蒼海の魔王ユミナ・アルルカント
あれから蒼海の魔王ユミナ・アルルカントの事を調べて分かった事は、ある毒を治す薬を捜してるようで、その為に自身の都市から出て来たと言う事だけが分かった。
「この本もあまり万能という訳ではないな」
ここ最近使っていて分かった事がある、知識の書はあくまで検索した事しか分からず、ユミナ・アルルカントの事を調べても彼女の目的までは出てこなく、彼女が何故外の世界に出て来たのかを調べるとなると一工夫必要で少々手間取った。
「望んだのは僕だけど面倒だな」
悠魔の頭の中には、だから言ったじゃろと老人の顔が思い浮かぶが、何でもかんでも分かってしまうとそれはそれで面白くなく、少しは手間がかかっても望む知識だけが欲しかった。
「世界のすべてが分かる本か……まぁあまり頼りすぎるのも良くはないか」
彼自身この本に頼るのはよくないと思っている、人間はあくまで自分で考え答えを出してこそ成長して行くと思い、ズルをしてテストで良い点を取ってもそれはその者の力ではなく、いざという時に取り返しのつかない失敗をするものだと思った。
「毒か……まぁ僕には関係ないか、現状彼女が目の前に現れる事もないだろうし考える必要はないな」
そう思い思考を切り替え知恵の書をローブにしまい込み、部屋を出てアリスとナナの朝食を準備するために歩いて行くが、この時悠魔はせめてユミナ・アルルカントの居場所を調べていたら、もう少し深く彼女の探してる薬について真剣に向き合っていて、面倒を回避できただろう。
アリテール王国首都のイクシードには今緊張が走っており、王のリボーズ・ジードはめんどくさそうに頭を抱えていた。
殆どの事は自身の力――物理的に解決するためその後処理にクリルが頭を抱える事があるが、彼が頭を抱える事はなく、そんな彼が頭を抱える人物が目の前に来ていた。
「久しぶりですね、リボーズさん」
「ああ、久しぶりだな……」
彼の目の前に居る人物は年端もいかない少女の姿をした蒼海の魔王ユミナ・アルルカントで、彼女はニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべ丁寧に挨拶をする。
そんな彼女の笑顔を見て心底嫌そうな表情をして、何とか挨拶をするリボーズにユミナは、早速此処に来た目的を話し始める。
「少し手に入れたい物がありまして此処まで足を伸ばしたのですが、申し訳ありませんがお願いできますか?」
「ああ、一体何を探してるんだ」
さっさとこの面倒なお客にお帰りなってもらおうと、駆け引きなしに彼女の欲しがるものを聞くが、その名前を聞きさらに頭を抱える。
「実はエリクサーを持っていたら分けて欲しいのですが……持っていませんか?」
「生憎ないな……その話を何処で聞いた」
確かに彼は部下のクリルの治療にエリクサーを使用した、しかし、その事はその場に居た者しか知らず誰にも話してなく、その場に居た者にも口留めもしっかりとして置いた。
悠魔に無理を言って制作してもらった物で、彼に迷惑をかける訳にはいかなく、ユミナがエリクサーの事を何処で聞きつけたのが気になった。
「近くの村の教会ですね、そこに居るシスターに聞きましたよ、何でも王様が部下の治療に使用したとか……」
「……」
もしその話が本当なら何処からこの情報が漏れたのかが気になるが、彼女が嘘を言ってる様には見えなく、このままないと言いさっさと帰ってもらう事も考えたが、もし機嫌を損ねて戦闘にでもなればこの国の崩壊が約束される。
(さて、どうしたもんか……悠魔の事を話すか……)
「ないのでしたら、手に入れる方法を教えてはもらえないでしょうか? 無論それなりの報酬は支払います」
どうやらどうあっても引くつもりは無い様で、入手する方法を教えてくれないかと言って来るが、こちらとしても悠魔の情報を簡単に渡すのは気が引けてしまい、お互いの間に沈黙が訪れる。
