人助け
悠魔の目の前には、土下座をしたリウスがいて、その後ろには、テーブルに突っ伏してる、ナナとクラウがおり、頭痛い、気持ち悪い、水と呟いていた。
そんな二人を、レイラが、この二人は、と言う顔をして見つめていた。
「悠魔、その何というか……すまない」
「まぁ、昨日の惨状を見たら、こうなってるじゃないかと思っていたので」
「悠魔っち、心広いよね、私なら張り倒してるよ」
「仕方ない、今日は薬草採取でも行ってきます、森の入り口付近なら、一人でも大丈夫そうですから」
「それなら、あたしもついて行く!」
流石に、二日続けて、酔っ払い達の介抱は嫌なのか、大して金にならなくても、レイラは付いて行くと言い出した。
「いいんですか? お金になりませんよ」
「いいよ、どうせ暇だし、そう言う訳でリウスっち、二人をお願い」
「まぁ、いいが気をつけろよ」
仕方ないと、リウスが了承して、それを確認すると、レイラは悠魔の手を掴んで走り出した。
「悠魔っち、薬草あったよ!」
「ありがとうございます」
「結構な量が集まったね、こんなに集めてどうするの?」
レイラの両手には、大量の薬草が積まれており、それを悠魔の傍に下ろす。
「ポーションを作ろうかと思いまして」
「ポーション作れるの⁉」
「まぁ、知り合いにちょっとだけ教えてもらったので」
「ほぇ」
「取り合えず、森から出ましょう」
「そうだねぇ」
集めた薬草をローブの中にしまい、森を出て見晴らしのいい、開けた丘まで移動して、集めた薬草や色々な器具を取り出した。
「色んな道具持ってるんだね」
「全部貰い物ですけどね」
レイラは興味深そうに、器具を手に取り、観察を始める。
「何か手伝う事ない?」
「そうですね、それなら水を沸かしてもらえますか?」
「わかった」
悠魔が取り出した、小型のコンロと小さな鉄鍋を使い、レイラは水を沸かし始める、その間に悠魔は、すり鉢を取り出し、薬草の葉の部分だけを千切り、数枚入れてすり潰し始めた。
「こんな物かな……レイラさんお湯、沸きました?」
「沸いたよ」
お湯が沸いた事を、悠魔に伝え、彼のする事を、後ろから見ているレイラだった。
「それじゃあ、このすり潰して、ペースト状にした薬草を入れて煮詰める」
「この臭い」
レイラが鼻をつまんで、少し離れた所まで歩いて行く、どうやら彼女は、この匂いが苦手なようだ。
「さて、後は、冷ましてポーション瓶に入れて、出来上がりです」
「よく、その臭いに耐えれるね」
「僕は、この匂い結構好きですけどね」
「それで、これで出来上がりなの?」
彼女は、鼻を摘まんだまま、近寄って来る。
「まぁ、一応」
「何だか、店で売ってる物とは違って……色が薄いね」
「初心者が作ればそうですよ(すり潰してもたいして色濃くならなかったな、ならまず目指すのは、シャルルさんの店の、ポーションくらい濃い色の物を作るのを目指した方がいいか、流石に神様に貰ったものは、シャルルさんの反応を見ても異常な物だって事は分かるしな、まぁ、何事も地道にだな)」
「悠魔っち!」
「うぁ! びっくりした」
突然彼女に声を掛けられ、驚く悠魔に、レイラは掴みかかる。
「もう、何度も話しかけてるのに!」
「すいません考え事してました」
レイラの声で、悠魔が考え事から意識を、慌てたレイラに向け。
「どうしたんですか?」
「何か聞こえる、これは悲鳴⁉」
どうやら、レイラは何かを聞き取ったらしく、慌てだす。
「どっちですか?」
「丘の向こう側から!」
レイラは、丘の向こうを指さして、方向を指し示す。
「行きましょう」
「うん!」
悠魔がは手早く道具だけを、ローブの中にしまい、レイラと共に走り出した。
「ポーション置いて着ちゃったけどよかったの?」
「仕方ないですよ、冷まさないと瓶には入れれませんから、それに大した品質でもないので、誰かに持っていかれるとも思いませんし」
