コレットの涙
王宮に帰って来てからもコレットは一言も喋らず、悠魔も何を話していいのか分からずに、時間だけが過ぎていき、室内には気まずい静寂が訪れていた。
気まずさに負けて、勇気を出して悠魔がコレットに話しかけようと口を開こうとした時、コレットが勢いよく頭を下げ出した。
「先ほどは、申し訳ありませんでした!」
「え、えっと……」
頭を下げたままのコレット、彼女のその姿に困惑してどうすればいいのか分からなく悠魔はどうした物か頭を悩ましていると、コレットは助けられた時に怒鳴ってしまった事を謝罪し始めた。
「申し訳ありません、本当ならお礼を言わなければいけなかったのに……」
「気にしないでいいですよ、そんな事、誰でも気が動転する事はありますから」
「ですが……」
いくら気が動転していたとはいえ、コレットは何故自分があの時あんな行動に出たのか分からなく、後悔しかなかった。彼女は目の前で悠魔が傷ついた時、頭の中が真っ白になり感情の制御が出来なくなり、感情のままに悠魔に言葉をぶつけてしまった。
「どうしたんですか? 何だか今日様子が変ですけど、大丈夫ですか」
悠魔は彼女とは15日程度の付き合いだが、その間彼女が此処まで言葉を濁した事はなく、彼女はどんな質問にも自分の素直な意見を言い、答えられない事にはキッパリと答えられないと言う女性だった。
「……分からないんです、今までこんな事はなかったんです……ただ悠魔様の事を考えると、此処が痛むんです」
そう言い胸元を押さえた。その表情は今にも泣き出しそうに悲しそうな表情で、悠魔はどうしていいか分からないで右往左往し始めた。
「えっと……取り合えず落ち着きましょうか」
悠魔は一度彼女を落ち着かせようと思い、椅子に座らして紅茶を用意し始めた。彼女の状態に大体の想像は出来てる悠魔だが、その事を本人に伝えるのは勇気がいるためどうしようかと紅茶を淹れながら考えた。
結局伝える勇気は出ずに悠魔はコレットに、自分が1番信用できる同性に相談するように教えこの話題は終わった。コレットは納得いかないと言う顔だったが、夕食の時にはいつも通りの彼女に戻っていて、悠魔は取り合えず安心して2人で夕食を食べた。
その夜、ベットに入って悠魔は考えていた、今日のコレットの反応は自意識過剰かもしれないが好かれてるのではないかと思ってしまった。
「いや、自意識過剰過ぎだな、寝よ」
答えの出ない事をいくら考えても無駄だと思い、悠魔は眠る事にした。
悠魔が苦悩してる中、コレットは無骨な扉の前に座り込んでいた。
「っと、言う事があったんです……どう思いますか?」
「そうですね、コレットはその人と一緒に居て楽しいですか?」
扉の向こうから落ち着いた少女の声が聞こえて来た、コレットは目を閉じ今日までの事を思い出していた。
目を開け小さな声で語りだした。初めは変な人だと思ったが、一緒にゲームをしたり食事をしたり買い物をしたり料理をしたりして、悠魔と触れ合う事で変な人から優しい人に変化していた。
一緒にするゲームは楽しく、悠魔の料理は美味しく、難しい調理も優しく教えてくれ、買い物は少々無駄が合ったり色々な服を着せられたりして恥ずかしかったが楽しかった。だからこそ今日、目の前で怪我をして血を流し倒れてる悠魔を見て、コレットはその楽しい日々が終わってしまうのかと居ても立ってもいられなくなっていた。
彼女は無事な悠魔を見た時は、心から安堵したが同時に彼に対して苛立ちを覚えた。世話役、護衛役の件を抜きにしても怒らずにはいられなかった。自分の様な人間の為に命を捨てる様な行動をした彼の事を。
「……コレット貴方は、その方を好いてるのですね」
「私がですか?」
コレットは帝国の騎士として生きて来た、その中で徹底的に必要のない感情を消す訓練を受ける事で、人形の様な印象を受ける様になった。だから彼女は自分が悠魔に好意を寄せているのに気が付かなかった。
