城に招待!
いつもの様に騒がしいギルドだが、その日だけは静かだった。
短く切りそろえられた金髪で、誠実そうな青年が現れるまでは、いつもの様に騒がしく、話し声が聞こえていたが、その青年が、ギルドの扉を開け入って来た事により、その姿を見た者は皆、静かになっただった。
その青年は、汚れのない白い騎士服を着ており、優雅な足取りで、彼は受付まで歩いて行き、受付嬢に話しかけた。
「すいません、此処に、悠魔とレイラと言う冒険者がいると思うのですが?」
受付嬢は、青年の姿を見て、狼狽える。
「は、はいた、確かにと、登録されていますがど、どう言った、ご用件でしょうか?」
「ストーップ……ジェンガ君が出ると、皆委縮しますから下がっていてください」
受付嬢は、ビクビクし受け答えをする、青年の後ろから、同じ騎士服を着た、綺麗なストレートな黒髪を伸ばし、清楚で大和撫子そうな女性が出て来て青年を押しのけた。
青年は、どうしてだ、と呟き女性の後ろに下がった。
「実はとある貴族が、彼らに命を助けられて、そのお礼をしたいと言っているのですが、取り次いでもらえませんか?」
「わ、わかりました! 少々お待ちください!」
受付嬢は、慌てた様子で立ち上がり、小走りで悠魔達がいるであろう、二階に上がって行った。
「だ――か――ら! 今日はゴブリン討伐だって! 採取依頼は昨日もしたじゃん!」
「いやいや、ここは森の奥に入って、希少薬草の採取でしょ! 悠魔君がポーションとか作れるなら、色々な薬草に触れ合う方が、経験アップになるしょ!」
「そうかもしれないけど、戦闘の経験も積んだ方がいいよ」
「いつまで続くんでしょうね、どちらも僕の事を考えくれてる見たいですけど……」
「本当にそうよねぇ」
レイラとクラウは、どの仕事に行くかで揉めていて、その光景を悠魔とナナとリウスは眺めていた。
しばらくすると、受付嬢が現れ、悠魔達に話しかけて来た。
「すいません、少しいいでしょうか?」
彼は、ギルドの職員から、話しかけて来るなんて、何をしたか考えるが、特別何も思いつかなかった。
「……はい」
取り合えず、彼は話を聞く事にする。
「悠魔君何かしたの?」
「知りませんよ」
受付嬢に話しかけられ、言い争ってたレイラとクラウも、言い争いをやめて静かになった。
「実は、王国騎士の方が見えてまして、悠魔さんとレイラさんに話があるそうでして……」
「悠魔君本当に何したの!」「レイラも何したんだ!」
「何もしてませんよ!」「そうだよあたしも何もしてないよ!」
王国騎士が来てると言われた瞬間、ナナとリウスは悠魔とレイラを問い詰める、二人は慌てて何もしてないと、否定するように首を横に振る。
「それで、会っていただけないでしょうか?」
「「……わかりました」」
二人は、しばらく考えた後、観念したかの様に、会うのを了承した。
「初めまして、僕は王国騎士団のジェンガだよろしく」
「私は王国騎士団のコトナです、よろしくお願いします」
「「……」」
「初めまして……皆どうしたんですか?」
「いや、だって」
「まさかこんな大物が出てくるとは……」
「本当に驚きね……」
「……私何したんだろ?」
悠魔を覗く皆が、目の前の人物に驚いた顔をしているが、悠魔だけは何故、皆が驚いてるのかをわからない顔をしていた。
「悠魔君、この人達は王国騎士で、しかもジェンガ様は、聖剣と言われエストア王国最高戦力なの」
「ああ、そう言う事だ、何でそんな大物が……お前ら本当に何したんだ!?」
「だから何もしてません!」「何もしてないよ!」
「この二人は、一体何をしたんでしょうか?」
後ろで、悠魔とレイラが、何もしてないのに、と呟いてるのが聞こえてくるが、リウスは無視をして話を進めた。
