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異世界でのセカンドライフ  作者: サイン
第五章
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アリスの不安

 悠魔は珍しく釜の前に立ち、中身をかき混ぜていた。


 普段のこの手の作業は、いつもナナがしており、悠魔自身釜の前に立つ回数が減っていた。


「どう? 新しいポーション上手く出来そう?」


 ナナがドアを開けて、紅茶のセットを持って工房に入って来る、今悠魔が作ってる物は、ギルドに卸してる物と違い、全く新しいポーションの開発中で、その為珍しく釜をかき混ぜていた。


 悠魔は完成したポーションを、小瓶に入れてテーブルに置く。


「一応完成しました」


「なんだか濁った白いポーションね」


 瓶の中身は、黒く濁った白いポーションだった。


 これを飲み込むのには、かなり勇気がいる見た目で、本当に飲み込んでも大丈夫なのか、ナナは疑問に思い怪訝な目をポーションに向ける。


「これって、体に有害じゃないわよね……」


「え、飲み込むとお腹を下しますよ」


「失敗作なの?」


 ナナに言われて、ポーション――飲み込む物と決めつけるのはやめてほしかった。


 確かに、ポーション類は摂取する物が殆どだが、中には毒ポーションや麻痺ポーションと言った物がある、この白いポーションは特殊な液体を加えると、強烈な光を放つポーションで、ダイヤス帝国から帰って来る時に見つけた、光る花――閃光草と言う物から作り出した物で、この草は雨が降ると発光する草で、面白い特性だと思い積んできた。


「それで、このポーションで何を作るの?」


「調べて分かった事なんですけど、この草が光るのは、雨水に含まれてる一部の不純物に反応して光るみたいなんです」


 悠魔は水の入った瓶を持って来て、中に入っていた水を一滴白いポーションの中落とすと、発光し始める、光は懐中電灯程度で、この現象を使えれば色々と面白いものが作れると思った。


「それで、これが試作第一号です」


 悠魔は奇妙な器具の付いた金属製の小さな筒を取り出す、ナナは興味深そうに手に取り、あらゆる方向から金属製の筒を眺める。


「その筒には、白ポーションと、雨水を分析して作り出した液体が入ってます、そこの栓を抜くと中で液体が混ざり合い瞬間的に強烈な光が――っ」


「この栓ね」


 ナナが迷わず、筒についていた器具を引き抜こうとする、その光景を見た悠魔は慌てて止めに入るが、間に合わずナナは器具を引き部いてしまう。


「何やってるんですか⁉」


「ほぇ?」


 悠魔が怒鳴るのと同時に、ナナの手元から強力な閃光が放たる、その光を直視した二人は、目を抑えその場に蹲る。


「め、目がぁぁぁ!」


「何よこの光⁉」


 悠魔が作ったのはいわゆる閃光弾で、本来懐中電灯程の光しか出さない発光草だが、発光する成分を凝縮する事で強力な光を生み出せるようにした。


 しかしそれでも、閃光弾の様な物は作れなく、今度は雨水を調べて、その中の光を生み出す成分の液体を作り出した。


 それにより、これほどの強力な光が生み出せる物が作れたのだが、その説明をする前にナナが栓を抜いてしまったため、説明より早く光が二人を襲った。


「……君達は何をしてるんだい?」


 騒ぎを聞きつけやって来たアリスは、目を抑え悶絶する二人を見て呆れかえる。


「うぅぅ、ごめんなさい」


「まぁ別に良いですけど、今度からはちゃんと説明を聞いてからにしてください」


 アリスはそんな二人を見て、テールの上に置かれた、白ポーションや金属製の筒を眺める、中々面白い物を作るなと思った彼女は、他にも何かないのか悠魔に問いかけた。


「今の所は、その閃光弾だけですね、白ポーションは量産したので、何か作ろうと思いますが」


 今考えてる物は電灯だった、貴族の屋敷なら明かりをつける魔道具があるが、平民などの家にはそれはなく、精々ランタンの様な物で光を確保してる為、どうも薄暗く感じてしまう、白ポーションを使えば蛍光灯の様な物が、作れるかもしれないと考え開発中だった。


「うむ……」


 アリスは何かを考える様に歩いて行く、そんな彼女を見送る二人は不思議そうに首を傾ける。




 悠魔はギルドを訪れており、ギルド職員のシズエといつも通りギルドに卸す、ポーション類の手続きをしていた。


「これで、終了です」


「はい、いつもありがとうございます」


 金貨の入った袋を受け取りしまい込む、ここ最近これらの面倒な作業は、ダイヤス帝国の件があったとは言えナナに任せっぱなしだったため、色々情報不足になっていた。


「ここ最近何か変わった事とかありました?」


「そうですね……あ、そういえば、国の方から変異種の話が上がってましたね」


「……変異種?」


「はい」


 シズエは少し思考して、以前悠魔とアリスが捕獲した、変異種の魔獣の事を話し始める。


 彼女の話では、国が調べた情報によると、どうも正体不明の強大な魔力を浴びて、魔獣の肉体が変異したものだと言う事が分かり、変異種の力は変異する前の魔獣の数倍の力がある事が分かった。


