黒狼の討伐
悠魔は久しぶりに冒険者らしく依頼をこなしていた。
「山の天気は変わりやすいか……」
「丁度いい洞穴があったな」
「ですねぇ……」
悠魔、ブロント、フィオナは依頼を受け山道を歩いていたが、急に雨が降り出し彼らは近くにあった洞穴に避難していた。
「そういえば、よかったのか? ただの黒狼の討伐なんかで、物足りないんじゃないのか?」
今回の依頼は山道の近くに住み着いた黒狼の討伐で、彼の言う通り今の悠魔にとっては、簡単に倒せる魔獣だった。
依頼を受ける為にギルドを訪れた悠魔は、二人が依頼を受けてるのを見て同行を申し出た。
二人としては悠魔の同行は大歓迎で、寧ろこっちからお願いしたかったが、ただの黒狼の討伐では、たいしたお金にならないし、悠魔の力ならもっとお金になる依頼を受ける事が出来る。
「僕はただ単に二人と冒険がしたかっただけなんです」
そう言われると二人は何も言えなく、もちろん悪い気はしないが、悠魔ならもっと上を目指せるし、自分達よりもっとすごいパーティーにも入れる。
自分達といても、何も彼の利益になるものがない。
「雨は上がったようですね」
話をしていると、いつの間にか雨は上がっており、再び山道を歩き黒狼が住み着いてる場所を目指して歩き出す。
しばらく歩くと、数匹の黒狼が茂みから飛び出して来る、どうやら彼らがこの辺りに住み着いた黒狼の様で、三人は武器を構える。
「行きますよ!」
悠魔の放った銃弾が黒狼を絶命させる、しかし黒狼達は怯む事なく散開し三人に襲い掛かる。
フィオナは魔法陣を展開して魔法を放つ準備をする、そんな彼女に襲い掛かる黒狼を、ブロントが剣と盾を使い牽制する。
悠魔の方にも数匹の黒狼が駆けて来る、彼の目には黒狼の動きがすごくゆっくりに見えた。
「っ!」
拳銃の引き金を引き、黒狼を一匹一匹確実に処理して行く。
ある程度数が減ると拳銃を納め、魔法剣を作り残りの黒狼を切り裂いていく、自分の方に向かって来た黒狼を全て処理し、二人の方に視線を向けると、フィオナの魔法が発動して、巨大な火柱を生み出し黒狼達を焼き払った。
今の魔法は、炎属性中級魔法の炎柱で、その名前の通りに炎の柱を生み出す魔法で、威力はあるが命中させるのは難しい。
「ふぅーっ」
魔法を発動して疲れたのか、フィオナは一息つく、炎から逃れた黒狼にブロントの剣が襲い掛かり、切り裂いて絶命させる。
「今ので最後か?」
「そのようですね」
依頼の魔獣たちを片付けて一息つくと、倒したと思っていた黒狼の一匹が息を吹き返しフィオナに飛び掛かる、咄嗟の事で悠魔もブロントも反応が出来なく、黒狼の爪がフィオナに届こうとした瞬間、突如現れた人影が黒狼の体を真っ二つに両断する。
「大丈夫か人間」
黒狼を両断したのは、前にあった事のある人物で、鬼人族の紅だった。
「紅さん!」
「あの角って鬼人族⁉」
紅は手にしていた刀を納め、悠魔達の方に歩いて来る。
「悠魔じゃねぇか、こんな所で何してるんだ?」
「依頼で魔獣の討伐に……」
そう言い黒狼を指さす、紅はバツの悪い顔をして頭を掻きながら、謝って来る。
どうやら獲物を横取りしてしまったと勘違いしたようで、困った様に眉を顰めるが、悠魔達は彼に感謝しかなかった。
「いえ、ありがとうございます、紅さんが居なかったらフィオナさんは、大怪我を負ってましたから」
「あ、ありがとうございます」
慌ててフィオナは頭を下げ、紅にお礼を言う。
悠魔は、どうして紅がこんな所に居るのか不思議で、鬼人族はもっと山奥に居るはずで、こんな山道には普段は出てこない、出て来るとすれば何かあった時だけだ。
紅の話では、彼も黒狼を追っていた様で、ここ最近黒狼に畑などを荒らされてしまい、仕方なく目につく黒狼を討伐していたようだった。