「いえいえ、御二人は、とある貴族の命を救っていただいたので、その貴族が是非とも、お礼をしたいと言うので、出来れば皆さんには、王宮の方来てもらいたいんです」
そして、現在城門の前、そこにはジェンガ、コトナ、悠魔だけが立っていた。
「近くで見ると大きいな」
「そうですね、私も初めて此処に来た時は、驚きましたからね、でも噂では海の向こうの、ダイヤス帝国
のお城は、もっと大きいとか聞いた事ありますよ」
「へぇ」
悠魔が、ポツリと思った事を呟くと、いつの間にかコトナが隣に立っており、悠魔は驚きを胸の内に秘め、彼女と談話し始める。
しばらくすると、ジェンガが王宮の中から、歩いて出て来た。
「すまない、待たせたね、こっちだよ」
「あ、はい」
「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ」
悠魔が、ジェンガのに声をかけられて、緊張気味返事をすると、隣に立っていたコトナが、彼の肩を叩きジェンガに続き歩いて行った。
「……レイラさん恨みますよ」
今悠魔が一人で居るのは、実質命を救ったのは、悠魔とレイラなの二人なので、二人で行って来いと、リウスに言われてしまい。
それを聞いた瞬間、レイラは貴族の前に出るという、緊張で倒れてしまい、結局一人で来る事になったからで、悠魔はため息をつき、観念したかの様に歩き出した。
王宮の中に入ると、沢山のメイドが並んでおり一斉に頭を下げられた。
その光景に、悠魔は驚き立ち止まったが、他の二人は当たり前の事く歩いて行く、悠魔も慌てて二人に付いて行く、赤い絨毯の敷かれた階段を上がって行くと、ジェンガが立ち止まり、悠魔の方に振り向いた。
「そう言えば、フェレを助けてくれて、ありがとう」
「え、あ、はい、別に大した事は……当然の事をしただけで……」
「いや、君がいなければ、フェレは助からなかっただろう、ありがとう」
「あ、頭をあげてください、ジェンガ様! こんな所誰かに見られたら!」
誰も、周りにはいないとはいえ、彼の様な人間が、頭を下げる所を見られるのは、不味いと思った。
「何故だ、友の命を救ってくれた者に、頭を下げるのは、当然の事だと思うのだが……何か変かな?」
ジェンガが下げた頭を上げて、不思議そうに悠魔に聞き返して来る、後ろでは、コトナが笑いを堪える様に、口元を抑え横を向いていた。
「いや、僕は平民ですか、らジェンガ様は貴族ですし……もし誰かに見られたりしたら」
「ああ、そう言う事か、大丈夫だよ近くに人の気配はないし、僕もその辺は弁えてるつもりだよ」
「はぁ」
「まぁ、ジェンガ君は、こう言う人ですから……貴族達が、皆ジェンガ君見たいならいいのですけど……あの屑共、自分の保身しか興味のないのでしょうか」
最後の方は、この場にいる者でも聞き取れないくらい、小さな声でコトナが吐き捨てる様に言う、そして、彼女は歩き出した。
その時のコトナの表情は、感情がなく冷たい目をしており、数時間前に初めて会った悠魔自身だが、彼女はニコニコしていて、笑顔を絶やさなかった彼女が、そんな顔をするのに驚いていた
。
「……(本当に色々あるんだな貴族て)」
「……悠魔行こうか」
ジェンガは、やれやれと首を横に振り歩き出した。
しばらく歩き一室に通され、此処で待つように言われ、ジェンガが部屋の外に出て行った。
「えっと……」
「座ってください、そんな所に立っていても仕方ないですよ」
「は、はい」
コトナがポンポンと、自分の座っているソファーの隣を手で叩いた。
さっきまでの冷たい雰囲気はなく、そこには初めて会った時の様に、ニコニコ笑顔をしていた。
「ちょっと待ってくださいね」
「?」
