番外編 魔女の岐路 2
アリスは今一つの村を訪れていた。ララークに向かっていたのだが、この村で魔女の気配を感じたので立ち寄っていた。
「野良の魔女か? 教団の魔女がこんな何もない村に居るとは思えないが」
今後悠魔を守るにあたり、魔女教団の動向も知っておく必要があったため立ち寄ったのだが、どうやらはずれだったようだ。
「まぁ、一応確認だけでもしておくか」
魔女の住んでると思われる家のドアをノックするアリス。
「は~い! どちら様ですか?」
ドアを開け中から肩より少し高い位置で、綺麗に切り揃えられた黒髪の優しそうな雰囲気の女性が姿を見せた。
「どうかなされました?」
「申し訳ないが、金ならあるから一晩だけ止めてもらえないだろうか?」
「旅人さんですか?」
「ああ、王都に向かってる最中なんだ、今日この国に入ったんだが、泊まれる所がなくて」
「ええ、大丈夫ですよ、でも、私は……実は魔女なんですが大丈夫ですか?」
女性は言葉に詰まるが、決意したように自分が魔女でも大丈夫かと言う、アリスは元々此処には魔女が住んでる事が分かってたためと、この魔女に危険があるかを調べに来たとのそんな事を気にしないで、了承して室内に上がり込んだ。
「大した物はないですが、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
アリスの前には、スープとパンを出した。
「すいません、こんな物しかなくて、基本魔女は食事を必要としないもので、一応村の皆さんには内緒なのですが……」
「なら、どうして君は僕に魔女だと打ち明けたんだい?」
「何ででしょうね、雰囲気でしょうか? 貴方なら言っても大丈夫と思ったもので」
「……訳が分からないな」
「そうですね、でも……私少し前まで王都のララークで暮らしていたのですが」
この時アリスは、王都で合った魔女騒ぎを思い出した、騒ぎの元凶はアリスだが魔女が1人捕まった事を思い出し、彼女がその魔女なのかと思い。
「本当は処刑される所を妙な少年に助けられた……私と少し話しただけで国王陛下に話を付けてくれて、この地に移住してきました」
「そうだったのか(聖剣がそんな事言ってたな……悠魔)」
自分が起こした騒ぎで魔女が1人捕まった事は大して気にしてなかった、だが悠魔が救った命なら別だった。
「君はどうして魔女になったんだい? 魔女にしてはえらく温厚だね、僕の知ってる魔女はどいつもこいつもろくなのが居なかったが?」
「そうですね、世間一般では魔女は災いの象徴などと恐れられてますからね……私はただ病気の息子を救いたかっただけなんです」
「……そうか」
魔女には色々居るなと思ったアリスだが、誰にも言ってないがアリス自身が魔女になった経緯も似たようなものだったもんで多少の共感を覚えた。
「君は他の魔女とは違うようだね」
「そんな事ないですよ、もしあの少年に合わなければ私は処刑されていました、そうなれば何をしたかわかりません」
魔女は死にたくはないですからね、と呟き。
「息子は助けられたのかい?」
「ええ、でも私が魔女になったため、先立たれてしまいましたけどね」
「……そうか」
「それでは、今日はもう遅いのでお休みください」
アリスも魔女なので特段眠る必要はないが、魔女と言う事を隠してるので寝る必要があるなと思い、彼女自身食事や眠るのは殆ど趣味ではあるが、あくまでそれは暇な時だけで、特に今の様に急ぎ悠魔の生死を確認したい状況では面倒なだけだったが。
「ああ、そうさせてもらう」
しかし此処2日ほど急いで朝も夜も歩き通していたので、肉体的には平気でも精神的にはかなり疲れていたので休む事にした。
アリスは真夜中に目を覚ました。隣の部屋から物音がし、アリスは一瞬あの魔女が何か企んでるのかと思いドアからそっと覗くと、そこには涙する魔女の姿があり、それを見たアリスは何故泣いてるのか気になり部屋を出た。
「どうかしたのか?」
「え、あ、すいませ起こしてしまいましたか」
「気にしなくていい、それよりどうしたんだい」
「いえ、少し昔の事を思い出して、誰かが傍にいるのは久しぶりで」
「……そうか」
2人はしばらく雑談をして、夜を過ごしてると外が急に騒がしくなってきた。
「何かあったんでしょうか?」
「さぁ」
魔女は窓からそっと外を見ると、松明を持ち村中の人が集まっていた。
「ちょっと様子を見てきます」
「ああ」
しばらくして魔女が戻って来た、その顔は青くなっており、気になったアリスは尋ねた。彼女の話によると、この村の近くにある遺跡からストーンゴーレムが出て来て暴れてると、言い。
「ストーンゴーレムか」
「はい」
ストーンゴーレムは名の通りに全身が石で出来たゴーレムで、アリスなら一瞬で倒せる相手でも、ただの村人では何人束になっても勝てなく、討伐には銀プレートの冒険者くらいの強さがないと倒すのは難しい。
「君はどうなんだい? 一応魔女だろ」
「私戦った事はないですし、攻撃魔法は初級の魔法くらいしか使えません」
「どうしたものか(僕がやれば一瞬で倒せるが)」
思考するアリス、目の前の魔女は悠魔が救った命なら助ける必要があるでも、他の村人はどうでもよかった。いっそ彼女だけを無理矢理連れてこの村を離れる事も考えたが。
「貴方は夜が明ければ、すぐにこの村を出てください」
「何?」
「私も戦いに出ます」
「魔女だと言う事がばれるかもしれないよ」
アリスの言葉に魔女は困った顔をするが。
「それでも、この村の人を見捨てて逃げる訳には行けません」
「……人間なんて醜く勝手な生き物だ、そんな物の為に君が命を懸ける必要はあるのかい? 現に君はその人間に一度住む場所を奪われてるよね」
「……それでも、人間すべてがそうじゃありません、私を助けてくれた少年の様に魔女を助ける人間だっていますよ、貴方もそう思ってるんじゃないですか?」
魔女はアリスの妙に人間を嫌う言葉に何かを悟ったように微笑み踵を返して家を出て行った。1人家に残されたアリスは、悠魔の事を思い出した。
「……っ」
アリスの頭の中には、谷底に落ちる寸前まで必死に自分を助ける少年の顔が浮かび、その少年が救った命が今消えようとしてるのを見過ごせなかった。
森の中では何人者村人が必死にゴーレムに抵抗しているが、所詮は戦闘訓練も受けてない人間では何も出来なく蹂躙されていった。魔女も必死に魔法を放っていたが魔女とばれない様に力を押さえてるのか大したダメージを与えられないでいた。死者は出ていなかったが魔女自身そろそろ正体を隠して戦うのは限界だと感じ、覚悟を決めて戦おうとした時。
森の奥から無数の剣が飛来してゴーレムを破壊して再び森の奥に戻って行った。その光景を見ていた村人、魔女は呆気にとられその場に立ちすくんでいた。
「あれは、何だったんでしょう?」
疲れた表情をした魔女は自宅に帰ると、そこのにはアリスの姿はなく1枚の書置きと1枚の金貨が残されていて、書置きには一言、世話になったと書いてあり。
「結果的に他の村人も助けてしまったな……」
空が徐々に明るくなか街道を歩くアリス、魔女を助けたかったのだが結果的に他の村人まで助けてしまい、その表情は不満で満ちており、結局彼女は悠魔以外の人間また悠魔の係わりのある者以外どうでもいい取るに足らない存在だと思い、朝日を見た。




