表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でのセカンドライフ  作者: サイン
第五章
130/227

ユミナの羞恥心

 理由はよく分からないが起源龍は攻撃をやめこの地を去って行き、天使たちの追撃もなくアルカトラズには平和が訪れた。しかし、戦いの爪痕は大きくユミナはかなりの怪我を負い何人者戦士が亡くなった。


 起源龍の攻撃はユミナが防いだが、彼女でも完全には防げなく都市のあちらこちらには大量の氷塊の塊が落下しており、その犠牲になった者達も少なくなく、今は復興作業に追われていた。


「重傷者は此方に運んでください!」


 自分も傷だらけだがミアハは怪我人の搬送を支持しており、次々と王宮には重傷者が運ばれてくる、悠魔も協力してポーション類などの製作提供した事で、救われる命は多くユミナの傷も全快まではいかないが一人で歩く程度には回復できた。


「ユミナ様やはりエリクサーをお飲みください、失敗作とは言えその程度の傷なら全快に出来ると悠魔殿から聞いていますから」


「私は平気です、この程度の傷なら一日もすれば治ります、今は他の重傷者の治療に回してください、これ以上の犠牲は出してはいけません」


 体を心配するミアハの言葉を跳ね除け、彼女は痛む体を動かし怪我人たちに声を掛けて行く。


「蒼海の魔王ちょっといいかい?」


「アリスさんどうかなさいましたか?」


「悠魔を見なかったかい、先程から何処にもいなくてね」


「こちらには来てませんね、ミアハさん見てませんか?」


「生産したポーションを持って来て以降、私も見てませんね、工房の方ではないのですか?」


 工房はアリスが一番初めに見たが、残念ながらそこに彼の姿はなく、入れ違いになったのかと思い再び工房に足を向けた。


 しかしそこには悠魔の姿はなく、そこにちょうど沢山の木箱を積み上げ危なくフラフラ歩いたミルクがやって来る。


「あわわ、およよ」


 相変わらず独特の掛け声を上げながら、自身の身長より高く積み上げられた木箱を運んでくる少女は、ついにバランスを崩してしまい木箱を落としそうになるが、アリスには珍しくアリス落ちる木箱を支える。


「ほやや、ありがとうございます」


「気を付けろよ、悠魔を見なかったか?」


「悠魔さんですか? うぅぅ……そういえば先ほど王宮の外に出て行くのを見ました」


 どうやら悠魔は街の方に行ったようで、アリスも彼を追うべく街に向かうことにした。




 悠魔は街を歩いていいるが、今も沢山の人が巨大な氷塊や壊れた民家の撤去などをしており、そんな中悠魔はある事に気がつく。


「氷が全く溶けてない……」


 起源龍の襲撃からすでに半日が経ってるのに、氷塊は全く溶ける気配もなく表面に水滴すらついていなかった。


「どうなってるんだ、そもそもいくら直撃を受けたからといって、所詮は氷の塊なのにユミナ様があれほどの怪我を負うものか?」


 疑問は全く解消されなく、この場にアリスでもいれば解説してくれたかもしれないが、彼自身殆ど無意識で此処まで歩いて来てしまったため、その疑問に答えてくれる人はいなかった。


「……少しは強くなったつもりだったんだけどなぁ……まさか恐怖で全く動けなくなるとは思ってなかったな」


 一人唯々無力感に囚われ街中を歩いて行く、中には一人で泣く子供や大怪我というほどでもないが、腕から血を流してる人が居ても、彼には珍しく唯々街中を歩いて行く。


「此処に居たのか⁉」


「あ、アリスさん……」


「全く探し回ったよ、街に行くのはいいが一言あってもいいんじゃないか?」


「すいません、ボーとしてました」


「まぁ、あんな事のあった後だ仕方ないか……」


 いつもと違う悠魔の様子を見て、どうやら元気のない原因を察したアリスは、別に何も言わなく悠魔に並走して歩く。


「気にする必要はないよ、あんなものを見たんだ、思い出すだけで僕も震えが止まらない……」


 実際アリスも解放された起源龍を見たのは初めてで、これほどの力があるとは思って居なく、それでも彼女が強くあれたのは悠魔が傍にいたからで、一人なら震えて腰をおっていただろう。


「少々予想外過ぎるな起源龍は……」


「はい……正直どうしようもないほどの力を感じました」


「それでどうするつもりだい? 一応色々調べていた見たいだがまだ関わるつもりかい?」


 悠魔自身これ以上起源龍に関わるつもりはなかった、それは本音で、この都市に来て起源龍の封印を見つけた時は簡単に調べるだけにするつもりだったが、まさか現物を見る事になるとは思ってなかった。