「そっか」
丘の向こう側が見える位置まで来ると、二人は体を屈め様子を伺う、そこには、一台の馬車が止まっており、馬車のそばには、一人の血まみれの青年が倒れている。
その青年の隣には、涙を浮かべた少女がいて、その二人を守るように、二人の男性が剣を持って五体の人骨の様な、魔物と戦っていた。
「骨?」
「そうだね、正確にはスケルトンだねぇ、近くには……他に気配はない所を見ると、あれだけかな……悠魔っち、この距離から魔法でスケルトン倒せる?」
「ちょっと距離があるので、もう少し近づけたら、何とか」
「それなら、私が援護するから、魔法の射程距離まで近づいて倒して」
「わかりました」
悠魔が立ち上がり、強化の魔法を発動して、飛び出し走り出す、それに気づいた二体のスケルトンが、刃こぼれのした、ボロボロの剣を構えて走り出す。
しかし、その内の一体が、レイラの放った矢によって、頭蓋骨を砕かれ動かなくなり崩れ落ちる。
悠魔が魔法の射程距離まで近付くと、魔弾の魔法を放ち、同じ様に頭蓋骨を貫き破壊する、その後、残りのスケルトンに向けて、魔弾を放ち頭蓋骨を破壊して行く、頭蓋骨の砕かれたスケルトンは、体が崩れ去り、辺りが静寂に包まれた。
「ナイス、悠魔っち!」
「はい」
悠魔とレイラが、パチーンとハイタッチをするが、悠魔とレイラはケガ人がいる事を思い出し、慌てて馬車の方に走り出した。
「大丈夫ですか⁉」
「あ、ああ、き、君達は、ギ、ギルドの冒険者か助かったよ……」
「兄様喋ってはダメです!」
腹部を切り裂かれて、大量の出血をしている青年が、かすれた声で悠魔とレイラの二人に、助けられたお礼を言う。
「メル……すまない……僕はもうダメの様だ……母さんと父さんに、すまないと……言っておいてくれ」
「嫌です!」
メルと呼ばれた少女は、青年の手を両手で包み泣き崩れた。
「悠魔っち……さっき作ってたポーションで助けられないの?」
「……無理です、僕の作ったポーションじゃ、あんな傷治せません(致命傷だ、それに出血が酷い、神様に貰ったポーションなら、傷は治せるかもしれないけどでも、治せなかったら……)」
「悠魔っち?」
「……あぁぁ、もう、考えても仕方ない!」
悠魔が、青年を何とか助けられないか思考していたが、碌な考えが浮かばずに思考するのをやめ、ローブの中から、透明な液体の入った小瓶を取り出し、青年の近くにいた、少女に小瓶を渡した。
「これ飲ませてください!」
「そ、それは?」
「いいから早く!」
「は、はい!」
少女は困惑したが、悠魔の剣幕に驚いて、小瓶の蓋を開けて、青年の口に近づけた流し込んだ。
「うぐっ……メル……傷が! 僕は助かったのか⁉」
「お兄様!」
少女は泣きながら、青年に抱き着き、青年は、そんな少女をあやすように頭を撫で、しばらくは、そんな光景が続き、少女が泣き止むと、青年は悠魔とレイラを見て。
「すまない助かった、僕はサレーナ公爵家の、フェレクス・ブリッツ・サレーナで、こっちが妹の――」
「メルジュ・ブリッツ・サレーナです、お兄様を助けていただき、ありがとうございます」
白銀の髪をした爽やかな青年がフェレクスで、緩いウェーブのかかった白銀の髪の毛を、腰辺りまで伸ばし、おっとりとした感じの少女がメルジュと名乗り、それを聞いたレイラが固まる。
「レイラさん、どうしたんですか?」
「悠魔っち、何でそんな平然としてるの⁉ 公爵だよ公爵! 爵位の一番上なんだよ、しかも公爵は基本的に、王族くらいしかいないんだよ!」
「王族⁉」
「そうだね、僕達の父さん……トレイン・ブリッツ・サレーナ公爵は国王陛下のクランド・ブリッツ・エストアの弟だよ」
「えっと、と言う事は、お二方は国王陛下の甥と姪と言う事ですか? ……フェレクス様とメルジュ様?」
