エストア王国
「見えました、あれが、エストア王国の王都のララークです」
「おぉぉ! 大きいですね」
悠魔は、馬車の窓から、体を乗り出して、目の前に迫ってる、高い城壁で覆われた都市を見て、歓喜に震えた。
そうして、彼は見ていると、城壁に近づき、城門の所で馬車が止まる、カングが馬車から降りて、門番と話し後、すぐに戻ってきた。
「悠魔さん、身分証明は持ってますか?」
「はい、持ってます(プリーを出る時に、貰ったやつだよな)」
「それならよかった、一緒に来てもらえますか?」
悠魔が、ローブから鉄で出来たプレートを、取り出し城門に向う、彼は門番が持っていた、箱型の魔具の上に、身分証を置いた。
箱に魔法陣が展開し、しばらくすると、魔法陣が消え、門番に身分証を返却される、どうやら、これで城門を通る許可を得たようだ。
「悠魔さん、お礼をしたいので、よかったら店の方に、来てもらえませんか?」
「あ、はい、わかりました」
彼らは、再び馬車に乗り込み移動を開始した、しばらくすると、馬車が止まり、そこには、レンガ作りの建物があり、店の看板には『奴隷販売店エンゲージ』と書かれていた。
「ちょっと、待っていてください」
カングが馬車から降りて行き、彼は、小走りで店のドアを開け、中に入っていた。悠魔が馬車から降りて、店の中を覗くと、中は綺麗に装飾されていて、受付があり、何人かの人が話し合ったり、紙の束を見ていた。
「何か普通だな、もっと殺伐とした場所だと思ってたが……ん?」
奥の通路に続く廊下からは、十四~十七歳くらいの、女の子が数人顔を覗かせていた。
(奴隷の子か?)
彼女達は、悠魔の視線に気が付くと、奥に引っ込んで行く。
「いや~、お待たせしてすいません」
別の通路から、カングが出て来て悠魔に、ずっしりと重い革製の袋を渡した。
「中に謝礼として、金貨五十枚入っております」
「――五十枚!」
「す、少なかったでしょうか?」
悠魔が袋の中身を聞いた瞬間、カングは固まってしまう、少なすぎたのかと勘違いした彼は、慌てて店の中に戻ろうとする、それを、悠魔が慌てて引き留めた。
「いやいやいや、多すぎますよ! 流石に、こんなには受け取れません!!」
どう考えても、貰いすぎと、判断した悠魔は、革袋を突き返す、しかしカングは、それを受け取らずに、口を開いた。
「そんな事ありませんよ、命を救っていただいたのですから、金なんて、命あってのものだねですしね」
「いや、でも」
「それに、この金は、私の命だけではなく、部下の命や奴隷の子達の分も入ってるんです、私はオーナーで、そんな私を慕って来てくれた部下や、金のためとはいえ、その身を売ってついて来た、彼女らを守る義務があるのです、今回はその義務を果たせない所でした……ありがとうございます、この金は、今の私が自由に出来るすべてです、どうか、お受け取りください」
「…………」
カングが深々と頭を下げて来る、そんな彼を見て、悠魔は少し考えて袋を開けて中から、五十枚の半分の、二十五枚を数えて抜き出し、ローブの中にしまい、残りをカングに付き返した。
「悠魔さん?」
「えっと、まぁ、残りのお金は、店のために使ってください」
「しかし……」
悠魔としては、当面の生活費さえあればよく、大金は必要なかった。
中々納得しない、彼の顔を見て、とある事を思いつく。
「この辺で、宿てありますか?」
「宿ですか?」
一瞬、彼が何を言ったのか、理解出来なかったが、すぐに気が付く、彼はこの街に来て間もない為、宿などの、ある場所が分からなく、それを自分に聞いてる事に気が付く。
「はい、この辺の事とか、わからないもので。あ、出来るだけ安い所で」
「わかりました! それなら安く綺麗な所があります、馬車でお送りします」
「ありがとうございます」
その後、馬車に揺られて、しばらくすると、木造の建物が見えて来て、馬車がその建物の前に停車する。
カングの部下の男が、先に降りて行き、建物の中に入って行く、悠魔もそれに続くように、馬車を下りて、男について行く。
建物の中に入ると、沢山の人が、お酒を飲んだり、料理を食べたりしながら、楽しそうに話していた。
「いらっしゃいませぇ!」
元気のいい少女の声が聞こえて来る、男は少女に声をかけ、何か話をして悠魔を呼んだ。
「あんたが、泊まりたいて悠魔さん?」
「はい、九条悠魔になります、家名が九条で悠魔が名前になります」
「へぇ、変わってるね、じゃあ、これに名前書いて」
少女がカウンターに移動して、帳簿を取り出し広げ悠魔に差し出す。
悠魔は、そこに名前を書き少女に返した。
「OK、取りあえず、三十日分のお金は貰ってるから、それでいい?」
「え、」
「カングさんの部下の人から、お金は貰ってるから」
「……」
