力が大きすぎますね……これだけ心配をかけお願いするのは気が引けるのですけど、魔力の扱い方をまた教えてもらえませんか?」
「ああ、教えてやるさいくらでも、でも取り合えず今は休め体を万全にしてからだ」
「はい」
そう言うと、悠魔は眠ってしまった。
その寝顔は、ここ最近見れない程穏やかなものだった。