コトナはテーブルの上に置いてあるベルを鳴らすと、ドアを開けてメイドが入って来る、メイドはテキパキと無駄のない動きで、紅茶を淹れて、菓子を置いて、ドアの前で一礼をして部屋を出て行った。
「取り合えず、お茶でも飲みましょうか、陛下達が来るまで少し時間がかかるでしょうから」
「は……い、ん、陛下?」
悠魔は今何だか、とても無視出来ない事を聞いたような気がした。
「あれ、此処に、悠魔君を呼んだのは、陛下ですよ、ジェンガ君が言ってませんでしたけ……彼、偶に抜けてますからね、出来ればレイラさんにも来てほしかったのですが……まぁ、普通行き成り、城に来てくれなんて言われたら、卒倒しますからね――彼女は大丈夫でしょうか?」
ニコニコ紅茶を飲みながら、彼女は他人事の様に言い、お茶菓子をパクリと食べた
「言ってませんよ! 今初めて聞きましたよ! 僕はてっきり、フェリクスさんだと思ってましたよ、道理で変だと思いました、何で王宮なのかとか、と言うか一緒にいたのですから、気づきますよね⁉」
「あら、何の事でしょう?」
コトナは、ニコニコしながら紅茶を飲み、素知らぬ顔をして会話を打ち切り、再びお茶菓子を口に放り込んだ、この時悠魔は、彼女の評価を百八十度変えた。
しばらくは、とりとめもない話をして、時間が過ぎて行く、急にドアが勢いよく開き、一人の男性が入って来た。
男性は、ソファーに座ってる悠魔を見た瞬間、凄い勢いで近づき土下座でもする様な勢いで、頭を下げお礼を言いだした。
「貴殿が悠魔殿か、よく甥と姪の命を救ってくれた、礼を言うありがとう!」
「え、えっと」
「ふふふ、陛下少し落ち着いてください、お客様が困ってますよ」
「おお、そうだな」
「陛下……陛下⁉」
悠魔は、目の前の立派な髭を生やした、年齢は大体四十くらいの男性が、国王陛下だとわかった瞬間バネの如く立ち上がり、慌てて膝を着き頭を下げ様としたが、陛下がそれを制止した。
「そのままでよい、此処には我々しかおらんのだからな……ジェンガ、コトナ此処で見た事は」
「はい、僕は何も見てません」
「私も、最近物忘れが激しくて」
コトナはニコニコと窓際まで移動して、ジェンガは素知らぬ顔をしてドアの近くに立ち目を伏せた。
「まずは、この度は、わざわざ王宮に足を運んでいただき礼を言う、私がクランド・ブリッツ・エストアだ、本当は此方から出向くのが礼儀なのがすまない、中々時間が取れなくてな、弟が言うにはもう一人女性がいたと聞いたが……」
「すいません、王宮に呼ばれたと聞いた時に失神してしまい、今は多分ベットの上かと」
「そうなのか、何だかすまない事をしたな……ジェンガ」
「はい」
ジェンガはじゃらと音のした、何かが入った革袋をテーブルに置く、その後、彼は再びドア近くに戻って行く。
「中に、白金貨で五十枚入ってる、受け取ってくれ」
「……いやいやいや、いくら何でも、もらい過ぎですよ⁉ レイラさんや他のメンバーで分けても、もらい過ぎです」
悠魔は、国王陛下が何を言ったのか分からなくて、思考が一瞬停止してしまう、理解が追い付くと、お礼が明らかに過剰だと言い、受け取りを拒否した。
「冒険者は色々と入用だろ?」
「しかし……」
「悠魔君」
後ろからコトナが、悠魔の耳元で、遠慮のし過ぎは美徳とは限りませんよ、貴族にはそれぞれ体裁があるんですよ面倒ですけど、と呟く、悠魔は少し考えため息を吐き。
「わかりました……確かに、王様としての体裁もありますよね、このお礼謹んでいただきます」
悠魔は頭を下げ、金貨の入った袋を受け取りローブの中にしまう、紅茶を飲もうとした瞬間、ドアが勢いよく開かれ、悠魔が知った人間が飛び込んで来た。
「悠魔さんとレイラさんが来てるて本当かい⁉」
「フェレクス様⁉」
「あれ、悠魔さんだけかい?」
