エルフェリアの提案
悠魔の家にはリボーズと建前上の護衛二人が訪れていた。
別に悠魔自身彼らが訪れるのを迷惑とは思わない、この魔王に常識を求めるのを悠魔は諦めていた、しかし今回の訪問は明らかに非常識で悠魔ですら珍しく不満の表情をしていた。
今の空は暗く薄っすら空が明るくなり始めていた。
基本早起きの悠魔だが、彼が起きるのは日の光が昇る頃でいつもならまだ寝ている時間で、そんな中彼を起こしたのは勢いよくドアをたたく音だった。幸いその音で他の三人は起きなかったのがせめてもの救いだった。
「それで何の用ですか……」
「クーちゃんが治ったんだ! ありがとう!」
明らかに機嫌の悪い悠魔を無視してお礼を言いながら頭を下げるリボーズ、どうやらクリルが無事に治ったようでそのお礼を言いに来たようだった。
欠伸を我慢して彼の話を聞く、話と言ってもお礼を言い続けるだけの事で適当に相槌を打ち、どうやら気が済んだのか彼らは家を出て行った。
「……眠い」
まだ時間があるので二度寝しようとベットに戻っていく悠魔だった。
この日一番に目を覚ましたのはナナだった、彼女も意外に朝は早い方で毎日朝早くから管理を任されてる畑をの世話をしているからだ、この日起きたナナは首を捻った、いつもは自分より早く起きて朝食の用意をしてくれる悠魔がいなかったからだ。
「珍しいわね、悠魔君が寝坊なんて、昨日遅くまで起きていたのかしら?」
彼女は少し残念に思う、悠魔の作る朝食は彼女の楽しみの一つになっていた。
仕方なく彼女は棚に置いてあるパンと干し肉を朝食にしようと考えてると、二階が騒がしくなり慌てて階段を下りてくる音が聞こえてきた。
「すいません! 寝坊しました!」
髪の毛をぼさぼさにして、どうやら今起きたのか慌てて階段を駆け下りて来たのは悠魔だった。
彼はナナを見ると、謝りすぐに朝食の用意をし始めた。
「珍しいわね悠魔君が寝坊なんて」
「朝早くからリボーズ様が来ていて、それで起こされましてね」
手早く朝食を作っていく、出来上がったのは簡単なスープとサンドイッチで、手抜きですいませんと悠魔は謝るが、そもそも悠魔が起きてこなかったらパンと干し肉だけだったので、これでも彼女には十分豪華な朝食だった。
彼女は朝食を食べ終えると畑に向かう、次に起きて来たのはサリアだった。どうやら彼女はここ最近忙しそうに王宮とこの家を行ったり来たりしている、もうすぐダイヤス帝国を奪還する大規模な作戦があり、その打ち合わせで多忙だった。
「ふぁほうごじゃいまひゅ~」
眠そうに眼をこすり席に着く彼女を見て紅茶を出す、彼女はそれを飲み一息つく。
「連日大変ですね」
「そうですね……ですがこれが今私がしなくてはいけない事ですから」
リボーズとの一件以来彼女は変わった、すっかり王の器に成長しており、もう泣いたばかりいた彼女は此処にはいなかった。
悠魔自身今だキュリウスを倒す方法を模索しているが、どれだけ調べても今の悠魔には無理だと言う事しか分からなかった。
何としても自分でコレットの仇を取りたいと思ってる、しかし現状では不可能でこの手だけは使いたくなかったが、悠魔は変わったサリアを見て決心した。
皆が寝付いた頃に悠魔は自分の部屋で黒い鍵を手に持っていた、この鍵はソフィーが魔法で作った物で、この鍵を使う事で彼女独自の魔法――扉渡りと言う魔法が使える。
この魔法はソフィーが行った事ある所なら何処でもドアを作り移動出来るもので、現在悠魔の手元にある鍵の行先は魔女教団集会場につながってる。
「さて、行きますか」
悠魔は誰にも言わず扉をくぐる、悠魔の目の前には豪華な洋館が立っており、彼は玄関をノックすると中から金色の瞳に黒い髪をしてシンプルなワンピースを着た女性が出てくる、彼女は悠魔を一瞥すると歩き出す、毎回案内してくれる女性は違うがこのやり取りはいつも通りで、行先はこの洋館の持ち主のエルフェリアの所だ、彼女ら魔女は無論人間を嫌ってるが、悠魔にだけはエルフェリアの命令で手を出せなかった。
「こちらになります……それでは」
そっけない挨拶をして彼女は去っていく、どうやらあまり関わり合いたくないようで特段悠魔も話しかけない、此処で話をする相手はエルフェリアかソフィーで稀に席を持つ魔女が興味本位で話しかけてくるくらいだった。
「あら、こんばんは悠魔さん、今晩はどうしましたか?」
「少しご相談が有って来ました」
「相談ですか? 私に……」
エルフェリアは疑問い思う、彼の傍には剣姫の魔女のアリスがいる、彼女はエルフェリア程でないがかなりの知識を保有している、大抵の事なら彼女の保有する知識で解決できる、それなのに自分の所に来ると言う事は理由は二つ、一つはアリスでも解決できない案件、二つ目はアリスに知られたくない案件と思いつく彼女だが、どうやら今の悠魔の様子を見ると後者に思えた。