悠魔が男の顔を見ると男は無言で頭を下げて宿を出て行った。
「それじゃあ、部屋に案内するから、ついて来て」
「わかりました」
階段を上がり、部屋に案内される、食事は朝と夜の二食出て、昼は下で言えば、別料金で食べれると、教えて、彼女は部屋を出て行った。
「さて、取りあえず、ご飯を食べに行くか」
悠魔は部屋を出て、一階に降りて行き、受付をしていた少女に話しかける。
席に案内される、その時に、少女に名前を聞き、彼女の名前が、カナだと言う事がわかった。
「取り合えず飲み物から、何がいい? お酒は、ラガーと蜂蜜酒があるよ」
「お酒以外は何かありますか?」
「およ? 珍しいね、大抵皆お酒を頼むけど、お酒以外だと、水かリンゴかオレンジの果汁ジュースになるよ」
「それなら水でいいですよ」
「水ね、料理の方はどうする? 今日のお勧めは、ウサギ肉のステーキだね」
「それじゃあ、それと後、黒パンとサラダで」
「はいよぉ、じゃあ、ちょっと待っててね」
悠魔は、カナのお勧めと、テーブルに置かれていた、木で出来たメニュー表見て、決めた注文をカナに伝え、それを聞いた、カナは笑顔で答え、彼女は、席を離れて行った。
料理を待ってる間、悠魔が辺りの人達を見まわす、皆酒を飲んだり、料理を食べたりしていた。
しばらくすると、カナが料理を運んで来る。
「はい、おまちどうさま!」
「これは、美味しそうだ」
「それじゃあ、ごゆっくりぃ」
カナが料理をテーブルの上に並べ、歩いて行くと、悠魔はフォークを使い、料理を食べ始める、少ししんなりした生野菜を食べ少し考え、悠魔は、何か思い付いた様に、丸っこい黒パンの中央を、ナイフで割り、その間に、野菜とウサギの肉を挟み、食べ始めた。
「エミリアさんの所で食べた、野菜の方が新鮮だったな……うん、これなら気にならないな」
食事を終え、彼は部屋に戻りベットに寝転び、魔法の事を、本で調べながら読んでいると、そのまま眠ってしまい、朝日に、鳥の声で目を覚ます。
そして朝食を食べる為に一階に降りて行くと。
「あ、悠魔さん、おはよう!」
店内を掃除している、カナと出くわす。
「カナさん、おはようございます」
「朝ご飯ですか?」
「はい」
「朝はね、黒パンと塩スープ、後は、別料金になるけど、焼きベーコンがあるよ」
彼女は、朝食のメニューを、教えてくれる、悠魔は、少し考え。
「パンとスープだけで、お願いします」
「はいよ、テーブルで待ってて」
元気のいい声と共に、カナが去って行くと、悠魔は、テーブルに歩いて行って座り、料理が運ばれてくるのを待つ、そして、今日する事を考え始める、しばらくすると、カナが料理を持って歩いて来る。
「はい、お待ちどうさま、どうしたんですか? 難しい顔をして」
「ん、今日ギルドに行って、冒険者登録しようと思うんですけど、ギルドって、何処にあるのかなって?」
「あぁ、そう言う事、ギルドなら表通りに出て、お城の方に向かって行くとあるよ、看板が出てるから、すぐに分かると思うよ」
「ありがとうございます、早速朝食、食べたら行ってみます」
「うん、じゃあ、ごゆっくりぃ」
彼女は、料理を配膳して、再び掃除に戻っていく。
「それでは、いただきます」
食事を終えた悠魔は、表通りに出て、彼女に教えてもらったように、お城の方に向かって歩き出し、しばらく歩くと、大きな木製の看板に、ギルドと書かれた建物を見つける、扉を開けて中に入ると。
中は賑やかで、鎧を着けた人や、いかにも魔法使いて言ってるような、杖を持った人が話をしていたり、張り紙を見たりしていた。
「此処がギルドか……えっと、受付は……あれか」
悠魔が、受付窓口に歩いて行き、窓口にいた女性に話しかけた。
「すいません、冒険者登録がしたいのですが」
「わかりました、それでは、登録の注意事項を説明させてもらいます」
「はい」
女性は、丁寧に決まり事などを、説明してくれる。
「冒険者にはランクがあり、そのランクに応じて、依頼を受けれます、初めは銅ランクから、始まり鉄、銀、金、ミスリルの順に、ランクが上がって行ます、ランクは、依頼の達成率や、年に二回開かれる、ランクアップの試練を、受ける事で上がります、その他の特例もありますが、次に正当な理由がないのに、一年間、依頼を受けないと登録が抹消されますので、ご了承ください以上になります、それでは、登録をおこないますので、手をこの石の上においてください」
悠魔は、言われた通りに、受付嬢が取り出した、正方形の黒い石の上に手を置き、石が光ると同時に、魔法陣が石の表面に展開される。
魔法陣が消えると、受付の女性が、もういいですよと言い、悠魔は手をどける、次に受付嬢が銅で出来たプレートを取り出し石の上に置いた。
