無表情の案内人
悠魔は現在巨大な船の甲板で海を眺めていた。何故このような場合に居るかと言うと前日に来た帝国の使者を名乗る少女が悠魔の家を訪ねて来た。
「初めまして、私はダイヤス帝国から来た、コレット・イエーガーです、以後お見知りおき下さい」
「はぁ……」
優雅に一例をするコレット、悠魔は帝国の人間が何でこんな所に居て自分を訪ねて来たのか分からなかった。
「実はお願いがありまして参りました」
「お願いですか? 大国がただの冒険者に」
「はい」
ダイヤス帝国は大国で優秀な人材を何人も抱え込んでる、わざわざ冒険者しかも銅ランクの悠魔に依頼が来るなんておかしな話だと悠魔は思った。
「どうして僕なんですか? 僕より優秀な人は掃いて捨てるほどいますよね?」
「そんな事ありません、伝説の秘薬エリクサーの製作を成功させた人物は貴方だけですから」
「⁉」
エリクサーの事はエルフとエミリア達とエストア王国の一部の人しか知らないはずで、ダイヤス帝国の人間が知ってる事実に絶句した。
「エルクサーでダイヤス帝国、皇帝陛下の治療をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「エリクサーを使わなくても、大抵の病気、怪我でしたら、帝国の技術でも完治可能かと思いますが?」
「……そうですね、今の帝国の技術でしたら死なない限り五体満足での完治は可能です、ですがこの度陛下の病状は未知の病気で、あらゆる手を尽くしたのですが完治出来なく、このままでは命も危ういので悠魔様を訪ねさせていただきました」
悠魔は彼女の言葉がとても信用できなかった、逆にすべてが嘘だとも思えなかった。とても信用できないが本当に病人がいた場合悠魔はそれを見捨てると言う選択は出来なかった。ダイヤス帝国の悪評を聞いてなければすぐにも彼女の頼みを聞きダイヤスに行くのだが。
「……」
いくら考えても答えが出なく、コレットの様子を見るが、彼女に表情はなく人形のように無表情で底知れない恐怖を覚えたが、解決方法にエリクサーを彼女に渡すと言う方法も思いついたが流石に彼女にエリクサーを渡して終わりと言う訳にはいかず、もし病気云々が嘘なら、エリクサーを解析され量産し飛躍的にダイヤス帝国の軍事力を上げる事になるからだ。
「はぁ~」
「どうなされました?」
「いえ、分かりましたダイヤスに同行しましょう……ただアリスさんの同行を認めてもらいたいのですが?」
「端的に言ってそれは無理です」
「……どうしてでしょうか?」
アリスを連れていければ大抵の問題は片付くのだが、同行は認められなかった、悠魔はこの依頼はおかしいと思った、皇帝の命を助けたいのなら彼女の同行を見つめれば悠魔は向かうが、それが無理だと言われると、何か裏があるように思えた。
「彼女は元とはいえ魔女教団の魔女です、そんな危険人物を連れていくのは流石に許可出来ないかと」
「僕がいれば彼女は大人しいですよ?」
「それでもです、許可は出来ません」
「僕が貴方方に同行しないと言っても?」
「はい」
一見彼女の意見は可笑しいと思うが、過去にアリスが起こした事件を考えれば、そんな危険人物を国内に招き入れるのは危険である、魔女の存在はそれほど嫌われているのだ。
「僕が行かないと皇帝陛下命が助かりませんが?」
「そうですね、ですが剣姫の魔女の同行は認められません」
「皇帝陛下が死にますよ」
「そうなれば、仕方ありません」
何を言ってもコレットは無表情のまま意思を変えずにアリスの同行に否定的な言葉しか発しなかった。
本来悠魔はこんな胡散臭い依頼を受ける事はなかった、頼まれてる立場の悠魔には断る事も出来た、ただ断る事で人が死ぬかもしれないと思うと、基本的に善人な悠魔には断ると言う選択はなく結局、依頼を受ける事にした。ただ、悠魔は出立は明日の朝にした、何かあった時の為に色々準備をするための時間を作るために、コレット達は明日の朝にもう一度来ると言い家を後にした。
その日の夜、悠魔の目の前には不機嫌な顔をしたアリス座っていて、ナナは怖くなり早めに部屋に逃げて行った。
「君は馬鹿か」
「何と言うか返す言葉もありません」
「明らかにこれはエリクサーの情報収集が目的だ……まぁ殆ど0の可能性だが本当に病人が居るかの所為もあるが……」
「アリスさんはどう思います?」
「僕の考えは前者だ、明らかに罠だ今からでも断れ、僕の同行は認められないのなら君を護る者がいない」