何故なら彼が一人で来たからだ、もしアリスでも解決できない案件なら彼が一人で此処に――魔女教団の集会所に来る事はなかっただろう、面倒事かなと思う彼女だが同時に興味も沸き彼がアリスに内緒にする程の事が気になった。
「それで何でしょうか? 私で解決できる事なら良いのですが」
彼女は読んでいた本を閉じ悠魔の方に座りなおす、悠魔のお願いは簡単だったキュリウス――大罪の悪魔の暴食の殺し方だった。
それを聞いた彼女は簡単に「アリスさんに言えば解決できますよ」と簡単に言う、だがそれは悠魔の望む答えではなかった。
アリスが倒すのでは意味がなく自分自身で倒したく、それを聞いたエルフェリアは困ったように表情を歪める、どう考えても今の悠魔には勝てない相手だった。
現実的な案はアリスに相談する事だった、彼女ならほぼ間違いなく大罪の悪魔を滅ぼしてくれるだろう、しかし悠魔はあくまで自分の手であの悪魔を――コレットの仇を取りたかった。
「そうですね、今は無理でも悠魔さんなら――アリスさんに魔法を教えてもらってる貴方なら数十年もすれば、もしかしたら可能化もしれませんね」
「そんな先じゃダメなんです!」
彼らしくなく声を張り上げる、その行動に珍しくエルフェリアは驚いたような表情をする、どうやら何か事情があるらしくそれを聞いた。
「……そうですか、残念ですが今すぐには人間の悠魔さんには無理ですね」
それを聞いた悠魔は特段落胆した様子は見受けられなかった。
その様子を見たエルフェリアは興味深そうに笑みを浮かべる、この笑みは何度か見た魔女の笑みで悠魔は動けなくなる。
「まぁ方法が無い訳ではないですけど……どうします?」
それは悠魔が聞きたかった答えだった、あらゆる知識を持つ彼女ならまともじゃない方法を知っていると思いこの場に来た。
エルフェリアは不気味な笑みを浮かべて握手を求める様に手を出していた、それを見た悠魔は寒気を覚える、もし彼女のこの手を掴めば後戻りできなくなるような気がして、彼女の手を掴むのを躊躇してしまう。
「そうでした、方法を聞かないと決断も出来ませんよね」
先程までとは打って変わって、陽気な様子で答えるエルフェリアに少し恐怖を感じる、悠魔自身彼女のこういうコロコロ雰囲気が変わる所が苦手だった。
エルフェリアはそんな悠魔をよそに透明な小さな筒状の箱を取り出す、筒の中身は透明な液体で満たされており、液体の中にはビー玉くらいの球体――眼球が入っていた。
「義眼ですか?」
「作り物ですが、これは影の魔王がとある龍から作り出した魔眼です」
影の魔王と聞いて悠魔は思い出す、確かだいぶ昔に討滅された存在で、魔女教団の魔女だったはず。
「これを悠魔さんに移植します、そうすれば悠魔さんは龍種の力を得られます」
悠魔には魅力的な提案だった龍種の力――龍種はこの地上で高位の存在で、その力を得られればキュリウスに対抗できる、しかし問題もあったいくら何でも話が旨すぎると思う、この手の力には大抵代償が必要だった。
「無論簡単な事ではありません、もし移植して力を御しれなければ、そのまま理性のない化け物になります」
どうします、と首を傾けるエルフェリアは楽しそうだった。
彼女にしてみれば悠魔がこの提案を受けても受けなくても、正直どちらでもよかった。
もし彼が提案を受け成功すれば彼女の目的が一つ達成される、失敗してもいつも通り処分すればいいだけで、提案を受けなければ今まで通り良き付き合いをしていくだけだった。
「そんなに慌てる必要はありませんよ……一生の事しかも命に係わる事ですから、じっくりと考えてください」
「ぼ、僕は――」
悠魔が何かを言おうとした瞬間に大きな爆発が聞こえた。エルフェリアが眉を顰める、どうやら招かれざる客が来たようで、彼女は水晶玉を取り出し「少しでいいので足止めをお願いします」とつぶやく。
「気にしないでください、それでどうします? この目を移植しますか?」
悠魔によく見える様に透明な筒を彼に近づける、中に浮いている青白い眼球をと悠魔の目が合い視線が交差する。
「…………」
長い長い思考、その中で出て来たのは皆の顔、白い羽のパーティーメンバー、最近一緒に冒険する二人の冒険者、この世界に来て初めて会ったエルフの少女やその家族、エストア王国の人達、強くて頼りになる優しい魔女、ダイヤス帝国で自分の命を捨て助けてくれた少女、彼らの顔が順に思い浮かぶ。
本当ならこんな物を移植するのは間違ってるのだろう、もし失敗したら命を捨ててまで助けてくれた少女に顔向けが出来ない。
それでも悠魔は力が欲しかった、その少女の仇を取るために悠魔はエルフェリアの提案を受け入れた。
エルフェリアの表情が狂気に満ちた笑みになる、その瞬間右目に強烈な痛みが走る。




