生き残る為
目の前に迫りくる黒い地龍の群れ、ステールが残り此処まで来る間少数での奇襲は何度かあったが、これほどの数が襲い掛かって来た事はなく、どうやらこの数を見るとステールは力尽きたようだった。
「蜥蜴共此処からは通さない!」
悠魔には珍しい荒々しい喋り方で、両腕を灼熱の爪に変化させ地面を蹴り地龍の群れに突っ込んでく、真っ赤に輝き雨を蒸発させながら爪を振り下ろすと、次々と地龍を倒していった。
近接戦は不利と見たのか、黒い地龍は口を開き岩の塊を悠魔目掛けて次々と吐き出す。数が多いがギリギリで回避をして行くが、一瞬ふらつき回避が遅れ視界を岩の塊が埋め尽くす。
「っしまった!」
「悠魔様⁉」
完全に直撃すると思った悠魔だが、イオの蛇の尾が勢いよく岩を跳ね飛ばし破壊する。
「大丈夫ですか⁉ 一人で無理をなさらないでください」
「すいません助かりました」
「此処からは私も参戦させていただきます」
手にしていた錫杖を構え、突進して来る地龍を回避し錫杖を地龍の眼球に打ち込む、咆哮しながら後退する地龍に、イオはさらに蛇のような動きで高速移動し巻き付き錫杖をもう一つの眼球に穿つ、今度は逃げられない様にさらに深く突き刺し、かき混ぜる様に錫杖を振る。
絶命する地龍は地面に倒れ伏し動かなくなるが、次々と地龍が彼女に襲い掛かる。しかし悠魔が間に入り灼熱の爪を振るい両断し、お互いに背中合わせになる。
「今最後の人達が川に入りました」
「それでは私たちも向かいましょう」
「先に行ってください、いざとなったら飛行してでも川を渡ります」
「大丈夫ですか? 飛行はそれほど馴れてないと伺っていますが……」
「無理にでもします。光で奴らの目を潰します合図をしたら走ってください」
「……分かりました」
悠魔は腕を元に戻しローブの中から鎖の破片の様なものや沼を生み出す小さな黒い箱など足止めの魔道具を取り出す。
「走ってください!」
合図と共にイオは黒い地龍の間を駆けだしていく、悠魔は光を発生する魔道具を投ると、強烈な閃光が地龍たちを襲う、イオは目を塞いでおり視界を閉じ舌先で魔力を感知し走る。
続いて悠魔もそんな彼女を追って駆けだす。しかし目つぶしを出来なかった地龍が二人を追い走り出すが、さらに悠魔は持っていた鎖の破片の様な物を投擲すると、破片は割れ網の様に編み込まれた鎖が飛び出し地龍を拘束する。
次に沼を生み出す魔道具を投擲し幾つもの沼を作り出す。鎖の網で拘束された地龍は躓き地面に転がり、さらにその地龍に躓き後ろから追って来た地龍たちも転倒する。しかしそれすら乗り越えて来る地龍たち、それでも今度は悠魔の魔道具で生み出した沼に足を突っ込み動きを鈍くする。
「まだまだ!」
大量の魔力弾を作り出し放つ、この程度の攻撃では傷どころか動きを止める事は出来い、そんな事は悠魔も百も承知で、彼が狙ったの周囲に生えてる木で、魔力弾を受けて倒れる木が沼や鎖の網で拘束されてる地龍に倒れる。
この程度では僅かな足止めしか出来ないと思うが、それでもしないよりましだと思いながら走り出す。
イオはすでに川の半分程まで渡っており、悠魔も彼女を追うように川に入る。思った以上に流れが強く流されそうになるので、必死に踏ん張りながらゆっくりと川の中を歩く、これなら川を飛行した方が良かったかと思ったが、思っていた以上に強風が吹いていてこの中を上手く飛べるか不安だった。
「くそ、急がないと」
