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異世界でのセカンドライフ  作者: サイン
第五章
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良い刀

 夕食を食べていた四人を訪ね一人の鬼人がやって来る、訪ねて来た人物は昼間悠魔が刀を依頼した黒鉄で、どうやら刀が出来たようで持って来てくれた。


「ほぅ……いい出来だね」


 刀を受け取り鞘から抜き悠魔が検分していると、横からアリスが顔を出し刀を見て感想を述べる。


「綺麗な波紋ですね」


「久しぶりにいい仕事が出来た、会心の出来だ」


 アリスや黒鉄が言う様に刀は会心の出来の様で、悠魔の手の中で月の光が反射して綺麗な光を映しており、とても神秘的な光景が彼の目には映っていた。


「すげぇ刀だな」


「材料がよかったからだな」


 紅も気になったのか顔を出し悠魔の手の中の刀に視線を送ると、その出来栄えに驚きの声を上げる。


 確かに黒鉄の言う通り、悠魔が持ち込んだ材料が魔消鉄という希少な物だと言う事もあるが、やはりそれを加工してこの刀を作り出した黒鉄の腕がすごいのもあり、かなり良い物を作り出した。


「ふむ、悠魔ちょっといいかい?」


 アリスは悠魔の手から刀を受け取り、庭の端に置かれていた薪用の木材を手に取り空高く投げて刀を構え、落ちて来た木材目掛けて刀を振るうと、木材は綺麗に真っ二つになり彼女は満足したように刀を鞘にしまう。


「うん、やっぱり良い物だ」


「これって僕に扱えるでしょうか?」


「安心しろ、出来る様にしてやる」


 そのアリスの言葉に若干不安を覚えるが、この刀を彼女の様に使いこなす事が出来る様になれば、今より戦闘の幅が広がる。


「さて、僕は夕食の続きをしようか」


 アリスは満足したのか一人家の中に戻って行く、そんな彼女を見送り悠魔は思い出したかのように、黒鉄に刀の代金を渡そうと話をするが、彼は必要ないと言う。


「しかし、タダという訳には……」


「金なんか貰っても使い道がない」


 この里では基本的に物々交換でお金という概念はなく、そんな物を貰ってもしょうがないと言われてしまう、それならと持っていたポーション類を渡そうかと思ったが、それも必要ないと言われてしまう。


「あんたには里を救ってもらった、その刀はその礼だ」


「でも……」


「悠魔受け取って置け、少なくともお前はそれだけの働きをした」


 煮え切らない悠魔の態度に紅がめんどくさそうに言う、今回黒鉄が今回の刀の制作を引き受けたのは紅の紹介もあったが、やはりこの里を救ってくれた悠魔へのお礼という部分が大きかった。


「……わかりました、ありがたく頂戴します」


「おう、じゃあ俺は帰る、何かあったらいつでも来な」


 黒鉄はそう言い残し帰って行く、紅も悠魔も彼を見送った後家の中に戻る事にした。




 悠魔は布団の中一人今回の出来事を整理していた。


「色々あったな……ただの黒狼の討伐だったのに、まさかあんな魔獣に出会うなんて……」


 ただの黒狼の討伐という簡単な依頼だったが、思いのほか命がけの依頼になってしまったと思う、しかし今の悠魔はやり遂げた達成感があった。


「悠魔少しいいかい?」


「アリスさんですか? どうぞ」


「悪いね寝る前に」


 襖が開き薄い着物を着たアリスが入って来る、紅は他の鬼人の家に飲みに行き悠魔は一人で、アリスは真白の部屋に泊まっていて、昨日の様に同じ部屋に泊まっている訳ではないので、こうして部屋を訪ねて来た。


「少し話があるんだ、少しだけ時間を貰えるかい?」


「はい、大丈夫ですよ」


 アリスは悠魔の傍に座り、悠魔も起き上がり彼女の話を聞く体制に入る。


「実はエルフェリアからの伝言があってね」


「エルフェリアさんからですか……」


 彼女は災厄狼の件を伏せて悠魔にエルフェリアの伝言を伝える、蒼海の魔王の名前を聞き驚きの表情をするが、それほど強大な魔王が自分を訪ねて来る事などないと思った。


「まぁ、それは僕も思うけど、用心しておくことに越したことはない」


「蒼海の魔王って、長い事沈黙していたんですよね、何で今更動き出したんでしょう?」


「さぁ、エルフェリアもそこまでは言ってなかったね、ただ気を付けろと言われただけだ、一応耳に入れておいた方が良いと思ってね」


「ありがとうございます」


 それだけ言い残し部屋を出て行くアリスを見送り、悠魔は考える長い事沈黙をしていた蒼海の魔王が動き出した理由を、もしかしたら起源龍が関係しているのかと思ったが、それなら自分を訪ねて来る事はあっても敵対するような事はないと考える。


