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異世界でのセカンドライフ  作者: サイン
第四章
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悠魔の闇

 悠魔を助けたのは、和服を着て、白いひげを蓄えた老人だった。


「危ない所じゃったな」


「神様⁉」


 この老人は、悠魔をこの世界に転生させた神様で、老人は、化け物に変化した悠魔を投げ飛ばした。


 投げ飛ばされた、化け物は壁に叩きつけられ咆哮する、それを見た老人は、かしわ手を打つと、悠魔の視界が黒い世界に変化する、彼はこの空間を懐かしくも思う。


 老人と初めて会った場所も、この場所で、何もなく暗い世界だが、とても心が落ち着くか感じがする。


「儂が、ちょうど君の様子を、除いた時でよかったのう、儂が助けに入らんだら、今頃アイツに喰われておったぞ」


「あれは、何なんですか?」


 悠魔には、全く現状の状況が理解できなかった、そもそもこの世界は何なんだろう、あの自分に似た化け物は、何なのか聞きたいことは沢山あった。


 しかし、老人は困ったような表情をする、話すべきか迷ってるようだったが、結局悠魔自身しか問題は解決できないため、彼にすべてを話すことにした。


「まず此処は、君の精神世界で、そして、あれは君の心の闇じゃ」


 老人の説明はそれだけで、悠魔は考えた、此処は自身の精神世界なら、あの光景も納得出来る。


 しかし、彼には心の闇というのが、よくわからなかった。


「そう深く考えこまんでいい、誰にも闇はある……心当たりはないかい?」


 そう言われると、コレットが殺され時に、ダイヤス帝国を憎んだあの時の事を、そしてもっと過去の出来事を、この世界に来る前に犯した罪の事を思い出す。


「……ずっと、聞きたい事があったんですけど?」


「なんじゃ?」


「神様は全部知ってるんでしょ、僕が過去に父親を殺してる事を……なのに、何で僕なんかに目かけてくれたんですか……」




 まだ、悠魔が前の世界で生きていた時の事で、彼には双子の妹がいた。


 高校時代に、母親は蒸発していなく、父親は殆ど家にいなく、偶に帰って来たら来たで、娘や息子に暴行を繰り返す、しかも酒癖は悪いし、ロクな父親ではなかった。


 彼の日常は、そんな父親から妹を守る事だった。


 しかし、ある日帰宅した悠魔が見たものは、父親に暴行された妹の姿だった。


 その光景を見た悠魔の頭の中は真っ白になり、気が付いたら、玄関に置いてあった、石の置物を手に取り、父親に殴りかかっていた。


 それに気が付いた父親は驚き、その場から逃げ出す、その結果父親は、足を踏み外しアパートの階段から落下してしまい、頭を強打して死亡してしまう。


 妹は父親に暴行された事がショックで、精神を病んでしまう、幸い悠魔が罪に問われる事はなかったが、彼は今まで、どれだけ殴られても、決して手を出さなかった自分が、いくら最低の父親でも手をあげてしまった事、妹を守れなかった事に罪の意識を覚えてしまう。


 まもなくして妹は自殺してしまい、悠魔は妹を失い、どうしていいかわからなくなってしまい、周りの人は彼を見ると、ヒソヒソと話をして彼と関わろうとしない、まるで自分が父親や妹を殺してしまったと思いこむようになる、その後は、唯々過去の罪を清算しようと翻弄する。


 老人は、静かに悠魔の話を聞いていた。


「僕は父親を殺しました」


「あれは、事故じゃろ? 君が手を下したわけじゃない、現に君は罪に問われなかった」


「結果はどうあれ、殺したのは僕です」


 誰も悠魔を責めなく、悠魔は警察に正直に話した、自分が父親に殴りかかった事、それに驚いて父親が逃げて階段から落下して死んだ事を、しかし、現状を見た警察は事故と見なして、事件を終息してしまった。


「僕は、あの時、確かに父親を殺そうとしました、そう思った時点で僕は――」


「確かに、人を殺す事は悪い事じゃな、決して褒められた事ではない」


「なら!」


 確かに最低の父親だったが、それでも、自分が耐えればいいだけだと思い、あの時妹の暴行された姿を見た時に、今まで感じた事ない黒い感情が生まれた。


「それでも、君は妹を守りたかったんじゃろ? それに蓋をしちゃいかん、それも君なんじゃ」


「…………あれも、僕ですか?」


「そうじゃ」


 悠魔は先ほど見た化け物を思い出す、とてもあれが自分だとは思えない、いや思いたくなかった。


 自分の中に、あんな化け物が居る事を認めたくなく、でも、老人は、そんな彼の言葉を否定して、ちゃんと向き合えと言う。


「……先ほどの場所に戻してもらっても、いいですか?」


 老人は、再びかしわ手を打つと元の場所に戻る、そこには化け物に変化した、自分がおり視線を合わせる、化け物の目には、憎しみや怒りなど負の感情が見られる、これが自分かと思う。


「確かに、君はあの日以来、他人を優先するようになったのう」


 確かにアリスの時も、ダイヤス帝国の時も、自分より他人を優先する傾向が見られた。


「君は、助けるべき命に自分を決して入れない、皆それに気が付いておる、だからこそ、皆君を守ろうとする、ダイヤス帝国の少女も、エストア王国の王も、そして、魔女の彼女もね」


「こんな化け物でもですか……」


「こんなもの君の一部でしかない、誰にも光があり闇がある、それらすべて含めて君なんだ」


 老人の言葉を聞き悠魔は考える、こんな化け物でも自分で、それを含めて皆は受け入れてくれる。


「僕は……」


 悠魔が、近づくと化け物の悠魔が襲い掛かる、しかし彼は抵抗せずに、そんな化け物を包み込むかのように抱き留める、そうすると化け物は大人しくなり、人間の姿に戻っていく。


