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異世界でのセカンドライフ  作者: サイン
第六章
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巣立ち

 リボーズとの話はこれで終わりかと思い、部屋を退出しようとすると彼は再び悠魔の名前を呼び止める。


「……坊主ちょっと待て」


「何ですか? まだ何かありますか……」


 しばらく考えた末にリボーズが悠魔にとある提案をし始める。


「坊主一度俺の国に来い今のままじゃただの足手まといだ、鍛えてやる」


「えっ」


 悠魔は考える。今もアリスに鍛えてもらっているし、確かに彼の国に行くのは悠魔としても興味があった。


 獣人たちの国、悠魔に足りないのは戦闘の経験で、龍の力をその身に宿す彼なら純粋な力比べならアリスにも劣らない。


 リボーズは悠魔にアリス以外の戦闘訓練をさせた方が良いと思った。良くも悪くもアリスは悠魔に甘くその為、彼女は本気で悠魔の訓練相手をしているが、どうしても無意識に手加減をしてしまってる。


「今すぐに決めろとは言わん、足手まといとは言え坊主の意見は尊重したいしな」


 それだけ言い残し彼は部屋を出て行った。悠魔も彼に続いて部屋を出て行き一階に下りて行くと、そこではナナ達がお茶をしていた。


「陛下お話は済みましたか?」


「ああ、俺は王宮に行って来るクーちゃんは此処でお茶をして待っていてくれ」


「私の名前はクリルです、そういう訳には行きません、ナナ様お茶ご馳走様でした」


 いつものやり取りをして、クリルは待っている間にお茶を入れてくれたナナにお礼を言い立ち上がり、二人は店を出て行く。


 ニアもナナも悠魔とリボーズの話には興味があったが、自分達が聞いていいのか迷うように視線を二人で合わせる。


 そうしてるとどうやらリボーズを感知したのか、遅れてアリスが店内に入って来る。少々不機嫌な顔をしている所を見ると、どうやら今更リボーズが悠魔に危害を加える事は無いだろうと思い、顔を合わせないように彼らが店を出て行くのに合わせて入って来たようだった。


「馬鹿魔王が来ていたようだね?」


「はい、少し話をしました」


「僕が聞いても問題ないかい?」


 アリスも興味があったようで、リボーズと悠魔の会話内容を聞いて来る。相変わらずの過保護な彼女にナナは苦笑いをする。


 悠魔も今回の事はアリスに相談したいと思っていたのでちょうどいいと思った。


 ナナが淹れてくれたお茶を飲みながら、リボーズとの話の内容を説明して行く、ナナもニアも少し戸惑うような顔をで聞いていたが、アリスの顔には先程の不機嫌以上に不機嫌な表情が浮かび上がっていた。


「……僕だけでは不満なのかあの馬鹿魔王は……それで君はどうするつもりだい?」


「僕は行って見たいと思います、もちろんアリスさんとの訓練に不満があるわけではないです、それでもアリスさんは僕に甘いですから……それに色々な経験をするのは悪くないと思います」


「……チッ」


 もちろんアリスなりに本気で悠魔と訓練はしている、それでもやっぱり引っ掛かる所があるのか、それをリボーズに指摘されたようで腹正しそうだった。


「わかった、僕も君の意思を尊重したいし、色んな奴らと訓練するのは君にもプラスになる……そのかわり僕も行くぞ」


 彼女ならそう言うと思っていた、しかし今回は一人で行きたかった。アリスが来てくれるのは心強いが、彼女が傍に居るとどうしても甘えてしまう、その為に今回は一人で向かうつもりだった。


 その事を伝えると彼女は、せっかく穏やかな表情になった顔を再び不機嫌そうに歪める。


「お願いします! 今回は一人で行きたいんです」


「……あぁぁぁ! 分かった分かった好きにしろ! その代わり半端な事は許さない! 最後までちゃんとしてこい分かったな!」


 どうやら保護者の許可が下りたようで、悠魔は一番の難題をクリアした事に安堵して、リボーズ達が向かった王宮に足を向ける。


 彼が出て行った室内でアリスは頭を抱えていた。心配で心配で仕方ない、アリテール王国に行くと何かあった時に自分の手が届かない、こうなるとリボーズによく言い含めておく必要があると思い苛正しく紅茶を飲み干す。