再び魔法陣が展開されプレートに、悠魔の名前や性別などが浮き出す、魔法陣が消えた後、女性がプレートを悠魔に渡した。
「これで登録は完了です、こちらが悠魔さんの、冒険者の証明になります、紛失された場合は、再発行に銀貨一枚かかりますので、気をつけてください」
「はい、わかりました」
プレートをローブの中にしまい、受付嬢に一人でも、出来る依頼がないか聞くと、彼女は採取系なら一人でも可能だと、教えてくれる、悠魔はお礼を言い、依頼用紙が張られたボードに歩いて行った。
「薬草採取、黒キノコ採取、赤キノコ採取、色々な採取依頼があるな、さて、どうするかな?」
「何か、困ってる?」
悠魔が、しばらくボードの前で悩んでると、後ろから、女性の声が聞こえて来て振り向く、そこには、黒いローブと、木製の杖を持つ、長い黒髪のフワフワした巻き毛の女性が立っていた。
「えっと……」
急に、声を掛けられた事に、彼女を訝しむ様に、視線を向ける。
「あ、急にごめんね、何か困ってるみたいだったから――つい、ね」
訝しむ悠魔に、女性が慌てて、両手を振り、謝罪をする。
「いえ、今日初めて冒険者に登録したので、何か依頼を受けようかと思いまして、探していたのですが、一人でも可能な依頼を探していて……」
「一人なら採取依頼よね」
「そうなんですけど、この辺の地理、余り詳しくないので、間違って、森の深い場所に行くと、大型の魔獣に出くわすと、対処が出来ませんから」
「そうねぇ……ねぇ、もしよかったら、私達のパーティーに来ない?」
「パーティーですか?」
「そう、今は四人チームで、報酬は山分け、よかったら今日だけでも体験でどう?」
女性は、可愛らしく首を傾けて微笑んだ、悠魔は、少し考える、このまま一人で考えても、埒が明かないので、取り合えず体験で、彼女達のパーティーに入る事にして女性にお願いした。
そうすると、女性は笑顔で喜び、悠魔の手を引いて歩き出した。
「それで、ナナこの人は?」
ナナと呼ばれた女性に、連れられて来たこの場所は、ギルドの二階にあるオープンスペースで、ナナのパーティーメンバーとの、顔合わせをしている。
「取り合えず、今日体験で入ってもらう……えっと……名前何だったけ?」
「お前そのくらいちゃんと聞いとけよ!」
「っ! 痛いぃ~」
ナナが悠魔の名前を、聞いてないのを聞いて、軽量の鎧を着けた、茶髪の男性がナナの頭に、拳骨を落とす、拳骨を落とされたナナは、涙目になりながら、頭を押さえしゃがみ説教をされる。
「何か、すまないね」
「いえ、僕の方も名乗りませんでしたから(と言うか、名乗る暇なかったような気がするが)」
実際、話がまとまった瞬間に、ナナに手を引かれ、此処に案内された。
「俺は、クラウだよろしく」
クラウと名乗る、都会にいるナンパ男みたいな外見をした、男性は鉄製のプレートを見せて、悠魔に自己紹介をする、悠魔も同じように、プレートを取り出し、クラウに見せて自己紹介をすると。
「悠魔さんか、よろしくね……え、え、男⁉」
「はい、よく間違えられますが、男性です」
「すまない、女性かと思った」
「いえ、気にしないでください」
「わぁ、本当に男だ! 男だ!」
「おい、失礼だぞ、レイラ!」
クラウの後ろから、レイラと呼ばれた、長弓を背負った、ショートヘアスタイルの少女が飛び出して来る、悠魔のプレートをのぞき込んで、男を強調して連呼しだした。
「コホン、では改めて、自己紹介をしたいと思う、まず俺が、このパーティー白い羽のリーダーリウスだ、よろしく頼む」
「さっきも、自己紹介したけど、もう一度、俺はクラウだよぉ、よろしく」
「あたしは、レイラよろしくねぇ」
「ごめんなさい、自己紹介もしてなくて、ナナよ」
「悠魔です、今日冒険者登録したばかりの初心者です、よろしくお願いします」
「何か、すまないな、うちのメンバーが、無理矢理連れて来たみたいで」
申し訳なさそうに、頭を下げる、リーダーのリウスを見て、悠魔自身、経験者の話を聞けるのは。願ったり叶ったりだった。
「いえ、僕も、経験者の人に、話を聞きたかったので」
「それで、リウス君、悠魔君の事なんだけど……」
何処かばつの悪そうな顔をした、ナナが不安そうにリウスを見上げる。
「そうだね……よしなら、今日は薬草採取に行こうか」
「いいんですか? 五人だと、山分けの報酬が、銅貨一、二枚くらいになりますけど」
「まぁ、薬草採取がてら、ゴブリンでも狩れば、問題ないだろ、ゴブリンの魔導核なら、銅貨二枚程で売れるからな、悠魔君も経験を積めるしな」
「なんか、すいません」
「気にしない、気にしない」
「ちょっと、レイラさん!」
「それじゃあ出発!!」
レイラが陽気、ににゃははと笑いながら、悠魔の背中に飛び付きぶら下がった。
彼は困りながら、皆と歩き出す。