起源龍の脅威
ちょうどアリスの魔法講座が終わった頃、大きな衝撃が都市を襲い、その衝撃の原因を確認しようと慌てて悠魔とアリスは部屋を出る。
都市の外には本来の姿をしたユミナがおり、そんな彼女と対峙する形で一人の天使がおり、どうやらこの都市を襲撃をした天使の仲間だと思い辺りを警戒する。
――皆さん都市の天使はどうなりましたか!
ユミナの念派が届き悠魔はあった事を簡単に説明し、それと同時に王宮を壊し怪我人を出した事を謝罪する。
――そうですか、ありがとうございます、王宮はまた作り直せばいいだけです、誰も死んでないなら問題ありません
怪我人が出た事も王宮を壊した事も責めず、感謝の言葉をおくってくれる。
アリスはユミナの方に鋭い視線を送る、ユミナの体は所々傷だらけで綺麗に光に反射していた鱗も所々剥げ落ちていた。
「君の方はどうなんだい、かなり押されてるようだけど?」
――お恥ずかしい話ですが、仲間を守りながらですので……
彼女の周りには沢山の魚人族がおり、皆負傷しており戦えるような状態ではなかった。
――皆さんをお願いします
乱暴だがユミナは守っていた者達を都市内部に投げ込む、乱暴に見えたがコントロールは正確で王宮の庭に皆落ちて来る。
悠魔は王宮の庭を見下ろすと、沢山の人が負傷者の手当てに出てくる、急いで自分も行こうとするがわらなる衝撃が都市を襲ったために、その場に膝まづくように倒れてしまう。
「今度は何だっ!」
これ以上何が起ころうとしているのか全く予想できなく、その為アリスは苛立たしい声を上げる。
――どうやら封印が解かれてしまったようですね……
「おい、待てまさか……」
――遺跡を襲撃した天使は二名でした、そのうち一名がまだ遺跡に居ます、私は仲間を守るのを優先してしまったので……
申し訳なさそうに弁明してくる、別に悠魔はその事を責めるつもりはなかく、アリスも別に何も言わないが、彼女は内心蒼海の魔王なら何が来ても平気だと考えていたが、まさか、これほどまで最悪の展開になるとは思ってなかった。
ユミナと天使が戦えば十中八九ユミナが勝つ、それでもこれほどまでに劣勢に彼女が追い詰められるのは、彼女が自分の部下を守っていると言う事で、天使は必要以上に弱ったユミナの部下を攻撃して来る為、彼女は防御を強いられ戦う事が出来なく、さらには自分が力を振るえば仲間を殺してしまう可能性があり全力を出せずにいた。
――これで重荷が外れました
しかし、今は大切な仲間を守る必要がなく、その力を全力で振るうことが出来るようになったため、咆哮して都市を震わす。
――これまでやられた分っ――しっかりと返させてもらいますよ!
彼女の怒りに鼓動するかのように、巨大な渦巻きが彼女の傍に幾つも出現する。
何を言っているのか分からないが、天使は慌てたように動きその場から逃げ出す。
――逃がしません!
渦が天使を飲み込む、それだけでは済まずにさらに先ほどアリスが使用した上級の水魔法の死の氷柱を同時に幾つも発動させる。
氷の触手は海水を凍らしながら渦を取り囲み徐々に凍らしていく。
「やはり化け物だな、上級魔法を同時にあれほど発動させるなんて……」
自身も使うだけあって、あの魔法の発動は難しく威力も彼女の方が上の挙句にそれを同時に幾つも発動させてるのを見て、彼女には珍しい恐怖の表情が見れた。
効果通りの魔法が発動したなら、あの天使は氷漬けになってるはずで渦自体も完全に凍り付いてしまったのか、その動きを止めている。
ユミナはさらなる追撃を掛ける為に、大きな口を開くと青白い輝きが見え、その閃光が氷塊を飲み込み完全に消し去る。
「僕のブレスとは比べ物にならない程の威力ですね」
「当たり前だよ、あれが……最強と称された魔王の力だ、よく見ておくんだ悠魔、彼女とは絶対に敵対してはいけない」
――終わりましたか……
戦闘は終わったと言うのに、処か気が晴れないユミナを見てアリスは声を張り上げる。
「蒼海の魔王! 何か来るぞ!」
彼女の言葉にすぐに気を引き締め海底の奥底を見ると、ユミナとそう大差ない大きさをした魚の様な龍が姿を現す。
――これが……遺跡に封印されていた存在……起源龍
悠魔は初めて起源龍を見て震えが止まらなくなる、そんな彼を支える為にアリスはそっと肩に手を置き安心させようとする。
しかし、彼女の努力は空しく悠魔は恐怖に囚われてしまう、その事をアリスは責めるつもりはない、自分も守ると決めた悠魔が居なければこの場から逃げ出している。それほどまでに目の前の怪物は恐ろしかった。
悠魔は調べて起源龍が強大な力を持っているのは知っていた、リボーズが負けた事からも彼以上の力を持っているのも知っていたが、皆で戦えば何とかなるのではないかと思っていた、しかし、現物を見てしまうとそんな希望は簡単に砕けてしまう。
今彼は怖い逃げたいなどの思考だけが支配していた。
――この都市に手出しはさせません!
