打ち上げお酒はほどほどに!
「「かんぱ~い!」」
木製のジョッキや木製のコップを打ち鳴らし、彼らは、注がれていた飲み物を、一斉に飲み干した。
「仕事の後はやっぱりこれだよな!」
「ラガー、うぇぇ!」
「もう、二人共……」
ナナはお酒を飲む、クラウとリウスを見て、呆れたように視線を向ける。
「にゃはは、蜂蜜酒美味しぃ」
「レイラも!」
彼女は、二人から視線を外し、隣に座っていた居た、レイラに視線を合わせると、普段は、大人しく飲む彼女も、上機嫌に飲んでいるのを、見て呆れる。
「たまにはいいじゃん」
どうやら彼女は、見た目からも分かる様に、上機嫌の様で、ナナの背中を、陽気にバシバシ叩く。
「悠魔君は飲まないのぉ」
「お酒は苦手なんですよ」
クラウが、ジョッキを片手に、悠魔の肩に手をまわし絡みだす、他三人は、その光景を生暖かい目で見守っていた。
「今回の仕事は、それなりに儲かったな」
「そうねぇ、ゴブリンや黒狼が思いの他に、沢山狩れたからね」
「そうだねぇ、それに、悠魔っちが倒した魔獣の死体が、綺麗だから解体楽だし、素材も綺麗だから、高値で買い取ってもらえるし」
「確かに、ナナが倒すと破損がひどいからな」
「そうだよねぇ」
普段彼女が倒すと、欠損が酷く、それほど高く値が付かない、しかし、悠魔の魔法なら、欠損が少なく、素材も綺麗な為、高く買い取ってくれる。
「だって、仕方ないじゃない! 私の魔法で倒すと、ああ、なるんだからどう考えても、悠魔君の魔法が異常なの!」
クラウに絡まれていた悠魔が、自分の名前が出た事に気が付いて、三人の方に目を向けると、そこには、テーブルの上に俯いたナナがいて、リウスとレイラが慰めていた。
「それで悠魔君、今日一日体験して見てどうだった? 僕らとしては、出来れば正式にパーティーに入って欲しいんだけど?」
「いいですか?」
リウスは、今後も悠魔にパーティーに残ってもらえる様に、誘い始めた。
「まだ、立ち回りや危なかしい所はあるけど、それは経験が足りないだけだし、これから教えてくから」
「うんうん、悠魔っちの倒した魔獣は、解体楽だし、あたしも賛成!」
「悪かったわねぇ、どうしぇ、私の倒しゅた魔獣は、破損しょていて解体苦労しますよぉぉだ……ヒク」
「……酔ってるんですか?」
顔は赤くなり、一目見ただけで、酔っ払ってるのが分かる、ナナが、そこには居た。
「ナナっち、いつの間に、お酒を!」
「てか、そんなに飲むな、お前そんなに酒強くないくせに!」
リウスとレイラは、慌てて巨大なジョッキを両手に持ち、中身を飲み干そうとしている、ナナを止めに走る。
「……クラウさん、あれ、放っておいていいですか? ってこっちは寝てる!」
流石に、止めないといけないと思い、隣に座っていたクラウに相談しようとして、視線を向けるが、そこには、爆睡している彼の姿があった。
「こら、それ以上飲むな!」
「うるしゃいわね、いいでしょ! わたしゅの、かってぇでしょう」
「レイラ、ジョッキ取り上げろ!」
リウスは駄々をこねる、ナナを羽交い絞めにして、その隙にレイラに、ジョッキを取り上げる様に命令する。
「ナナっち放してこれ以上飲んだら明日後悔するから!」
「かえしゅて!」
しかし彼女は、必死にそのジョッキを取り返すとする。
「だからもうやめとけて!」
あくまで諦めない、彼女をリウスは叱りつける、ナナはそれほど酒に強く無い様で、この場を何とか止めようと、悠魔は考えるが、何も思い浮かばず、宴は過ぎて行く。
「本当にすまない」
「気にしないでください、それより大丈夫ですか? 重そうですけど」
仲間の醜態を恥て、クラウは悠魔に頭を下げる。
「平気だ、これでも力はある方だからな」
悠魔の後ろはに、酔いつぶれたクラウを背負る、リウスが歩き出す。
「ぎもちわるいぃぃ」
「もう、ナナっち飲みすぎだよ」
「うぅぅ……もう無理吐く」
「ちょっ待って、女の子として、それはダメ絶対ダメ!」
レイラが慌てて、小道にナナを連れて行くと、少してレイラの、ぎゃゃゃゃ!と言う、女の子にはあり得ない悲鳴と共に、聞くに堪えない、嘔吐音が小道の奥から聞こえて来た。
