竜王様の愚痴8
これほどの効果が出るとは思わなかった。
ローリーがおねだりしてくれるなんて!!
我としては、ベッドで少々情熱的に愛し合えるかナー的な?その程度の期待だったのに。
ローリーもよくわかってきたではないか。
我は嬉しいぞ!!
子竜を産んで、竜族に近い習性になったのかな?
なにはともあれ、想定以上の展開に少しばかり狼狽えてしまったが、もちろん我に否はない。
番いの雌が発情したら、雄がそれを鎮めてやるのは当然のこと。
大空で睦み合う事は叶わぬが、務めをしっかり果たすべく我はローリーを木の陰に引っ張り込んだ。
ところが、ころんと押し倒して、口付けようとすると、
「ちょっと、アル! 背中にゼファーを張り付けたまま何するつもり?!」
ローリーに下から怪訝な顔で咎められる。
「何って、ナニだろう? 興奮して我慢できないと言ったのは、そなたではないか!」
我は雄の務めを果たそうとしたまで。
きっぱり反論すると、ローリーはきょとんとする。
そして、しばらくの沈黙の後、
「やだ、もうアルったら~。そうじゃなくって~、私が興奮して我慢出来ないって言ったのは、あなたの錬金術よ」
と言った。
さっぱり訳が分からない。
「錬金術?!」
おかしい。
つい先ほどまで、我らは愛を語り合っていたはず。
どこからそんな話になったけ?
首をひねって考えていると、ちょっと重いからどいてと言われた。
・・・・・・
しぶしぶ体を起こす。
と、ローリーは瞳を煌めかせて熱く説くのだった。
「竜族のデタラメな魔法はね、実は人間で言うところの幻の錬金術だったの! それが降って湧いたように目の前にひょっこり現れたのよ、興奮するに決まってるじゃない! アルがお湯を魔法で出した時、もしかしたらとは疑ってはいたの。だけど、まさかこんなものを再現してみせるなんて! 私の想像をはるかに超えていたわ。これまで数多の魔法使いが挑んできた最高ランクの錬金術よ。ああ、なんてことかしら、夫なら研究し放題だし、私には時間もある。錬金術が解明出来れば・・・フフフフフフ」
ひとりほくそ笑むローリーに、我が言葉を失っていると、ローリーはバツが悪そうに慌てて言葉を繕う。
「えっと、アル、ありがとう。プレゼントももちろん嬉しかったけど、アルがそんなふうに考えてくれてた事がすごく嬉しかった。私ね、ずっと結婚した限りは自分は魔法使いである前に、あなたの妻であり王妃でなければならないと思い込んでたの。でも、そうじゃないんだね」
熱い抱擁と口付けで互いの愛情を確かめ合った後、ローリーに乞われるまま、我は金塊を作って見せた。
「素晴らしいわ! じゃあ、銀は?」
ローリーに熱い眼差しを向けられるのはとても気分が良かったし、瞳を輝かせて喜ぶローリーは可愛いかった。
それで、つい調子に乗ってしまったのだ。
気付いた時には、魔力が底をついていた。
「ローリー、日も暮れてきたし、そろそろ終わりにしよう」
学校建設で、すでに多くの魔力を消費していた。
「あ、うん、そうだね。じゃあ、これで最後にする」
ところが、最後にすると言ったにもかかわらず、ローリーはそれをなかなか口にしようとしない。
「ローリー?」
「あのね、・・・たとえばだけど、・・・でも、やっぱりこういうのは駄目よね。ああ、でも聞いてみるくらいなら・・・」
我は早く城に帰りたかった。
「ローリー、今でなくとも城に帰って」
「ネズミとかは?! 虫でもいい! 生き物は作れたりする?」
我が驚いた顔を見せると、ローリーはハッとしたように口を押さえた。
「ごめんなさい。やっぱりこんなことお願いしちゃ駄目だよね。忘れて! 決して、命を軽んじてるつもりはないの! ただ研究者ってね、純粋な探求心に抗えないっていうか、・・・でも、無神経よね、ごめんなさい」
「作れぬ」
「え?」
ローリーが驚いた顔を我に向けたが、それ以上に強い口調で即答した己自身に驚いた。
「命は宿らぬ・・・おそらくな」
作戦は大成功だった。
ローリーは食事中も我を熱っぽく見つめている。
今夜ならば、明かりを灯したまましても文句を言われないような気がする。
絆されたローリーにあんなことやこんなことをして、じっくりゆっくり、ムフフフフ。
「ある?」
「うっかりしていた。えるにだいじなよーじがあったのだ」
「え? こんな時間に?」
ローリーのいるベッドから、慌てて逃げ出した。
なんでこんなことに?!
なんでなんでどうしてどうして?!
一目散に向かった場所はエルの寝室。
「エルランド! エルランド! 一大事なのだ! 起きてくれ!」
扉を叩くと、エルが慌てて飛び出して来る。
「どうされたのですか?! 王妃様に何か?!」
「いや、ローリーは大事ない」
「では、一大事とは一体、」
「そもそも、」
「そもそも?」
「そもそも、そなたがローリーにプレゼントを渡せと言ったから、こんなことになったのだ!!」
「はぁ?」