「ハァ、分かった作れる奴を教えて――」
「ありがとうございます!」
リボーズの言葉を遮る様にユミナは満面の笑みを浮かべる。
リボーズ自身別にユミナの事は嫌ってない、確かに自分より強大な力を持つ彼女だが決して話が通じないわけではなく、基本的に温厚でその為彼も友好的な関係を築いている。
「ただし、絶対にそいつに迷惑をかけるな、俺が後で怒られる」
「はい、それでその方は何処に住んでるのですか?」
こうなった以上さっさと話しを切り上げ、ユミナには帰ってもらう事にしたリボーズは、悠魔の居る場所を教え念を押す様に迷惑を掛けない様に言い含めた。
「ありがとうございます、お礼の方はどうします? 何か欲しい物があれば用意しますが……」
「別にいいよ、さっさと行けよ急いでるんだろ?」
「はい、申し訳ありません、すべてが終わった後にお礼に伺います」
そう言い残し彼女は走り出し、窓から飛び出ると風を纏い雲の中に消えて行った。
そんな彼女を見送りリボーズは、もう来るなと心の中で呟き、疲れたように椅子にもたれかかる。
「お帰りになられましたか?」
「ああ、クーちゃん悪いが何か飲み物持って来てくれ……疲れた」
「私はクリルです、すぐにお持ちします」
いつものやり取りをしてリボーズは窓の外を見ると、先程まで快晴だった空には黒い雲がかかっており雨が降り出していた。
「悪いな、面倒事は任せるぞ……」
誰もいない広間でポツリと悠魔に謝り、再び大きなため息をはく。
此処はアリテール王国の王都の近くにある街で、その街の教会には一人のシスターがおりニコニコ薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「どうやら上手く誘導できたみたいですね」
シスターの正体はエルフェリアで彼女は教会の一室に入ると、そこには一切の衣服を身にまとわない女性が横たわっており、この女性は本来のこの教会のシスターと思われる女性で、どうやら彼女がなり替わっていた様で、もうこの場には用がないと着ていた衣服を脱ぎ棄て、普段通りの衣服を身にまといこの場を後にした。
そして、エストア王国には黒い雲がかかり雨が降り出す。
「雨ですね、さっきまで晴れていたのに」
「悠魔君悪いんだけどこっち手伝って、干していた薬草が濡れちゃう!」
「ちょっと待ってください、すぐに行きます!」
悠魔は慌ててナナの手伝いに向かう、そんな彼を見送りアリスは読んでいた本を閉じて外に目をやる。
「なんだか嫌な感じがするな……何も起こらないといいんだけど」
奇妙な胸騒ぎが彼女を襲うが、目に見えない脅威はどうする事も出来なく、窓の傍に移動して外を見るとそこには慌てて干していた薬草を室内に運ぶ悠魔とナナの姿があり、それ以外に何もなくこの胸騒ぎの正体が分からなく途方に暮れるが、すぐに彼女はこの場に接近する強大な魔力を感知して慌てて外に出る。
どうやら悠魔もナナも気がついたようで、先程まで忙しく干していた薬草を運んでいたがその手は止まっていた。
「何ですかこの強大な魔力は……」
「分からない」
「もしかして起源龍とかじゃないわよね」
起源龍の名前を聞きその場に緊張が走るが、それにしては動きが単調で真っ直ぐこの場を目指いしてるようで、奇妙な感覚を覚える。
「いや、可能性はゼロじゃないが、このこの場所を目指して一直線に目指してる様だ」
「起源龍なら進行方向にある村を無視はしませんよね?」
実際地の起源龍のグラウは進行方向にある村を壊滅させていた、可能性はゼロじゃないにしてもこれは変だと思っている、黒い雲の間に巨大な蛇の様な姿が見え、次の瞬間小さな竜巻と共に目の前に蒼海の魔王ユミナ・アルルカントが姿を現す。