「ごめんなさい、今まで見て見ぬふりをして……」


 その言葉に満足したのか、もう一人の悠魔の姿が光の粒子になり、二人は一人になった。


 老人は、この結果に満足したのか、頷き彼に歩み寄る。


「よく頑張ったのう」


 悠魔自身、特別何か変わった感じはしなかったが、それでも一つだけ変化があっり、今まで心に引っかかっていたものが取れたように、新鮮な気分だった。




 少し時間が戻り、暴走状態の悠魔と対峙するアリスは、かなり悪戦苦闘していた。


 純粋に強くもあったが、一番の難所は、相手が悠魔だと言う事だで、この状態の彼を何とか止められないかと考えるが、現状の彼女にそんな余裕はなかった。


 四方八方から殺到する魔力の塊を回避する、エルフェリアの方を見るが、彼女はどうやら参戦するつもりはなく、矢のような魔道具をアリスに見せる様に立っていた。


 その魔道具を見たアリスの表情が険しくなる、魔道具の名前は死刻の矢という物で、効果は単純明快に対象者に死の刻限を与えるというものだった。


 どうやら、早くしないとこれを使うという彼女の意思表示のようで、そんな彼女を見たアリスは内心イラつき出し、そこで彼女がとった行動はエルフェリアには完全に予想外の事だった。


 アリスはエルフェリアの背後に回り込み、勢いよく悠魔目掛けて彼女を蹴りだした、流石にアリスの予想外の行動に反応できなく、そのまま悠魔目掛けて飛んでいく。


「ちょっと、アリスさん!」


「ざまぁ」


 何とか、受け身を取ろうとするエルフェリアだが、飛んで行った先で、悠魔の鋭利な爪で引き裂かれる。


しかし、先ほどと同じように、彼女の体はガラスが砕ける様に崩れる、そして、これも同じように、アリスの背後に現れる、違うと言えば、その表情が不満そうだったくらいだ。


「あのですね……アリスさん、いくら私が死なないといっても、肉壁にするのは、やめてもらえませんか」


「いいだろ、どうせ死なないんだから、それにこの現状を引き起こしたのは君だ」


 不満そうなエルフェリアを適当にあしらい、悠魔目掛けて魔法を放つが、そのすべてが悠魔が展開している高濃度の魔力の壁に阻まれる。


 それを見て、アリスは顔には出さないが内心焦る、いくら手加減してるとはいえ、今の魔法は本来悠魔の力では防げないほどのものだった。


「今のは、マジックゾーンではないですよね?」


「ああ、純粋に魔力を放出して、こちらの魔法を防いだんだね……これは思ったより厄介だな」


 どうするかと、アリスが考えてると、悠魔の口元に魔力が収束するのを感じ取り、これは不味いと思い彼女は距離を取ろうとしたのと同時に、悠魔の口から高密度の魔力砲が放たれる。


 アリスはギリギリで回避し、エルフェリアはそのまま魔力砲に飲まれてしまう、しかし、すぐにアリスの傍に彼女の姿が現れるが、その威力に目を見開く。


「龍種特有の魔法技能のブレスだね」


「あぁぁ! 私の屋敷が!」


 ブレスの影響で、洋館は半壊してしまい、エルフェリアはその光景を前に膝をつく、この洋館は建つ場所はエルフェリアが、魔法によって作り出した空間で、その中に立ってる建築物などは彼女の魔力で修復出来るが、ほぼ半壊した建物を直すのに、一体どれだけの魔力を消費するかなど、彼女は考えたくなかった。


 アリスには、彼女の自業自得だと思い、悠魔に視線を合わせる、彼の姿は先ほどより龍化が進んでおりすでに、人間の部分の方が少なくなっていた。


 そろそろ、彼女は限界だと思い、多少無茶をしてでも、悠魔をこちら側に連れ戻す事に決めた。


「これ以上は限界か……エルフェリア! 五分でいいから時間を稼げ!」


「はい? 何をするつもりですか?」


 明らかに気落ちした様子の彼女は、涙目になりながら、アリスを見上げる。


「多少無理やりだが、目を抉り取る、何かしらの後遺症は出るだろうが、このまま死ぬよりはマシだろ」


「ですからどうやって? 手加減したままでは、どうにかなる相手ではないでしょう、今のあなたには?」


 エルフェリアはアリスの片腕を見る、彼女の片腕は義手でかつてほどの力はなかく、そこで彼女が選んだ行動は、簡単なものだった。


「ものすごく嫌だが、アイツを呼び出す……」


「アイツて――悪魔の事ですか⁉」


 魔女達は、それぞれが契約した悪魔を召喚する事が出来てその力を借りる事が出来る、しかし悪魔達は、それぞれが非常に扱いにくく、素直な悪魔もいれば、扱いに困る者までいる、エルフェリアとアリスの反応を見る限り、アリスの契約している悪魔はかなり面倒な分類の様だった。


「正気ですか⁉」


「だから嫌だと言っただろ、だが、アイツの力を借りれば、今より余裕が持てる、だから手伝え、悠魔を殺したくはないんだ」


 悠魔を殺すのは簡単だが、殺さずに魔眼を摘出するのは、今のアリスには荷が重く、かなり不本意な方法を取る事に決めた。


 エルフェリアは、とても嫌そうな顔をするが、彼女が断れば、そのまま悠魔の方に蹴り飛ばして、肉壁にでもしながらでも、悪魔の召喚の時間稼ぎにするつもりだった。


「……わかりました、少しの間だけですよ、これ以上屋敷を壊されたくないので」


「じゃあ、やるか」


 その時今まで暴走していた悠魔に異変が現れた。

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