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竜王様の愚痴3

※ローリー視点

 竜王国に身分制度はなく、黒竜で膨大な魔力を持つアルは、国民?から敬愛と親しみを込めて竜王様と呼ばれているけど、人間の王様とはちょっと違う。


 というのも、竜王国は古い約定とかでアルの祖先がずっと守り続けてきた竜の墓場に、人間に追われた竜族が逃げ込んでできた国で、アルは竜の谷を守るついでに、居候してる竜族を保護しているだけなのだ。

 だから、ここには人間の国に当たり前にある支配も搾取も存在しない。

 全てが自由で、竜王の保護の下、竜族はおのおのが奔放な生活を謳歌している。

                

 ただ、人間を迎え入れてから、生活様式が竜よりではなく番いの人間に合わせて街で集団生活をするようになったり、ハーフが多くなって血統思想が生まれたり、昔とは少し勝手が違うようだけど。

 竜族は魔力の強い者に従う性質があるから、諍いなんて起きなかったけど、今では普通に衝突したりするらしいし。

 そう言えば、竜王国の存在を公表することになったのも、一部の竜族至上主義者が人間を外に追い出したのが発端だった。

 宰相のエルさんは、面倒事が増えましたよとよく零している。


 だからなのか、単にいちゃいちゃを見せ付けられていじけただけなのかは分からないけど、アルは50年前より内政をエルさんに、外交はフランさんに任せて、自分は洞窟に引きこもって魔石作りに励んでいたという。

 

 魔石作りはアルだけの特技みたいだけど、竜族はお金が欲しければ、掘るなり拾うなり魔獣を狩るなりして魔石を手に入れ、国に売れば良いことになっている。

 国は、竜族から引きあげたその魔石を輸出して、外貨を稼ぐのだ。

 

 アルは50年間洞窟に引きこもって作ってたから、魔石の貯蓄が山ほどある。

 つまり、何が言いたいかというと、アルにしなければならない仕事はナイ。

 アルは一日中、ひま!ってこと。


 


「アウラ、アルは?」


 お昼寝して目を覚ましたけど、そこにアルの姿はなかった。

 絶対待っていると思ったのに。

 どうしたのだろう?


「部屋から追い出したこと、まだ拗ねてるのかしら」

 

 アウラに手伝ってもらいベッドから起きて、宰相のエルさんの執務室でいじけてるであろうアルを、迎えに行くことにした。

 女子会ではいっぱいおしゃべりしてすっかりストレスが発散出来たし、みんなの恋バナを聞いていたら私も夫が恋しくなった。


 執務室に向かう途中、カップルがあっちでもこっちでもいちゃいちゃしてた。

 竜王国では、仕事に対する感覚が、人間のそれとずいぶん違う。

 人間は、生活の為や名誉や名声を得る為に仕事をしているけど、竜族は、なんていうか、趣味でやってるというか、好きでやってる。

 そのせいか、仕事とプライベートの区別もあんまりなくて、番いと離れたくない竜族は、仕事場に番いを同行させるのがオドロキだけど当たり前なんだって。

 

 竜王国は深い渓谷の山深い国で、翼を持たない人間には住みにくいけれど、豊かで美しい国だった。

 アルの背に乗って、初めて竜王国を訪れた時の感動は、今でもはっきり覚えている。

 大空を自由に飛び交う竜達や、深い渓谷の絶壁に空いたいくつもの横穴を見れば、まさにおとぎ話の竜の国に来たのだと実感した。




 結局、アルはエルさんのところにもいなくて、私は部屋に戻ってきた。

 アウラにお茶を淹れてもらって一息ついていると、窓からアルが飛び込んで来る。

 私を見て、ぎょっとした顔をした。


「お、起きていたのか」


「どこに行ってたの?」


「ん? あ、いや、ちょっと・・・ぱ、ぱとろーるだ」


 アルはきょどきょどして、必死に答える。


「あ! そうだ、ぱとろーるのほーこくをえるにせねば! ちょっといってまいる」


 アルは棒読みでそう言うと、おざなりに私の唇にちゅっとして、逃げ出して行った。


 ・・・・・・


 さっきのアレは、一体なんなの?

 パトロールって言ってたけど、アレ、カンペキに嘘だよね。


「アウラ、さっきのどう思う?」


 アルが嘘つくなんて。

 どういう理由で?

 まったく検討がつかない。

 


「え?! あの、えっと、えっと、下手な言い訳をなさっておいででしたけど、竜族の夫が浮気などあり得ません! 確かに、人間は妻が妊娠したり病気になったりすると、かまって貰えなくて寂しいとか、現実を直視出来ず逃避行動で浮気に走ったりすると耳にしますけど、竜王様は竜族なのですから! あり得ません! あり得ませんとも!」 

 

 私の問いに、アウラは酷く動揺した様子でまくし立てるように答える。

 って、アウラ、顔が鬼の形相になってるし、すごく疑ってるっぽいけど。


 

 アルが浮気?

 考えられない。

 

 でも、最近はべったり纏わりついてくるのが鬱陶しかったから、理由をつけて追い払ってたし、寂しい思いはさせてる気がする。

 私は病気じゃないけど、アルは心配ばかりしてるし、精神的にものすごく弱いから現実逃避してもおかしくはないかも?

 





「アル、魔力をちょうだい?」

「ん? ああ、よいぞ」


 夜、ベッドに入って魔力を強請ってみた。

 やましい気持ちがあれば、何かしらの反応があるはず。


 でも、アルは特に嫌がることなく、私に魔力を分けてくれる。

 うん、シロ。

 私への愛情に溢れてる。

 

 そうよ。

 だいたい、口でどれほど上手く言い訳しようが、魔力は嘘をつけない。

 バレるのが分かっていて、番い第一の竜族の夫が浮気できるはずがないのよ。




 ところが、それからもアルは私がちょっと目を離すと姿を消した。

 一体どこで何をしているのか。

 エルさんは普段通りで、特に重大な事件とかが起こってるような雰囲気はない。

 魔力のチェックもしてるけど、アルは変わらず私を愛してくれている。



 だけど、実のところ、気にかかってることがないわけでもなかった。

 私は臨月がせまっていることもあって、そういうことは出来ない。

 アルもそれは承知してる。

 でも、男性はすごくしたいものらしいし、また、アルには前科があった。

 好きでもない行きずりの相手1000人としてた。

 気持ちが無ければ、浮気をしてても魔力に影響しないのかも知れない。


「ローリー、女子会とやらはしないのか? 我に遠慮せずともよいぞ?」

 

 シロだとは思うものの、やっぱり気になって、浮気疑惑のある夫を野放しにする気になれず、このところアルにべったり張り付いていた。

 愛がなくても、アルが他の女性とそういうことをするのは嫌だ。

 アルが私を悲しませるような真似をするとは思えないけど、精神的ストレスが高じて頭のネジが一本飛んでる可能性はある。

 浮気して、不安を解消してるのかも知れない。


 だけど、それっておかしな話よね。

 そもそも妻を妊娠させたのは夫なのに、勝手に心配して不安になって、家でできないからよそでするって、どうなの?

 

 なんか腹が立ってきた。

 出産を妻に押し付けて、甘えられないからって外に遊びに行くとか、ひどい。

 そんな勝手な男の論理、絶対に許さないんだから!

 

「うん、ありがとう。だけど、明日は行きたいところがあるの。アル、一緒に来てくれる?」


 

 

 




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