盗賊と奴隷商人
「さて、エストア王都まで歩いて行くと、日暮れまでには着けないから、道中にある村で一泊して」
悠魔は、本を閉じてローブの中にしまい、馬車で移動中にエルメスに聞いた、肉体強化の魔法を頭の中で思い浮かべた。
「……強化! っ!」
彼の、足元に魔法陣が出現して、徐々に上昇して行き、頭上で魔法陣が消える、悠魔は覚悟を決めて、勢いよくジャンプした。
「っ……これはちょっと」
足元を見ると、そこには地面はなく五メートルくらい飛び上がっていた、その光景に、悠魔は顔を引きつらせて、バランスを崩し地面に転がり落ちた。
「怖い、これは怖い、慣れるまで大変だな……てか、あの高さから落ちて無傷てすごいな身体強化の魔法、さっき魔法を使った時に妙な脱力感があったが、あれが魔力てやつか、よし強化くらい簡単なら頭の中で考えるでもいけるな……」
――強化
再び悠魔の足元に、魔法陣が出現して、さっきと同じように、足元から上昇して行き、頭上で魔法陣が消えた。
「よし――ふぁぁぁ! やっぱり怖いでも、今度は大丈夫!」
悠魔が勢いよく飛び上がったが、今度は転がり落ちるような、間抜けな事はなく地面に着地した。
「よし、感覚は掴んだ行くぞ!」
今度は勢いよく走り出した、しばらく走り小さな丘が見えてきて、そこで休憩しようと立ち止まり、丘の方に歩いて行った。
「ふぅー、いい景色だな……ん」
悠魔が丘の上から辺りを見渡すと、丘から少し離れた所で馬車を見つける、そして、それを守る人間と襲う人間がいるのが見えた、ので悠魔は懐からパラライズポーションを取り出し、見つからないようにゆっくり近づき、茂みに隠れる。
「……強化」
悠魔が魔法を発動させて、耳を澄ませると、彼らの会話が聞こえて来る。
殺せ、守ります、逃がすな、など色々な声が聞こえて来た。
「盗賊か? 取り合えず襲ってる方を止めた方がいいよな」
悠魔が茂みから飛び出し、五人いた盗賊の一人を手に持っていた、パラライズポーションで殴る。男は悲鳴とともに倒れて動かなくなった。
「何だ、貴様!!」
「女だぁ!」
「うひょょ、上玉なんだな」
「こいつは、お持ち帰りだ!」
盗賊達は、悠魔の姿を見て、テンションをあげて襲い掛かってきた。
「だ、れ、が、女だ!」
もう片方の手で持っていた、パラライズポーションを襲って来た、二人の内の一人に投げて倒した、もう一人は動きを止めて倒れた仲間に声をかけた。
「お、おい大丈夫か!」
「……が……っ」
意識はあるが、うまく声が発せられなく、盗賊からは、うめき声しか聞こえなく、唸っていた。
「てっ、てめぇ、仲間に何した!」
「麻痺させただけです」
「麻痺だと!」
「ええ、(よし、人間にも効果はあるな、となると次は)強化で魔法の感覚は掴んだから」
「てめぇ、何ぶつぶつ言ってるだ!」
悠魔はどうやら、パラライズポーションが人間にも、効果があるのが分かると、次に指先を盗賊に向けてた。
「魔弾!」
掛け声と共に、指先に魔法陣が展開され、その中央から一筋の光が放たれ、光は男の横を通り過ぎて行き、地面に小さな穴をあける。
「え?」
その魔法に、盗賊達は固まる、地面に穴があけるほどの、魔法が自分達に当たると、どうなるかを想像する。
「ん、なかなか難しいな……魔弾!」
再び、悠魔の指先に、魔法陣が展開され、その中央から、光が放たれて男の足を貫いた。
「ギャャャ!」
「魔力の量が多ければいいて物でもないんだな……」
男は、悲鳴と共に貫かれた、部分を抑えて地面に倒れる。
その光景を見ていた、他の盗賊達は、顔を青くして逃げようとした時、悠魔が魔弾を放ち、彼らの動きを止めた。
「ひぃぃ! 魔導士だったのか⁉ どうか命だけは!」
「ごめんなさいぃぃぃぃ!」
盗賊達は、その場で尻餅をついたまま、命乞いをしだした。
「いや、そこの、倒れてる仲間達連れて行きなよ、邪魔だから」
別に悠魔は、彼らを殺すつもりで、止めたのではなかった。
「「はぃぃぃぃい! すいませんでした!」」
二人の盗賊は、顔を合わせて、倒れていた仲間を担いで逃げて行った。
「な、何とかなった」
ゴブリンの時は、相手が人間ではなかった為、それほど抵抗はなかったが、今回の相手は人間で、彼は少し抵抗を覚えていた、しかし、相手は殺すつもりで来てる為、手加減は出来なく、相手を殺さずこの場を、収められた事は彼にとって、行幸だった。
「えっと、ありがとうございます」
「助かりました」
馬車を守っていた、男性二人が、頭を下げお礼を言いだした。
「あ、いえ、たまたま通りかかっただけですから」
「すいません、少々お待ちを――」
男の一人が、悠魔の返事を聞かずに、二台ある馬車の一台に近づき、ドアを開けて中の人と、話し始める。
しばらくすると、馬車から、小太りした男が下りて来る。
「申し訳ない、危ない所を助けていただき、ありがとうございます」
「そんな、頭をあげてください」
