魔女になる理由とは……
炎の魔力兵装を纏ったミーアが海水を蒸発させながら高速で移動する。悠魔は彼女を追うが、翼を使用しない飛行方法の制御が上手く行かなく彼女に追いつけない。
悠魔はこの模擬戦を始める前に彼女に教えてもらった事を思い出す。
「これも魔力兵装の付加か……」
魔力兵装は魔力を魂に融合変異させることで、体に流れる魔力の属性を変化させる。それと同時に術者の肉体も変化させ魔力そのものに近いものに変化させる。
「見た事ないけど精霊に近いものになるんだよな確か」
精霊の体は魔力で出来ており物理的な肉体は存在しない、その為物理攻撃は効果がなく魔力を帯びた攻撃でしか傷を負わせられない。さらに物理的な肉体を持たなく、魔力で構成された肉体なので今の悠魔やミーアの様に魔力を放出すれば飛行する事が出来る。
「翼を出さないで飛行出来るのはいいけど中々難しい――っ」
何とか飛行をしていた悠魔は上空から降り注ぐ炎の魔力弾を感知し、魔力弾の間を縫うよう回避をして飛行して行き、ミーアとの距離を詰める。
「だんだん飛行に慣れて来たみたいですね」
「それはどうもっ!」
炎が悠魔の片腕に収束し勢いよく振り貫く。
「火拳!」
ミーアの体に拳が触れた瞬間大きな爆炎が広がり彼女を吹き飛ばす。それと同時に悠魔は距離を取り息を切らしながら空中に停止する。
属性魔力を使えるようになった事で属性魔法を使用できるようになるはずだった悠魔だったが、肝心の魔力回路が壊れてる悠魔に魔法はまともに使えなく、そこで今まで通りの戦闘スタイルで戦う事に決めたが、属性が付与されるだけでこれほど威力が上がるとは悠魔は思ってなかった。
「魔法と同等の威力が出るとは驚きでだな」
「当たり前です。そもそも魔法と言うものは効率よく現象を起こすものです。操り弾丸を作る魔法や放出する魔法どれも簡単に効率よく使用するもので、その気になれば魔法陣などなくともその現象を起こす事はある程度可能です。一部の例外はありますけど、威力だけなら魔法にも劣りませんよ」
爆炎が晴れた後に炎が集まりミーアが姿を現す。
「そんな事も出来るんですね……」
「なれれば悠魔君でも出来ますよ。そもそも今の私達には物理的な肉体はありませんから体を構成している魔力を霧散、収束でこの様な事も出来ます」
再びミーアの体が火の粉の様に霧散し、再び悠魔の背後に先程と同じように炎が集まりミーアが姿を現す。
「ですからこういった移動方法も出来ます」
「っ」
慌てて声の方を振り向く悠魔だったがすでにそこには火の粉が待っており、再び悠魔の背後に姿を現したミーアは、悠魔目掛けて炎で作られた巨大な腕を振り下ろす。
何とか防御をするが、勢いよく吹き飛ばされて海面に叩きつけられる。海水が沸騰蒸発し悠魔が纏っていた炎の勢いが弱くなる。
「魔力兵装は強力ですけどこういった弱点もあります」
「体が炎になってるので水に弱い」
「はいその通りです」
ミーアが海面に立ち悠魔に手を貸す。その間も彼女の足元は海水が沸騰し蒸発し続ける。
「決して無敵ではないです寧ろ弱点をさらけ出します。ですから創意工夫をしてください、そう言った事は悠魔君は得意ですよね」
そう言い悠魔を引き上げた彼女は悠魔から手を放し、纏っていた炎の魔力兵装を解除して砂浜目指して海面を歩いて行く。残された悠魔は魔力兵装を解除して彼女の言葉を考える。
「弱点を何とかカバーするか……さてどうしたものか」
頭を悩ましながら彼女の後を追うように歩き出す。
休憩をこまめに取りながらミーアとの模擬戦をつづけて、両手で数えれない程の回数になった頃、ミーアは急に終了と言い放って来た。
「もう終わりですか?」
「はいこの程度使える様になれたら後は剣姫の魔女さんに聞くか自分で何とかしてください。あくまで私が教えるのは魔力兵装の使用方法なので、一通りの使用方法は教えたつもりですから知識の魔女さんからの依頼は果たしたものとします」
あくまで教えるのは魔力兵装の使用方法だけで、基礎的な魔力兵装の運用方法だけでこれ以上は教えてはくれないようだった。
「それじゃあ外に出ましょうか」
「はい」
これで終わりと言わんとばかりにさっさと歩いて行く、悠魔も遅れずに彼女の後に続いて歩いて行き光にのまれるとそこは見知った自身の自室だった。
「それじゃあやる事はやったので私はこれでお暇させてもらいます」
「あ、ありがとうございます」
さっさとディオラマ魔導箱を魔女帽子の中に片付け、その帽子をかぶり部屋を出て行こうとする彼女に慌てて悠魔はお礼を言う。
「別にお礼なんていいですよ。私は頼まれた事をしただけですから」
「それでもありがとうございます」
「……余計なお世話かもしれませんがあまり魔女に感謝しない方がいいですよ。剣姫の魔女さんはどうか知りませんが、基本的に魔女という人種は自分の目的のためにしか動きませんから」
「ミーアさんはどうなんですか? 僕に魔力兵装を教えたのは貴方にとって何か目的があってですか?」
「……ただ知識の魔女さんに頼まれたからですよ。私には特別な目的はないですから……魔女になったのも……いえ悠魔君に話す事ではないですね。それでは私は帰りますのでさようなら」
そう言い残し彼女は部屋を出て行き姿を消していった。
ミーアは特別目的なく魔力兵装を悠魔に教えた。あくまで彼女はエルフェリアに頼まれたから教えただけだと言っていた。その後言葉が続きそうだが彼女はやめて部屋を出て行った。
「魔女になった理由か……そう言えばアリスさんは何で魔女になったんだろう?」
前に聞いた事があった気がするがよく覚えてない、昔助けた魔女は息子を助ける為に魔女になったと聞いた記憶がある。その他の魔女達はどうなんだろうと純粋に思った。




