帝国最高戦力陥落
コトナは悠魔の治療をしていると、近づいて来る足音に気がつく、今はまだ悠魔の治療の手を止める訳にはいかなく、味方ならいいが、敵なら今の彼女には対応出来ない。
しかし、歩いて来た人物を見て、彼女はホッと胸を撫でおろす。
「アリスさんですか、よかったぁ」
「どうかしたのかい?」
アリスは不思議そうに、首を傾げて二人に近づいて来る、彼女の手には黒い手甲が握られていた。
「そ、その手甲……」
意識が朦朧とする中、悠魔は彼女の持つ手甲に目をやる、それを見てすべてを察する、自分はあの悪魔を倒せなかったのだと。
「すいません、また、色々迷惑かけて……」
「別にいいよ」
アリスは悠魔の傍に手甲を投げる、どうやらくれるようだが、悠魔自身別にあの悪魔の遺品など欲しくはなかったが、この手甲の特性を考えると、かなり珍しい物だと思い、震える手でローブの中にしまう。
「傷の方はどうだい?」
「取り合えず、命の方は大丈夫です、ただしばらくは絶対安静ですね」
それを聞いて、悠魔はまたベット生活かと思うが、回復魔法やポーションで回復するのは、体に負担がかかるため、それに見合った休息が必要で、無理をすれば寿命を縮める可能性がある。
「さて、じゃあ君達は船に戻れ、後は僕が何とするから」
「あ、アリスさん……」
「ダメだ、君は此処で退場だ、そんな体じゃ足手まといだ」
この状態の悠魔の同行は、アリスも認める訳にはいかなかった。
いつもの彼なら少しはごねるが、今の自分の状態をでは、確かに足手まといにしかならなく、素直に引き下がる、そんな彼を見て普段も、このくらい素直に言う事を聞いてくれたら、いいのにと思う彼女だった。
「それじゃあ、悠魔を頼むよ」
「はい、わかりました」
そう言い残し、彼女は飛行魔法を発動して、戦場に向けて飛んでいく。
王宮手前の広場では、今だに戦闘が続いており、クリル率いる部隊が、防衛を突破しようと頑張っていた。
「ぞろぞろ同じ顔が気持ちわりぃな!」
ステールの拳がクローン兵を倒す、しかしいくら倒しても、次から次へと湧き出して来て、数が減る様子がない。
「一体一体は強くないとは言っても、この数は面倒ですね」
同じく彼と戦っていた、ウィズは自身の腕をムチの様に変化させ振るうと、クローン兵が両断されていく。
数は少ないのに圧倒してるのは、アリテール王国の兵達だった。
しかし、敵の防衛を突破できずにいる、いくら兵の強さが圧倒出来ても、数の違いは覆せずこの場で立ち往生していた。
「多少強引だが、無理矢理押し通るか?」
「後で挟まられると面倒な事になりますよ?」
「……確かにそうだな、兵の練度は上でもこっちは数が少ないからな」
このままでは、日没までには決着を付けられなく撤退する羽目になる、此処さえ突破できれば王宮はすぐなのだが、僅かに届かないでいる。
二つの勢力がぶつかる戦場にアリスは降り立つ、彼女は降り立つと同時に魔剣を展開して振るう、それによりダイヤス帝国の兵が倒され、王宮への道が開かれる。
「まだ、こんな所に居たのか君達は……」
「け、剣姫の魔女⁉」
何処か呆れたような表情をするアリスの登場に、驚くアリテールの王国の兵士達を無視して剣を振るい、ダイヤス帝国の兵士達を倒していく。
「流石は我らが王と同等の力を持つだけの事はあるな……」
「ええ、たった一人であの防衛を突破するとは……しかもクローン兵以外は殺していない」
アリスの剣はクローン兵は絶命させ、薬物で感情を失った兵は殺さずに無力化して行く、その戦いを見て、ステールとウィズは彼女の強さを実感する。
確かに自分達でも、あの程度の兵士なら突破は可能だろう、しかしそれは敵兵の命をすべて奪い、辺りの被害を考えない場合で、今アリスがしているような芸当は絶対に無理だった。
