奴隷の少女
悠魔はとある奴隷商を訪ねていた。
「お久しぶりです悠魔さん!」
目の前に座る男はこの店の店主のカング・プースで、過去に盗賊に襲われている所を悠魔に助けられた人だ。
「元気そうでなによりです」
「それで、今回はどのような用件で?」
悠魔が自分の店を訪れた事はこれが初めての事で、この店に来たと言う事は奴隷を買いに来たのだと思うが、カングのもつ彼のイメージとはかけ離れていた。
「店の件ですかね?」
どうやら目の前の商人は、既に悠魔が店をするのを知っていた様で、悠魔は商人の情報網も馬鹿には出来ないなと思った。
「実は売り子を捜してまして……」
「売り子ですか……それでしたら、計算など読み書きが出来る者が良いですね」
的確に彼が今必要としてる奴隷をリストアップして行く、しかし名前を見て悠魔は疑問に思い、カングに尋ねる。
「何故女性の名前ばかりなんでしょうか?」
「簡単な事です、接客するなら女性の方が花がある、冒険者は殆どが男性ですからね」
カングは奴隷をリストアップした紙を、すぐ後ろに立っていた女性に渡し、この部屋に連れて来るように指示をした。女性はそれを聞き、優雅に一礼をして部屋を出て行く。
「……確かに花はありますね」
部屋を出て行く女性の後ろ姿を、悠魔は見送りポツリと呟きカングの方を見る。カングはニヤリと笑いそれに同意をして、すぐに真面目な表情をする。
「悠魔さん、少し聞きたい事があるんですがいいですか?」
「はい、僕に答えられる事なら構いませんが」
「実はここ最近商人の間で奇妙な黒い地龍の話が出てるんですよ」
頭の痛い話が彼から告げられる。黒い地龍はここ最近姿を現しては無く、お陰で対策用の魔道具の開発がゆっくりと出来、後は試射の為に個体を見つけるだけだった。
「しかもそいつらはべらぼうに強く、何人もの商人仲間がやられてます」
「……そうですか」
「冒険者の方で何か分かってる事はないでしょうか?」
起源龍の話は一部の者を除いて秘密となっており、悠魔はその為に、目の前の男には情報を話すわけにはいかなかった。
「残念ながら、僕は何も知らないですね」
「そうですか……私も他人事ではないので、少しでも情報が欲しかったのですが――悠魔さん! 何か分かったら教えてもらえませんか?」
「ええ」
少し罪悪感を得ながらそう返事をする。
その後少しして、数人の奴隷を連れて先程の女性が帰って来る。
「お待たせしました、どうですか? どの子も最低限の読み書きと計算は出来ます」
奴隷の数は全部で五人で、右から順に年齢順に並んでるのか、徐々に幼さが残る少女たちが並んでおり、年齢層は一番高くて二十代前半で低くて十代前半で、どの子の容姿も整っており美人から可愛い子までそろっていた。
「どうです? どの子も可愛いでしょ、どの子がいいですか?」
いいですかと言われても、悠魔には奴隷の良し悪しなど分からなくて、頭を悩まし困ってしまう。
「……」
「悠魔さんの好みで選べばいいですよ」
「僕の好みですか……」
悠魔は自分の女性の好みを頭に浮かべると、コレットが浮かび上がるが、あの無表情の少女の顔が浮かび上がるが、残念な事に彼女が接客をする所は想像も出来なかった。
「……ないな」
そう呟くと想像の中の少女の表情がムッと不機嫌そうになる、相変わらず表情に大した変化はなかったが、悠魔にはその変化がすぐにわかる。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです」
もう一度奴隷の少女達を一人一人見て行き、悠魔は苦悩の末に決めたのか、一人の少女を指さす。
悠魔は奴隷の少女を買い取り、奴隷商館の前におり、彼の隣にはまだ幼さが残る少女がいた。
「この度は買い取っていただきありがとうございます、ご主人様」
名前はニアと言い白い髪を腰元まで伸ばし、笑顔が似合う十四、五歳の少女で、彼女は丁寧に頭を下げる。
「取り合えず服を買いに行こうか? あとご主人様はやめて」
「そう言われましても、ご主人様はご主人様ですから」
「僕の名前は悠魔、僕としてはそう呼ばれた方が嬉しいな」
「ご、ゆ、悠魔様」
「うん、取り合えずそれでいいよ」
少女はオドオド悠魔の顔色を窺いながらゆっくり名前を呼ぶ、そんな彼女の頭を、悠魔はゆっくりと撫でて手を引き歩き出す。
服を買いに来たのだが一つ問題が発生する。ニアに好きなのを選ぶように言うが、彼女は頑なにそれを拒否し自分には不要だと言い出す。
「奴隷の私にこの様に綺麗な服は勿体ないです!」
「気にしないで良いから、好きなのを選んで」
「ですけど……」
「いいかい? ニアにはこれから僕の店で働いてもらうんだ、店員の服が今みたいなのだとどうだい?」
