アリスと悠魔
「二人とも何処に行ってたんですか!?」
茂みの奥から現れた二人を見て、一人で夕食の用意をしていた悠魔が慌てて駆け寄り。
「夕食の用意、手伝ってください!」
「はい、はーい!」
「何をすればいいのかな?」
コトナが水を汲みに川の方に歩いて行き、アリスは悠魔にナイフを渡され食材の皮むきをし始めた。アリスを見た悠魔は、一見彼女は普段通りに見えたが何か違和感を覚えて。
「何処に行ってたんですか?」
「ん、ああ、ちょっと面倒な――魔物が居たもんでね」
「魔物ですか?」
「そうそう、これはお土産」
アリスは身なりを整えた後に、洞窟内の魔道具を物色して面白い物を一つ見つけ、それを悠魔に渡すために持って来た。球体状の水晶が嵌められたネックレスを渡し魔道具の説明をし始めアリスによると、水晶の中に魔法を込める事により無条件でその魔法を発動できるという物で、魔道具事態は使い捨てだがそれなりに高価な物で、中には先ほどアリスが上位の防御魔法を込めておいたので命の危険があれば、使う様に言われた。
食事をして、あと片づけを見張りはアリス一人でやると、言い出したので悠魔は交代制にした方がと言うが、魔女であるアリスに本来は睡眠が必要ないので休息の必要な二人は寝る様に言い、アリスは焚火の近くで本を読み始めた。コトナと悠魔は馬車の荷台の上で毛布を被り寝転ぶが荷台は狭く二人が横になると隣り合わせになり。
「あのう、これは」
「はい、どうしました?」
「僕下で寝た方が良いじゃないですか?」
「固まって寝ないと何かあった時、対応が遅れますよ?」
コトナは何を言ってるんだコイツと言う顔をして悠魔を見るが、悠魔の元居た世界では普通こんなに近くで、特別な関係でもない限り男女で寝る事なんかなかったので、アリスが王都に帰って来て宿に泊まる時もしばらくは、苦悩してしまった。
「……悠魔君ちょっといいですか?」
「はい、何ですか」
「悠魔君はアリスさんをどう思ってるんですか?」
「はい?」
コトナの思いがけない言葉に悠魔は、しばらく質問の意図を考えは分からなく考えるが結局分からなく。
「どういう意味ですか?」
「好きか、嫌いかて事です」
「……まぁ好きか、嫌いかて言われればそれは、好きですよ」
「それなら、この先もずっと一緒に居るんですか?」
「どうでしょう、愛想を尽かされない限りはいると思いますよ、でも贅沢を言えば出来れば近くにいてほしいです、あの人には魔法の事、戦闘訓練、魔道具の知識返しきれないほどの恩をもらいましたから、その一部でも返したいですからね」
苦笑しながら、星空を見上げそんな悠魔を見てコトナは、先ほどの事を思い出していた。コトナは三人の盗賊を惨たらしく殺し、洞窟内に積まれていた魔道具を物色しているアリスを見て一つの問いをした。
「アリスさん、貴方は悠魔さんの事を好きなんですか?」
「好きだよ、そして愛してるよ」
即答するアリスにコトナは少々驚き理由を尋ねると、単純明快な回答が返って来て。
「彼は、こんな僕の為に涙を流してくれたんだ……全く馬鹿な人間だよ、魔女なんかを助けようなんて……本当に馬鹿だよ、優しすぎるんだよ」
「アリスさん……」
「だから、決めたんだ僕は彼の為に生きる、この命は彼の物だ、彼が死ねと言えば死ぬし体を求められれば差し出す……まぁ今日まで求められた事はないけど、魅力がないのかな? ――おっとそんな顔をしないでくれ彼がそんな、人間じゃないのは知ってるし、今のは冗談だ」
コトナはアリスの物言いに少しムッとしてしまい、悠魔がそんな事を命令をする訳ないのにそんな事を言うアリスに腹が立ってしまった。
「こんな、馬鹿な魔女を助けたあの子は、絶対に守らなきゃいけない君だってそう思うだろ? だから僕のすべてをかけて彼を守る……問題あるかい?」
「……ですが、悠魔君が貴方を選ぶとは限りませんよ、それだけして選ばれなかったら」
「君は勘違いをしている、そもそも僕は悠魔と結ばれる事なんてないんだよ僕は大罪を犯した魔女で彼は未来ある好青年、そんな彼とは決して結ばれちゃダメなんだよ、彼が幸せを見つけたら僕はそっと彼の目の前から消えるつもりだしね」
悠魔は、アリスにそばにいてほしいと思い、アリスは悠魔が自分が居なくても大丈夫と思えば姿を消すと二人は真逆の事を考え、二人の考えを知っているコトナはすれ違う二人の気持ちを何とか出来ないかと思うが、これは二人の問題で他人が口を出していいものではなく口を出せなかった。
「悠魔君」
「はい、何ですか?」
「アリスさんは沢山の人を殺し傷つけ恐怖に陥れた魔女です、それでも一緒にいた居ですか?」
「何ですか急に、そうですね……まぁ起きてしまった事は仕方ありませんそれに、僕は聖職者て訳でもないですから、彼女がどんな魔女でも僕は彼女に恩を受けたただそれだけです」
「悠魔君は……優しいですね」
「貴方も、それを言いますか……全くアリスさんと言い、ジェンガさんと言い、言っておきますけど僕は別に優しくはないですよ、困ってる人がいれば助けますし力も貸します、ですがそれは、僕の手の届く範囲です、困ってる人をわざわざ探してまでは助けません」