「…………コレット、私の事は気にせず貴方のしたい様にしなさい」
「しかし」
「今のダイヤスは危険です」
ここ数年でダイヤス帝国の治安は悪くなり、大臣や貴族は腐り、国そのものも腐りだした、今はまだ監禁と監視と言う手段を取ってるが、いつ強硬策に出るか分からなく悠魔の身も危険が降り注ぐか分からなかった。
コレットは1人で部屋で考えていた、悠魔と過ごす毎日は楽しかった。もしこのまま悠魔がエリクサーの生成方法を教えなければ強硬策に出るのも時間の問題だった。
自分が命令されてるのは彼の世話と護衛だった、命令を受けた時は面倒な仕事だと思った。何故騎士である自分がこんな事をしないのかと、表には出さなかったが心の底では面倒な仕事だと思ったが、仕事だと割り切り遂行して来た。
「好き……私が悠魔様を?」
相談した相手はそう言った。初めは乗り気じゃなかった仕事だったが以外に楽しく、気が付いたらいつの間にか早く明日が来ないか考える様になっていた。
こんな毎日が続けばいいと思う様になっていたが、コレットの手元には一通の手紙があり、その内容は明日強硬策に出ると言う指令所だった。
「……どうすればいいのでしょうか?」
強硬策が実行されれば、この生活は終わってしまい今まで通りの生活が戻って来る、味気ない1人での生活が戻って来る。それはダイヤスの騎士としての彼女には嬉しい話だった、磨いて来た剣の技術を使う事のない仕事、手柄を立てられない仕事から解放されるのだから。
だが同時に酷く嫌だったが人形――コレットが1人が動いた所でどうしよもなく、考えた末に答えが出ないまま、部屋を飛び出していた。
コレットの向かった先は悠魔の部屋の前だった。もう寝てるであろう時間だったがドアをノックした。
返事が無ければ帰るつもりだったが、幸か不幸か部屋の中か悠魔の声が聞こえて来て、コレットが入室するとベットの上で体を起こす悠魔がいて。
「どうかしました? こんな夜遅くに」
こんな時間い訪ねて来た自分にも優しい声で話しかけて来た。
「もう、お休みでしたか? 申し訳ありません」
「大丈夫ですよ、それで何か忘れ物や伝え忘れですか?」
眠たそうに目を擦る悠魔だったが、こんな時間に尋ねてくるて言う事は大事な様なのかと思い、ベットから出て、椅子を用意した。
「どうぞ、今からお茶入れますから」
彼女を椅子に座らせ、紅茶とお菓子を用意し始める悠魔だったがコレットが制止して、口を開き喋り出した。
「……悠魔様は……エリクサーの生成方法を……喋らないつもりなんですか?」
「…………はい、教えるつもりはありません」
教えない理由を悠魔が話し始めた。それを聞いたコレットは今のダイヤス帝国なら十分ありうると心の中で思い、悠魔の話を聞いていた。
「……上から催促でもされましたか?」
「えっ……」
一瞬悠魔の言った意味が理解できなかったが、よく考えれば分かる事だった。世話役だの護衛役だのをしてる以上、自分を篭絡でもするように言われてるじゃないだろうかと思った悠魔だった。
「いえ、上からは何も言われてません……私はただの世話役ですから……」
彼女の反応からはとても嘘を言ってる様に見えなく、コレットの表情は今にも泣き出しそうに悲しそうな顔をしていた。
「何故……ですか?……何故なんですか! 確かに軍事目的に使われれば大変な事になります、それでも、もし此方が実力行使に出ればどんな目に合うか分からないんですよ⁉」
声を張り上げるコレット、そんな少女に気圧され悠魔は後ずさった、だがコレットは悠魔に詰め寄り抱き着いた。
抱き着かれた悠魔は驚きその場に倒れてしまう、コレットに視線を合わせると、彼女は悠魔の胸元顔を埋め静かに泣いていたが、悠魔にはどうする事も出来ずに優しく彼女の頭を撫で続けた。