「あ、はい、レイラさんは、王宮に招かれたと知った瞬間、失神してしまい」
「そうか、残念だな彼女にも、お礼を言いたかったのだが」
フェレクスが残念、と微笑して、空いていたソファーに座る、メイドが紅茶を淹れて出て行く、その後フェレクスが一口飲む。
「さて、改めて、まずはありがとう、君がいなかったら、僕は今此処にはいない、ありがとう!」
お礼を言い、フェレクスが真剣な眼差しで、悠魔を見つめて来た。
「どうかしました?」
「……悠魔さんて男だよね?」
「そうですけど? それがどうかしました」
「いや、何でもないよ」
悠魔は少し驚いていた、基本彼は女と間違えられるので、男と見られたのは、この世界に来て初めてだった。
「よく女に間違えられますけど、よくわかりましたね?」
「女性と男性を見間違えるような失礼はしないよ、貴族は何かと大変でね、目はいい方なんだ」
国王陛下、ジェンガ、コトナがうんうんと首を縦に振り、悠魔はこの時、貴族には気をつけようと思い、別に男に見られるのは悪くないが、少し警戒が必要だと思った。
「そう言えば申し訳ないです、中々フェリクス様の家の方に行けなくて、指輪も借りたままで」
「ああ、それは気にしなくていいですよ、君達にも色々事情があるだろうからね、出来れば近いうちに来てもらいたいのだが、母さんと父さんも妹も、君やレイラさんに会いたがってるからね……こちらから押しかけると、色々面倒な事になるしね」
「……近い内に絶対伺うので、それだけはやめてください! 今日ジェンガ様が来ただけで、大変だったんですから」
悠魔が苦笑して視線をそらす。
「後、前に言った様にフェレでいいよ、公式の場ではないしね」
「それなら僕もジェンガでいいよ」
「私もコトナでいいですよ」
「はぁ」
そんな、どうでもいいような訂正をして、紅茶を飲みながら妙な静寂が部屋を包んだ。
「陛下!」
「何だ、今は来客中だ、後にしろ!」
「王妃様が!」
「何⁉ すまない悠魔殿、私はこれで失礼する」
国王陛下は、慌てる様に部屋を出て行き、残されたジェンガ、コトナ、フェレクスが苦い顔をして俯いた。
「何かあったんですか?」
「ここ最近、王妃様の体調がすぐれなくてね」
「ご病気ですか?」
「不明なんですよ、衰弱が激しくて薬は効きませんし、魔法による治療も一時的にしか」
部屋の中は静かになり、悠魔は何を言っていいか、分からなくなった。
「そうだ、悠魔さん! 僕を助ける時に使った薬は――」
「フェレクス君を助けた薬ですか?」
「うん、致命傷ですら一瞬で治す薬なら」
「あの薬なら、まだありますけど」
悠魔は、ローブの中から透明な液体の入った小瓶を取り出し、テーブルの上に置いた。
そうすると、コトナが興味深そうに、小瓶を持ち上げ中身の液体をジーと凝視しだした。
「見た事ない薬ですね……この魔力は、試して見る価値が、あるかもしれませんね」
「悠魔さん! この魔法薬、譲ってもらえないだろうか? もちろん代金は払う、だから!」
「別に構いませんよ、お金はいいです、どうせ僕が作った物ですから」
それを、聞いたコトナは、慌てて立ち上がる。
「早速行きましょう」
「僕も行っていいでしょうか?」
「それは……」
「わかった、薬を提供してもらうんだ、僕が許可するよ」
コトナが言いよどむと、フェレクスが構わないと言い歩き出しす、それに続くようにジェンガ、コトナも続いて歩き出した。
しばらく歩くと、他の扉と違い豪華な作りで、部屋の前には鎧を着た騎士が二人立っている、部屋が見えて来て、その前で止まると、ジェンガが騎士と一言二言話すと、ジェンガが扉をノックして中から返事があると、ドアを開けて入って行く、続くようにコトナ、フェレクス、悠魔が部屋に入って行った。