「最近どうも山が騒がしくてな、何か知らないか?」
「残念ながら、僕達も山道付近に住み着いた黒狼の討伐に来ただけなので……今までにこんな事ってあったんですか?」
「なくはないが、もう少し温かくなってからだな」
どうやら、ララークの近くの森だけではなく、この山にも異変が起こってるようで、悠魔は変異種の事を聞いてみたが、どうやらその様なものはこの山では出て無い様で、変異種が出現しているのは、どうやらあの森だけの様で、今回はただの異常繁殖だと考えた。
「なぁ悠魔、礼はするから、黒狼の討伐手伝ってくれないか?」
一応山道付近に住み着いていた黒狼は倒したが、異常繁殖してるなら他の巣も潰さないと、結局は同じ事になると思い、悠魔は手伝うのも悪くないと考えた。
「助けてもらいましたし、私は良いとおもう」
「そうだな、俺も問題ない」
「二人が良いのなら僕も大丈夫です」
「なら、今夜は俺の家に泊まって行け、野宿よりいいだろ」
三人は紅の提案を受け入れる、元々ララークに帰るのは今日中には無理なので、何処かで野宿をするつもりだった。
「よし、なら、はぐれない様について来いよ」
紅は険しい山道を、なれた足取りで歩いて行く、しばらく歩くと鬼人族の里が見えて来て、何人もの鬼人達が生活をしていた。
特別彼らは、人間の悠魔達を気にする様子はなかく、また一部の者は悠魔と顔見知りなため、手を振って挨拶してくれる者もいた。
「此処が俺の家だ、まぁ入ってくれ」
彼はドアを開け中に入って行く、そんな彼に続き三人も入って行く、紅は履物を脱ぎ廊下を歩いて行く。
「靴はそこで脱いで上がってくれ」
悠魔は馴れた様子で、さっさと靴を脱ぎ上がって行く、ブロントとフィオナもそれを見て、真似をして廊下を歩いて行くと、今まで見た事もない土の壁や、紙の貼られた扉を見て驚く。
悠魔には懐かしく感じる雰囲気だが、彼らにとっては初めて見る物ばかりで驚きの連続だった。
「お兄様お帰りなさい」
「おう、今帰った、悪いが客だ今晩泊まって行く」
妹の真白は、お客の顔を見て、笑みを浮かべお礼を言い頭を下げる。
「以前はありがとうございました」
「いえ、元気そうでなによりです」
彼女に案内され、悠魔とブロントは紅と同じ部屋に、フィオナは真白の部屋に案内される、一応道中で彼らとの知り合った経緯を話していた為、簡単に部屋割りは決まった。
今は紅と黒狼についての情報交換中で、真白を除く皆が居間に集まり地図を広げて、話し合いをしていた。
「弱いと言っても奴らは群れだからな、数が多いのは面倒だ」
「俺とフィオナだけでは、正直五匹以上は無理だな」
今の悠魔なら黒狼なら、それなりに簡単に処理出来る、しかし、いくら龍の力を手に入れても、彼は人間で少々頑丈なのと傷の治りが早いくらで後は、魔法がまともに使えないポンコツ状態なため、一人では厳しかった。
黒狼は十匹以上の群れを成しており、先程悠魔達が倒したのは、どうやら紅が倒した残りだった様で、数個の群れを相手にするとなると、この人数では難しくどうしようか考える。
「俺をともう一人が、お前らに付き合うから人数は安心しろ、五人一組で動く班が三組、計四組で動く」
合計二十名で各箇所にある、黒狼の巣をつぶすと伝えられる、ただ鬼人達は基本的に正面突破が基本で、それを聞き悠魔は頭を悩ます。
確かに鬼人は強いが、それでも疲弊するし怪我もする、そこで悠魔はある物を作ろうと思い、紅に必要な物の調達を頼むと、彼はそれを了承する様に頷く。
「後は、明日だな」
それで話し合いは終わり、それを見計らう様に真白がお茶を持って来てくれる。




