森の中の出会い
青年が目を覚まし辺りを見渡すと、そこはあるのは、木、木、木ばかりで、人工物などは全く存在しない場所だった。
「此処が魔法のある世界か? それにしても、木しかない場所だな」
辺りを見渡すがやはり人工物などはなく、見た事もない植物や小動物が、居る為に此処が異世界だというだとを確認して、青年は先ほどした、老人とのやり取りを思い出し、現状を確認することにした。
時は少し戻り、老人は青年を見ながら、ドキドキ、わくわくしていた。
青年が望んだものは、まずは魔力で、その理由は簡単だった、元々青年の生きてた世界には魔力という概念がなく、青年自身も魔力を持たないからだ。
老人は、その説明に納得したように頷き、手を青年に向けると光が発せられ、青年の体に異変が起こった。
「なんだか、くすぐったい様な感じですね?」
彼は、魔力が体に流れる、感覚を感じ取る、今まで魔力など体に流れていなかった為、その感じは鋭敏に感じられた。
そして青年が、次に望んだものは知識だった、何と言っても彼は、今から行く世界について何も知らない、元々の世界なら、それなりに博識のつもりだが、今から行く世界の常識などはさっぱりで、その他に文字など、読み書きする知識も必要だった。
「それなら、世界のすべての知識を与えよう」
「いや、そんなにはいらないです」
とんでもない事を言い出す老人を見て、青年はすぐさま、その意見を却下する、世界のすべての知識など貰っても困る、それだけですでにチートだった。
平和に暮らしたい青年には、どう考えても不必要なものだった。
仕方なしに老人は、青年が異世界に渡っても、文字の読み書きなどは出来るようにしてくれ、知識においては一冊の本をくれた。
「その本には、世界のすべてが記されてる、表紙の空白の部分に、調べたい内容を書く事で調べる事が出来るから、それで調べるといい」
その本を、お礼と共に受け取る彼は、最後の要望を伝えた。
それは、向こうの世界で使われてる、サバイバル道具とか生活道具が欲しいと言う事で、彼自身流石に何もない異世界に放り出されるのは、不安でしかなかった。
「欲がないのぅ、お前さんは……」
老人は、茶色いローブを青年に渡す、このローブは内側が異空間に通じていて、物をどれだけでも入れられるようになっており、しかも中に入った物の時間が止まるという優れもので、老人の説明では、この中には当面の生活用品が入ってると、教えてくれた。
青年は無限に物が入れれると聞いて、多少便利すぎると思ったが、老人曰く、少しくらい便利な物を持っていても罰は当たらんと言って、笑みを浮かべる。
まぁ、確かに荷物の運搬とかは困ると思い、素直にローブに腕を通して着用する。
「これでよし、それでは、行きますか異世界!」
老人は青年を異世界に転生させようと準備をし始めるが、まだ、大事な事を聞いてない事に気が付いた。
「そういえば、お前さんの名前を聞いておらんだのぅ」
「確かに、名乗ってなかったですね、悠魔です、九条悠魔です」
老人は、青年の名前を聞き満足したように頷き、青年――悠魔の肩に手を置くと、光が発せられ悠魔を包み込んで行った。
そして、悠魔は今やってる事はローブから取り出し並べた、道具の確認をしていた。
保存食、大きめのサバイバルナイフ、試験管に入った青や赤の液体、寝袋など、中には悠魔の知ってる物もあれば、知らない物まで色々ローブの中には入っていた。
「色々入ってるな、この液体は何だ? 赤と青があるが……」
疑問に思い、早速悠魔は神様に貰った本を使い液体を調べ始める、表紙の空白の部分に、液体の特徴を書いて行くと、本のページが光り、そこには液体の名称、成分、効果などが書かれていた。
赤い方が魔力を回復するレッドポーション、青い方が体力や傷を治すブルーポーションだと分かり、まるでゲームの世界だと思い、他にも見た事ない道具を調べて行った。
一通り調べて、広げていた道具を片付けてると、森の奥から女性の悲鳴が聞こえてきた、気になり悠魔は悲鳴の方に駆けだす。
