魔法と調合術
日が暮れ、悠魔が店を閉める手伝いをしていると、仕事終わりのエルメスが歩いて来て。
「お、男だったのか」
「なんかすいません」
仕事から帰って来たエルメスに、悠魔は誤解してるであろう、性別の話をすると、間の抜けたような顔をして、悠魔の姿を頭の上から足の下まで見て、しばらく、その場で考え込み、ため息をはく。
「いや、君が謝る事はない、こちらが勝手に勘違いしただけだからな」
エルメスが疲れた様に、部屋に置いてあった、ソファーに腰を下ろし一息つき、テーブルに置いてある紅茶に手を付け、一気に飲み干した。
「それにしても、この部屋、何か、色々な物が置いてありますね?」
悠魔は部屋に置かれている、色々な器具、瓶に詰められている、鉱石、木の実、草花に目を向た。
「その草花はポーションとかの材料だよ」
「ポーション⁉」
悠魔は、目を輝かせて瓶や器具を見て回り始め、その後、店に通じる扉を開けて入って来た、シャルルは目を輝かせる悠魔を見て、微笑ましく思い、声をかける。
彼女は小さな器具を取り出し、小型のコンロの様な機械を取り出す、その機会に、小さな赤い欠片を入れると、炎が灯り、その機会の上に、水の入った小さな鉄の鍋を載せ、瓶の蓋を開け、中に入っていた緑の葉っぱを取り出し、水の中に沈めた。
「これが薬草で、こうやって水で煮出すと、ポーションとかを作る事が出来るの、しばらくして、水の色が変色して青色になったら、ポーションの出来上がり」
鍋の中には、透明だった水が青色に変化してコポコポと音を立てていた、それを見た悠魔が脱いで壁にかけてあった、ローブの中からポーションを取り出し見比べた。
「何だか、色が薄いですね」
「あら、濃度の高いポーションね」
「どういう事ですか?」
「濃度の高いポーションは、悠魔君の持っているポーションみたいに、色が濃いのよ、濃度が高ければ高いほど効果は大きくなるのよ……それにしても、悠魔君の持ってるポーション色はかなり濃いわね」
シャルルは真剣な表情をして、悠魔のポーションを手に取り、ジーと見てポーションをテーブルに置いた。
目の前にあるポーションは、どう考えても異常な色をしており、シャルル自身それなりにポーション作りは、得意な方だが、どう足掻いても今の自分には、目の前にある物と同じ物は作れなかった。
「悠魔君、このポーション鑑定しても大丈夫かしら?」
「鑑定?」
「このポーションを魔法で調べても大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
シャルルが何やら準備をし始めたので、悠魔はエルメスに鑑定の魔法について聞き始めた。
「あれ、鑑定魔法て知らないの」
「はい、恥ずかしながら、魔法に付いては疎くて、よければ教えてほしいのですが、いいでしょうか?」
「えっと、鑑定魔法は無属性魔法の一つで、簡単に言うと、対象の物の分析と解析が出来る魔法だね、まぁ、その魔法名称のままの効果の魔法だね、例えば、今母さんがポーションに使って、どの位の濃度を調べるとかね」
「へぇ~」
エルメスの説明を受けながら、シャルルの右目周辺に魔法陣が浮かび、彼女は色々な角度から、魔法陣を通してポーションを見ているのを眺めていた。
しばらくすると、シャルルがポーションを置き、少し考えるように目を閉じ、後ろに座っていた悠魔と、向かい合わせになるように座り直し、真剣な表情で口を開いた。
「悠魔君、いくつか聞きたいのだけど、いいかしら?」
「はい、僕に答えれる事でしたら」
どうやら、かなり真面目な話をする雰囲気から、悠魔も姿勢を正し座りなおす。
シャルルはそんなに気構えないでいいわよ、と微笑み、いくつかの質問をし始める。
「ええ、それでいいわ、このポーションて何処で手に入れたの?」
行き成り困る内容だった。
何故なら、このポーションは、神様からの貰い物で、それをどう説明するか迷うが、少々後ろ暗いが、此処は誤魔化す事にした。
「(神様に貰ったとはいえないよな)確か、父が旅の商人から買ったと言ってました(嘘つくのは、いやだが仕方ないか)僕が旅に出る時に、父が持たしてくれた物です」
「そう、旅の商人はどんな人だったとか、分かるかしら?」
「申し訳ありません、僕は直接会ってないもので」
「お父様に話を聞く事は出来るかしら?」
「いえ、多分無理かと、故郷は海を越えて遠く、しかも、地図にも載ってない小さな島国ですから」
悠魔はこの世界に来てから、神様から貰った地図を見て、この地が大きな大陸になっているのを、調べて知っていて、自分がこの大陸の人間ではないと説明した。
「驚いたわね、海を越えて来たのね」
驚くシャルルだが、悠魔は内心、海どころか、世界を越えて来たと、素直に説明出来なく申し訳ないく思った。
「母さん、そのポーションがどうかしたの?」
今まで、成り行きを見守っていた、エルメスはあまりに真面目な母親の対応に、少し不思議に思い問いかけると。
彼女は、表情を変えず、エルメスの方に振り向き、ある質問をする。