「何か、大変な事になってますね」
「何と言うか、本当にすまない、こんなパーティーで……」
再度仲間の醜態を、謝るが、悠魔は別に気にした事もなく、笑いながら答える。
「いえいえ、皆さん楽しい人達ばかりですね」
「それじゃあ、これからよろしく」
「よろしくお願いします」
そして夜が明け、次の日の朝に、悠魔は、白い羽のメンバーが泊まってる宿を訪れると、リウスに、すまないと謝られてしまう、馬鹿二人が飲み過ぎで、二日酔いで、今日は無理だと言われる。
悠魔は、二人の様子を見に行くが、ナナは、頭痛いぃと唸っていて、クラウは、レ、レイラ、み、水を……と、テーブルに突っ伏しており、今日は暇になった為、仕方なく宿に戻ろうと歩き出した。
「悠魔さん、どうしたの? えらく早い帰りだね」
「実は……」
悠魔が、宿に帰ると、カナが出迎えてくれた。
さっき出て行ったばかりなのに、帰って来た悠魔に、何があったのか話を聞くと、メンバーが二日酔いで、真面に仕事が出来ない事を話す、カナは微笑して、残念でしたねと答え、部屋に戻ろうと歩いて行く、悠魔に声をかけた。
「それなら、今から市場に行くけど、一緒に来ます? 色々な物が売ってますよ」
それを聞いて、このまま部屋で一日過ごすのも、あまりにも不健康だと思い、彼女に同行する事にした。
「そうですね、どうせ暇ですし、ついて行きますよ」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね、準備して来るので」
カナはエプロンを外し、店の奥に入って行った。しばらくすると、カナが出て来て、お待たせ行こうかと言い、悠魔に声をかけて店を出て歩き出した。
市場には、沢山の商人や物を買う人があるまっており、混雑していた。
「色々な物が売ってますね」
「でしょぉ、それじゃあ見て回ろう」
彼らの目の前には、食べ物、アクセサリー、本、よくわからない物など、色々な物が並べられ売られている露店が道沿いにならんでおり、露店を渡り歩いて行くと、悠魔の視線が、木箱に大量に詰められた、ある物を捉えた。
「これは――」
「いらっしゃい! それは岩の実だよ」
「岩の実? ジャガイモじゃなくて?」
「ジャガイモ? 聞いた事ないな、そいつは岩の実て言う実だ、中には毒のある物もあるから、主に魔物の撒き餌に使われるな」
目の前にある物は、悠魔のよく知る、ジャガイモだったが、どうやらこの世界では、岩の実と言われてる様だった。
「そうですね、食べるのもリスクがありますし、食べても余り美味しくないですし」
「そうそう、固いしな」
どうも、この世界では、ジャガイモの調理方法は、確立されてないみたいで、少々残念に思えた。
「……この実一個いくらですか?」
「五個、銅貨一枚でいいよ」
「なら、二十個もらいます」
「毎度、銅貨四枚だ」
悠魔は懐から、銅貨を取り出しておっちゃんに渡し、代わりに岩の実が入った紙袋を受け取る。
歩きながら、紙袋の中の岩の実を一個一個丁寧に見て行き、悠魔は満足そうな顔をして、岩の実を紙袋に戻した。
そして、ローブから神様に貰った知識の書を取り出し、何かを調べだすが、やはり岩の実は、ジャガイモと同じ物で満足するが、この時ある事に気が付いた。
この、知恵の書は、元居た世界の知識も調べられる事に気が付き、全くあの人は……と呟く、この時、隣を歩いていたカナは、この時の悠魔の呟いた意味が、分からないという顔をした。
「そんなに買ってどうするんですか?」
「ん、ちょっと考えがありましてね」
「?」
「カナさん戻ったら厨房借りてもいいですか?」
「厨房? 別にいいけど」
「ありがとうございます」
「……悠魔さんもしかして、岩の実食べるつもり? ダメだよ毒とかあるし美味しくないよ!」
「それは調理法が間違ってるんですよ、あとは油と塩を買って……あと、この実には、毒はありませんよ、毒のある実は、芽や緑色を帯びた皮だけですよ」
「ま、待ってよ悠魔さん!」
悠魔はニコニコしながら、紙袋と知識の書をローブの中にしまい歩き出した。
カナは、慌ててそれを追うように、小走りで走りだした。