「どうかしたか?」
「陛下、この魔法薬を」
「これは?」
「悠魔さんからの物で、僕の傷を治してくれた薬です、致命傷の傷ですら一瞬で治す物ですから、もしかしたら――」
「悠魔殿から」
「まぁ、効果が期待出来るか、わかりませんが」
部屋に入ると、部屋の中は薄暗く大きなベッドがあり、その中央には御淑やかそうなの女性が眠っており、その傍には、目に涙を浮かべドレスを着た少女が、眠っている女性の手を両手で握っており、反対側に国王陛下、その後ろには、大きな本を両手で抱え、眼鏡をかけた知的な女性が立っていた。
眠っている女性は顔色が悪く、呼吸も荒くなっていて、何かの病気を患ってるように見えた。
「すまない悠魔殿」
コトナから小瓶を受け取り、蓋を開けて王妃に飲ませる、顔色は良くなり呼吸は規則正しくなり、少しすると目を覚ました。
「エレナ⁉」
「あ、あなた……」
「よかった、よかった」
「お母さま⁉」
「これは⁉」
目を覚ました王妃に、国王とドレスを着た少女が抱き着き、大きな本を抱えていた女性は、大きく目を開き驚いたような声を上げた。
「悠魔殿ありがとう!」
「いえ、僕は何も」
「いや、君がいなけらば、エレナは助からなかった」
国王は泣きながら、悠魔の手を掴み、何度も何度もお礼を言った。
彼は悠魔にちょっと待ってる様に言い、部屋を出て行く、それに続くようにジェンガも出ていった。
「それにしても凄い魔法薬だね、あれだけつらそうだった、王妃様が一瞬だ元気になられたのだから、かなり高価な魔法薬なんじゃないのかい?」
「いえ、あれは、僕が作った物のなので、正確な値段はわかりません」
「い、今何て言いました!」
「ふぇ⁉」
本を抱えていた女性が、急に大きな声を出し、悠魔に詰め寄った。
「えっと、せ、せい、正確な値段はわかりません、ですか?」
「違います! その前!」
女性が興奮して、頬を赤くして、目を大きく開いて、悠魔にぐいと近づいた。
「ぼ、僕が、作りましたですか?」
「そう、それです!」
悠魔は、涙目になりながら後ずさり、それを追うように、女性が詰め寄り壁に追い詰められドン! と女性が両腕で壁を叩き、いわゆる壁ドン状態になり、バサッと女性が持っていた本が床に落ちた。
「ルチアさん、落ち着いてください、悠魔君怖がってますよ」
「っ……申し訳ありません!」
「い、いえ、だ、大丈夫です」
興奮状態だった、ルチアと呼ばれた女性は、コトナの声により落ち着き、落とした本を拾い。悠魔から離れて、コホンを咳をする真似をする。
さっきの、自分の行いを恥じているのか、頬は赤いまま今度は落ち着いて。
「それで、この魔法薬を作ったのは、悠魔様なんですか?」
「は、はい、知り合いのエルフの工房を借りて作りました」
悠魔は、ビクビクしながら、ルチアの問いに答え、シャルルの店の工房で魔法薬を生成した事を伝えた。
「魔法薬はまだありますか?」
「あ、あと、一つだけなら」
悠魔は、さっきのルチアが余程怖かったのか、再び涙目になりながらローブから、魔法薬を取り出しルチアに見せた。
「……鑑定してもよろしいでしょうか?」
「は、はい、どうぞ」
ルチアが魔法薬を、テーブルの上に置き、鑑定魔法を発動させた。
「悠魔君、よかったんですか?」
「何がです?」
「……まぁ、知らないて言うのは、何事も幸せですね」
「?」
鑑定を終え、ルチアがしばらくそのまま石の様に動かなくなり、ぶつぶつ独り言を言い始め、その光景を見た悠魔は、まるで魔法薬の存在自体を否定するような感じに見えた。
「悠魔殿、待たせて申し訳ない!」
「⁉」
静まり返った部屋に、扉を勢いよく開け、国王が部屋に入って来た。
「どうしたんだい?」
「いえ、急にドアが開いたので、驚いて」