流石に、言葉を選んだ方がいいと思い、様付で呼ぶが、フェレクスに手で制止される。
「僕の事はフェレでいいよ、此処は公式の場でもないしね」
「私もメルでいいです」
「えっと、わかりました。僕は悠魔で彼女がパーティ仲間のレイラさんです」
迷う悠魔だったが、本人達が、良いと言うなら、別に良いかと思い、自己紹介をする。
「よろしく、悠魔さんレイラさん」
フェレクスが爽やかに笑い、素直に納得する悠魔と、困惑して視線を、キョロキョロさせてるレイラを順番に見て、立ち上がった。
「体の方は大丈夫ですか?」
「うん、すごい効く薬だね、怪我をする前より調子がいいよ」
「そうですか」
フェレクスの体調を聞いて、悠魔はホッとする、他には、怪我人はいないか尋ねると、二人を護衛していた男性二人が、スケルトンの戦いで、小さいが切り傷を負っているのがわかったので、作りかけのポーションを持って来て、二人に渡す。
ポーションを自作するんだね、とフェレクスが感心する、悠魔は、ええ、物を作るのは好きなもんで、と言って、でも、まだまだですけど、と言い、苦笑して残ったポーションを、小瓶に注いでいった。
「悠魔っち、スケルトンの魔導核と素材取れたよ!」
「はぁい、此方も、もうすぐ終わるので!」
「わかったよ!」
「……」
「フェレさん?」
離れた所で、スケルトンの魔導核と素材を集めていたレイラが、大声で集め終わった事を、報告して来た。
悠魔の方も、もうすぐ終わる事を告げると、レイラは護衛の二人と話し始める、悠魔は少し、気になった事をフェレクスに聞きたかったが、フェレクスはレイラをジッと見ていた。
「……」
「フェレクスさん!」
「す、すまない、何だい?」
どうやら、声に気がついた様で、悠魔の方に視線を合わせる。
「フェレさん、こんな所にスケルトンなんて、普通出るんですか?」
「普通は出ないはずだ……」
彼は、一瞬何かを考える、あの、スケルトン達は、急に目の前に現れたような気がした。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない、多分僕の考えすぎだと思うから」
自分の考えすぎだと、頭を振り今考えた事を、頭から振り払う。
「そうですか(何か事情ありだな、まぁ、貴族だし色々あるんだろうな)」
フェレクスが苦虫を噛み潰した様な顔をしていたので、悠魔は深く追求しない方がいいのだと思い、詳しく聞くのをやめ、黙々とポーションを注いでいった。
「それでは、僕らはこれで行きます」
「待ってくれ! 二人共何かお礼をしないと!」
「いいですよ、困った時はお互い様ですから」
「だが!」
何とか二人に、お礼をしようと引き止めるが、悠魔もやる事がある。
「こちらも、もう少し薬草とか採取して、他のパーティーメンバーに。薬を届けたいので」
「ちょっと待ってくれ!」
悠魔とレイラが、その場から立ち去ろうとするが、フェレクスは、慌てて指輪を外し悠魔に渡した。
「これは?」
「サレーナ公爵家の家紋が入ってる指輪だ、これを貴族街の入り口で見せれば通れるから、家に来てくれ、正式にお礼をしたい、何時でも良いので来てくれ! いいね、絶対だよ!」
フェレクスの剣幕に思わず、指輪を受け取ってしまい念を押される、馬車が動き走り去ってしまう。
「これ、どうしたらいいんですか?」
「し、知らないよあ、あたしに言われても……」
困った様に、手に乗せられた指輪を見て、どうした物か二人は途方に暮れる。
「一緒に来てくれます?」
「絶対嫌! 貴族の、それも王族の家なんて、絶対行きたくない!」
試しに、彼女に頼んでみるが、ここまで強く断られると思えなかった。
「ですよねぇ……ハァ、どうしたものか……」
悠魔はため息を吐き、仕方ないから、この問題は後にして、今は二日酔いに聞く、薬草を摘んで帰ろうと思った。