茂みから顔を出して覗き見ると、そこには金髪の長い髪をした少女が、数匹の緑肌の醜い姿の化け物に囲まれていた。
少女は、一見人間に見えるが、人間とは違い耳が尖っており、漫画やアニメで見たエルフみたいで、化け物の方はゴブリンに見えた。
「何だ、あれは?」
悠魔は本を取り出し、彼らの事を調べると、案の定少女はやはりエルフで、化け物はゴブリンだと判明した。
「この場合、助けるのはエルフだよな……ゴブリンの数は三匹か、確かローブの中にあった――」
彼はローブの中から、三本の黄緑の液体が入ったフラスコを取り出し準備をして、茂みから飛び出して、ゴブリンの一体を後ろから、フラスコで殴り倒した。
殴った衝撃でフラスコが割れ、黄緑の液体がゴブリンにかかる、ゴブリンは痙攣して動かなくなる。
この液体は、パラライズポーションと言い、液体を摂取など皮膚に付着すると体が麻痺して、しばらく動けなくなる。
「まずは一匹!」
仲間を倒された事に、ゴブリン達は、エルフの少女から悠魔に標的を変える、彼らは、こん棒と石斧を構えて、襲い掛かって来る。
こん棒を振り上げたゴブリンに、悠魔はパラライズポーションを投げる、ゴブリンに命中したフラスコは割れ、液体がゴブリンにかかり、先ほどと同じように痙攣をして動かなくなる。
「これで、後一匹」
最後の一匹は悠魔目掛けて、石斧を振り下ろすが、悠魔は石斧を回避し落ちていたこん棒を拾い、ゴブリンを殴り倒した。
ゴブリンは倒れ、立ち上がろうとするが、その僅かな隙をつき、悠魔はパラライズポーションの栓を開けて、液体をゴブリンにかけた。
ゴブリンが動かなくなるのを確認して、その場に座り込んでしまう、そんな彼を心配して、少女は声をかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「こ、怖かったぁぁ!」
微笑しながら、悠魔は少女の方に振り向き、腰が抜けて立ち上がれない事を伝える、少女は間の抜けた表情をして、悠魔に手を貸して立ち上がらせる。
「すいません、助かりました」
「いえ、こちらこそ助かりました」
二人は、ゴブリン達が動かないうちに、その場を後にする。
しばらく、森の奥に向かい歩いて行くと、石積みの建築物が見えて来た。
建築物は巨大な城壁で、此処はエルフの国――グリーンウッド王国の王都のプリーと言う街だった。
エルフの国と聞き、悠魔は流石は異世界だと思い、少女の後に続く。
少し歩いたら門が見えて来て、少女は悠魔に此処で待ってるように言い、門の近くに立っていた、男性エルフと何かを話し始めた。
その間、暇になった悠魔は知恵の書――老人に貰った本を取り出し、エルフについて調べ出した。
「どうやら調べても、エルフという種族は、僕の認識と大した違いはないか」
悠魔が、本を閉じてローブの中にしまい、本当に異世界に来たんだと思い、空を見上げ目を閉じ、深呼吸をして気を落ち着けていると、少女と話し込んでいた、少女と同じ金髪の髪を短く切りそろえた、男性エルフが歩いて近づいて来た。
「妹の危ない所を助けてもらいありがとう!」
「いや、そんな当たり前の事をしただけですから、頭を上げてください!」
男性エルフが、たじろぐ悠魔の前に立ち、何度も何度も頭をさげて、ゴブリンに襲われた、妹を助けた事について、お礼を言い続けた。
「兄さん、落ち着いてください!」
少女は、腰のベルトにさしてあった、杖を手に持ち、兄と呼んだ男性エルフの後頭部を叩き、叩かれた痛みにより、冷静さを取り戻した男性エルフは、殴られた所をさすりながら、自分を殴った少女に避難の目を向けた。
「痛いじゃないか」
「すいません兄が!」
暴走する兄の奇行を必死に謝る少女、どうやら、この二人は兄弟の様で、取り合えずお互いは自己紹介をする。
「僕は九条悠魔です」
「ふむ、変わった名前だな、九条が名前か?」
この時、悠魔はどうやら、この世界では名前が先に来るものだと思い、彼らに説明をした。