「ほら、君達何をしてるんだ、早く進まないか」
その言葉を聞き、すぐに軍を進軍させる準備をする二人、そんな彼らをしり目にアリスは、さっさと先に進んで行く。
王宮手前に着くと、そこにはいたのは残りの四魔騎士の二人だった。
そんな彼らを見て、アリスは剣を振るおうとするが、それを止めたは四獣士の二人だった。
「ちょっと待て剣姫の魔女、此処は俺らがやる!」
「先ほどは良い所を持っていかれましたからね」
そんな二人を見て、彼女は文句がありそうな目を向けるが、言い合いしてる時間がもったいないと思い、展開して行った魔剣をすべて収納して、その場から下がる。
「あらあら、貴方達が相手なのかしら?」
「おう、そうだ! 不満か?」
「私としては同じ魔女として、そこの剣姫の魔女に相手をしてほしかったのだけど」
何処かアリスを手敵視する、目の前の魔女にステールは、高速で近づき拳を振るうが、拳は魔法陣によって止められる。
「っ!」
「せっかちな人ね……」
魔女は不敵に笑みを浮かべ、それを見たステールは慌てて距離を取る為に、その場から飛びのく。
魔法陣が消えるのを確認して、再び距離を詰めようと駆けだそうとするが、そんな彼目掛けて魔女は魔力弾を放つ、ステールはその魔力弾を回避するが、彼は奇妙な爆発に襲われる。
「がぁ! 何だ今のは、俺は確かにかわしたぞ――」
絶句する彼目掛けて、魔女は次々と魔力弾を放つが、やはり先ほどと同じように魔力弾を回避しても、奇妙な爆発に襲われる。
「あらあら、どうかしたのかしら? フフフ」
ステールを馬鹿にするような笑みを浮かべる彼女を見て、笑われたステールは頭に血が上り、彼女目掛けて走り出す。
そんな彼を見て、魔女はいやらしい笑みを浮かべ魔力弾を放つ、ステールはその魔力弾を回避しようとはせずに、そのまま突っ走る。
しかし、アリスは魔力弾がステールに被弾する直前に、彼を蹴り飛ばし被弾する事はなく、そのまま蹴り飛ばされたステールは、近くに積まれていた木材に頭から突っ込む。
その光景を見ていた、アリテール兵は茫然とする。
「全く馬鹿か、すぐに頭に血が上る、こんな簡単な手品も見破れないのか……」
苛正しくアリスは魔剣を取り出し、ステールが走って行くはずだった、方向目掛けて魔剣を放つと、幾つも爆発が起こる。
ステールは痛む頭をさすりながら、その光景を見て驚く、あのまま突っ走ていたら、あの爆発をもろに受けていたと思い、冷静さを取り戻す。
「空中機雷か、全く気がつかなかった」
「隠蔽魔法で隠してたんだね、君が受けた謎の爆発も隠蔽された魔法を受けたからだ、それにしてもよく隠されてるな、魔力感知を集中しないと見つけられないとは……」
「驚いてもらえて光栄です、これは私が長く研究して作り出した隠蔽魔法です」
「ああ、驚いたよ……この程度の事で得意げになってる魔女がいるなんてね」
アリスによって、自分の仕掛けた魔法が見破られた魔女は歓喜する、無論彼女もアリスの事は知ってる、あの剣姫の魔女を驚かすお事が出来たのだから、彼女は笑みを浮かべるが、次のアリスの一言で、その笑みは怒りに変わる。
「なっ!」
「まぁ、所詮は手品だな、この程度なら魔女教団の大抵の魔女は出来るな」
言葉を忘れ怒る魔女をしり目に、アリスはステールの方に視線を動かかす。
「後は僕がやるよ、時間がかかりすぎだ、僕はさっさと悠魔の所に戻りたいんだ」
「待て待て待て、俺の獲物を取るな、ここからは本気でやる、だからもう少しだけ待て!」
このまま獲物を取られるのは、ステールとしても面白くはなかったが、戦力の彼女にさっさと帰れとは言えなかった。