ニアは自身の服装を見る。確かに決して綺麗な服を着てる訳ではなく、少し破れなどが目立つくたびれた服で、悠魔の言ってる事に納得してしまう。
「うぅぅ……分かりました」
観念したように服を見だす彼女だが、見かけが良いものはやはり高く、安い物はどうしてもみすぼらしくなってしまい。どのような服を選んでいいのか困ってしまう。
彼女が困っていると、悠魔は店員の女性に声を掛けて、彼女に似合う服装を見繕ってもらう。
「こちらなんかどうでしょうか?」
店員に個室で着替えさせられた、白のワンピースを着たニアが出て来る。
「似合いますね」
「でしょ! 元が良いから何でもに会います! それじゃ次は――」
ニアは喋る暇もなく、再び個室に連れて行かれ、すぐに別の服を着て出てく。
「こんなのはどうでしょうか!」
こうして次々と着せ替え人形の如く、数十回着替えさせられて、買い物を終了する頃には、ニアはぐったりしていた。
「つ、疲れました……」
哀愁を漂わせて悠魔の後ろを歩く彼女、悠魔は先ほど買った服を両手の袋に入れて持っており、それに気がついたニアは慌てて自分で持とうとする。
「す、すいません! ご、悠魔様に荷物を持たせて」
「いいよ疲れてるでだろ、もうすぐ家だか気にしないで」
「うぅぅすいません」
悠魔は大きな家の方に付くと、庭から声が聞こえて来て、気になりそちらの方に歩いて行くと、そこではメイドとナナが何かを言い合ってるように見えた。
「ですから、そのような事でしたら私たちがしますから」
「でも、これが私の仕事ですから……皆さんは自分の仕事を……」
「ダメです、お嬢様が怪我でもすれば大変です!」
「お嬢様って……私はそんな大したものじゃないんだけど」
「どうしたんですか?」
「旦那様」
そう呼ばれた悠魔は嫌そうな顔をするが、今は自分の事より、現状の状態を聞き早期に解決をしないといけないと思った。
「何があったんですか?」
「それが……」
話は簡単で、ナナは悠魔に雇われて畑の管理をしていて、それはこの屋敷でも同じで、今は畑に生えた雑草を抜こうとしていたが、メイドたちがそれに気がつきすぐに止めに入った。
「専門的な事は分かりませんが、草引きなどの雑務程度なら私たちにお申し付けください」
「でも、これは私の仕事ですから、畑の管理をして悠魔君にお金をもらってますので」
「それでしたら、お嬢様は植えてある植物のお世話だけをしてください、他の雑務程度の事は私達でするので」
「いえ、ですからこれも仕事の内で……」
話がどうも進まなく、どうやって仲裁をしようか考えたが、結局思い付かなかった。
「まあまあ、二人共落ち着いてください、アヤさんも自分の仕事がありますし、此処はナナさんの仕事場ですから手伝いを頼まれた時だけ協力をするだけに留めてくれませんか?」
アヤと呼ばれたメイドは、この屋敷のメイドたちのまとめ役で、とても仕事熱心な真面目な女性で他のメイドたちからもとても慕われてる。
「旦那様……分かりました、申し訳ありませんお嬢様……」
「そのお嬢様もやめてもらいたいんだけど……」
「僕もその旦那様って呼び名もやめてもらいたいのですが……」
どうも二人共この呼び方をされると、背中がかゆくなってしまうが、他のこの屋敷で働く人たちは説得したが、メイド長の彼女だけは今だに説得できないでいる。
「旦那様、そちらのお嬢様は?」
悠魔の後ろに立っていたアヤに気がつき声を掛ける、悠魔はニアを買い取って来た経緯を話すとすぐに納得してくれる。
「分かりました、彼女の扱いは皆さまと同じようにするように皆に伝えておきます」
「わ、私は奴隷ですから、ご、悠魔様と同じように扱ってもらう訳には……」
「いえ、この様な言い方は申し訳ありませんが、旦那様の所有物でしたらそのように丁寧に扱う必要があります、この屋敷でメイドで働くのならいざ知らず、旦那様の店で働くのならなおさらです」
全く迷わず言い切る目の前のメイド長は、言う事だけを言い、綺麗に一礼をしてその場から立ち去ろうとして、悠魔の手に荷物があるのを見れ、近くを掃除していたメイドを呼び、荷物を運ぶように指示をしてこの場を後にする。
「悠魔様荷物をお持ちします」
「あ、はい、ありがとうございます、ニアの部屋を用意してあげてください」
「私などに勿体ない言葉をありがとうございます、ニア様こちらに」
「は、はい!」
「それと、スコアさん後アリスさんはこっちに来てますか?」
「私のような者の名前を覚えていただきありがとうございます、アリス様でしたら少し前に自室に戻られていました」
悠魔はアリスの居場所を聞き、彼女にお礼を言いその場を後にする。




