吸血愛
暴力愛が好きです。
ソファに仰向けで横たわるいつもの彼。
ソファの横を通る際、磨いていたナイフが落ち、ダレた彼の人差し指を綺麗に切り裂いた。
ジワリ。静かに血が滲み出る。
「あーあ、もったいない」
そう言ってしゃがみ込み、血の出た指を舐める。
「わざとだろ」
指が切れても無反応だった彼が、口だけ動かす。
舐めていた人差し指の爪は口の中で形を変え、舌に食い込んだ。
温かい血が口内に溢れ出す。
のそりとソファに膝を立て、彼の上に乗る。
「欲しいんですか?」
返事はない。項に手を伸ばし引き寄せられ、そのまま口付ける。
甘い血が口内を満たす。理性が飛びそうなくらい甘い。
もっと欲しい。
ソファから起き上がり、押し倒す。
白く細い、綺麗な首筋に噛みつきたい。
しかし、彼が噛んでいたのは、千切れそうなほど細い指。
血がダラダラと流れ落ちる。
「飲みすぎですよ」
それでも構わずさらに指に牙を食い込ませ、血を啜る。
血が止まると、今度こそと首筋に牙をたてる。
目が覚めて、気を失っていたことに気付く。
彼の横たわっていたソファに横になる自分。彼の物と思われる上着がかけられている。
起き上がろうとすると酷いめまいと倦怠感に襲われた。
少し痛む首筋の傷。一体どれだけの量を吸われたのだろう。いつもいつも飲みすぎだ。
上着を片手に持ち、ふらふらと壁伝いに階段を上る。酷い貧血だ。
彼の部屋のドアをノックする。もちろん返事はない。もう一度ノックをして中に入る。
ベッドの上で横になる彼は、全く動かない。
「これ、置いておきますよ」
上着を椅子の背凭れにかける。溜息を吐いてベッドに座る。
「あなたのせいで貧血なんですけど。どうしてくれるんですか」
「………」
「僕から奪った分、飲ませてください」
「……俺が貧血になる」
「いいじゃないですか」
「………」
「はぁ…座ってるだけでも辛いようじゃ、しばらく動けないですよ。血を吸ったのだから、あなたがどうにかしてください」
「……動けないなら、動かなきゃいいだろ」
「そういう問題では……」
ぐらりと視界と脳内が揺れる。ふわりといい香りが漂い、体の怠さがいくらか楽になった。
目の前に見えるのは、はだけたシャツの間から見える、綺麗な鎖骨。
「辛いんだろ」
「……あなたが血をくれればいい話ですけどね」
流血から始まり突然の乙女ゲー的展開。
こんなの小説じゃない。