再び彼女の周りに激しい渦が出現して起源龍に襲い掛かるが、先程の天使の時とは違い簡単にかき消されてしまう。
――でしたら、これならどうですか!
今度は先ほどよりもはるかに多い死の氷柱を発動して、氷の触手が起源龍に襲い掛かるが、起源龍は海水を操り激流を生み出し氷の触手を破壊して行く。
お返しとばかりか、今度は起源龍が自身よりも遥かに大きな氷塊を作り出し、彼女目掛けて打ち出す。
ユミナは氷塊を回避しようとするが、自分がこの場を動けば氷塊は都市を襲う事になると思い動く事が出来なく、その体全体を使い氷塊を止める為に動く。
彼女の頑張りもあり徐々に氷塊の速度はおちて行き、なんとか都市を守ってる結界寸前で止まり、都市中から勝算の声があがる。
「止まったのか?」
アリスも目の前の光景を見て安堵する、ユミナも完全に氷塊を止め安心するが、次の瞬間新たに氷塊が追加されユミナはその衝撃で都市内部に落下して行く。
――っこのままでは、都市に⁉
自分がこのまま落下すれば、都市に多大な被害が出るが飛翔しようにも体が上手く動かなく、仕方なく人化するが勢いは止まらなく王宮に落下して行く。
「ユミナ様⁉」
ミアハは彼女の名前を叫び彼女を受け止めよう走るが、彼も傷だらけで本来の速度で走れなく、このままじゃ地面に衝突してしまう。
「ちっ!」
アリスはそんな彼らを見て、魔力の糸を作り出し蜘蛛の巣のようにユミナの落下先に張り巡らせ、彼女の落下を受け止める。
駆け寄りユミナの様子を確認するミアハ、ユミナの体は傷だらけで意識はあるもののこれ以上の戦闘は不可能に近く、そもそもあれほどの衝撃を受けて生きてること自体が奇跡で、魔王出なければ絶命していてもおかしくはなかった。
「悠魔! おい、悠魔⁉」
今も震えている悠魔に声を投げかけるアリスだが、恐怖に陥ってる為か反応はなく、こんな状態の悠魔ではこの場から逃がす事も出来なく、魔力も回復しきってない自分では、あんな化け物を倒す事は出来なく、そもそも全快の状態でも倒す所か逃げる事すらままならない、天使に続き起源龍と最悪の状態は続き、流石の彼女もどうしていいか分からなくなる。
「くそっ! どうすればいいんだ! 王宮の兵士はあてに出来ない、蒼海の魔王の助力はもう得られない、僕一人じゃ悠魔一人逃がす事も出来ない」
アリスは今も都市の近くを漂う起源龍に視線を向ける、そもそも自分じゃこの都市の外の海底にいる者と戦う事は出来ない。
「何一ついい考えが浮かばな、ここまでか……」
諦め視線を伏せようとしたアリスの視界に、慌てた様子で彼女達のもとに走って来るミルクとナナの姿が目に入るが、彼女達の助力を得た程度で事は解決できなく、完全に目を伏せてしまう。
都市全体を攻撃しようと再び氷塊を作り出す起源龍は、王宮に居るある人物を見て、突然まるで動揺したような動きをして、氷塊を霧散して泳いでこの場から離れて行ってしまう。