「そうですね……取り合えずエストアに戻ったら、陛下やジェンガさんに僕が直接見た事を伝えます、アリスさんもお願いしますね、情報は多いほどいいですから」


「それは構わないが……」


「それで終わりにします、僕じゃ完全に足手まといにしかなりませんから……」


「そうか……」


 恐怖からか悠魔はこれ以上起源龍に関わる事をしないと宣言する。


 実際そんなものの討伐は国に任せておけばいいので、アリスも何も言わなく、二人は王宮の方に向かって歩いて行く。




 王宮に帰るがみんな忙しそうに走り回っており、先程までと違いアリスと話をした事で心の整理が出来たのか、取り合えず元気は出たので手伝いをする事にした。


 すっかり外は暗くなり怪我人の治療も一通り済んだため、今日は休むために振り分けられた部屋に戻ると、部屋の前でユミナが待っており、悠魔は彼女を見て何の用があるのか首を捻る。


「夜分遅くに済ません、少しお話よろしいでしょうか?」


「はい、僕は全然かまいませんが、体の方は大丈夫なのですか?」


「これでも魔王です、あの程度の怪我では死にません、明日にはしっかり治癒してると思いますよ」


 話は悠魔の割り当てられてる部屋でする事になり、悠魔は自前の紅茶を取り出し用意する。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 彼女は香りを楽しみその後に一口飲み、少しして閉じていた目を開き口を開いた。


「この度はありがとうございます、色々と手伝っていただき」


 そう言い彼女は頭を下げて来る、そんな彼女を見て悠魔は慌てるが、此処には彼女と自分の二人だけで他には誰もいなくすぐに冷静さを取り戻し、二人きりだからこそ出来る彼女の感謝のしるしだと思い言葉を発する。


「頭を上げてください、別にお礼を言われるような事は何もしてません、僕は何も出来ませんでしたから……」


 実際起源龍を目の前にして自分がした事は、唯々怯え震えていただけで、もし動けたのなら氷塊の破片の落下を少しは防げたかもしれない、どうしてもそう思ってしまう。


「そんな事ありません、悠魔さんが提供してくれたポーション類やそのレシピはすごく役に立ちました、お陰で救われた人は多かったと思います、それに、あの氷塊は多分今の悠魔さんでは砕けません、もし貴方が手を出していれば、貴方の方が怪我を負っていたかもしれません」


 ユミナの説明によると、魔法で作られた物はその魔力の濃度により強化される、今だに溶ける気配を見せない氷塊は起源龍の恐ろしいほど強大な魔力で作られたため、長い時間溶ける事無くまた、砕くのも難しいその為撤去には時間がかかる。


 今の悠魔の力では砕く事はおろか傷をつける事すら出来なく、もしあの時悠魔が起源龍に恐怖してなければ、氷塊に押しつぶされていたかもしれないと彼女は説明してくれた。


「悠魔さん、恐怖を感じると言う事は恥ずかしがる事ではありません、寧ろそれは誇っていい事だと思います」


「でも……」


「恐怖を感じず無謀に戦った結果が今の私です、ですからその感じを忘れないでください」


 自身のボロボロの体を悠魔に見せる様に自虐する彼女の姿は、とても痛々しくて悲壮感が漂って居た。


「……はい」


「アリスさんから聞きましたが、都市の再建が済み次第私も起源龍の討伐に微力ながら力をお貸しします、一度負けた私ですが、二度も敗北するつもりはありません」


 こうして目の前の魔王も起源龍の討伐に力を貸してくれることになったが、どうしてもそれが素直に喜べなく、目の前の強大な敵に自分は逃げる事を選択した、それなのに目の前の少女の姿をした魔王は、あれ程の力の差を感じても諦める事無く向かって行く事をまぶしく見えた。


「それで、これはお礼なのですが……」


 ユミナは野球ボールくらいの大きさの青白い水晶体を差し出して来る。


「これは……」


「前に言っていた水樹に代わる物で、水を浄化する事の出来る結晶体です、海水ですら飲み水に浄化出来るすごい物ですよ」


 何処か誇らしげに見せて来るが、都市がこの状況では受け取る事は出来ないと思い断ろうと思ったが、彼女は断られる前に悠魔にその水晶体を握らせる。


「あと、色々提供してくれたお礼なのですが、今のこの都市では大したものは提供できなく、申し訳ありませんが私の欠けた牙程度の物しか用意出来なく……」


 そう言い彼女は大きな黒い塊を悠魔の傍に置く、流石は魔王の体の一部と言う事もあり、体から切り離されてもこれほどの魔力を内包しているのかと思うが、目の前に本人が居ると言う事もあり生々しくて悠魔は引きつってしまう。


 ユミナは何処か恥ずかしそうにしているが、何処にお礼に自分の体の一部を差し出す馬鹿がいるのかと思ったが、目の前におり、これを受け取らない訳にはいけないのかと思い考える。


「どうぞ……少々恥ずかしいですが、素材としてはかなり良い物だと思いますから」


「……はい、ありがとうございます」


 観念して受け取る事にしたが、裸体を見せても恥ずかしがる事は無く、堂々としてるのに彼女の羞恥心は何処にあるのか疑問だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