雨の中の敗走
悠魔はいくら待っても来ない痛みから不思議に思いゆっくりと目を開ける。目の前には黒い地龍の目に剣突き立て取り付くコトナの姿があり、黒い地龍コトナを剥がそうとする。
――魔槍
彼女は剣先から魔法の槍を放ち黒い地龍の頭部を内部から破壊し、肉が焦げる匂いが辺りに立ち込めて、地龍は地面に倒れる。ゆっくりと黒い地龍に突き刺さった剣を抜き、悠魔を見て安堵するがその表情は一瞬で怒りの表情に変わる。
「見つけましたよ!」
「……コトナさんどうして此処に?」
「捜しに来たんですよ一人で囮になって逃げた馬鹿者を!」
「あ、はい、すいません」
「全くもう、お陰で助かりましたけど……全滅は避けれましたけどバラバラになって物資も殆ど失ってしまいましたけど」
悠魔が囮になり相当数の黒い地龍を引き付けてくれたおかげで部隊の全滅は避けられたが、結局バラバラになり殆どの物資も失ってしまった。僅かな物資と数百名と共に森に逃げ込んだ。
「どうやら前線の部隊も現状を見て後退したようです。最後に確認したところジェンガ君やアリスさんは無事でしたよ」
「それはよかった。それでこれからどうします?」
「まずはこの状況から脱しないと! これからの事はその後です!」
コトナは魔槍を数十個並行発動し放つが、彼女の魔槍は黒い地龍には効果はなく、その突進を止める事は出来なく、苦虫を噛み潰したような表情をしギリギリで回避し、その目に剣を突き付ける。
「ええい、一匹一匹を倒すに手間がかかる!」
「コトナさん――伏せてください!」
悠魔のその言葉にコトナは慌てて伏せると、彼女の頭上を数本の雷槌の弾頭が飛んでいき、自分達を囲っている黒い地龍の一部を吹き飛ばし、方位の一角に穴を開ける。
「走り抜けますよ!」
コトナを脇に抱えて悠魔は方位に開いた穴目掛けて走り出す。他の人達も悠魔に続き走り出すが、何十人かは黒い地龍の牙、爪の餌食になる。
徐々に日が暮れて行き薄暗くなる森の中を走る。方位を突破したが何処に逃げてるかは、誰にも分からなく、唯々薄暗いくらい森の中に走って行く。
「悠魔君雷槌は後どのくらい残ってますか⁉」
「もうそんなに残ってません次囲まれたら終わりです! それより逸れた人たちは見えませんか⁉」
「見えませんよ! 何処を見ても木ばかりです!」
こんな状況では援軍を期待できない、徐々に他の人達も疲弊していき足が遅くなっていく、なんとか悠魔とコトナ働きで持ちこたえているが、それでも一人一人と倒れて行く。
「ダメです何処かで休まないと、このままじゃ全滅します!」
「そう言ってもこんな状況では――っあそこならどうです!」
コトナはそう言いある場所を指さす。その場所は森の中から僅かに見える崖で、それを背にすれば少なくとも後方からの奇襲は防げる。
「分かりました! ならもう少し距離を取らないと、残りの雷槌を使いますからそうしたら皆さんの誘導をお願いします!」
「はい!」
彼らの群れと距離を取る為に残り少ない雷槌の弾頭を全て放ち、それと同時にコトナの誘導により皆動き出す。
崖を後方に陣をはり傷つき疲れた人たちを招き入れ、交代で休憩を取りながら襲い来る黒い地龍に対応する。
「悠魔君少し休んでください! 体がもちませんよ!」
「それを言うならコトナさんもです!」
二人は先程からずっと戦い続けてる。とうに二人共限界で、立っていられる方が不思議なほどだった。
「雷槌もない状態での他の人ではこいつらの相手は荷が重いです」
「そうですけど……」
コトナの剣の刃は欠け刀身にはヒビが入っており今にも折れそうで、悠魔の両腕も皮膚は焼けただれており、龍族の回復力を持つ彼ならすぐに治癒出来るが、その回復が追いついていない程疲弊している。
「コトナさん!」
彼女目掛けてエリクサーを投げる。疲労も傷も治せるが心の疲弊までは治せない、悠魔もコトナもこうやって騙し騙し戦い続けてる。