小太りした男は、悠魔に頭を下げて、お礼を言い出す、悠魔としては、当然の事をしただけで、別にお礼を言われる言われはなかった。
「初めまして、僕は悠魔です」
「私は、ララークで奴隷商をしている、カング・プースと言います」
「奴隷商……こっちも悪人だったか」
「ちょっと、悠魔さん」
カングという男が、自己紹介をした瞬間、奴隷商と聞き、悠魔は指先を男達に向けた。
「ちょっと、待ってください! 奴隷商て言っても、国から許可をもらっていて、人を誘拐して売ったりしてる訳じゃないんです!」
「……」
悠魔には、目の前の男は、何処をどう見ても、怪しい雰囲気が漂って居る、しかし、人を見かけで判断するのはよくない。
「本当です! そりゃあ、人を売り買いしてる時点で、かなりあくどい商売に聞こえますが、買い取るのには、本人の同意があってこそですし、決して無理矢理買ったりはしてません!」
「……ハァ~」
取り合えず、目の前の男は、怪しい雰囲気があるが、嘘を言ってる用には見えなかった。
その為、指先を下ろし、警戒を解く、その行動に、カングは一安心する。
「わかってくれましたか」
「まぁ、そう言う事なら」
悠魔は納得して、取り合えず、これからの話をし始めた。
「それで、カングさん達の被害は?」
「護衛の一人が、ケガをして馬車の中に寝かしてます」
「それなら、このポーションをどうぞ」
「いいんですか?」
「まぁ、困った時はお互い様です」
悠魔は、ポーションを取り出し、彼らに渡す、初めは受け取るのを、少し戸惑っていたカングだが、仲間の命には代えられないと思い、ポーションを受け取る。
「すいません、おい! このポーションを――」
「はい、わかりました、オーナー!」
ポーションを受け取った、護衛一人が馬車の方に走って行った。
それを、見届けて、悠魔の行先を確認する。
「この道を通てるって事は、悠魔さんも、ララークに向かってるて事ですかな?」
「ええ、プリーからララークに、向かってる途中ですね、今日は取り合えず、この先の村で、一泊してから向かおうかと」
「そうですね、歩きですと、今日中には無理ですからね……そうですね、よかったら私の馬車で、ララークまで送りましょうか? それなら日暮れまでには着きますよ」
「いいんですか?」
この申し出は、悠魔にとっては、願ったり叶ったりだった、確かに馬車で移動すれば、今日中には、ララークに到着出来る。
「もちろん、命を助けてもらったので、何かお礼もしたいですし、今は持ち合わせはないですが、ララークに着けば、謝礼も払えます」
「それなら、お願いします」
カングに案内され、馬車の近くまで歩いて行くと、そこには、数人の女性が立ってた。
「えっと、すいませんが、奴隷の子達と、その世話係の者と一緒でも、いいですかね? 失礼かもしれませんが、前の馬車は、儂と護衛で、男ばかりですから、女性の悠魔さんも、同乗者が同じ女性の方が、安心出来ますし」
「……僕は男なんですけど」
「…………ぇ」
「すいません、男なんです」
悠魔は、自分の容姿が女にしか見えないが、自分は男だと言う事を説明し、カングを納得させて、前の馬車に乗り込み、色々な話を聞き始めた。
「へぇ、奴隷制度にも色々あるんですね」
「ええ、国によっては、奴隷を不当な扱いをする国もあります、特に海の向こうのダイヤス帝国では、酷い物ですよ、人体実験や不当な暴力での、奴隷の殺害が許可されてますからね」
「……ひどい話ですね」
「はい……私達はもちろん、エストアではそんな扱いは許可されてません――そりゃあ、奴隷て事で、迫害はありまし、多少の暴力はあるかもしれませんが、決して命にかかわる事はないです」
「さっき教えていただいた、奴隷刻印で判別するんですよね」
「はい、奴隷刻印は命の危険があると、国の諜報機関に、すぐに連絡が行くように出来てます……奴隷刻印は奴隷達を縛り付けると共に。、唯一奴隷達の命を守ってるんですよ」
「勉強になります」
「もしも悠魔さんが、ダイヤスに行く事があるのなら、気を付けてください、あの国は、人さらいも出るらしいですからね、特に悠魔さんみたいな……えっと、綺麗な顔の人も、取引の対象になるみたいですから」
カングは言いにくそうに、言葉を選び話すが、それは、全くの無意味だった。
「……僕男なんですが、それにこの顔じゃ、言いたくないですけど、男性にしかもてた事ないですよ?」
悠魔は、カングの話を聞いて、少し引きながら、自分は、あくまで男だと主張する、今までの経験で、性別に気が付かずに、近寄って来た、男達を思い出した。
「人間趣味は、それぞれですからね……その、中には男の方がいいて、言う人もいるんですよ」
「それ女性ですよね!」
「聞きたいですか?」
カングは、鋭い目をして、悠魔を見つめる。
「嫌です! 聞きたくないです!」
悠魔は、涙目になりながら、両手で両耳を塞ぎ、馬車の天井を見上げた。