川の中を歩いて行くが、後ろから咆哮が聞こえて来る。もう追いついて来たのかと思うが確認をしてる余裕がなく必死に歩く、後ろからは地龍が川に入って来たのか大きな音が聞こえて来る。
「悠魔君! 早く追って来てます!」
コトナの声が聞こえて来る。彼女は黒い地龍の足止めをしようと魔法を発動させようとしたが、中々放てないでおり、射線上に悠魔が居るので巻き込む恐れがあり中々放てないでいた。
「ダメ悠魔君追いつかれます! 急いでください!」
そんな事悠魔も分かってる。水をかきわける音がどんどん近づいて来てる。
「まずいまずいまずい」
ついに追いつかれてしまい悠魔に鋭い牙が襲いかかる。コトナもちょうど岸にたどり着いたイオも声を張り上げる。
しかしその瞬間薄い光の円盤が黒地龍を切り裂く、地龍は上顎と下顎に分かれ切り裂かれそのまま川の中に倒れ流されて行く。
皆呆気にとられる。何が起こったのか分からない、そんな中この雨の中よく透る少女の声が聞こえて来る。
「もしもの事を考えて国境付近に待機していたけど、まさか本当に来るなんて」
声の方に振り向くコトナとイオと悠魔、いつからいたのか分からないがそこには沢山の兵と巨大な黒い斧を持つ少女が立っていた。
少女は軍服を着ており、無表情で短めの金髪をサイドテールにし少女は少し呆れたように手にした大きな斧を構えると、刃の分が左右に開き光が集まり光る円盤を作り出す。
「そのまま動かないでよ」
勢いよく斧を振ると、円盤が斧から射出され地龍を切り裂いて行く、あの地龍を切り裂くほどの威力を持った武器に皆声が出ない。
彼女を脅威と感じたのか地龍たちは徐々に後ずさり、最後は一匹残らず森の中に逃げて行った。
「ふん」
少女は斧を背中に担ぎ、次に悠魔の方を向き指をくいっと上げると、悠魔の足元から岩が飛び出し、その勢いで悠魔は岸に吹き飛ばされる。
「さて、これはどう言う事なのかしら? ちゃんと説明はもらえるのよねエストアとアリテールの騎士達」
黒い地龍の脅威は取り合えず去ったが、一難去ってまた一難かと思いこの場をどう切り抜けるか考える。
一番最初に口を開いたのはコトナだった。
「まずは謝罪をさせてください。勝手に領土に侵入した事、あの地龍たちを連れてきてしまった事を」
コトナは頭を下げる。彼女に続きイオも頭を下げ悠魔もそれに続く。
「お察しの通りに私はエストア王国の騎士コトナ・フルールです」
「私はアリテール王国の四獣士イオ・クラレント」
「ふ~ん」
少女は興味なさそうに視線を彼女達に送る。
「それで?」
「前もって伝えた通りに私たちは起源龍の討伐に向かいましたが、残念な事に敗退をしてしまいこの地まで逃げて来ました。お礼が遅れましたが先程は助けていただきありがとうございます」
「勘違いしないで貴方達がどうなろうと私の知った事でじゃない、あんなものをこの国に入れる訳にはいけないの」
「それでも私達は助けられました。感謝します」
「理由は分かったは、それでも貴方達が起こった行為は侵略行為にあたるわね……さてどうしたものか?」
少女は冷たく言い放つ、理由はどうあれ無理矢理他国に押し入ったのでたてまでもそう言う捉えかとをされた。
こじつけだと叫びたいがそれは出来ない、もし彼女達が国際問題にすればこちらが悪い事になる。現状これからどうなるかは彼女次第だ。
「そうねぇ……まぁいいわ。貴方達は取り合えず連行させてもらうわ」
彼女は他の兵に指示を飛ばすと、兵達は彼女の命令通り動き出し、この場にいたエストア、アリテール兵、悠魔を拘束する。