「さて、ちょうどいいか」


 紅茶を飲み落ち着いたのか、アリスは鋭い視線をニアに向ける。ニアはその視線に怯えその場から動けなくなる。


「もう、アリスさんそんな目で睨み付けたら、ニアちゃんは怖がるわよ」


「別に睨みつけてない」


 ナナに指摘され目を逸らす、彼女にその気がなくとも不機嫌そうなアリスの表情は幼気な少女に向けるものではない。


「ニア、君は悠魔についていけ、あの馬鹿が無茶をしないか見張れ」


「わ、私がですか⁉ で、でも店の方が……」


 ニアには店の番がありナナだけにそれを任せる訳にはいかなく、それを聞いたナナは顔を引きつらせる。自分の一人でこの店を運営するのはとても大変だ、と言うか絶対に運営出来ない。


「……すごく不本意だが店の方は僕が手伝う、君は悠魔をしっかり見張って来い」


 その言葉を聞きナナは絶句する。とてもアリスが接客するところは想像出来ない、少し造像して見るが、笑顔で接客するアリスを思い浮かべてみてこれはないなと頭を振る。


 ナナが何を考えてるのか手を取る様に分かったアリスは彼女を睨む、ナナはドキッとして目線を逸らし冷や汗を滝のように流ししらばくれようとする。


「言っておくが接客は君がしろ、それ以外は僕がするから」


 それを聞きナナは少し安堵する。あからさまに不機嫌な表情で接客をされると、お客さんは逃げて行く、ましてや彼女の不機嫌な時の表情には半端ない圧力がある。


「ニアすぐに屋敷に戻って準備をして来い、僕は悠魔に話を通して来る」


 そう言いアリスはさっさと店を出て行き、ニアも慌てて店を出て行く、店に一人取り残されたナナは、この後の店番を一人でするのかと悲鳴を上げる。



 悠魔とニアは王宮の中庭に立っており、その隣にはクリルがリボーズの帰りを待っていた。


「本当に私で良いのでしょうか?」


 ニアは不安そうに悠魔に視線を送る。悠魔は優しく彼女の頭を撫で笑みを浮かべて、頭の中ではアリスが店を手伝うとは意外だなと思っていた。


 当のアリスはクリルに話をつけてさっさと帰ってしまった。


「それにしてもよく彼女が許しましたね」


「何としても説得はするつもりでしたから、こんな機会は滅多にないですから……それにいつまでもアリスさんに甘えてる訳にはいきませんし、僕も強くならないといけませんから」


 強くなりたい、今の悠魔は皆を守る為に少しでも強くなりたいと思っており、守られる側から守る側になりたいと思っていた。


「そうですか……陛下も四獣士もその他の皆様も悠魔様を歓迎します……もちろん私も」


「お願いします」


 彼女とそんな話をしていると、どうやら話が終わったのかリボーズが歩いて来る。


「よし、それじゃあ帰るか――小っちゃな嬢ちゃんも来るんだな」


「は、はい、よ、よろしくお願いします!」


 ガチガチに固まる彼女を見てリボーズは高らかに笑い、その頭を豪快に撫でまわす。


「そんなに緊張するな!」


 以外にも子供好きなのか、リボーズの反応はニアへ家族のように接する。そんな彼の反応を見て、悠魔はクリルに耳打ちをする。


「リボーズ様って子供好きなんですか?」


「そうですね、よく街で子供たちに混ざり遊んでます……きっと頭の中が同レベルなんですよ」


 疲れたようにクリルは毒をはく、悠魔は乾いた笑いしか出来ずリボーズの方に視線を向ける。


「ははは! 小っちゃな嬢ちゃんは小さい時のクーちゃんそっくりだな!」


 どうやらニアは小さい時のクリルに似ていたのか、彼も懐かしそうに高笑いしながらさらに頭を撫でまわす。


「はぁ……陛下それよりも早く戻りますよ、私に似てるかわさておきさっさとしてください」


「おお、そうだったな、悪い悪い」


 そう言いニアから手を放す。ニアは乱れた髪を直しながら困った様に悠魔、クリルの順に視線を移動させて行った。


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