小さな魔獣達
悠魔は眠そうに目を擦りながら部屋から出て朝食の匂いがする方に歩いて行く、すでにエルフェリアは生きていた様だった。魔女は睡眠は不要なため寝ていたかは不明であるが、ミーアの用意してくれた朝食を食べていた。
「悠魔さんおはようございます」
「おはようございます。ミーアさんはどうしたんですか? いないようですけど……」
「朝食を用意して外に出て行きましたよ。帰るのでしたら昼前には出た方がいいと言ってましたよ」
「力貸してくれなさそうですか?」
「無理だと思います。昨日の事で多少の興味は引けたそうですけど、昨日の事が起源龍に関係してるか不明ですからね」
興味が引けたと言っても彼女自身特別調べるような素振りはなく、あの後も食事を用意してくれた後は本を読んでいただけだった。
悠魔は席に着き用意された食事に手をつける。サラダ、パン、何の肉か不明な干し肉の様なもの、一瞬手を付けるのを躊躇したが、エルフェリアに大丈夫と言われ食べることにした。
「これ何の肉なんですか?」
「鎧蜥蜴ですね。昨日の様な変異種のものではないようですが……サラダもパンも畑でとれたものを使って作ってるみたいですね」
「こんな場所でも育つもんなんですね」
この場所は魔獣が変異する程魔力濃度が濃く、その変化は魔獣だけでなく作物などにも作用すると思っていたが、目の前に並べられたものは大した変化は見られない。
「私が視た感じそれほどの変化はないようですが、普通の人が食べれば魔力中毒にはなるほどには魔力が高い食べ物ですね」
体内の魔力が容量を超えると起こる現象の魔力中毒は主に魔力の放出が上手く行かないと起こる現象で、大抵の生物は無意識に体内に溜まる魔力を微量に放出してバランスを取ってるが、生まれ持っての欠陥などでその放出が出来ない場合に起こる。後は体外から摂り込んだ魔力によって容量を超えてしまっても起こってしまう。
「悠魔さんなら食べても大丈夫ですよ。寧ろある程度の器を持ってる人なら魔力の回復に向いた食事ですね」
まさしく命がけの食事だが、どうやら普通に食べる分には問題ないのだと思い食事をする。
食事をしてエルフェリアは少しこの家の周辺を見て来ると言い出て行った。ミーアの説得をどうするか考えてるが悠魔は一向に良い案が浮かばなく、まずは相手の事を知る事にした。
家を出て畑の方に視線を向けると、そこには野菜に水を撒くミーアの姿があった。取り合えず畑仕事を手伝おうと歩いて行く。
「手伝います」
「悠魔君ありがとうございます。ではそれを持っていってください。あ、小麦方は向こうの建物にお願いします」
ミーアの指さした方には野菜が入った籠がありそれをせっせと運んで行く、すべて運び終わる頃にはミーアの水まきも終わったようで、野菜を仕分けしたりしていると、近くの茂みの奥から小型の魔獣が多数姿を見せる。
一瞬悠魔は焦り構えるが、ミーアは野菜を持ち魔獣に近づいて行き小さな野菜や切れ端などを地面に撒く、魔獣達は群がり野菜を食べ始める。それを見た悠魔は構えを解き魔獣に餌を与えるミーアの傍に歩いて行く。
「大人しい魔獣ですね」
「この辺は危険な大型の魔獣が多いので餌の取り合いが激しいですよ。こうやって餌をあげていたら懐かれました」
食べ終わった魔獣達はミーアの足に頬ずりをしたりしている。ここまで人懐っこい魔獣を見るのは初めてで、見ていると一匹の魔獣と目が合う、魔獣はゆっくり近づいて来て悠魔を警戒するように鼻を鳴らし、安全だと思われたのか頬ずりして来る。
「この辺りはこの子たちには厳しい環境です。今いる子も明日にはいないかもしれません」
「ミーアさんが守ってあげればいいんじゃないですか? 貴方ならこの辺りの魔獣に後れを取る事はありませんよね?」
「無理ですよ。この広大な場所でこの子たちを守るのは私の手だけでは足りませんよ。この子たちもそれぞれの生活がありますから、それに生き物はいつか死ぬものです」
この場所は広いその為ミーアの手はすべてには届かない、そもそもこの魔獣達に餌を与えてるのはただ単に気まぐれで、廃棄する物を置いておいたら勝手に食べていたのを見たからで、別に進んであげ出したわけではなかった。
しばらくして魔獣達は満足したのかそれぞれの生活に戻って行く。
「さて、帰るのでしたらそろそろ出た方がいいですよ。日が暮れる前にこの地帯を抜けないと魔獣の動きが活発になりますから」
それだけ言い残し家の方に歩いて行く、と言われても此処には彼女の協力を得る為に来たので、協力を得られないまま帰る事は出来ない。
屋根のウッドデッキで降りそそぐ魔力の塵を眺めながら、エルフェリアの帰りを待つ、少しと言ったがすでに数時間が経過している。エルフェリアに限って魔獣にやられたとは思えない、仕方ないと思い捜しに行こうかと思った時と同時にエルフェリアは帰って来た。
「すいません遅くなりました」
「何処に行ってたんですか?」
エルフェリアは外套に着いた魔力の灰を払いながらウッドデッキの屋根下に入って来る。
「ほら言ってたじゃないですか? ミーアさんがこの辺りで異常が起きてるかもしれないって」
「ああ、昨日の件ですね」
「はい、もしかしたら何か彼女との交渉条件になるかと思って調べに行っていたのですけど……」
「残念ながら特別な痕跡は見つけられられませんでした。けど少し気になる事が……」
「気になる事?」
「はい……妙な魔力溜まりを見つけました」
エルフェリアの話では少し離れた場所に洞窟があり、その奥に意図的に作られた魔力溜まりがあり、無闇に触れていいのか分からずこの辺りの事に詳しいミーアに相談した方がいいと思い何も手をつけずに帰って来たと話してくれた。
「私はこの事をミーアさんに相談してきますね」
そう言いエルフェリアミーアに相談する為に家の中に入って行く。
「待ってください僕も行きますから」
悠魔も慌てて彼女の後を追って家の中に入って行く。室内で本を読んでいたエルフェリアはミーアに事の顛末を説明すると、ミーアは少し思考して首を横に振る。
「私は知りませんねそのような魔力溜まり、その洞窟には何度か行った事がありますが、そのような物はなかったと思います」
どうやらミーアもそのような魔力溜まりは知らないようで、以前行った時はそのような物はなかったそうだ。
「今の所私には大した影響はないので放置でいいですよ。それよりお二人は今日も泊まって行くと考えていいんでしょうか?」
「なら僕達で調べてもいいですよね?」
「……ええ、構いませんよ何があっても知りませんけど」
「エルフェリアさん明日場所に向かいましょう。詳しく調べれば何か分かるかもしれません」
「わかりました」
「お二人は今日もお泊まりでいいですね」
そう言い本を置き昼食と夕食の用意を始める為に動き出した。




