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異世界でのセカンドライフ  作者: サイン
第六章
159/227

クリルは苦労人(皆知ってる)

 ニアは王宮内を歩き回っており、そんな彼女にリボーズが話しかける。


「小っちゃい嬢ちゃんこんな場所でどうしたんだ、もう夜中だぞ?」


「リボーズ様! 悠魔様を見かけませんでしたか? まだ部屋に帰ってないので探してたんですが……」


「坊主をか? いや見てないな……クーちゃんなら何か知ってるかもな――おっ丁度いい所にクーちゃん! 聞きたい事があるんだが」


「はい?」


 近くをたまたま通りかかったクリルはリボーズに呼び止められる。少し不機嫌そうに()()の書類を抱えたまま二人に近づいて来て、ニアが悠魔を捜してる事を聞くが、生憎彼女も今日は悠魔を見てなかった。


「見てはいませんが朝早くから模擬戦をしていたようでしたよ……あ、あと昼頃チノ様から面倒な客が来たからしっかり首輪をつけとけって……言ってましたよ」


「面倒な客? ああ、坊主の事か……なんだチーちゃんの所に行ってたのか」


 面倒な客ですぐに悠魔を結びつけるのはどうかと思うクリルで、彼女の悠魔のイメージは真面目で優しい好青年だが、チノはどちらかというと他者とのかかわりを好まない、その為あの青年とは合わなく厄介な客として扱われてる。


「よし! それじゃあチーちゃんの所に行くか!」


「はい? 今何時だと思ってるんですか」


「でも、小っちゃい嬢ちゃんが探してるし……」


「チノ様の所にいるなら問題ないのでは?」


「そう言わずクーちゃんも行くぞ!」


「はぁ⁉ 私はまだ仕事が――あぁぁぁ! 書類がぁぁぁ!」


 無理矢理クリルとニアを両脇に抱えて走り出す。クリルが抱えてた書類が宙を舞い、それを見たクリルは涙目になりながら、声を張り上げて誰でもいいから書類を集めてくように言う。




 どうしていいか分からなくオロオロするニア、無理矢理仕事を中断されて連れてこられて不機嫌なクリル、何か面白い事があるのではないかと思うリボーズの三人はチノの店を訪れる。


 夜遅い時間とは言え彼女の家には光がともっており、流石に店の方は閉まっていたので裏口をリボーズは勢いよくノックをする。


「うっさいわねぇ誰よこんな夜遅くに⁉」


 勢いよくドアが開き中から不機嫌なチノが出て来る。来客の姿を見てさらに顔を顰めドアを閉めようとするが、リボーズが慌てドアを掴みそれを阻止する。


「待て待てちょっと聞きたい事があるだけだ!」


「……なによ一応仕事はしてるわよ、エリクサーの改良も続けてるけどそっちは進展なし、正直お手上げよ」


「その事はいいんだ――いやよくないが……その事じゃないんだ昼間坊主が来ただろ? 何処行ったか知ってるか?」


「はぁ? 坊主坊主……ああ、悠魔の事? 少し相談事をされてその後街の外に行ってからは知らないわ」


「外に何しに行ったんだ?」


「少し魔法の実験よ、悪いけどそれ以降は見てないは……もういいかしら?」


「チーちゃんそこまで案内してくれ」


「はぁ⁉ 何でそんな面倒なっ――ちょっと放しなさい! 話を聞きなさいぃぃ!」


 荷物の様に担がれて運ばれるチノは騒ぐが、リボーズは取り合わずそのまま彼女を担いで街の外に歩いて行く、その後ろをオロオロどうしていいか分からない状態のニア、申し訳なさそうに担がれるチノに頭をペコペコ下げるクリルがついて行く。




 街の外に出てチノの案内で悠魔と別れた場所に向かう、まだその場に居るか分からない、そもそもこんな夜遅くまで街の外にいるとは思えなかったが、手掛かりがないので取り合えず向かうことにした。


「もういいでしょ……こんな時間に外に出たくないわよ」


「そう言うなって偶には夜の散歩もいいもんだろ?」


「明かりに虫が寄って来るから嫌よ」


 確かに街の中なら多少は明るいが、街の外は暗いので明かりが必要なので、一番前を歩くチノが作り出した光の球体には虫が数匹群がっていた。


「陛下の場合偶にではないですけど」


「……えっとそれはな」


「…………」


 クリルの無慈悲な視線がリボーズの背を捉える。その視線にいたたまれなくなり、誤魔化すようにわざとらしく口笛を吹きながら空を見上げる。


「ついたわ……っ何これ?」


 周囲はまるで巨大な獣が暴れた様に、地面には爪痕みたいな傷が出来、木々はなぎ倒されていた。


「昼間来た時はこんなんじゃなかったわ……もしかして魔物の襲撃?」


「周囲に魔物の気配はないぞ……」


 警戒するようにチノはいつでも魔法を発動出来るように準備をし、クリルはこの中で一番幼いニアを、守る様に彼女小さな手をギュッと握る。リボーズは特別警戒をする事もなく周囲を探る様に視線を動かす。