「考えても仕方ないか……正直敵対したら勝てる方法はないし、兎に角敵対しない事を考えないと……でも、僕蒼海の魔王についてその容姿も何もしらないんだよなぁ、どうしたものか……仕方ない近いうちにエルフェリアさんに聞きに行きましょうか」


 姿も知らない相手の事を今考えても仕方ないと思い布団の中に戻るり、一度家に帰ったらエルフェリアを訪ねて来る事を決めるが、魔眼の一件以降少々気まずい雰囲気があり、彼女の元から足が遠のいていた。


「いや、待てよ」


 悠魔は起き上がりローブから知恵の書を取り出した、これを使えばすべて解決できるなと思った。


「さて、調べる内容は蒼海の魔王ユミナ・アルルカント……と」


 本のページを捲りそこに記された記述を読んで行くと、まず容姿は簡潔に言って巨大なウミヘビで水以外にも空も泳ぐ事が出来、性格はあまり争いごとを好まなく温厚だが、一度その怒りを買えばほぼ確実に命を落とす。


「確か、幾つもの国を滅ぼしたとリボーズ様もアリスさんも言ってたな」


 人化した姿は年端もいかない少女の姿で、長い綺麗な金色の髪をしており透き通るような青い瞳をしている。


「特別こちらが刺激しなければ危険な人物には思えないな」


 ページを読み進めて行くが、それほど理不尽な相手には思えなくリボーズよりは常識人に思う、これなら特別危険視する必要はないと思い本を閉じしまい眠る事にした。




 朝早くに鬼人の里を立ちララークに向かう悠魔とアリス、特別話題もなかったので悠魔はアリスに彼女の蒼海の魔王の評価を聞く事にした。


「ん、僕の評価かい?」


「はい、どんな方なのかと思いまして」


「そういわれてもねぇ……」


 アリス自身蒼海の魔王には会った事なく、この質問には悩まされるが彼の手前適当な事は言えなく、少し思考して人づてで聞いた蒼海の魔王の噂を思い出し頭の中でまとめて行く。


「そうだね、前にも言ったと思うがかなり温厚な魔王でこちらから手を出さなければ、よい関係を気づけると思うよ、ただ僕もあった事がないからこれは推測だ、リボーズ辺りなら詳しい事を知ってるだろけどね」


「蒼海の魔王て長い間深海の自分の都市に引き籠ってたんですよね……何で急に出て来たんでしょう?」


「さぁ、エルフェリアは何も言ってなかったし、今度それとなくリボーズにでも聞いてみるかあれなら何か知ってるかもしれない」


 同じ魔王で面識のあるリボーズなら、今回長い沈黙を貫いてきた蒼海の魔王ユミナ・アルルカントの動きに心当たりがあるのではないかと彼女は推測する。


「起源龍が関係してるとは考えられませんか? それなら僕もそれなりに調べてましたしエルフェリアさんが僕の所に忠告に来るのも納得が出来ます」


「……」


 確かに起源龍については、エストア王国、グリーンウッド王国、アリテール王国、ダイヤス帝国など、他のどの国より悠魔は詳しい情報を調べて持っているが、悠魔自身その情報はエストア王国にすべて提供しており、エストア王国も各国に流している。


 そもそも長い事引き籠っていた魔王が、悠魔の様な一人の冒険者を気に掛けるだろうかとアリスは考えるが、まず普通はないとその考えを切り捨てる。


「まぁ気にする事は無いだろ」


「そうですかね」


「そもそもただの冒険者のしかもほとんど無名の冒険者の情報を知る方法が思い付かない」


 龍の力を持っていてアリスの様な魔女を従えてるとはいえ、悠魔の冒険者ランクは下から数えた方が早く、ララークの冒険者ギルドでは少々有名だが、その程度で世界に名を轟かせるほどではない。


「いつも通り過ごしてればいいさ……ほら行くよ、夜までにはララークに着きたい」


「あ、待ってください、アリスさん!」


 足を止めた悠魔を注意して、さっさと歩いて行くアリスを見て、悠魔は慌てて小走りして彼女を追って行った。

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