 魔獣の危険ランクと言う物があり、ランクは十段階の数字で表されており、よく冒険者が倒すゴブリンなどは危険度二程度で、今回捕獲した変異種の魔獣はジャイアントベアーは本来危険度三程度で、この数字は魔獣の耐久、力、出現したらどの程度の被害が出るかとかなど、色々な観点からギルドが決定している。


 今回の変異種のジャイアントベアーの肉体を調べると、本来のジャイアントベアーの皮膚の強度や筋肉などより遥かに発達しており、その危険度は三から五程度まで跳ね上がる。


「その変異種が最近よく見かけられます、今はまだゴブリンやジャイアントベアーなどの低ランクの魔獣だけですので、何とか対応できていますが――」


「これ以上ランクの高い魔獣が変異種になると対応出来ない……か」


「はい」


 この辺りには、それほど危険な魔獣は住んでいない、それでも変異種になると危険度は一気に跳ね上がるし、どのような条件で変異種が生まれているのかは全くの不明なので、何が起こるか分からない。


「この辺りで一番危険な魔獣と言えば、グランドクラブですよね」


 グランドクラブは危険度で言えば六程度の魔獣で、姿は全長五メートル程度の巨大な蟹の様な魔獣で、その全身が岩の様に固く、過去に出現した際には、冒険者総出で対処した程だ。


 悠魔自身この街に来てからも、一度も会った事のない魔獣で、お目にかかりたいとは思わない魔獣だった。


「僕も見た事はありませんが、もし変異種化したらどうなるでしょうか?」


「正直この街の冒険者では対応できないでしょうね」


 この街に在住している冒険者は銅、鉄ランクの物が殆どで、僅か数名の銀ランクの冒険者が滞在してるだけだ。


「一応調べてはいますが……」


 ギルドも調べてはいるようだが、彼女の様子では芳しく無い様で、困ってる様だった。


「国の方は何か言ってないんですか?」


 悠魔自身心当たりはある、彼女の話を聞き総合すると、森の中またはその周辺で、あの森には起源龍が封印されてると思われる遺跡がある。


 此処からは悠魔の仮説だが、封印から漏れ出た起源龍の魔力が、周辺の魔獣を変異種に変化させてるのだろうと思う、詳しくは調べて見ないと分からないが、エストア王国もそのくらいは掴んでいるだろう、起源龍の事は国家機密の様な物で、おいそれと公表できなく、例え公表しても信じてもらえるか分からない。


「何も、ただ調査中だけと……」


「そうですか、生憎僕も有益な情報は持ってませんね」


 国の方が公表を控えてるのなら、彼が言う事ではない、勝手に情報を流して後で文句を言われるのはごめんだ、ただ、このまま放置も出来なく考える、変異した魔獣は強く逃げるのもままならない。


 それに、もし公表して騒ぎになると、国民に無用な不安を与える事になる、その為に悠魔も応える事が出来なかった。




 ダイヤス帝国から帰って来た悠魔は大人しく、不思議に思ったアリスは、夕食の席で尋ねる。


「意外だね、帝国の件が片付いたから、次は起源龍の事に首を突っ込むかと思ったんだけど」


「そうですね、前の僕なら首を突っ込んでいたかもしれませんね、実を言うと協力はしたいんですよ」


 協力はしたい、彼自身知ったからには、そのまま見て見ぬふりは出来ない。


 それでも、自分が協力出来る事がない、エストア王国には悠魔より優秀な人など沢山いる、大した力もない自分が居ても、たんなる足手まといでしかない。


「それに、今回の問題は明らかに僕の手には負えません」


「まぁそうだね」


 アリスもそれは同意だ、どう考えても悠魔が手に負える案件ではなく、そもそも平民の彼が手を出すような事ではない、こんな面倒な案件は貴族や王族が解決すればいいと思った。


 しかし、彼は手を出さないと言ってるが、どうせ最後は手を出すのだろうと疑いの目を向ける。


「そんな目で見ないでください、今回は流石にこれ以上手を出しませんよ」


「ふん、どうだか……」


 実際手を出さないのなら、彼女は安心出来るが、このお人好しが服を着て歩いてるような奴が、最後まで傍観するとは思えなかった。

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