「ふふふ(目の前で困ってる人がいても見て見ぬふりをする人の方が多いと思いますけどね手を差し出すだけ悠魔君は優しいですよ)」
笑ってるコトナを見て悠魔は不機嫌そうに眉を寄せ睨み付けようとするが目の前、コトナと悠魔の間に剣が刺さり、アリスの張り上げた声が聞こえて来た。
「君達! 何時まで起きてるんだ! 明日も早いんだからさっさと寝ろ!!」
その言葉を聞いた二人は慌てて、毛布の中に潜り込み寝たふりを決め込み、いつの間にか眠ってしまっい。悠魔は目を覚ますとそこには、アリスの顔があり驚いて距離を取ろうとするが狭い荷台の上と言う事を忘れ頭をぶつけてしまい。
「おや、目が覚めたかい――僕としてはもう少し君の寝顔を見ていたかったが」
「あ、アリスさん何してるんですか? 頭痛い」
「朝食の用意が出来たから呼びに来たんだが、あまりにも気持ちよさそうに、寝てるもんだからね」
「そうですか」
「それじゃあ、朝食にしようか早くおいでよ」
アリス荷台から降りて歩いて行き悠魔も打った頭を摩りなが立ち上がりアリスについて行くと。コトナが朝食を配膳をしていて悠魔はパンとスープを受け取り腰を下ろして食べ始めた。
「この後、どうするんですか?」
「ヒガンサクラを探しながら盗賊探しだね」
「それにしても、変わった盗賊ですよねぇ医学薬品だけを盗むなんて」
「確かに」
片づけをして馬車で移動をし始めてしばらくすると、荷台で本を読んでいた悠魔は馬車の揺れで酔ってしまい馬車を止め休憩していた。
「君は馬鹿かい? 荷台の上なんかで本を読んでいたらそれは、酔うだろ」
「……すいません」
悠魔は木の影でアリスに膝枕をしてもらい寝転がっており、コトナは辺りの散策をしに行っていた。
「――おや、どうだった?」
「ん~どうやら数は十人前後ですかね」
「何がですか?」
「さっきから後をつけられてるんだよ」
アリスが小さめの声で悠魔に後をつけられていた事を放すと悠魔は、その事に驚き体を起こそうとするが、アリスに頭を押さえられて起き上がるのを阻止されてしまい。
「いいから、大人しくしてるんだ」
「で、でも」
「相手が例の医学薬品を狙う盗賊なら動きを待ちましょう」
しばらく、休むと再び馬車を走らせ世間話をしながらしばらく進むと、木の上茂みの中から馬車を囲む様に数十人の人間が出て来た、だが彼らの額には角が生えておりそれを見ると、コトナがポツリと呟き。
「……鬼人族」
「鬼人族?」
「妙だね、何でこんな所に?」
アリスの説明によると、鬼人族は山奥に住み滅多に人の前に現れなく、好戦的ではあるが基本人を襲わない。
「貴方たちの目的は何ですか?」
「持っている薬を出せ、そうすれば命までは取らん」
赤い鎧を付けた二本の黒い角を生やし外見が成人男性位の外見をした、鬼人が前に出て医学薬品を要求して来た。
「ほう、鬼人が盗賊の真似事とは」
「何とでも言え、俺達には薬が必要なんだ」
「薬も必要ないように皆殺しにしてやろうか」
赤い鎧を付けた鬼人とアリスが睨み合い、お互い一触即発の雰囲気を作り出しコトナと悠魔はお互いを見つめて、ため息をはき他の鬼人に事情を聞き始めた。
「すいません、詳しい事象を教えてもらえませんか? 事情次第では僕達も協力しますから?」
「ん?」
悠魔は一番近くにいた一本の青い角を生やした鬼人に事情の説明を求め、その鬼人によると、赤い鎧の鬼人の名前は紅で、その妹の真白の魔力欠乏症が治らずに日に日に悪くなっていき、このままでは命の危険があるため、治すために薬を集めてると言う事がわかった。
「魔力欠乏症て、命の危険があるんですか? 僕もなった事がありますけど、少し怠い感じだったんですけど?」
「それは、軽症だからだと思います、重症ですと生命維持もできなくなりますから、それでも適切な処置をしたらすぐによくなると思いますが」
「それは、多分何かに寄生されてるか呪いにかかってるかだね」
アリスの声に二人は振り向くと、紅と言われた鬼人が吹き飛ばされた様に木に寄りかかり気絶していて、他の鬼人達に介抱されており、それをしたのがアリスだとすぐわかり悠魔はこの人も好戦的で短気だと心の中で思い。
「直接見ないと詳しい事は分からないけど、魔力欠乏症が治らないのは常に魔力が不足してるからだ、大抵の場合、魔力を食べる寄生虫が寄生してるか呪いにかかってるかだ」
「詳しいですね……」
「僕が何年生きてると思ってるんだ」
紅が目を覚まし、悠魔に近づいて掴みかかって来た。アリスが殺気立ち剣を取り出すが悠魔がそれを制止して。
「そんな事より薬を渡すのか、どうなんだ!」
「それより、真白さんでしたけ彼女の容体を見せてもらった方が早いと思いますよ、コトナさん診察出来ます?」
「簡単なのなら……」
「お前らに、真白を見せるだと」
「……紅このまま、盗賊の様な事をしていても解決にはならない、下手をしたら討伐隊が来たりするかもしれないぞ」
「――っ」
その後、鬼人達と話をして多少揉めたが彼らの里に行く事になり、移動を開始し始めた。