何処か不満げな目を向けるアルスだが、分かったと頷きその場を後にする、後ろで何だか騒いでる魔女が居たが、あの程度の小者の言葉などアリスには届いてなった。
「よし、仕切り直しだ! こっからは本気だ」
そう言うと、ステールの姿が変化して行き、彼の本来の姿になる、その姿はトカゲの様な人間に変化する、しかしその姿は、本来のリザードマンとはかけ離れており、その体は金剛石の原石で固められていた。
「行くぜ!」
ステールは駆けだす、そんな彼目掛けて、魔女は見えない魔法を放つ、しかしステールは唯々まっすぐ走る、魔法が被弾して爆発を起こすが、今の彼の体は金剛石に守られておりビクともせず、そんな彼を見て魔女は恐怖する。
「こ、この化け物が!」
なりふり構わず魔法を放つ、しかし彼女の放つ魔法は効果はなく、ステールの足を止める事は出来なく、逃げようとするがすでに遅く、鋭利に尖った金剛石の塊が魔女の全身を貫く。
その一撃で、魔女は苦しむ暇なく絶命する、ステールは魔女の遺体を投げ捨て勝利宣言をする、アリスは初めから勝敗が分かっていたのか、興味なさそうに王宮を見上げる。
それと同時に、少し離れた所で戦っていた、ウィズと暗殺者の勝負も決着がついた様に声が上がる。
時間は少し戻り、クローン兵の間を駆け回る暗殺者を狙い、ウィズは自身の体の一部を槍の様にして放つ、槍は外れ地面に着弾した瞬間形が崩れ、粘液状なりウィズの方に向かって移動して行き、その体に取り込まれていく。
「弾は尽きる事がないか……」
暗殺者は呟き、投げナイフを投げる、しかしウィズは回避行動を取ろうともせず、そのナイフを体に受ける。
ナイフは体に飲み込まれて行き、体なの中で溶解されてしまう。
「やはり効果なしか……」
「当たり前です、スライムの私に、この様な攻撃は効きませんよ」
腕をムチの様に振り下ろす、暗殺者はクローン兵の背中を蹴り盾の様に使う。
「面倒ですね、その人形は!」
ウィズは、体の半分を粘液状にして、暗殺者に向け放つが、彼はクローン兵を蹴り空高く飛び上がり、粘液から逃れる。
粘液に飲まれたクローン兵は、ウィズに飲み込まれ消化されて消えて行く。
「一度でも捕まれば、即死だな」
地面に降り立ち、残りのクローン兵を呼び寄せ壁の様に立たせる、元々暗殺者の彼は正面切っての戦いは苦手なため、先程からクローン兵を盾に戦ってる。
再びクローン兵の間を走りながら、魔力を帯びたナイフを投擲する、魔力を感じ取ったウィズは、ムチの様に腕を振るいナイフをはたき落とす。
「どうやら魔力武器は効果があるようだな」
ウィズの行動を見て効果ありと判断したのか、次々と魔力を帯びたナイフを投擲する、今までと違いその身で受ける様な事はせず、ナイフを回避して隙を見ながら攻撃を繰り出すウィズ、クローン兵の間を掻い潜りながら、暗殺者はナイフを投擲し続ける。
長期戦となると思われたこの戦いは、ウィズの次の行動で呆気なく幕を下ろす。
ベチャ、と暗殺者は何かを踏んだような感じをし、足を止めて足元を見る、そこには粘液状の液体が広がっており、それを見て慌ててその場から飛びのこうとするが、それより早く粘液から触手が生えて来て彼を拘束する。
「き、貴様……」
「やっと私の体に触れてくれましたね」
暗殺者の視線は移動するウィズに向いていて、ウィズが自身の体の一部をこの様に広げていたのには気がつかなかった。
「は、放せ」
「これで、終わりです」
ウィズの体が崩れ本来の姿に戻る、その姿はまさしくスライム――粘液状の化け物で、その粘液が暗殺者を包み込み飲み込む。
暗殺者の体は徐々に溶けて行き、最後は骨ひとかけら残さず姿を消した。