「そうか、ルチアどうかしたのかい?」
「……」
「ルチア、陛下が呼んでいるよ」
「……」
「ルチア!」
「っ⁉」
陛下が名前を呼んでも、ルチアは反応しなくて、見かねたジェンガが、ルチアの名前を呼ぶが、反応がなく変に思った、ジェンガがルチアの肩をトンと叩く。
「どうしたんだい?」
「あ、え、いや、すいません、少々困惑していまして」
「困惑?」
「悠魔様で構いませんか?」
「出来れば、様はやめてほしいです」
「それでは、悠魔さん……あなたは、この魔法薬を、どの程度知ってますか?」
「えっと、傷を治したり、病気を治したり、くらい程度しか……」
「……」
「ど、どうしたんですか?」
ルチアが何言ってんだ、こいつ馬鹿じゃないのかと、言う目を悠魔に向け、そんな目を向けられた悠魔は、ビクと肩を震わせてる。
「どういう事だ、ルチア説明しなさい」
「はい、陛下」
ルチアが、魔法薬をテーブルから取り悠魔に渡し、魔法薬について説明し始めた。
「まず、この魔法薬の名前は、エリクサー伝説の魔法薬です」
「「⁉」」
「?」
その話を聞いた陛下達は驚き、悠魔はエリクサーと言う元の世界の知識で単語は知っているが、現物はもちろん見た事ないもので、首を捻り疑問に思った。
「悠魔さん、もう一度確認しますが、この魔法薬を作ったのは、あなたですね?」
「ええ、そうですけど、何か問題でもありましたか?」
「いえ、作る分には問題はないのです、そう作る分には」
「?」
悠魔は、ルチアが何に苦悩してるのかが、わからないと言う顔をしていて。
「エリクサーは、現在生成方法が失われた、太古の魔法薬なんです」
「……(それはまずいな、知識の書で傷を治す薬や病気を治す薬を調べて作ったが、まさか生成方法が
失われた物だったなんて、たまたま材料がそろっていたから作ったが、困った事になったな)」
「悠魔さん、エリクサーをまだ作れますか?」
「……設備と材料があれば、作り方は覚えてますので」
「困った事になりましたね、陛下」
「うむ……悠魔殿、エリクサーの事を知っているのは、此処にいる者以外にいるか?」
「レイラさんが、フェレクス様を助ける時に見ていただけで、他にはフェレクス様の護衛の人達くらいかと……」
悠魔が急に言葉を切り、何かを考え出した、しばらく考え。
「シャルルさんの所に、一瓶置いてきちゃいましたね……まずいですよね?」
「いや、エルフ達なら大丈夫だろう、彼らは争いを好まない、きっと悪いようには使わんだろう」
「なら、問題は、悠魔さんのパーティーメンバーの、レイラ様とフェレクス様の、護衛の方々ですね」
「レイラさんは、何もわかってなかった見たいですから、下手に話さない方が、いいかもしれません」
「彼らも、多分ポーションたぐいだと思ってると思うから、言わない方がいいかもしれないね」
「それでは悠魔さんは、エリクサーをもう作らないでください」
「あのう、思ったんですけど、確かにエリクサーは強力な魔法薬ですけど、危険な物じゃないですよね、それにエリクサーを使えば、助かる人が増えるんじゃないですか?」
「確かにそうですねですが、今は、悠魔さんしか作れません、もしそれを知った人がいたら、その人が善人ならいいです、ですが悪人でその者が、エリクサーを独占するために、何をするか悠魔さんなら、わかりますよね――ましてや軍事利用なんて考えたらどうします? どんな傷を受けても、死んでなければ回復出来ます、これ以上言わなくても、あなたならわかりますよね?」
「……」
「悠魔君、わかってくれ、これは君の命に係わる事だ」
「……はい」
悠魔は深く息を吸い、何かを決意したように頷く、エリクサーの入った瓶をローブの中にしまった。