「いえ、悠魔が名前で九条が苗字――いえ、家名です」
「変わってるな、俺はエルメス・オルデジアだ、よろしくな」
「私はエミリア・オルデジアです」
それぞれ自己紹介して、悠魔が森の抜け方を聞くと、エルメスは難しい顔をして、夜になると森の魔物達が動き出すと教えてくれ、日没までには森を抜けるのは、無理だと言い、今晩は自分達の家に泊まるといいと提案をしてくれた、悠魔が少し思考するが、頼れる相手もなく、素直に頭を下げお願いする、エルメスは妹のエミリアに、彼を家に案内するように言い、仕事に戻っていった。
街の中を二人は歩いて聞く、エルフの国とは聞いてたが、人間もいるようで少し安心する。
「すいません、兄が強引に」
「いえ、こちらも助かります、日没までに抜けれないのなら、野宿をしないといけないので」
「っ! それは危ないですよ! 夜の森は、野犬の魔獣だけじゃなくて、ゴブリンやオーク達が血気盛んになりますから、女性の一人での野宿は危険です!」
エミリアは、すごい剣幕で悠魔に詰め寄り、夜の森がいかに危険かを語り始めた、彼は、その剣幕に押され後ずさりながら、エミリアをなだめ街の住人の注目を集めてると言い落ち着けると、エミリアは顔を赤くして、注目していた人達に頭を下げて謝りだし、その場から速足で逃げ出した。
「もう、悠魔さんが馬鹿な事を言うので、恥をかいちゃったじゃないですか」
「すいません、どうも僕の認識不足でした」
悠魔が頭を下げ、自分がいかに危険な事を口にしたのかと、反省をエミリアに伝え、彼女も理解してれたのか、怒っていた顔を和らげわかってくれた、ならいいですよと悠魔に微笑む。
この時、悠魔は一つだけ、訂正しないとけない事を思い出した。
「エミリアさんは、僕の事を女性と言いましたが、僕は男ですよ」
「……え」
少し間を置き、エミリアが声を出し、間の抜けた表情をして、悠魔に聞き返した。
この時の彼女の顔は、驚きや戸惑いで覆われており、悠魔自身これまでの経験で、この手の顔は見慣れていた。
「いやいやいや、何を言ってるんですか、どう見たって悠魔さんは女性ですよ!」
「いえ、生物学的上では僕は男ですよ、確かに女顔でよく間違えられますが」
「…………なんかすいません」
「気にしないでいいですよ、この髪のせいなのかな」
悠魔は、ルーズサイドテールにした髪の先端を掴み触り始めた、しばらく触っていて、飽きたのか手を放し、会話のないまま道中を歩いて行く、しばらく歩いていると、エミリアが一軒の建物の前で止まる。
「此処が、私の家です」
エミリアがドアを開け、家の中に入って行く、悠魔も続くように家に入ろうとして、ドアの隣に置いてある看板に『ペリドット魔法店』と書かれている事に気が付く、家の中に入ると、エミリアが店内でエプロンを着けたエミリアに似ているが、雰囲気が大人びている、エルフの女性と話しをしていて、その近くに歩いて行くと。
「お母さん、この人が、私の命の恩人の悠魔さんです」
「初めまして、悠魔です」
「初めまして、私はエミリアの母親のシャルル・オルデジアよ、よろしくね、悠魔君でいいのよね? エミリアから聞いた時は、本当か疑ったけど、本当に女性みたいな外見をしているのね」
シャルルにも悠魔の見た目は、女性にしか見えないようで、やはり髪の毛を切るか、本気で考えだした。
「お母さん失礼です! ごめんなさい悠魔さん」
エミリアが、母親の言動を非難して、悠魔に謝罪をして、頭を下げようとした時。
「別にいいですよ、もう慣れてますから」
悠魔は、その行動を制止してシャルルに、森でゴブリンに襲われていたエミリアを助けて、その彼女の案内で、エルフの国の王都プリーに来たが、日没までに森から出られないので、兄のエルメスに家に泊まる事を提案された事を説明した。
「娘の危ない所を救ってもらい、感謝します、何も大したお礼は出来ないと思うけど、ゆっくりして行ってね」
「お世話になります」
悠魔は、今晩お世話に、この家族に頭を下げた。