「ですが、普通に考えたらアリスさんを好んで入国させる国はないと思いますけど」
「……」
多少は自覚があるのか、視線を背けるアリス。
「取り合えず色々用意して向かいます、本当に病人が居るのでしたら大変ですから」
「はぁ~分かった、君はそう言うやつだ好きにするといい、だが気を付けろダイヤスの悪評は君も聞いてるだろ」
「はい」
そうして、悠魔はコレット達に同行してエストアを出発して、ダイヤス帝国の船に乗船したのだった、近くには護衛と世話係のコレットが立っていた。
「あとどのくらいで着くんですか?」
「明日の朝までには着くと思います、その後忙して申し訳ありませんが、すぐに王宮に向かいます」
「ええ、それは構いません」
数日彼女は悠魔の護衛と世話係と言う事で傍に居るが、一度も表情を変える事はなくずっと無表情で悠魔はどうも彼女が苦手だった。
「少々海が荒れて来ましたね、危険ですので悠魔様、船内にお戻りください」
「はい」
船内に戻った悠魔だったが特別やる事もなく、一度暇潰しにコレット話をしたが、すぐに後悔した何故なら何を言っても全く表情を変化させないからだ、流石の悠魔も気まずくなり甲板に逃げ出した。しかし海が荒れ景色を見て時間を潰すのも出来なくなる。
「あのう、別に部屋から出るつもりないので傍に居なくていいですよ?」
「いえ、気にしないでくださいこれも仕事ですから……置物か何かと思っていただき結構ですので」
「……それじゃあ、これしませんか?」
「何ですかこれは? 数字に4種類の絵柄のカード?」
「これはトランプと言ってゲームです……そうですね、初めてですし簡単なババ抜きなら」
このトランプは暇を見て悠魔が娯楽の少ないこの世界で作った物で、よくアリスやナナと遊んでいる物だ、だが色々なゲームをして来たが、どのゲームでもアリスには勝てなく悔しい思いをしている悠魔だった。
悠魔はババ抜きのルールをコレットに説明しゲームを開始して数分で再び後悔をした。
「……これで私の勝ちですね」
「……」
最後のカードをコレットが揃えて出す、今の所悠魔は5戦5敗と言う結果になっている、何故なら彼女の表情は無表情で、どのカードを選んでも表情を変える事なく、これがナナだったら簡単に表情がコロコロ変わるので読みやすく勝てるのだが、驚く程コレットは表情を変えなかった。
「もう一度なさいますか?」
「いえ、どうもこの手のゲームでは勝てそうにないです、お腹も空きましたし何か食べる物ってありますか?」
「少々お待ちください」
しばらく待つと、悠魔の前にはステーキを始め新鮮なサラダにスープなどの料理が並べられた。
「あれ、1人分ですか? コレットさんの分は」
「私は世話係ですので」
「一緒に食べませんか?」
「申し訳ありません、私は後でいただきますので」
「……そうですか」
ナナやアリスと一緒に暮らし始めて、1人で食事をする事はなくなったので、1人での食事は寂しいと感じてしまう。食事を済ませ結局やる事はなく、外も暗くなって来たので明日の為に早めの就寝に入ろうと、部屋に備え付けてあったベットに入ろうとするが。
「お休みになりますか?」
「はい、少し早い時間ですけど明日の事もありますから」
「でしたら」
悠魔の背後で衣服が擦れる音がして、悠魔がそちらを向く、そこにはメイド服を脱ぐコレットの姿があり、慌てて悠魔は脱ごうとするコレットを止めた。
「えっと……何をしてるんですか?」
「お休みになるのでしたら、夜のお相手をしようと思いまして」
「し、しなくていいですから! そんな事!」
「……しかし、これも世話係の仕事ですから」
「いいです! もう寝ますから、コレットさんも休んでください!」
相変わらず無表情で何を考えてるのか分からなく、コレットに夜の世話はいらないと言う、彼女は着崩れたメイド服を直し一言挨拶をして、部屋から出て行った。
「やりづらいな、彼女何考えてるか全くわからないから……なんか疲れたもう寝よう」
ベットに潜り込む悠魔、本人も気が付かない間に、此処までの旅で疲れが溜まっていたのか、すぐに眠ってしまった。
コレットの声で目を覚ました悠魔、部屋の窓から大きな船が止まった港が見えた。コレットの説明では此処は帝国内で一番大きな港で色々な人な物資が集まる場所だと教えてくれた。
(あのマークギルドの船か? 確か帝国内部にはギルド支部が無いんだったな)
「悠魔様此方に」
「あ、はい」
案内され下船すると、そこには立派な馬車が止まっており悠魔とコレット乗せて走り出した。