「エルメス、家で売り出してるポーションの濃度て、どのくらいかわかるかしら?」
「確か、六十五%くらいだっけ」
「……あら、覚えてたのね以外ね」
「おい!」
普段家の仕事を、全く手伝わない彼が、家で売ってるポーションの濃度を知っていた事に、シャルルが心底驚いたような表情をして、悠魔にポーションの濃度について話し出した。
「悠魔君、これを見てもらえるかしら」
シャルルは、三本のポーションを、色の濃い順に並べる。
「これがさっき作ったポーションで、こっちが店で普段売ってるポーションで、これが悠魔君が持っていたポーションね」
「色がだいぶ違いますね」
明らかに悠魔の持っていた物だけ、明らかに色が濃く、どう考えても異常だった。
そして、彼女は説明を続けて行く。
「うちで売ってるポーションの濃度は六十五%以上のポーションなの、基本的にどの店に売り出されるポーションの、濃度は三十%~七十%くらいで、四十~五十五が初級、五十六~六十五が中級、六十六~七十が上級ポーションて感じで売り出されてるの、それで、この色の薄いポーションの濃度は十~二十%くらいので、とても商品にはならない粗悪品なポーションになるの、ここまでわからない事はあるかしら?」
「大丈夫です、ポーションの基準はわかりました」
何とか理解は理解は出来る、そして同時に何故彼女が、この様な説明をするのかが分からなく、首を捻る。
そんな悠魔を無視して、シャルルは説明を続ける。
「ポーションを売ってる人達はね、濃度を濃くするために、さっき見たいに、薬草を煮出すだけではなく、色々な工夫をして濃度を上げるの、もちろん、この家のポーションもそれなりに工夫して、この濃度を出してるの」
「ハァ……」
やはり悠魔には、シャルルが何を言いたいのかが、わからないと言う顔で、助けを求める様に。エルメスに目線を向けた。
「母さん、遠まわしに言わないで、悠魔君が持っていたポーションて、一体どのくらいの濃度だったの?」
「……九十八%、私は今まで、こんな数字の物を見た事ないわ」
「…………はい?」
エルメスも九十八%と言う数字を聞き、驚き表情を固めて聞き返してしまう、それほどまでに、この数字は異常で、ありえない数字だった。
「悠魔君が持っていたポーションを鑑定した結果、その濃度は九十八%で、どうやったらこんな数字が出るのかしら?」
シャルルがポーションを手に持ち、色々な角度から見る、しかし、いくら眺めても、その答えは帰って来ない。
そこで悠魔は、このポーションを彼女に譲る事を考えた、世話にもなるし、一文無しの自分に払えるものは、このポーションくらいだった。
「よろしければ、そのポーション差し上げましょうか?」
「ホント悠魔君!?」
その言葉を聞いたシャルルの反応は、秒速で悠魔に近づく、彼女の顔と悠魔の顔が、ぶつかりそうな距離まで近づき、シャルルは目を輝かせる。
「は、はい(顔が近い)タダで泊めてもらってる訳ですし、そのお礼として……」
「悠魔君、それはダメだよ、このポーションを普通に買おうとすれば、金貨二十枚以上はする物だ、それに、悠魔君はエミリアを助けてくれた恩人だ、そんな人から、そんな高価な物をタダでは受け取れない、正式な値段で買い取るべきだよ」
エルメスの言い分は、真っ当なもので、そもそも、悠魔を此処に泊めるのは、彼が妹の恩人で、そんな彼から金銭を受け取るのは、少々どうなのかと思った。
息子の説教に、冷静さを取り戻した、彼女は恥ずかしそうに口元を隠し、苦笑いをする。
「う、ごめんなさい、私たらつい年甲斐もなく舞い上がってしまって、悠魔君、このポーションそうね金貨三十枚で、買い取らせてもらってもいいかしら?」
「……わかりました、それなら、金貨十五枚でいいです、それでどうですか?」
「悠魔君いいのかい? 本来金貨20枚するものだよかなり安値だけど」
「いいですよ、色々教えてもらいましたし」
「じゃあ、ちょっと待っててねすぐにお金持ってくるから」
シャルルがドアを開けて、店の方に走って行き入れ替わりで店を閉店させ片づけをしたエミリアが入ってきた。
「お母さんどうしたんですか?何か慌てて走って行きましたけど?」
ちょうど入れ違いに、室内に入って来たエミリアは、 慌てて走って行った母親が気になる。
悠魔は、今まであった事を、彼女に話す、シャルルがポーションを買い取る事になり、そのお金を取りに行った事を説明した。
「もう、お母さん」
「全く、あれで、せっぐぇ」
「あらあら、この子は何を言ってるのかしら、オホホホ」
いつの間にか、戻って来たシャルルが、何かを口走ろうとしたエルメスを、後ろから殴り倒した。
「シャルルさん!?」
「悠魔君、これお金ね」
驚く悠魔を気にしないで、シャルルは持って来た、お金を渡すが、その後ろでは、殴られた痛みからか、悶絶するエルメスの方が気になった。
「あ、あのう、エルメスさんが」
「?」
シャルルは笑顔で小首を傾げる、その仕草は、とても可愛いのだが、彼女の後ろでは、実の息子が、悶絶していたので、とても、そんな雰囲気ではなかった。
「いえ、なんでもないです」