「くそ、頭がおかしくなりそうですね」
「体は大丈夫なんですか⁉」
「問題ないです、エリクサーでいくらでも治せます――っしまった一匹抜けられた!」
「任せてください!」
いつの間にか雨が降り出しており、コトナは泥を跳ね上げながら走り、地龍の眼光に剣と突き付ける。それと同時に限界が来たのか彼女の剣がおれる。
「し、しまった!」
眼光を貫かれた怒りからコトナに標的を変更し、彼女目掛けて咢を開き襲い掛かる。
「っくそ! 間に合え!」
悠魔はコトナを助ける為に大剣を取り出し投擲する。大剣は勢いよく飛び大きく開いた地龍の口の中に突き刺さる。
黒い地龍の口に刺さった大剣の柄を握り、コトナは勢いよく大剣を差し込み切り裂く、絶命した地龍から大剣を抜きながら肩で息をし大剣を構える。
「助かりました!」
「これ以上は……」
チラッと悠魔は陣の方に視線を送ると、向こうにも何匹かの地龍が張り付いている。これ以上進行させない為に、皆必死に柵を挟み槍を振るっている人たちを視界の入れる。
「コトナさん向かってください! 此処は僕一人で押さえますから」
「でも――」
「さっさと行ってください! これ以上犠牲者を出さない為に早く!」
「っ分かりました」
彼女は悔しそうに唇を噛み悠魔を背に走って行く、陣に辿り着くと、陣に張り付いていた黒い地龍を倒す為に、剣が通りやすい柔らかい部分、目や口内に剣を捻じ込み振るう。
悠魔の視界には何処を見ても地龍、地龍、地龍で埋まっており、悠魔は覚悟を決めて両腕を灼熱の爪に変化させる。真っ赤な腕に雨が辺り蒸発する。
「まだまだ行くぞ!」
目の付く地龍目掛けて爪を振り下ろし倒していく、一匹一匹と確実に絶命させていく、次第に爪の熱も落ちて行き普通の龍の爪に戻って行く、悪態をつきながら新たに魔法石を起動し、再び両腕を灼熱を纏わる。
「これ以上は限界か……」
そう思った時目の前の地龍目掛けて投石があり、地龍を吹き飛ばされる。呆気にとられる悠魔だったが、次に大きな笑い声が聞こえて来て崖の方を見上げると、そこによく見知った男が立っていた。
「悠魔! 助けに来たぞ!」
ボロボロの状態のステールが立っており、思わぬ援軍に悠魔は安堵する。ステールは崖滑り降りだし、崖目掛けて拳を振り下ろすと崖が崩れ出し、その破片を持ち上げ投げ始める。
崖の下に陣を張っていたコトナ達は大慌てで、その場から避難を開始する。
「退避、退避! 急いでください! 崖の破片が落ちてきます!」
「オラオラオラ!」
コトナは高笑いしながら岩を投擲する馬鹿を非難する様な目を向けるが、此処でのステールの登場は思いがけない幸運で彼女も安堵する。
ステールは地に足を着けると同時に、地面を蹴り跳躍し黒い地龍の懐に入り込み金剛に覆われた拳を叩き込む、硬い鱗で傷を負わす事はかなわないが勢いよく吹き飛ばし、ボーリングのピンみたいに他の黒い地龍を吹き飛ばす。
「おう! やっと仲間を見つけたぜ! 無事でよかったぜ悠魔!」
バシバシと勢いよく悠魔の背中を叩くステール、呆れる悠魔、肩で息きをしながら落石から逃げて来たコトナや他の人達、先程までと違い僅かに皆に明るさが戻る。
「痛いですって! 全く馬鹿なんですか? あんなことして下の人に当たったらどうするんですか……全くもう」
ステールの腕を振り払い悪態をつく、取り合えず危機的な状況を救われた事に感謝する。
「悠魔様コトナ様無事でよかったです」
後からボロボロのイオと何人かの獣人と駆け寄って来る。合流出来た事は喜ぶことだが、それでも状況は変わらない、多少人数が増えた所で黒い地龍の群れには勝てない。
「今はのんびり話してる場合ではありません、悠魔様とコトナ様奴らが態勢を整える前にこの場を離れましょう」
イオの言葉に皆頷きその場から駆けだす。
 