「ん、チーちゃん何か来るぞ結界張れよ巻き込まれるぞ」


「はぁ! っ何よこの魔力――悠魔、ちょっと何が来るのよ⁉」


 チノは不満の声を上げながらも、大きな魔力波を感じ、魔導書を取り出し慌てて皆を守る様に球体結界を展開する。その直後に大きな衝撃が彼女達を襲い結界にヒビが入る。


「ふぅ~何なのよ一体……って馬鹿魔王アンタが皆を守りなさいよ⁉」


「大丈夫だってチーちゃんの結界なら守れると信頼してたんだから」


 リボーズの反応を見てイラっとするが、今はそれより先程の魔力波を調べる方が先だと思い、魔力波が飛んで来た方を探る様に見ると、体中が土で汚れ、擦り傷だらけの悠魔が歩いて来る。


「痛っまた失敗か……魔力の調整が難しいな、この魔法陣複雑すぎるな」


「悠魔様⁉」


 ニアは悠魔の姿を見て彼目掛けて駆けて行き、悠魔もニアの声を聞き彼女に気が付き彼女の方に振り向く。


「ニア何で此処に?」


「帰って来ないから心配で……」


「ごめん心配を掛けた」


 ニアの頭に手を置き優しくなでる。これでニアの目的は果たせたが、リボーズは興味深そうに悠魔の持つ大剣に視線を向ける。


「何か摩耗が込められてたのは気が付いていたが……思いのほかすごいものがついてたな」


「はい、上手く扱えなくて此処で練習してて気が付いたら真っ暗になってました」


「取り合えず王宮に帰るぞ、今日はもう遅いし明日にしようぜ」


「そうですね」


「よしゃあ帰ったら飲むぞ坊主!」


「いえ、僕はお酒はちょっと――痛い話してください!」


 悠魔の肩に手を回し歩き出す。慌ててニアはその後を追い、頭痛を我慢するように額を抑えチノも歩き出す。


「っちょっと陛下まだ仕事が残ってるのに! お酒はダメですよ、飲んだら絶対仕事しないですよね! 残りの仕事私に押し付けるつもりですか⁉ 聞いてます! おい馬鹿魔王話を聞けぇぇぇぇ!」


 最後に怒鳴りつける様にクリルが慌てて追いかける。




 悠魔の目の前では顔を真っ赤にして涙を流しながら、片手にお酒が注がれたグラスを持ち、日頃のリボーズの愚痴を言い続けるクリルがおり、少し離れた所ではチノがワイングラスを傍に置き本を読んでいて、最後にリボーズが上機嫌に酔いながら、ニアの頭を雑に撫でたり、果実を食べる様に次々と彼女の前に出していた。


「聞いてますか悠魔様⁉」


「はいはい、聞いてますよ」


「いつもいつも振り回される私の身にもなって欲しいんです! いつも無理難題、私の仕事を邪魔する、いい加減にしてほしいです!」


「分かります分かります」


「あの馬鹿魔王そこの所を全く分かってない!」


 勢いよくグラスをテーブルに叩きつける様に置く、割れなくて良かったと悠魔は思うが、正直酔っ払いの相手は面倒だなと思い、助けを求める様にチノに視線を送るが、彼女は明らかに気づかないふりをして本から目を放さない。


「聞いてますか悠魔様⁉」


「はいはい、聞いてますよこのくだり何度目だ……ハァ……疲れたって! ニア⁉ 何を飲んでるんだ⁉」


「ふぁ~悠魔様がいっぱいいましゅ……」


「いいぞ小っちゃい嬢ちゃんもっと飲め!」


「何飲ませてるんですか⁉」


「ん、酒」


 少し目を放した隙にリボーズはニアにお酒を飲ませており、彼女は酔っ払いながら悠魔に飛びついて来る。


 そして背中にニアをつけたままリボーズを問い詰めるが、彼は全く悪ぶれる素振りもなく、悠魔は頭痛を覚える。


「悠魔しゃまぁ」


「ニアほら水飲んで」


「小っちゃい嬢ちゃんこっちの方が美味いぞ」


「おいコラふざけんな! これ以上子供に酒飲ますな馬鹿魔王!」


 もはやリボーズへの敬意の欠片もなく、悠魔は彼の持っているお酒の入ってるグラスを取り上げる。クリルの苦労が分かった瞬間だった。

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